不眠症と漢方薬
不眠症を訴える人は意外と多く、本人は不眠症だと訴えても、家族が見るとよく眠っている場合もあり、その多くは、眠れないことへの不安感が問題のようです。
しかし高齢者の不眠の場合は少し事情が違います。睡眠障害外来で病院にかかると、お薬としてベンゾジアゼピン系薬剤を用いますが、依存性などの副作用の心配される方も多くおられます。
寝つきがわるい、夜中目が覚める(中途覚醒)、熟睡感がないなどの睡眠障害(不眠症)の主な原因は、ストレスによる自律神経の交感神経の亢進(興奮)が深く関わっています。
日ごろから、不安、緊張、興奮、恐怖などを感じるていると副腎髄質ホルモンのアドレナリンの分泌が促進され交感神経が高まります。
夜になてもリラックスできず、心身の疲れもたまった上に、夜更かししてテレビ、スマホ、ゲームなどをしているとリラックスするための副交感神経への切り替えができず、興奮状態のままで眠れません。
また、加齢とともに不眠は増える傾向にあり、女性に多い更年期障害の一症状としての不眠症も多くあります。不眠は、心身の健康を害するリスクがあり、生活習慣病を悪化させる要因になるとの研究データもあります。慢性化した不眠症はQOLを低下させます。
不眠を訴える人の多くが身体性不眠や統合失調などによる不眠でなく、神経性不眠で、西洋薬よりは、心身の調和を図る漢方薬の方が適しています。
更年期の不眠症
若い頃はよく眠れていたのに更年期になるとなかなか寝つけなかったり夜中に目が覚めたり朝早く目が覚めてしまったりなどの悩みを訴えるようになります。
原因は女性特有のホルモンバランスの変動であったり、冷えや神経過敏であったりします。更年期障害の症状などがあれば更年期障害の一症状としてとらえ漢方薬でトータルに改善を目指します。
ストレスと不眠症
ストレスの多い現代社会、老若男女問わず不眠症を訴える人は多いです。その多くは眠りを意識するあまり眠れないことへの不安が増幅し、実際には眠っていても眠れていないと思ってしまっている人がおられます。この場合の入眠障害も多いようです。
また眠りが浅く目覚めのすっきりしない方もおられます。セロトニンやメラトニンにも関わることから自律神経の安定が大切で漢方薬の気剤が大変お役に立ちます。
不眠症のタイプと漢方薬
【西洋医学的不眠症の分類】
- 精神病性不眠(統合失調、躁病、うつ病)
- 神経症性不眠(不安障害など)
- 神経質性不眠(神経質)
- 身体因性不眠(体の痛みや痒みなど)
- 本態性不眠(原因不明)
【漢方的不眠症の分類】
- 入眠障害(寝つきが悪い・興奮・心熱)
- 中途覚醒(夜中によく目が覚める、胆虚・不安)
- 熟睡障害(眠りが浅くよく夢を見る、眠った気がしない)
- 早朝覚醒(朝早く目が覚める、その後眠れない・老人性)
漢方でも昔から不眠に対しては、その人の証に従い様々な処方が考案され効果を発揮してきました。主な捉え方としては
○緊張や怒りで興奮して眠れない
緊張や興奮が続いた後や怒りイライラなどがあり入眠できない状態
○眠れないことへの不安感やストレス
今晩も眠れないのではないかという不安による神経質性不眠
○心身が疲れ体力を消耗して眠れない
心身共に過労状態や病気によって体力を消耗し、虚証になった不眠で高齢者の不眠はこのパターンが多い
これらそれぞれの不眠の状態に合わせ、その人の状態による虚実を見極め証を定め漢方処方を選定して行きます。
○興奮や緊張、イライラの不眠の場合は、清熱鎮静作用のある黄連や柴胡の配合された漢方薬を用います。
○眠れない不安感のある不眠は、胆虚になっており、胆を温める漢方薬を用い、実証の人には柴胡剤を用います。
○心身が疲れている不眠の人には、気血を補う漢方薬を用います。
漢方の古典である黄帝内経素問には「陰虚であるが故に目不瞑となる」と記されており、つまり身体の活力が失われ元気がなくなることで不眠になるといっています。
漢方薬で気虚血虚を補いますが、他の漢方薬も同じですが漢方薬の考えは、五臓六腑を補い、調和を図るもので、人は常に五臓六腑が正常であれば精神も正常になり安眠できるということです。
また。気うつ(鬱病ではなく憂鬱な気分や気分の落ち込み)は不眠になりやすいと言われています。勿論、鬱の前提条件には不眠症がありますがここでは別の扱いとします。
胃腸機能が低下した人も不眠になりやすく、それら個々の人の状況、症状に照らし合わせ漢方薬で不眠症の改善を図ります。特に麝香・龍腦を含む漢方薬は昔からよく用いられており大変有効で習慣性、依存性もなく安心して服用でき、漢方薬専門の薬局ならではの処方で大変好評を得ています。
漢方薬は、不眠の原因となる身心のゆがみを改善し、精神を安定させ不眠を解消します。その他「不眠症」に有効な漢方薬は数多くあり、人それぞれに対応できます。
