EHN 2011年10月4日
胎内の化学物質 PBDE類とPCB類は
成獣ラットの聴力損失に関係する


情報源:Environmental Health News, October 4, 2011
Chemicals in the womb linked to hearing loss in adult rats
SSynopsis by Steven Neese
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/
newscience/2011/09/2011-1003-pcbs-pbdes-mix-cochlea-rats/


オリジナル論文:
Poon, EP, BE Powers, RM McAlonan, DC Ferguson and SL Schantz. 2011.
Corresponding author: Emily Poon, University of Illinois
Effects of developmental exposure to polychlorinated biphenyls and/or polybrominated diphenyl ethers on cochlear function. Toxicological Sciences http://dx.doi.org/10.1093/toxsci/kfr214

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年10月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/
ehn_111004_PCBs_PBDEs_hearing_loss_adult_rats.html


 母親の胎内で発達中及び授乳中に残留性化学物質の混合物に曝露したラットは、内耳機能が損傷しており、成獣になってから聴力損失する。

 妊娠中及び授乳中に環境中に見出される汚染物質の混合物に暴露した母親から生まれたラットは、耳の渦巻管(cochlear)機能の損傷があり、その程度はテストされた最低用量での単独曝露より大きい。渦巻管は、内耳の一部で音の伝達と増幅に重要な役割を果たす。

 ポリ塩化ビフェニル類(PCB類)とポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)のレベルは、魚類中のPCB及び人体で見出される最も一般的なPBDE混合物への現実的曝露を模擬するレベルである。この研究結果はしばしば環境中で生じる有毒物質の混合物への曝露の健康リスクを強調するものである。

 PCB類の用量のうちのひとつへの単独曝露もまた、内耳のこの部分の機能を損傷するが、発達中のPBDEs単独曝露は仔の渦巻管に影響を与えることはなかった。このパターンは、両方の化学物質が一緒になると混合効果に寄与し、化学物質間の相加作用(additive effect)を生じることを示唆している。

 これらの結果は、げっ歯類とヒトの両方におけるPCB曝露の研究が渦巻管の機能損傷をもたらし、さらに重要なことに、このかく乱は PCBs と PBDEs の混合物にまで拡大することができることを確認するものである。

 PCB類は、長らくヒト健康の懸念として認識されている。それらは、がん、及び免疫系、生殖系及び神経系への影響と関連している。PCB類は、電気トランス中の絶縁材及び安定剤、潤滑油、その他多くの産業用途で数十年間、使用された後に1970年代後半に禁止された。しかし人や野生生物はまだ、この残留性汚染物質に暴露されている。

 PBDE類については、最近になって潜在的な健康問題が新たに出現してきた(訳注)。PBDE類は、繊維、プラスチック、フォームなど様々な消費者製品中で難燃剤として使用されている。PCB類と化学的構造が類似しているために、PBDE類はPCB類と同様な作用をおそらく持つ。研究によれば、それらは残留性、人と動物中での蓄積性が示されており、甲状腺、肝臓、神経発達に影響を与えるかもしれない。

 聴力に関するこの二つの化学物質グループ間の関連性をテストするために、研究者等は、メスのラットに餌を通じて、PCB類、又はPBDE類、又はその混合物の高用量及び低用量を曝露させた。PCB混合物は、ウイスコン州のフォックス川で獲れるスポーツフィッシング魚であるスズキの一種(walleye)で見出されるものをモデル化し、1日当り体重当り3又は6ミリグラム(mg/kg/day)が投与された。DE-71と呼ばれるPBDE混合物は、人間の組織中で見出される最も一般的な化学物質の混合物であり、5.7 or 11.4 mg/kg/dayが投与された。PCB類とPBDE類の低用量及び高用量もまた、聴覚系へのどのような追加的影響を調査するために混合された。

 曝露は交尾28日前から開始し、妊娠期間及び授乳期間を通じて毎日継続された。これら曝露ラットのオス及びメスの仔獣が100日齢になった時に成獣として聴覚機能のテストが行なわれた。血液もまたチロキシン(訳注:甲状腺から分泌されるホルモン)について分析された。チロキシンは渦巻管の発達に重要であり、PCB類と PBDE類はそれに影響を与えることが知られている。

 聴力は、歪成分耳音響反射(DPOAE( distortion product otoacoustic emossion))を利用して、渦巻管の外有毛細胞(outer hair cells)の健全性をテストすることにより、評価された。発達中にPCB類の高レベル、及び低レベル又は高レベルの組み合わせに曝露させたこれらのラットは、歪成分耳音響反射(DPOAE)の振幅が低く、周波数の範囲を超えた高い最小音圧レベルを持っていた。振幅は外有毛細胞(outer hair cells)の機能を測定し、振幅が低いほど聴力が劣る。同様に最小音圧レベルは、外有毛細胞からの反応を得るために必要な最小の音圧を測定し、この最小音圧が高いほど聴力は劣る。これらの変化は3つのグループで渦巻管の機能障害を示している。

 チロキシンもまた、これらのラットで減少し、聴覚欠陥をともなった。このホルモンの減少は観察された渦巻管の機能障害にある役割をおそらく果たしている。

 この研究で用いられた用量は、人間の典型的な環境曝露より高いが、最近のヒト研究もまた、かつてのPCB製造サイトの近くに住む子どもたちに歪成分耳音響反射(DPOAE)振幅の減少があることが報告されている。


訳注
ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)難燃剤関連情報



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る