ES&T 2006年6月14日
バクテリアが臭素化難燃剤 Deca-PBDE を分解して
もっと有害な物質に


情報源:Environmental Science & Technology: Science News, June 14, 2006
Bacteria may break down popular flame retardant to produce toxics
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jun/science/kb_deca.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年6月15日

 コンピュータやテレビなどに使用されている分子の大きな Deca PBDE 難燃剤から
微生物が臭素原子を取り除き、禁止されている難燃剤化合物に変換するかもしれない。


 研究者らは本日、ES&T’s ASAP website (DOI: 10.1021/es052508d) に広く難燃剤として使用されているDeca PBDE(ポリ臭素化ジフェニル・エーテル)の大きな分子を微生物が分解することができることを示す論文を発表した。この論文は、様々なバクテリアが順次デカ化合物から臭素原子を取り除き、EUでは禁止され、アメリカでも製造が中止されている分子のより小さな PBDE 化合物を生成するので、デカ難燃剤の安全性についての懸念を提起するものである。

 この論文は、いくつかのバクテリアがデカ難燃剤の主要な構成成分であり臭素原子を10ヶ含む Deca BDE (ポリ臭素化ビフェニル)を分解することができることを初めて示した。この研究は、デカ難燃剤は酸素を含まない嫌気性環境の下水処理時に変換されることを示した以前の研究の延長線上にある。

 デカ混合物は、コンピュータ、テレビのような電子製品中に見いだされ、現在使用されている唯一の臭素系難燃剤である。Deca-BDE の分子は大きいので比較的不活性であると考えられていたが、現在禁止され中止されている分子のより小さな PBDE 化合物、又は同属は残留性があり生体蓄積する。これらの化合物のレベルは世界中で、特に北アメリカで上昇しており、化学的に構造が類似している PCB類と、それらの神経毒性の影響は同様である。

 分子が小さい PBDE 化合物のあるものは、腫瘍及び甲状腺ホルモンの不均衡と関係があり、あるものは発達中のげっ歯類の脳に影響を与え、男性ホルモンを損なうことが示されている。最も有害であると考えられている臭素原子を5ヶ持つ PBDE 化合物は、ラットのオスの生殖腺の発達に影響を与えることが発見された。

 今回の新たな論文では、カリフォルニア大学バークレー校のリサ・アルベルツコーヘンと同僚らが、既知のバクテリアを用いて実施した研究で塩素を含む大きな分子を分解することができるこ示した。嫌気性細菌(Sulfurospirillum)である multivorans は、トリクロロエチレンを分解することができ、この実験で使用された異なる種の嫌気性細菌 Dehalococcoides はダイオキシンとビニルクロライドを分解することができる。この新たな研究は、Dehalococcoides バクテリアが臭素化化合物を分解することができることを明確に示している−とバクテリアがダイオキシンを分解することができることを最初に示したベルリン・バイオテクノロジー研究所技術大学のローレンツ・アドリアンは述べた。

アルベルツコーヘンの研究チームは、嫌気性 multivorans バクテリアが Deca-BDE 分子を、8 又は 9 の臭素原子を含むより小さな PBDE 化合物に分解するの能力を持つことを示した。

 Dehalococcoides バクテリアは分子の大きな Deca-BDE を分解することはできなかったが、それらは臭素原子 8ヶを含む PBDE を分解して臭素原子 6ヶ、5ヶ、及び 4ヶ含む PBDE を生成することができた。分解生成物は、臭素原子を5ヶ含み、しばしばヒトや動物に生体蓄積していることが見られる BDE-99 を含んでいた。これらのテストは実験室で行われたにも関わらず、アルベルツコーヘンは、”この種の連続した変換(訳注:multivorans バクテリアが Deca-BDを8又は9の臭素原子のPBDEに変換し、次にDehalococcoidesバクテリアがそれらを臭素原子6ヶ、5ヶ、4ヶ含むPBDEに変換すること)が環境中で起こることは大いにあり得ることである”−と述べている。

 他の研究者らも同意している。”我々は、PCB類でバクテリアによるこのタイプの連続的分解を経験した”−と米EPAの全国健康環境影響調査研究所の実験毒性学部門ディレクターであるリンダ・ビルンバウムは指摘する。この研究は、”デカの製造と使用の継続が、我々が有害性の懸念を持つ低レベルの臭素化化合物への、現在、起きている動物や人々の暴露をもたらすかもしれないという疑問を提起する”−と彼女は付け加えた。

 スイス国立物質科学技術研究所(EMPA)の分析化学部門のプロジェクト・リーダーであるアンドレアス・ゲレッケは、Deca-BDE が下水処理プラントで分解されていることを報告した最初科学者である。彼は、汚染した地下水中の堆積物のような酸素が存在しない環境で、微生物が Deca-BDE 分子を分解していることはありそうだと考える−と述べている。しかし、彼はこの論文の中で報告されている分解速度は非常に遅いと指摘した。

 アルベルツコーヘンはそれは事実であるが、しかし彼女は現在、”もっと早い速度の分解を示すバクテリアで研究中である”−と述べた。

 しかし、産業側の団体である臭素化学物質環境フォーラムの科学者らは、”他の物質とともに、TCE(訳注:トリクロロエチレン)が燃料として加えられることなしには分解は起こらない。TCE は通常環境中には高濃度(他の物質を酸化する)では存在しないので、この研究の環境的妥当性は疑問である。すなわち、分解が起きるよう強制されたその条件は、環境中には存在しない”−と指摘している。

 たとえそうであったとしても、この記事のためにインタビューした科学者らは、論文が発見した結果は大いに意義があるということに同意した。”高濃度 Deca-BDE はボルチモア港のような水生堆積物中及び嫌気性環境で検出されている”−とデューク大学環境地球科学ニコラス校環境科学政策助教授ヒーサー・スアプレトン指摘している。Deca-BDE はまた、”多くの種類のバクテリアの生息地である下水堆積物中及びバイオ固形物(訳注:下水汚物をリサイクル処理した有機物;特に 肥料)中で高いレベルで検出されている。バイオ固形物の畑での使用と土壌改良の実施が増大していることを考慮すると、この新たな論文の発見は、さらなる調査が必要であることを示している。”

ケリー・ベッツ(KELLYN BETTS)



化学物質問題市民研究会
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