EHP2006年2月号 Science Selections
プロテオームによって脳の発達を観察する マウスにおけるPBDE-99 の神経毒影響 情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 2, February 2006 Science Selections Proteomic Insights into Brain Development Neurotoxic Effects of PBDE-99 in Mice by Charles W. Schmidt hhttp://ehp.niehs.nih.gov/docs/2006/114-2/ss.html#prot 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2006年2月10日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/06_02_ehp_ss_Neurotoxic_PBDE_99.html
訳注1 プロテオーム:たんぱく質の総体(詳細:(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)) 線条体と海馬は、神経伝達機能及び認識の側面で役割を演じるコリン作用及びモノアミン作用の部分である。著者らは、動物において新生児の脳成長のほとばしりから大人の永久的神経障害にいたるまで、PBDE が引き起こす細胞の出来事を解明することを特に求めた。 PBDE-99 は、環境中やヒトの組織サンプル中で見出される最も一般的な PBDE 同族である。このペンタ臭化化合物は、中程度の用量で新生児の時期に曝露した大人のマウスの自然行動と習慣(spontaneous behavior and habituation)を損なう。これらの影響は時間とともに進行し悪化する。 研究期間中、オスとメスの10日齢マウスが、PBDE-99 を体重1キログラム当り 12 mg の用量を一回投与された。24時間後、そのマウスは、研究のために脳を切開され、線条体と海馬が分離された。同チームは、処置グループとコントロール・グループのたんぱく質発現パターンを比較するために、2D-DIGE (訳注2)を使用した。この分析システムが PBDE-99 曝露によって発現が変更された線条体中の40のたんぱく質と海馬中の56のたんぱく質を発光させた。 訳注2 2D-DIGE:2次元ディファレンスゲル電気泳動解析システム(2-D Difference Gel Electrophoresis) この最初のグループ分けから、9個の線条体たんぱく質と10個の海馬たんぱく質が MALDI-ToF-MS (訳注3)を使用して特定するために選択された。PBDE-99 によって影響を受けた線条体たんぱく質の中で、神経変性と神経可塑性に関与したものがいくつか(Gap-43/neuromodulin と stathmin を含む)あった。影響を受けた海馬たんぱく質(α-enolase, γ-enolase, Atp5b, α-synuclein を含む)は代謝とエネルギー生成に関与する傾向がある。これらのたんぱく質の多くは、学習と記憶とともに発達と機能の役割が徹底的に研究されている情報伝達分子であるたんぱく質キナーゼ C (訳注4)に関連している。 訳注3 MALDI-TOF-MS マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)と飛行時間型(TOF:Time Of Flight)質量分析計(MS)の組み合わせにより,主として生体高分子の質量を決定する装置 訳注4 プロテインキナーゼ:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia) これらの発見に基づいて、著者らは、大人の動物における神経学的影響を駆動するプロセスに加えて、初期段階 PBDE-99 毒性の即時の結果を反映する潜在的なたんぱく質バイオマーカーを特定したと結論付けた。研究者らはたんぱく質キナーゼ C 情報伝達は、発達中のマウスの脳において PBDE-99 毒性のターゲットであるということを示唆している。さらに、著者らは、PBDE-99 曝露によって引き起こされる新生児細胞ストレスは、関連する神経変性プロセスと異常な神経可塑性に加えて、大人のマウスに見られる行動影響に寄与しているかも知れないと提案している。しかし、異なる脳の部分と細胞個体群の間に潜在する不均質を反映して線条体と海馬内の反応は異なる。 チャールス W. シュミット(Charles W. Schmidt) |