EHN 2010年5月3日
カリフォルニアの子どもたちの体内の
PBDE 難燃剤レベルが著しく高いことを
二つの研究が示す

Synopsis by Heather Stapleton and Patrick H. Ryan

情報源:Environmental Health News, May 3, 2010
Studies find remarkably high levels of flame retardants in California's children.
Synopsis by Ami Zota, Sc.D
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/
remarkably-high-levels-of-flame-retardants-in-california-children/


オリジナル論文:
Rose, M, DH Bennett, A Bergman, B Fangstrom, IN Pessah and I Hertz-Picciotto. 2010. PBDEs in 2- 5-year-old children from California and associations with diet and indoor environment.
Environmental Science and Technology http://dx.doi.org/10.1021/es903240g.

Windham, GC, SM Pinney, A Sjodin, R Lum, RS Jones, LL Needham, FM Biro, RA Hiatt and LH Kushi. Body burdens of brominated flame retardants and other persistent organo-halogenated compounds and their descriptors in U.S. girls.
Environmental Research http://dx.doi.org/10.1016/j.envres.2010.01.004.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年5月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_100503_PBDE_California_children.html


 二つの新たな研究が、カリフォルニアの子どもたちの体内のPBDE 難燃剤レベルが著しく高いことを示している。カリフォルニアの子どもたちの二つの集団におけるPBDEの体内汚染レベルは欧州の子どもたちより10〜1,000倍高く、米国の他の子どもや成人より2〜10倍高く、職業的に曝露している成人に測定されるレベルにまで達している。

 この研究は、カリフォルニアの子どもたちの大きな集団におけるPBDEsについて報告した最初のものである。これらの発見は驚くべきものであるが、PBDE曝露がカリフォルニアにおいて、また成人に比べて子どもにおいて高いことを示した以前の研究と一致する。

何をしたか?

 ローズらは、現在実施している神経系発達と自閉症に及ぼす環境影響の研究の一部として、カリフォルニアの2〜5歳の100人の子どもたちの体内循環PBDEレベルを測定した。彼らは、ペンタ-、オクタ-、デカ-BDE(ブロモジフェニルエーテル)からの11種の異なるPBDE(ポリ臭素化ジフェニルエーテル)化学物質を測定した。彼らはまた、体内汚染レベルに影響を与えるかも知れない要因を特定できるよう、電話インタビューで、授乳歴、食事、PBDEsの可能性ある発生源、及び人口統計学的特性について情報を収集した。

 ウインドハムらは、カリフォルニアとオハイオの6〜8歳の少女のPBDEsとPOPs(例えば、PCBsやDDE)の体内汚染レベルを測定し比較した。この研究におけるPBDE化学物質は、ペンタ-、オクタ-BDEであり、デカ-BDEではない。彼らは、内分泌系に影響を及ぼす化学物質が思春期及び青春期を通じて生じる生殖系発達に影響を与えるかどうかを調査するために、思春期前に焦点をあてた。彼らは、社会的要因、授乳歴、ボディマス指数(Body Mass Index, BMI)(訳注:体重と身長の関係から算出した、ヒトの肥満度を表す指数)、及びその他の重要な生物学的要素に関する情報を収集した。

 残念ながら、どちらの研究も、調査参加者の食事や室内ダスト中のPBDEレベルなど、もっと直接的な屋内曝露の測定はしていない。

何を見出したか?

 ローズらは、他の研究と比較すると、PBDEレベル(ペンタBDE)について、カリフォルニアの2〜5歳の子どもたちは欧州の子どもたちより10〜1,000倍高く、米国の他の子どもたちより5倍高く、米国の成人より2〜10倍高いと報告した。

 このカリフォルニアの子どもたちの集団のレベルは、ポリウレタンフォーム回収業者やカーペット施工業者に見られる米国成人の職業的曝露に達するかそれを超えるレベルである。デカBDE(BDE-209)からの化学物質もまた高いが、比較するためには入手できる研究はほとんどなかった。
 彼らはまた、食事、屋内環境、及び社会的要因が、子どもの体内汚染レベルに影響していることを発見した。鶏肉や豚肉の摂食は、難燃剤のほとんど全ての種類の体内汚染を高めることに寄与していた。新しいマットレスや家具は、デカBDE化学物質の高いレベルとのみ関連しており、このことはペンタ-及びオクタ-BDEがすでに廃止されていることを反映しているのかも知れない。加えて、母親の教育レベルによって測定された社会経済的状態が低いことと、子どものPBDEレベルが高いことに関連があった。ヒスパニック系の子どもや外国生まれの母親の子どもはある種の化学物質のレベルが低かったが、全ての化学物質についてではない。

 ウインドハムらは、オハイオに比べてカリフォルニアの少女たちの体内のPBDE難燃剤のレベルが著しく高いことを見つけた。カリフォルニアの学齢期の少女たちのレベルは、米国の他の子どもたちや成人より高かったが、ローズの研究における2〜5歳の子どもたちのレベルよりもわずかに低かった。

 ウインドハムらはまた、人種や民族によって曝露に差があることを観察した。黒人の少女は白人の少女に比較してPBDEsのレベルが著しく高く、ヒスパニックはその中間の値であった。興味あることには、PBDEsはPCB類や農薬のレベルとの関連性がなく、このことは曝露経路が異なることを示唆している。黒人は他の人種や民族のグループに比較してPCBsのレベルが最も低かった。

 ローズらの発見と同様にウインドハムらはまた、介護者の教育が低い子どもはPBDEレベルが高いことを観察した。曝露における人種的及び社会経済的な不均衡の理由はわからないが、曝露経路、住宅要素、又は家具類の相違を反映しているかも知れない。

何を意味するか?

 これらは二つの研究はカリフォルニアに住む子どもたちの大きな集団におけるPBDEsを測定した初めて研究である。それらを合わせると、カリフォルニアの子どもたちは、欧州やメキシコを含む世界の他の場所に住む子どもたち、及びこの化学物質を職業として扱っていないほとんどの成人より、PBDEsの体内汚染がが高いことを確認している。

 これらの高いレベルは、社会経済的要素とともに、食事と屋内空気を通じての子どもたちの曝露に関連付けられた。これらの研究は高いPBDE体内汚染と低い教育状態との関連性を特定した最初の研究であり、それは住宅の建材又は家具の品質における相違を反映してるかも知れない。

 これらの研究はまた、どの人種がもっとも高い曝露を受けているかを特定した初めてのものである。PBDEの体内汚染の人種/民族による相違の理由は、複雑であり、人々が住んでいる(現在及び過去に)、収入と教育、及び食事又は代謝の潜在的な相違によって影響を受けるように見える。

 これらの研究は、カリフォルニアの成人は米国内の他の場所や世界のと比べてPBDE曝露が高いことを示す以前の研究を支持するものである。高いレベルはカリフォルニア州の独自な家具難燃性基準によるものであるように見える(訳注1)。

 これらの高い曝露のために、子どもたちはPBDE難燃剤に関連する有害な健康影響を受けやすいかもしれない。ヒトと動物による研究はこの化学物質が甲状腺ホルモンをかく乱することができることを示している。これらのホルモンは、重要な調整因子であり生殖系及び代謝系を含む多くの体の機能に影響を与える。胎内でのPBDEs曝露はまた、学習、記憶、運動能力に影響を与えるかもしれないやり方で脳の発達に影響を及ぼすことが示されている。


訳注1:カリフォルニア州の家具安全性基準
訳注2:臭素化難燃剤関連情報


化学物質問題市民研究会
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