2008年6月
国際電気標準会議(IEC)キャンドル基準に反対する
消防及び熱傷防止団体からの手紙


情報源 June 2008 Letter from the Fire Fighting and Burn Injury Prevention Communities
Opposing the IEC Candle Standards
http://greensciencepolicy.org/files/standards/FireFightersLetter.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年9月15日
このページへのリンンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_08/08_06/080616_fire_fighting.html

2008年6月
親愛なる仲間たちへ

 消防と熱傷防止団体のメンバーとして我々は、テレビの筐体と消費者用電子機器のためのキャンドル難燃基準のための国際電気標準会議(IEC)基準 60065 の修正提案(訳注1)、第21条の健康と環境への有害影響について懸念している。

 我々は特に、難燃化学物質が燃えた時に発生する有毒な燃焼副産物への暴露により、消防士の健康への有害影響について特に心配している。我々は第21条を支えるために引用されている火災データを検証したが、この基準に対する有効な火災安全の根拠を見出さなかった。テレビと消費者電子機器は、火災を引き起こす可能性のある内部欠陥に対して既に適切に保護されており、キャンドル火炎耐性の筐体から得られる防災の恩恵を報告したものはない。この基準の支持者らは、CRTテレビが一般的であった1990年代の時代遅れの統計をしばしば引用している。そのデータは、スウェーデンのあるひとつの都市郊外で得られたものを主に引用しているが、そこはスウェーデンの他の場所やEUよりもテレビによる火災が多い場所である。現在、外部のキャンドル点火により引き起こされるテレビや他の電子機器の火災が著しく多いという証拠はない。”キャンドル耐性のテレビ筐体”を下記URLでご覧いただきたい(訳注2)。
 http://greensciencepolicy.org/standards.shtml

 火災リスクは非常に低いが、健康リスク、特に消防士への健康リスクは非常に高い。提案されている基準は、テレビのプラスチック筐体中の難燃性化学物質の量を相当に高めることになる。これらの難燃性化学物質が燃焼すると、消防士にとって健康に著しく有害な大量の有毒で発がん性物質であるダイオキシンやフランを生成する可能性がある。

 『労働環境医学(Journal of Occupational and Environmental Medicine)』の2006年11月号で、消防士のがんに関する32の研究の分析の結果、消防士は4つのタイプのがんの発症が高いことを示している。すなわち、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、前立腺がん、及び精巣がんである[1]。これら4つのタイプのがんは、全てダイオキシン類及び/又はフラン類への暴露と関連している可能性がある[2]。我々は、テレビと他の消費者製品中の難燃性化学物質は、遅延又はある場合には防止できる小さなはだか火による火災より、消防士と一般公衆により大きな健康危害を及ぼしているように見えると信じている。

 さらに、多くの難燃性化学物質は電子機器容器から移動し、残留し、子どもから、ペット、クジラ、ラッコ、さらには数千メートルの深海に住む海洋生物のような野生生物まで、ヒトと野生生物の体内に高いレベルで生体蓄積する。実験動物の研究によれば、これらの難燃剤の多くは、甲状腺障害、精子数の減少、不妊、多動症、精神発達遅延、肥満、がんなどと関連している。

 まとめると、現代のテレビのキャンドル火災の危険性は証明されていない。難燃性化学物質の健康問題、特に消防士への問題は数十のピアレビューされた科学的研究論文に報告されている。我々は、あなたが添付された白書を読み、そのデータを注意深く評価するようお願いする。消防士と一般公衆の健康を守るために、我々は、IEC60065のテレビ筐体のためのキャンドル基準に対し、”ノー”と投票するよう強く要請する。

心を込めて

リチャード M. ダフィー、国際消防士協会副代表
ジョン F. ハンレイ、サンフランシスコ消防士地域798代表
トニー・ステファン、サンフランシスコ消防士がん防止基金創設者兼代表
ボブ・シューブルックス、病院消防署長協会代表
ピーター A. ブリグハム、熱傷基金創始名誉執行委員
アンドリュー・マックガイアー代表、エリザベスマックローリン副代表、トラウマ基金、サンフランシスコ一般病院

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原注
[1] LeMasters G.K., et. al. (2006). Cancer risk among firefighters: a review and meta-analysis of 32 studies Journal of Occupational and Environmental Medicine 48(11): 1189-202

[2] イタリア、セベソの研究でダイオキシンに暴露した住民は、多発性骨髄腫及び非ホジキンリンパ腫の増加を示した。空軍によるランチハンド作戦(エージェント・オレンジ散布)研究は、ダイオキシンに暴露した人々の前立腺がんの増大を示している。ベトナムでダイオキシンに暴露した軍用犬に関するひとつの研究及びベトナム退役軍人に関するもうひとつの研究は精巣がんの発症が高まることを示した。


訳注1
  • IT機器とUL規格開発に関するQ&A ジャパン・オンザマーク 23号 (2007年12月発行)より:
    ”IEC 62368は現在まだ開発段階で・・・”、”『IEC 62368オーディオ/ビデオ、情報及び通信技術機器の安全性』は、現在IEC 60065と60950-1の適用範囲にある製品を対象にしたものになるでしょうが、この2規格を統合したものではありません”。
訳注2
 「2008年6月 国際電気標準会議(IEC)キャンドル基準に反対する消防及び熱傷防止団体からの手紙」は Green Science Policy Institute のウェブサイトで紹介されており、この組織の支援をうけていると思われる。ウェブサイトによればこの組織は、公衆健康、公衆政策、法律、及びビジネスに従事する科学者、技術者、専門家の分野間の協力組織である。
You'Tube によるアーレン・ブルム博士(Dr. Arlene Blum)の話

訳注
臭素化難燃剤に関する当研究会紹介記事


化学物質問題市民研究会
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