ES&T 2007年1月17日
埃中のPBDEsのリスク
新たな研究が確認
人々は家の埃から臭素化難燃剤を取り込む


情報源:Environmental Science & Technology: Science News - January 17, 2007
The risk of PBDEs in dust
New research confirms that people can take up brominated flame retardants
from the dust in their homes.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/jan/science/kb_pbde.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年1月20日


 科学者らは長い間、埃は人がポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)(訳注1)難燃剤を体内に取り込む上で主要な役割を果たしているのではないかと疑っていた。本日、ES&T’s Research ASAP website (DOI: 10.1021/es0620282) に発表された新たな研究は、人の体内で見出される PBDE 濃度と、その人の家の埃に含まれるこの残留性・生物蓄積性・有毒性(PBT)物質の汚染量との間に決定的な関係があることを初めて示した。
 米EPAの PBDEs についての新たな評価、及びアメリカの家庭内の埃の中の汚染濃度に関するデータの両方を勘案すると、この発見は子どもたちは発達神経障害のリスクがあるレベルにさらされているということを示唆している。

 ボストン大学公衆衛生学部のトム・ウェブスターとネリサ・ウは、ボストン地域の46人の初産の母親からの母乳サンプルの収集などを含む国際的な研究調査を実施した。研究者らは11家庭から埃のサンプルを取得しただけだったが、彼らは女性らの家の埃中の PBDEs のレベルと彼女らの母乳中のこの汚染物質との間に統計的に有意な関連があることを見いだした。

 EPAは、長らく待望されていた統合リスク情報システム(IRIS)PBDE 評価ドラフトを2006年12月22日に発表した。EPA の IRIS は環境中に見いだされる化学物質への暴露によって生じる人の健康影響を評価する情報を備えたデータベースである。
 その評価は、4種類のPBDE化合物(同族)へのヒトの暴露のための安全用量を計算している。最も低い用量は2種類の臭化ジフェニルエーテル(BDE)化合物で家屋の埃、ヒトの血液、及び母乳中にもっともよく見出される BDE-47 (テトラ)と BDE-99 (ペンタ)に対するものであり、その安全用量は 0.1μg/kg/dayあるとした。現在の BDE-99 の安全用量はこれよりも20倍高く、BDE-47 は今までに安全性について評価されたことはなかった。

 以前の家屋の埃の研究で報告されていた PBDEs のレベルは大幅に変動し、それらの研究が示した北米の市民が体内に取り込む PBDE の量は変動するが、ある量は世界で最高のレベルである。

 この研究の開拓者であるデューク大学のヒーザー・スタプレトンは、埃中の PBDEs のレベルが平均であるようなアメリカの家に住む人々は、今回のEPAの新たな IRIS 参照用量のオーダーで PBDEs を取り込むことがあり得ると述べている。

 特に懸念されることは、”そのような高いレベルの家がをいくつか見てきた”という事実であるとスタプレトンは述べている。このような家に住む子どもたちは、”IRIS の見積りより高いレベルで PBDE を取り込んでいる。”PBDE-47 と PBDE-99 のIRIS 用量は発達中の動物に及ぼす神経への影響を示す研究に基づいている。このことは成長中の子どもたちは特に影響を受けやすいことを示唆している。

 この記事についてインタビューを受けた科学者の多くは、EPAの評価ドラフトは、現在ダイオキシンや PCBs に用いられているアプローチである比較体内負荷量(comparable body burdens)(訳注2)ではなく、テスト動物に投与された PBDEs の用量に基づいてまとめられたということに驚きを示した。比較体内負荷量アプローチは、ヒトの体内で見出される化合物を持った実験動物中のPBT(難分解性、生物蓄積性、有毒性)化合物の濃度を比較するので、人体中では数年のオーダーの半減期を持つPBDE-47、PBDE-99、PBDE-153 のような化合物にはより適切なアプローチであるとウェブスターは説明している。PBDEのIRIS評価文書のパブリックコメントの締め切りは2月5日である。

 この新たな研究が示していないことは埃中に見いだされた PBDEs の汚染源である。ウェブスターの質問票には、電子機器やプラスチック気泡の詰め物を含んでいそうな家具など潜在的なPBDEsの汚染源についての詳細な質問が含まれていた。彼と同僚は”PBDEsが家庭用製品中でどのように使用されているかについて我々が知っていることに基づいたどのような関連性をも見いだすことができなかたことに驚かされた”と彼は述べている。

 この論文はまた、どの位の量の埃を人々が取り込んでいるのかということについての疑問を提起している。”文献をレビューして、我々は吸入する埃の量の見積りに100倍の差を見出した”とテキサス大学ヒューストン校環境健康学部教授アーノルド・シェクターは指摘している。”明確に著者らが示したように、”この主要な不確実性は将来の研究で解決されるべき重要なことがらであり、それは幼児から成人まで様々な年齢のグループを含むべきである。”

ケリン S. ベッツ(KELLYN S. BETTS)


訳注1:PBDEs 関連記事
訳注2:投与量ベースと体内負荷量ベース
  • 生殖発生毒性を指標としたダイオキシンの耐容1日摂取量(TDI)算定の考え方について/国立衛生研究所 総合評価研究室 広瀬明彦,江馬 眞

    体内負荷量とTDI (上記論文から引用)
     一般に化学物質の耐用摂取量は,最も感受性の高い毒性学的エンドポイントを基に算定される.ヒトを対象とした定量的で信頼性の高い疫学研究などの知見がある場合はそれを用いるが,通常は疫学上の交絡因子を完全に排除することは難しく,動物実験における化学物質の投与用量を基に,ヒトにおける耐用摂取量を算出している。1990年代の前半頃まではダイオキシンに関して最も感受性の高い毒性は,げっ歯類に対する発がん性であると考えられており,評価機関の多くは,ラットを用いた2年間の長期投与試験における無毒性量(NOAEL):1ng/kg/day を基に,不確実係数(多くは100)を適用して耐容1 日摂取量を設定していた。

     しかし,1998 年のWHO-IPCS1)での評価以後は,ダイオキシン類のように脂溶性が高く,排泄が遅い物質は,長い時間をかけて徐々に体内に化学物質が蓄積していくことや,ヒトとラットでは数百倍も排泄速度が異なることから,投与量と蓄積濃度(=体内負荷量)と関係はヒトとラットで著しく異なることになり,投与量をベースにして毒性発現を比較するのは適当ではないと判断された。また,ダイオキシン類による毒性発現は蓄積量である体内負荷量に依存して発現していることが示され,近年は,この体内負荷量を基に定量的な毒性評価を行うようになった。この体内負荷量という物差しを用いることにより,従来の発がん性よりも,胎児期及び授乳期暴露による次世代への影響がより感受性の高い毒性指標となることが明らかになった。この際,摂取量と体内負荷量との換算は,1 コンパートメントモデルの定状状態における,以下の近似式で示すことができる。
    摂取量(ng/kg/day)=[体内負荷量(ng/kg) X ln(2)]/[半減期(day) X 吸収率]



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