米化学会 ES&T サイエンス・ニュース 2008年7月23日
デカBDEは環境中で分解するか?

情報源 ES&T Science News - July 23, 2008
Does a key PBDE break down in the environment?
Kellyn Betts
http://pubs.acs.org/cgi-bin/sample.cgi/esthag/asap/html/es8018463.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年7月26日

 過去数年間、現在北米で使用されている唯一のPBDE難燃剤であるデカBDEはが環境中で分解するかどうかが、この議論ある化合物を研究している科学者にとって主要な議題となっている(訳注1)。産業界の団体である臭素科学環境フォーラム(Bromine Science and Environmental Forum)の毒物学者であるクラウス・ロッテンバッハーは6月3日〜4日にカナダのブリティッシュ・コロンビア、ビクトリアで開催された第5回臭素化難燃剤国際ワークショップ”でこの議論を再燃させた。彼は会議での発表で、科学者らは実験室でデカBDEを”強制的に”分解させることはできるが、それらは環境中では起きそうにないと主張した。

 ペンタBDE及びオクタBDEとして知られる他の二つのPBDEが、その難分解性、有毒性、及び生物蓄積性傾向のためにヨーロッパで禁止され北アメリカで中止された2004年以来、デカBDEの環境中で分解性が懸念となっていた。デカBDEの使用に関するEUの禁止は7月1日から始まり訳注2)、またアメリカのいくつかの州でも禁止されている。もしデカBDE調合の大部分を占めるBDE-209が環境中で分解して、これら中止された化合物に関連するもっと軽いPBDE又は同族異性体を生成するなら、この事実は北アメリカでもデカBDEの使用を止めようとする圧力が増すことになるであろうと米EPA実験毒性学部門のディレクター、リンダ・バーンバームは述べている。毒性学研究によれば、PBDE類は肝臓と甲状腺への毒性及び学習・行動・記憶障害と関連性があるとしている。

 最近の6つの研究に焦点をあてたロッテンバッハーの発表によれば、”環境中と同等な状況では、顕著なデカBDE分解の兆候はない”。しかし、これらのうち2つの研究の著者、デューク大学ニコラス校環境地球科学のヒーサー・スタプレトンとバージニア海洋科学研究所のマーク・ラ・ガーディアはこれに同意しない。ロッテンバッハーの発表は、共溶媒強化生体模倣システム(a cosolvent-enhanced biomimetic system)を使用した実験室ベースの非生物的研究を認めている。パーデュー大学のジョーン・トカルツのチームによって実施されたその研究は、BDE-209は分解して、ペンタBDEに関連するBDE-47、BDE-99、BDE-153など、非常に多くのより軽いPBDE同族異性体を生成することを示している。しかしロッテンバッハーはこの研究の反応メカニズムは環境中の沈殿物で見出されるものとは異なっており、また生成されたより軽い臭素化同族異性体の量は”無視できる”と強調した。

 ガーディアは、BDE-209を帯びた排水や下水汚泥からの流れの堆積物のような環境中のサンプルを用いた多くの研究がデカBDEがペンタBDEやオクタBDEに関連する化合物に分解することを示していないことに同意している。しかし、彼は、彼とスタプレトンは環境中のサンプル中から、どのような商業的製品中にも見いだされない臭素原子を7又は8個含むBDE-179、BDE-184、BDE-202のような、彼が”風変わりな同族異性体”と呼ぶものを検出したと指摘している。実際にスタプレトンは、現在、多くの研究が、環境的に妥当な条件下でいわゆる”風変わりな同族異性体”の顕著な形成を実証していると述べている。

 ”もし、大量のデカBDEが既に我々の堆積物中にあり、将来も埋立地や電子廃棄物から漏れて蓄積しそうなら、そのような風変わりな同族異性体がBDE-209の分解により形成されるように私には見える”と彼女は述べている。スタプレトンは、スイス連邦材料テスト研究試験場及びスイス連邦水生科学技術研究所の研究者らにより今年 ES&T に発表されたこれら風変わりな同族異性体の堆積物中での存在を報告する研究を指摘する。ラ・ガーディアもまた、彼の同僚ダ・チェンがこれらの風変わりな同族異性体をアメリカのハヤブサの体内で検出したと述べている。

 5月に、非営利団体であるエコロジー・センターのジェフ・ギアハートは、デカBDEが分解することを示す追加的証拠を発表した。デカBDEを中に入れた密閉水晶容器(sealed quartz cuvettes)を車の中に置くという最近の実験で、 BDE-209が車中で分解したということを示している。ギアハートの研究はデカBDEが分解した時に、実験の初期存在した臭素の63%が実験の最後にはPBDE化合物として検出することができなかったと報告した。

 他の研究がPBDE類は分解してポリ臭素化ジベンゾ及びポリ臭素化ジベンゾ-p-ダイオキシンを生成することを示した。ゲアハルト、スタプレトン、及びガーディアは、環境中のサンプル中におけるこれらの化合物の存在と毒性、及び風変わりな同族異性体などの分解物を調査するために、もっと多くの研究が必要であることに同意した。


訳注1
訳注2


化学物質問題市民研究会
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