第三章・技法
版下
「版下の転写」
版下を版木に写すには左記のような方法があります。
(1)貼り込み=版下絵を薄い和紙に描いたもの、または主版を和紙に摺ったものを、そのまま版木に裏返して糊で貼り込みます。主版の場合は、紙の伸び縮みに注意して、貼り込みを行います。伝統の技法で、版下絵は残りません。
(2)トレーシングペーパーまたは樹脂フィルムに写した版下を裏返しにして、下にカーボン紙を敷いて書き写す方法です。
(3)濃い目の鉛筆で書いた版下を裏返しにして、硬い滑らかなもので擦って版木に転写する方法があります。フキサチーフで止めてから彫ります。
(4)コンテ=鉛筆の転写と同じ方法です。フキサチーフで止めてから、彫ります。
(5)染料系のソフトペン、万年筆のインク=これらで描いた下絵は、軽く版木を湿して裏返して下絵の裏からこすると、転写できます。湿し加減に少しコツが必要です。湿しが多いとにじむし、少ないとかすれるか、写りにくいです。
(6)油性絵具=主版を油性絵具で摺って、それをそのまま裏返して版木に必要な色数だけ擦って写します。
(7)直描き=版木に直接描いて、そのまま彫ることです。仕上がりは、左右が反転して裏返しになるので注意することです。
(8)ゼロックス複写したものを、版木にシンナーを塗っておいて写します。シンナーが多いとにじみ、少ないと写りません。転写に失敗すると消すことができません。
(9)樹脂製フィルムに墨で描いて乾かし、版木を水で湿して、裏返して転写します。墨は磨り墨がよいです。樹脂フィルムは水気を吸わないので墨の乾きは遅いです。版木の水気は多過ぎるとにじむし、少ないとかすれます。
色々な転写の方法がありますので、その時に応じて選んで下さい。
トレーシングペーパーは耐水性がありませんが、最近の樹脂製フィルムは水洗いできるほどに耐水性がありますし、寸法安定性も良いのでトレースにはよく使われています。樹脂製フィルムは、ポリエステルやアセテートで作られ、筆記性も良いように加工されています。
コピーしたものをシンナーで版木に転写する方法は私が開発したものですが、すでに広く広まっているようです。こんな良い方法がありますよ、と私に教えてくれる人まであるほどです。
誰かが自分の手柄のように語って方法を広げていることが分ります。せめて、誰々に聞いた方法ですが、と前置きしていればまだしもと思います。
この方法に行き着いたきっかけは、ある時にコピーした用紙を再生(文字や絵を薬品ではがして消す)する方法をメーカーが考えているという記事を読んだことです。
そんなこともできるのかと思い、手近にあった薬品類を試していきました。
「アルコール(メチル、エチル)」「キシレン」「テレビン油」、さらにはアイロンで熱を加える、そしてラッカー用の「シンナー」を塗ったところへコピーを押しつけると……なんと! 見事に写っていました。こうして私は手軽な転写の方法に行き着いたのです。