絵具
「絵具の透明、不透明」
絵具(水性、油性、他)は、顔料を主成分として発色しています。
顔料を溶いて、助剤として顔料を画面に定着させる展色材、その他防腐・防カビ剤、pH調整剤が使われます。
顔料に展色材、その他を加えることで使える絵具になります。
顔料は、色を持った粒で、水や溶剤に溶解しないで、塗ると下地をいくらかでも覆い隠します。
顔料と展色材の組み合わせで不透明になったり、かなり透明になったりします。染料は完全透明です。
展色材には、油性と水性があります。油性は亜麻仁油・ポピー油(油絵具)、
水性はアラビアゴム(水彩絵具)、膠(日本画)、アクリル樹脂(アクリル絵具)などがあります。
展色材は無色透明でなくてはなりません。また化学的に安定で顔料と反応しないものに限ります。
顔料は染料と違い、水に溶いてかき回し静置しておけば、やがて顔料は沈澱し、
上の部分は透明な水になります。溶解している染料には、このようなことは起きません。
顔料は水に分散して混ざっているだけで、溶けているのではありません。
粒子の非常に細かい顔料は、沈殿しにくくて、染料のような感じがします。
煤が原料の墨、またプルッシャン・ブルーなどがそうです。
色を持った粒である顔料は、実際の使用に際しては、展色材の種類と加える割合によって、描かれてから、乾いた絵具は様々な見え方(発色)をすることになります。
それにより透明・不透明に分けられますが、透明水彩は透明ではなく、あくまで透明感の違いです。
塗られた絵具は、顔料と展色材の光の屈折率が近いと透明感は大きくなります。
展色材の割合を多くすることでも透明感は大きくなります。
油絵具は、顔料と油の屈折率が近いので、透明感は大きくなるわけです。
油絵具は基本的に透明です。油絵具では白さえも透明感があります。
油絵具と違って、水彩絵具では透明・不透明を使い分けられます。水彩絵具の場合は、加える展色材の割合で乾いた後の透明感は左右されます。
つまり、同じ顔料を使い、透明水彩も不透明水彩も作ることができます。
水彩絵具の展色材は、膠、アラビアゴム、デキストリンなどがあります。
不透明に属する日本画、ガッシュ、ポスターカラー、パステルは、展色材の使用をはく落しない必要最小限度に留めることで、
塗られた絵具は乾くと展色材に覆われることなく顔料は表面にむき出しに近いかたちで並ぶことになります。
顔料粒子の表面で光を乱反射することになり、その乱反射の白っぽさが加わるために色彩は明るくなり、下地を十分に不透明に覆い隠してしまいます。
乱反射はあらゆる波長の光を含むために、白っぽくなるわけですから、絵具の色に白を加えたのと同じような状況になります。
実際に白を加えた透明水彩絵具はそのまま不透明水彩になります。
透明水彩は、展色材の割合を多くすることで、乾いた後も顔料を展色材の透明な膜が包み込んでいます。
光は滑らかで透明な展色材の表面で均質に反射して、乱反射(白味)は抑えられます。
そのため色は不透明水彩絵具に較べると、深く、濃く、そして透明感が感じられます。(左図)
図の透明の場合には、反射の正面から見ると画面は艶のある光沢感があります。
一方の不透明ではどこから見ても一定の反射がないため、艶は感じられません。
パステルは、成形に必要な最小限の展色材で顔料を固めて作られています。
パステル画の保護のためのフキサチーフをかけ過ぎると、パステルの表面には透明な膜が張り、乱反射(白っぽさ)が抑えられて、
パステル特有の明るさはなくなります。
透明と不透明を説明するのに、ガラスを取り上げてみます。
新聞などの上に置いた透明な文字の読めるガラスの表面を細かく傷つけると、ガラスは不透明(磨りガラス)になり文字は読めなくなります。
荒れた表面では光が乱反射し、乱反射の光はあらゆる色を含んでいて合わさると白っぽい色になり、
その乱反射した光が見え、ガラスの下にある新聞の文字の見えるのを妨げます。
