EHN 2009年9月8日
あまり知られていない難燃剤 HBCD の
主要な暴露経路は食物ではなくダストである


情報源:Environmental Health News, Sep 8, 2009
Dust, not food, main source of lesser known flame retardants
Synopsis by Jonathan Chevrier, Ph.D. and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/
dust-not-diet-associated-with-hcbc-flame-retardants/

Original:
Roosens L, MA Abdallah, S Harrad, H Neels and A Covaci. 2009. Exposure to hexabromocyclododecanes via dust ingestion, but not diet, correlates with concentrations in human serum - preliminary results.
Environmental Health Perspectives doi:10.1289/ehp.0900869

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年9月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090908_dust_HBCDs.html


 ベルギーの研究報告によれば、家の中のダストは、あまり知られていないが、あらゆる所に存在し、潜在的に有毒な難燃剤の重要な暴露源である。

 ポリスチレン断熱材や布製品の発火防止に使用される難燃剤ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)(訳注1)に汚染されたダストへの暴露は、ヒトの血中濃度と強く関連していた。この研究は、ダスト、食物、及び血清中のHBCDs濃度との関係を初めて検証したものである。結果はポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)のように、よく知られた他の難燃剤と一貫性があり、屋内暴露源がこれらの化学物質への暴露に寄与しているかもしれないことを示唆している。

何をしたか?

 ベルギーの研究者らは、少なくとも3年間大学の寮で生活した16人の成人(20代前半から半ばの男性7人、女性9人)の血中のHBCDsを測定した。

 参加者らは、一週間、食事やスナックを含んで、食べた食物と同じものを提供するか、又は大学の食堂で注文したものを特定するよう求められた。全ての食物サンプル中のHBCDsの濃度が測定された。

 さらに、 HBCDs は参加者の寝室から採取されたダストのサンプル中で測定された。研究者らは HBCDs のダストからの摂取量を公表されているダスト摂取率に基づいて算出した。

何が分かったか?

 研究者らは、算出したダストからのHBCDs摂取量とこの化学物質の血中濃度との間に強い関係があると報告した。

 食物摂取と血中のHBCDレベルとの間には関連性は見いだされなかったが、それは検出可能な HBCDs濃度の食物サンプルの数が少なかったためと考えられる。165の食物サンプル中で、わずか13サンプルだけがHBCD濃度を検出可能であった(5〜20ピコグラム/食品グラム)。肉、牛乳、チーズ、又は魚を含むサンプルだけがHBCD濃度検出可能であったが、これは、これらの食物がこの難燃剤への食物暴露の主要な暴露源であるかも知れないことを示唆している。これらの結果は、魚のHBCD濃度が高いことを報告したノルウェーとスウェーデンで実施された以前の研究と一貫性がある。

 HBCDsは全てのダストサンプル中及び16人の血液サンプルのうち7サンプル中で検出された。HBCDs の中央値濃度(114 nanograms/gram)は、以前の研究のほとんどより低かったが、血中レベル(1.7 ng/g脂質)は20人のニューヨーク市民の体脂肪で報告されたものより4倍以上高かった(Johnson-Restrepo 2007)。

何を意味するか?

 これらの結果は、家のダストは人のHBCDsへの暴露の大きな要因であることを示唆している。従って、産業的汚染よりHBCD処理をした製品の使用の方がむしろ人の暴露に重要であるかもしれない。さらに、幼児や子どもは床を這い回り、手を口に持っていくので暴露が増えるかもしれないために暴露のリスクが最も高いかもしれない。

 他の残留性有機汚染物質への暴露は主に食物を通じて起きるように見えるが、この結果は、PBDEs など他の難燃剤の研究と一貫性があり、そのことは主な暴露経路は家の中や他の屋内環境中にあることを示唆している。

 このベルギーの研究は規模は小さいが、ダスト、食物、及び人の血中HBCDs濃度との関係を初めて検証したものである。

 ヨーロッパにおける最近のPBDEs禁止のおかげで、これらの化学物質への暴露は北アメリカに比べて低いかもしれない。HBCDsの年間市場需要はアメリカに比べて約3倍高いことが報告されている。

 ヨーロッパにおける製品中のPBDEsの HBCDsによる代替は、ほとんどのヒトに関する研究がこの難燃剤への暴露が、なぜヨーロッパに比べてアメリカで低いと報告しているかを説明するかもしれない。アメリカの住民における血中HBCDの濃度を報告した研究はないが、最近の報告書は HBCDs の中央値はテキサスの女性から採取した母乳中のPBDE濃度より約100倍低かったことを示した。

世界中の国の規制当局は、 HBCDs の環境及びヒト健康に及ぼす潜在的な有害影響を評価しているがが、そのことについての発表された研究は非常に少ない。動物で実施されたテストは、このクラスの難燃剤は、正常な脳の発達に重要な甲状腺ホルモンをかく乱するかも知れず、新生児暴露は多動症を示唆する症状を引き起こすことが示唆されている。HBCDs への暴露はまた、動物の生殖障害に関係している。

 しかし、これらの化学物質への主な暴露源を確認するために、低濃度で HBCDs を検出することができる分析手法を用いたもっと規模の大きな研究が必要である


訳注1:HBCDs関連情報 訳注2:臭素化難燃剤関連情報


化学物質問題市民研究会
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