不眠症の養生
不眠症の養生は、日々心を安らかにリラックスし、夜は、胃腸に負担をかけない。寝る前のぬるめのお風呂でゆったりするのもよし、足つぼ(リフレクソロジー)を押してもらってリラックスするのもよし。特に英国式リフレクソロジーと台湾式足底を融合した足つぼ(胆力湧泉健康法)は、脳のα波が発生しリラックスでき、お薦めの健康法です。
寝る前に深呼吸(丹田呼吸法)を行ったり、筋肉を緊張・弛緩の交互でリラックスする方法を行い、体の力が抜けた感覚に集中し、体が温まるのを感じます。行う部位は手、腕、足、肩、お腹など。知覚神経から中枢神経にリラックス信号を送ります。
また、睡眠に欠かせないのが副交感神経を高めることです。そのためには、リラックス効果のある香りを使います。アロマオイルやハーブティーもいいですね。枕元にポプリを置くのもいい方法です。
副交感神経を高め、不眠に役立つハーブには、カモミール、ジャスミン、ラベンダー、サンダルウッド、イランイラン、ビターオレンジなどがおすすめです。
天然バーブが配合されたナチュラルバームのスキンケアもリラックスをもたらします。
漢方薬で用いられる麝香、沈香、龍腦などは究極のアロマと言えます。日本では、聖徳太子の時代から使われだし、江戸時代中期以降は、一般庶民も使えるようになり、気のめぐりを良くする気付け薬として愛用され、現在のストレス社会においては欠かすことのできない重要漢方薬となっています。
また、最近、注目されているのは体内時計とメラトニンです。体内時計の乱れが不眠をもたらすと言われ、体内時計と実際の時間との差をリセットすることで心地よい睡眠を促すというものです。
メラトニンは睡眠ホルモンとも言われ、メラトニンの分泌によって睡眠がもたらせます。朝日を浴びることで脳内の体内時計がリセットされ、メラトニンはこのリセットから14~16時間後に分泌されます。
例えば朝7時に起床し朝日を浴びれば午後11時頃にはメラトニンが分泌され眠くなるということになります。
先ずは、寝ることに気を捕らわれるのではなく、朝、目標とする時間に起きて朝日を浴びましょう、窓越しでもいいですが、出来れば、朝の散歩が一番いいですね。
メラトニンは、年齢とともに分泌が減少します。加齢とともに睡眠時間が短くなるのはそのせいで、夜中に目が覚めるのもそのせいです。60歳以上ですと5~6時間の睡眠で十分とも言われています。加齢と共に起こる夜間頻尿は、睡眠障害の一因でもありますが、本来腎虚が原因で補腎剤の漢方薬で改善できます。
メラトニンは子供の頃に分泌量が一番多くなり成長とともに減少してきます。「寝る子は育つ」というのも昔からの言い伝えではなくメラトニンと成長の関係を昔の人は分かっていたということです。
不眠症の食養生
不眠症の食養生としては、不眠のタイプにかかわらず、不眠の人におすすめしたい精神安定作用のある食材です。
食養生は、不眠症改善には大変重要です。私たちの心身は、食べ物から出来ています。間違った食べ方、食べてはいけないものを改善し、食養生・薬膳の理にかなった正しい食べ方、正しい食材を理解し食養生を実践しましょう。
不眠によく使われる薬膳の食材は、ゆり根(百合)、なつめ(大棗)、ハスの実(蓮子)、竜眼肉、牡蠣などでハーブティでは、カモミール、パッションフラワーなどが用いられます。
身近な食材を使った薬膳から、漢方食材を使った薬膳まで、漢方理論に基づいた薬膳を漢方の専門家ならではの薬膳をご自宅で実践できる方法でご提案いたします。薬膳は、漢方薬同様その人その人に合った薬膳を具体的にご提案いたします。
また、睡眠ホルモン、メラトニンの観点から言えば、メラトニンは、必須アミノ酸トリプトファン→セロトニン→メラトニンという具合に合成されます。つまりメラトニンの材料になるトリプトファンを多く含む食材を摂ることは不眠症の食養生としても役に立つ新しい考え方ではないかと思います。
トリプトファンが腸内で腸内細菌によってメラトニンまで合成されますが、そこで合成されたメラトニンがそのまま血液脳関門を通過して脳に至る訳ではありません。脳でのメラトニンは、腸内で腸内細菌によって合成された前駆体5-ヒドロキシトリプトファンとして脳内に至り、脳内でメラトニン合成されその働きを発揮します。
つまりその原料となるトリプトファンを多く含む食品を摂ることと腸内細菌叢のバランスを整えることが肝腎になります。現在では、脳腸相関の研究が進み睡眠や、認知症、鬱などと腸内細菌との相関関係が重要視され、積極的に濃縮乳酸菌を摂り腸内の善玉菌を優位にすることが効果的であるといわれています。
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