ChemSec 2008年2月26日
国際電気標準会議基準IEC 62368に関する
ケムセックのポジションペーパー


情報源:The International Chemical Secretariat
ChemSec position paper regarding standard IEC 62368
- Open flame fire resistance 2008-02-26
http://greensciencepolicy.org/files/standards/080226ChemSecPositionPaperIEC62368.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年9月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/ChemSec/Issues/IEC_62368.html



 現在、全ての電子機器(消費者用電子機器を含む)のための新たな基準(IEC 62368)の作成が国際電気標準会議(IEC)によって行われている。この基準は、火災安全のための新たな基準、すなわち”ろうそく点火”を導入するものである。この新たな基準を守るために、潜在的に有害な多量の難燃剤が全ての対象製品の外部ケースに加えられなくてはならない。もしこの基準が採択されると、この基準は人の健康と環境に深刻な脅威を及ぼす臭素化難燃剤(BFRs)及び塩素化難燃剤(CRFs)を加えることによって、ある程度実現される。この問題についてのケムセック(ChemSec)の立場は、IEC 62368 は不必要であり、防止できるかもしれないわずかな火災より、実際に人の健康と環境にもっと多大なダメージを及ぼすような基準を導入することは、火災安全にとって不適切であるということである。

この基準についてのケムセックの主要な懸念

1. この基準は現在のEUの環境法令と矛盾する。
a. RoHS指令は臭素化難燃剤(PBB, PBDE)を禁止している。A 項を参照のこと
b. WEEE指令の要求するリサイクルを困難にする。B 項を参照のこと
c. 欧州連合の新たな化学物質規則であるREACHにおいて、今日使用されている難燃剤の多くは、人の健康と環境に対して潜在的に非常に有害な物質であり、したがって、それらは高懸念物質(SVHC)の候補物質であり、使用に先立ち認可が求められる。C 項を参照のこと

2. POPs(残留性有機汚染物質)を禁止する国際条約であるストックホルム条約によれば、いくつかの臭素化難燃剤(BFRs)は対象物質とするよう審議中である。D 項を参照のこと

3. コンピュータ画面、ラップトップ型コンピュータ、キーボード、及びシステムユニットのための世界的に認められたTCO基準は、これらの製品の外部筐体中のBFRsを禁止している。E 項を参照のこと

4. ビジネスにとってコストがかかる。
a. 難燃剤はそれを使用しない場合の他の材料よりもかなり高価なので、製造者は高価な材料を必要とすることになる。
b. 寿命が尽きた製品のリサイクル・コストが高くつく。F 項を参照のこと
c. 高懸念物質(SVHC)として分類された多くの難燃剤の使用は欧州委員会の認可が必要であり、それぞれの認可費用として概略50,000ユーロ必要である。G 項を参照のこと
d. REACHによれば、消費者は購入する製品中に高懸念物質(SVHC)が含まれているかどうか知る権利がある。そのような化学物質が含まれる製品を製造する会社は、真剣に懸念する消費者に向き合うことになり、環境的な評判が損なわれることになる。

5. 多くの難燃剤、特に BFRsは、人の健康と環境に深刻な有害影響を与える非常に有害な物質である。よく使われる難燃剤の特性のいくつかには次のようなものがある。内分泌かく乱作用、神経系影響、発がん性の疑い、残留性、生体蓄積性、有毒性 (PBT)。


我々の懸念の根拠

  1. この新たに提案されている基準IEC 62368を満たすために、製造者は多分、製品の外部筐体に臭素化難燃剤を加える必要がある。そうすることは PBBs と PBDEs を禁止する RoHS 指令に抵触することになる。現在、デカBDEには一般的免除があるが、この免除は現在、デンマークと欧州連合によって提訴されている(訳注1)。
    DIRECTIVE 2002/96/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 27 January 2003 on waste electrical and electronic equipment (WEEE)
    http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2003:037:0024:0038:EN:PDF

    訳注:「電気・電子機器廃棄物」(WEEE)指令及び「電気・電子機器における特定有害物質の使用制限」(RoHS)指令(EU)/JETRO による仮訳
    http://www.jetro.be/jp/business/eurotrend/200305/report5.pdf

  2. WEEEは、電気電子機器は最低65%、再使用又はリサイクルすることを求めている。難燃剤(その種類に関係なく)を加えることは、プラスチックに難燃剤がより多く混入されるのでリサイクルが十分にできなくなるので、この目標を達成することをかなり難しくする。
    DIRECTIVE 2002/96/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 27 January 2003 on waste electrical and electronic equipment (WEEE)
    http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2003:037:0024:0038:EN:PDF

  3. REACHの本文は第1条(3)項で、”本規則は、製造者、輸入者及び川下使用者が、人の健康又は環境に悪影響を及ぼさない物質を製造、上市又は使用することを確実にするとの原則に基づいている。予防原則が、本規定を支持する”と述べている。
     今日使用されている多くの難燃剤は人の健康と環境にかなりの有害影響を与えるので、REACHの目的に直接的に矛盾することになる。非常に有害なので、高懸念物質(SVHC)と見なされる潜在的な候補である。一度高懸念物質(SVHC)としてリストされると、欧州委員会によって認可されなければ、使用することができない(訳注2)。
    http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2006:396:0001:0849:EN:PDF

    訳注:化学物質の登録、評価、認可及び制限(REACH)/環境省による仮訳
    http://www.env.go.jp/chemi/reach/reach/reach_article.pdf

  4. Persistent Organic Pollutants Review Committee (POPRC)
    http://www.pops.int/documents/meetings/poprc/chem_review.htm

    訳注:POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質/環境省ウェブサイト
    http://www.env.go.jp/chemi/pops/index.html

  5. http://www.tcodevelopment.se/tcodevelopment1200/Datorer/TCO99/99Ecology_report_5_ed_4_0.pdf 訳注:上記はリンク切れである。下記 TCO Developmentのウェブサイト参照のこと。
    http://www.tcodevelopment.com/

  6. 難燃剤を大量に加えるとリサイクル・コストが増大する。他の異質の物質を混入すると、混合物を分離することは難しく、新製品のための新たな素材として使用することは不可能なので、リサイクルとリユースがかなり困難になる。

  7. http://www.hse.gov.uk/reach/resources/regfeescharges.pdf
    訳注:上記はREACH登録費用に関する情報である。
 火災安全は電子機器の使用において非常に重要な問題であるが、それは例えばテレビのように、しばしば高電圧、高温な表面、強い電流が伴うからである。製造者らはこれらについての懸念は長年、承知しており、難燃剤を加えるという措置を取ってきた。難燃剤を使用することの明らかな有害性がについて知られるようになると、構造的な対策によってこれらの有害物質はかなりの程度、代替されてきた。製品自身によって及ぼされる危険性は、技術的方法によって適切に制御され、現在の基準によって管理されてきた。
 難燃剤の量を減らしつつ現在までになされてきたことの全てが、電子機器の全ての外部筐体は”はだか火(open flame)”に対して耐火性があることを求める IEC 62368 によって、現在ひっくり返されようとしている。

 更なる情報については、Jerker Ligthart at jerker@chemsec.or に連絡していただきたい。




訳注1:2008年4月7日に欧州司法裁判所は、デンマーク及び欧州議会によって提訴されていた化学物質、デカ BDE(Deca-BDE)の禁止に対する欧州委員会の見解に対し判断を下した。したがって、RoHS で免除されていたデカ BDE は使用できなくなる。
訳注2 訳注3:関連記事
訳注4:臭素化難燃剤に関する当研究会紹介記事


化学物質問題市民研究会
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