EHP2006年2月号 Science Selections
内分泌かく乱作用と難燃剤
ラットの性的発達に及ぼすPBDE-99の影響


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 2, February 2006
Science Selections
Endocrine Disruption and Flame-Retardant Chemicals
PBDE-99 Effects on Rat Sexual Development
by Ernie Hood
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/2006/114-2/ss.html#endo

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年2月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/06_02_ehp_ss_edc_PBDE_99.html


 ポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)を含む難燃剤は、近年、毒物学者の関心を大いにひきつけている。化学的に同類のダイオキシン類やポリ塩化ビフェニル類(PCBs)とは違って、PBDE 化合物の環境中レベルは増大しており、ヒトの母乳中にも見出される。PBDE 類は、かつてダイオキシン類や PCB 類について報告されたような内分泌かく乱作用により、発達に有害影響をもたらすかもしれないという可能性が懸念される。
 一般的によく使われており環境中にも多く存在する PBDE 化合物である PBDE-99 に発達途上のラットを曝露させたドイツの新たな研究の結果は、曝露を受けた母ラットの子どもの性的発達に有害影響を与えることがあるという疑いを強く裏付けるものである[EHP 114:194-201]。

 研究者らは、性的発達の評価項目である性ステロイド(訳注:ステロイド)濃度、生殖器の発達、及び性的二型性挙動について試験をしたが、これらはヒトの母乳中に見られるものと同じ組成に調整した混合 PCB 類に曝露させたげっ歯類への影響を調べた同様な実験で用いられた評価項目である。今回のドイツの研究では、母ラットの weight-matched グループは妊娠後10日から18日の間、体重1キログラム当り1又は10ミリグラム(mg/kg)の用量で PBDE-99 の皮下注射を毎日受けた。比較用に、他のグループは、PCB 混合物アロクロール1254(Aroclor 1254)を30 mg/kg、投与された。

 PBDE 曝露のオスの仔では、性ステロイド( エストラジオール(訳注:雌性ホルモンの特性をもつ発情物質)、テストステロン(訳注:精巣から分泌される雄性ホルモン))は離乳後及び成長後の双方で著しく減少した。性的発達性のアンドロゲン(訳注:雄性ホルモン物質)依存の指標である性器肛門間距離もまた、オスの仔では減少した。さらにオスは、曝露に依存して甘味嗜好を示したが、これはげっ歯類では性的二型性挙動であり、このことの所見はオスのメス化を示すものである。僅かに早熟の傾向が低用量曝露のグループで見られた。
 PBDE 曝露を受けた雌[の仔]には深刻な影響はほとんどなかった。成熟の兆候は高用量グループで少し遅れた。また、初期卵巣濾胞(ovarian follicles)の数は低用量曝露グループでは減少し、高用量曝露グループでは第二期(より進展した)卵巣濾胞がもっと著しく減少した。卵巣濾胞は卵巣の健康状態の重要な指標なので、これらの結果は生殖寿命が損なわれていることを示している。メスは甘味嗜好の増加は明確ではなかった。

 研究者らはPCB混合物へ曝露したオス又はメスの仔には甘味嗜好に関する影響を見出さなかったが、メスでは、第三期(もっと大きな、もっと進展した)卵巣濾胞の数が著しく増大していることを見出した。この曝露はまた、オスのステロイド濃度と、オス、メス両方の性的発達に有害影響を与えた。したがって、内分泌かく乱作用のパターンは PBDE-99 と A1254 では異なる様に見えるが、それは PCB 混合物中にダイオキシン様の成分が高濃度で存在することに起因するのかもしれない。

 科学者らはまた、げっ歯類における全体的発達の指標として様々な器官の重量を調べた。彼らは、下垂体の重量が、離乳後の PBDE-99 高用量曝露グループのオスで僅かに減少し、一方、低用量グループのメスでは増加したことを見出した。著者らはこれらの影響は PBDE-99 に対する2相反応(biphasic response)を示しているのかもしれないと推測しており、この現象は今後の研究でさらに調査されるべきと示唆している。結果はまた、オス、メスともに、PBDE-99 又は A1254 のどちらに曝露しても成長したラットの甲状腺の重量は用量に依存して減少したことを示している。

 この研究は、難燃剤が性的発達と性的二型性挙動に著しい影響を与える可能性を持った内分泌かく乱物質であるということを示す、ますます増大する多くの文献のひとつに加わるものである。いくつかの影響は、曝露を止めてから長い時間が経過した成長後に見られるという事実は、ラットの妊娠期間中の曝露はその子どもに一生の生理学的ダメージを与えるということを示している。ヒトの体内及び環境中のこの難燃剤レベルが増大しており、その両方で残留性を示しているので、PBDE 類に対するもっと緊急な研究活動を実施することに留意することが安全であると考えられる。

エルニー・フード(Ernie Hood)



化学物質問題市民研究会
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