この不透明なガラスに水を塗ると乱反射が抑えられて透明になり、再び文字が読めますが、水が乾くとまた不透明に戻ります。
磨りガラスを透明なままにしたい場合は、乾いた後でも表面に透明な膜を形成するものを塗れば良いことになります。
アラビアゴム、膠、乾性油を塗るか、また単にセロハンテープを貼りつけても良いのです。また磨りガラスの凹凸をなくすように平らに磨くことでも透明になります。
つまり、不透明なものは表面に凹凸があり、それが乱反射をもたらして内部を覆い隠しているようなものです。
透明なものは透明な膜が凹凸を覆い隠しているので、表面の乱反射がなく、内部まで見えているような感じをもたらしています。
透明水彩と不透明水彩でいえば、灰色の場合が良い例と思います。
墨でも黒い顔料でも、水で溶いてそれを更に水で希釈してゆけば透明な灰色ができます。水で薄める代わりに黒に白を加えてゆけば不透明な灰色ができます。
江戸摺り(浮世絵など)は透明な灰色を使い、京摺り(日本画の流れを汲む木版画など)は不透明な灰色を使います。
江戸摺りは白で薄めるのではなく、水を加えて薄めていますから、白い絵具はほとんど使われませんが、
白は白として雪を降らせたりする場合などに使われます。
絵具に白を加えると、明度は上がりますが彩度は落ちますから、いわゆるパステルカラー調の明るくて淡い色調になります。
つまり、透明水彩絵具は、透明なのではなく、透明感を与えているのにすぎないのです。
なぜなら透明な顔料はないからです。染料は透明です。
夏の日に、土の庭に水を撒くと、乾き色(不透明)と濡れ色(透明)が見られます。
乾いた白っちゃけた土に水を撒くと、濃く深く暗い土色になります。水が土の表面を覆い、
凸凹の乱反射が抑えられ、さらに水と顔料の屈折率比が空気と顔料とのそれよりも小さくて透明性が高まるために濡れ色(透明)になりますが、
やがて水分が蒸発すれば乾き色(不透明)になります。本当の土の色はどちらでしょう。
顔料そのものだけでは、不透明、乾き色であり明るいのですが、そのまま絵具として使って描いてもはく落してしまいますので、
何らかの定着(固着)剤が必要です。展色材によって十分に覆われると濡れ色になります。
顔料に対する展色材の割合で透明と不透明が作り分けられています。
描いたり摺ったりして作品が仕上がった後、乾き色状態になった場合が不透明色で、仕上がった後でも濡れ色状態を保ち続けるのが透明色です。(下図)
不透明描法では、展色材を顔料がはく落しない必要最小限度を使うことで、不透明さが際立ちます。
透明描法では、展色材が滑らかに顔料の凸凹を埋めるようになっています。
木版画の場合は、透明水彩を使っても、仕上がりは乾き色になりますので、明るい色彩です。
透明に仕上げるほどの濃さの展色材では、摺る時に絵具が粘り過ぎて、細かい部分などつぶれて埋まりやすくなります。
木版画を透明色に仕上げるには、摺った絵具の上から展色材だけを摺って皮膜を作れば良いのです。
水性ではアラビアゴム液、膠液、油性ではワニスなどです。特に艶を効果として表現する場合でなければ、その必要はないと思います。
印刷では仕上がりに合成樹脂をコーティングすることも行われます。
また一版多色摺りの場合の絵具は、黒などの暗い下地の上に色を摺るので、必ず不透明でなくてはなりません。
透明感が強くては、黒の上では発色できにくいのです。
顔料の種類によっては不透明感の強いものもあります。茶系、黄土系はもともと土などの成分であり、不透明度があります。
ビリジャン、プルッシャン・ブルーなど透明度の強い顔料もあります。
透明水彩絵具のセットに白色が用意されていますが、本来、白は不透明だから白なのです。
だから透明な白ではなく、透明感のある白ということです。不透明水彩絵具セットの白は不透明度を損なわずに色を明るく薄い色にするためには必要不可欠です。