「多くの証拠:有毒な難燃剤と我々の健康に関する新たな科学」 の紹介
(エグゼクティブ・サマリー)

ヤナ・クヘル、メガン・パービス、2004年2月
アメリカPIRG教育基金&カリフォルニア環境研究政策センター
情報源:Body Of Evidence: New Science In The Debate Over Toxic Flame Retardants And Our Health
Yana Kucher & Meghan Purvis
February 2004
U.S. PIRG Education Fund
Environment California Research & Policy Center

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年3月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/pirg/flame_retardant_deca.html

報告書 "BODY OF EVIDENCE: New Science in the Debate Over Toxic Flame Retardants and Our Health" の
Executive Summary を日本語訳したものです。詳しくは 報告書原文(PDFファイル全40頁) を参照ください。


エグゼクティブ・サマリー

 難燃剤、十(デカ)臭素化ジフェニールエーテル (以下デカ) がアメリカ人の健康に脅威を与えるかも知れないという新たな証拠が示された。

 一般消費者製品の製造者は、延焼防止の特性を持たせるためにプラスチックや繊維にデカを添加している。次々に出てくる一連の証拠が、デカへの曝露が、神経系や運動能力などへの有害な健康影響を引き起こすということを示している。
 新たな研究は、デカが、最近欧州連合(EU)及びカリフォルニアにより禁止された難燃剤のタイプに分解することがあるということを示している。

 残念ながら、デカの話は単純ではない。デカは、 ”化学物質は有害であるという疑いがあっても、それを証明するまでは安全である” ということを前提にする、誤った国の化学物質政策のために、広く使用されている潜在的に危険な多くの化学物質のひとつである。

有毒な難燃剤が日用品に添加されている

 デカは、ポリ臭化ジフェニールエーテル(PBDEs)として知られる一連の難燃剤の中で最もよく使用されている。商業的に用いられている PBDEs のうちの3つの主要なものは、ペンタ(五)、オクタ(八)、デカ(十)である。
 デカは、家庭用品、旅行用品、及び職場での用品に添加されており、例えば、テレビ、ステレオ、コンピュータ、ヘアードライヤー、トースター、垂れ幕・カーテン類、室内装飾織布、などである。これらはその重量の5〜30%程度のデカを含んでいる。
 2001年だけでも北アメリカの産業界は4,900万ポンド(約22,200トン)のデカを使用したが、その半分は世界の市場に出荷されている。

欧州連合とカリフォルニアは人間の健康に脅威を及ぼすという理由でペンタ及びオクタ難燃剤を禁止

 欧州連合は、消費者用電子機器に対する全ての PBDEs (ペンタ、オクタ、及び、デカ)の使用を、2006年中頃以降から禁じ、全ての分野でのペンタとオクタの市場投入と使用を、2004年中頃以降から禁じる政策を発表した。
 2003年、カリフォルニア州は、ペンタとオクタの使用と流通の禁止請願を受けて、これを実施した。数ヵ月後、これら2つの化学物質の最大製造会社が、国内での製造を中止すると発表した。

 多くの実験結果がペンタ及びオクタ難燃剤への曝露が潜在的な健康影響を引き起こすということを示した。
  • これらの有毒難燃剤に曝露されたマウスの子どもは脳の発達を阻害され、生涯の学習障害と運動能力障害を被った。

  • ペンタとオクタの成分は急速に人々の体内に蓄積している。アメリカ女性の母乳と乳房組織は、世界中のどこで検出されたものよりも高い濃度の PBDEs を含んでいる。

  • 人間の汚染レベルは安全許容マージンをほとんど残していない。母親と胎児から検出される PBDEs の濃度は、動物実験で学習障害及び行動障害を引き起こすとが知られているレベルに急速に近づいている。

産業界の言い分とは逆に、デカもまた人間の健康に脅威を与える

 デカは添加された製品中で化学的に結合されていないので環境中に漏出する。家庭ではデカは家の中の埃の中に浮遊し、さらにはフィルムコーティングのように窓に付着しているのが見出される。デカはまた廃棄物処分場で製品中から漏出し大気と水を汚染する。
  • デカは、もっと有毒で、もっと容易に体に吸収される成分に分解する
     デカ自身は、他の PBDEs に比べると体に吸収されにくいが、実験室の研究では、デカは分解して、科学者たちが我々の体内に急速に蓄積していることを見出しているペンタやオクタなどの、もっと危険な成分に変化することがあり得ることを示している。
     デカは太陽光及び紫外線の下で動物の体内で分解するということを示す新たな証拠がある。

  • デカ自身は動物及び人間の体内から検出されている
     化学産業界はデカの化学分子は効率的に組織に吸収されるには大き過ぎると断言している。しかし、デカは、ハヤブサの体内、電子機器リサイクル工場の作業者の体内、イギリスの普通の市民の体内、アメリカの母親の母乳中、などから検出されている。
     最近のアメリカ女性の母乳調査で、調査対象20人の女性のうち16人の女性の母乳から高いレベルのデカが検出された。テキサス大学の研究は、産業界が推定するデカ含有コンピュータの分解に従事する女性たちの最大濃度より40倍高い濃度のデカを検出した。

  • デカ自身も神経系有毒物質かもしれない
     最近の調査はまた、デカがペンタやオクタと同様な毒性を有することを立証した。動物の子どもが発達の重要な期間にデカに曝露されると、神経系に生涯の損傷を受け、行動障害を引き起こす。この障害は年齢と共にひどくなる。
より安全な耐火措置を施した製品は広く入手可能である

 家具、プラスチック、及び電子機器産業の有力会社は、デカを用いずに火災安全基準に合致した製品をすでに製造している。難燃性の戦略には、より良い製品設計を行うこと、本質的に非可燃性の物質を採用すること、又は、代替の難燃剤を使用すること、などが含まれる。
 例えば、携帯電話やその他の電子機器を製造するエリクソン社はその製品にデカや他の PBDEs を使用することを禁じたが、それらに匹敵するコストで実現することができた。

アメリカの化学物質政策は人々の健康を危険にさらしている

 アメリカだけでも数万の産業化学物質が、潜在的健康への影響に関する情報がないか、ほとんどないままに、市場に出されている。
 人の健康に対する有害性を示す有意な証拠が存在しても、不適切な権威や司法当局が、規制機関が予防措置をとることを妨害している。

勧告

■有毒な難燃剤を廃止すること

 デカの危険性について不明な部分が少し残っているとしても、アメリカ環境保護局(EPA)は、現状の証拠に基づいて措置をとるべきである。
 科学的研究が、デカは人間の体内に蓄積し、もっと危険な化学物質に分解し、脳の発達に潜在的脅威を及ぼすことを示しているのだから、アメリカは、デカ及び、特に代替可能な物質が入手可能な、その他の臭素化難燃剤の使用を廃止すべきである。

■アメリカの化学物質政策を立て直すこと

 アメリカの化学物質政策は、製造者と産業的使用者が規制機関及び公衆に対し彼らの製品についての適切な情報を確実に供給するようにさせ、規制当局は危害が起きる前に潜在的に危険な物質から人の健康を守る措置がとれるようにするべきである。
 テストが実施されていない、あるいはその危険性が未知な化学物質は、市場に投入されルべきではなく、あるいは、広く使用、流通されるべきではない。
 さらに、化学物質の安全性のための分析的手法の開発とテスト実施にかかるコストは、その製品から利益を得る製造者に課せられるべきである。
 適切なデータがなくても、潜在的危険性の証拠がある時には、アメリカ政府は化学物質への曝露を防ぐ適切な措置をとらなくてはならない。



化学物質問題市民研究会
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