高齢者のメンタル(精神症状)

人は加齢とともに身体の機能低下だけでなく脳の機能低下が起こり心理的な変化を見ます。その特徴的なものは

  • 喪失感を感じる
  • 孤独感を感じる
  • 頑固になる
  • 保守的になる
  • 人に対し厳しくなる
  • 物事に対し疑い深くなる
  • 不安感が強くなる

加齢による身体の老化は運動や規則正しい生活で遅らせることができるように心の老化、脳の老化も遅らせることができます。つまり年より若い状態を維持することは可能です。脳が老化しやすい人は

  • 無気力
  • 無関心
  • 生真面目

人生100才の時代を迎え、心も体も健康でイキイキと齢を重ねたいものです。漢方理論の気血水では気のめぐりが良くなれば血・水の巡りも良くなることが分かっており、気力、元気、やる気が起これば血流も良くなり体の水分代謝も良くなり免疫力が上がります。

 

明治時代の文豪幸田露伴の「努力論」の中に
「心を以って気を率い、気を以て血を率い、血を以て身を率いる」
という言葉があります。まさに心の持ちようで人は健康と若さが保てるということをいみじくも言っています。

高齢者の精神症状

物忘れ(認知症・痴呆症・健忘症)
脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症は加齢に伴う脳の神経細胞が減少することを原因とした認知症ですが、それ以外でも単に加齢によって痴呆、もの忘れは起こりやすくなります。病的な物忘れとの違いは

  • 物忘れに自覚がある
  • 1年単位では変化がない
  • 経験の一部を忘れる(食事したことは覚えているが献立は忘れた)
  • 他の精神症状を伴わない

 

不安感
加齢とともに健康への不安、経済的な不安は誰しも感じます。退職や子供の自立などで社会での役割、家庭内での役割がなくなり緊張感がなくなり漠然とした不安になることがあります。また何も心配することがないのに不安を抱くこともあります。安逸過多も不安感の原因になります。また、真面目な性格を背景として

などを伴う場合があります。

 

抑うつ感
鬱病でありませんが、憂鬱になったり外出したく無くなったり、引きこもり、人と会いたくないなどといった憂鬱感は加齢とともに多くなりますが、これは鬱病ではありません。心療内科(精神科)にかかると鬱病と診断されさらに落ち込んでしまう場合もあります。西洋医学では脳内のセロトニンの低下と考え抗うつ剤を処方します。抑うつ感の原因には

  • 病気のことが気になる
  • 心気症になる

不眠症
高齢者の不眠の場合、一般的な不眠の原因である身体的原因(痛み、かゆみ、冷えなど)や病気(大鬱、統合失調、アルコール依存など)や薬物の副作用を除くとストレスが主な原因になります。

 

加齢とともに睡眠時間は短くなるのが普通で、65歳以上では5~6時間の睡眠で十分とされ、眠りも浅くなるのが自然です。8時間は眠らないとという思い込みがあるため自分は不眠症だと思い込んだり、腎虚に因る夜間頻尿で不眠症だと思い込んでおられる方も多くおられます。

「増補脉論口訣」曲直瀬道三
老人テ不寐事
△霊樞曰五十已上ヲ老トス。三十已上ヲ壮ト云。十八已上ヲ少トス。ト云々。榮衛ハ晝夜身ヲ一周ス。トシ老タル人ハ血気トモニ少シ。榮衛ノ周ヨハシ故ニ寐レザル也

高齢者の精神症状と漢方薬

人は加齢とともに気力、体力、食欲、性欲、免疫力など様々な機能が低下します。最近では、加齢による心身の活力低下をフレイルと言っています。
高齢者の場合、精神的な症状以外に複数の症状や病気を持っていることも多く、複数の病院にかかっていることも珍しくありません。加齢により代謝機能や排泄機能の低下で副作用に悩んでいるケースもあります。漢方薬は1~2剤で複数の症状に対応でき病名に対する対処療法でない全人的な医療として価値が見直されています。

 

漢方では、老化(加齢)について漢方の古典である黄帝内経素問上古天真論に
「女子 七七 任脈虚、太衝脈衰少、天癸竭、地道不通」
「女子は49才になると任脈が虛し、太衝の脈が衰え、天癸(生殖機能)が尽きて自然の法則道理にいかなくなる」

 

「男子 七八 肝気衰、筋不能動、天癸竭、精少、腎臓衰、形体皆極」
「男子は56才になると肝気が衰え、筋肉が動かしにくくなり、生殖機能も衰え、精は少なくなり腎臓機能が低下し体の形も崩れる」

 

とあり、男女ともに更年期障害の時期の状態を示しています。
精神面においても漢方の古典である黄帝内経素問霊枢天年篇第五十四には
「六十歳 心気始衰 苦憂悲 血気慨惰 故好臥」
「60歳になると心気が衰え、憂い悲しみに苦しみ、血気に活力がなくなるので横になりたくなる」

 

加齢とともに気血が虚し漢方で言う気虚・血虚になって来る。また、五臓全体の機能低下をきたすが、生命エネルギーを司る命門が属する腎が衰える腎虚が特徴的となります。
特に健忘、不安、抑うつ感、不眠咽などなければ、気虚血虚を補う人参、黄耆が配合された漢方薬を用い、腎虚であれば腎を補う桂枝、附子、地黄が配合された漢方薬を用います。

 

物忘れ…気血を補う漢方薬
不安感…気剤を中心とした漢方薬
抑うつ感…柴胡などを配合した漢方薬
不眠…入眠障害、熟睡障害、早朝覚醒などの違いによって処方が変わる場合も

 

高齢者の神経症状の場合、いずれの症状にも精神を中庸に保てる麝香は、大変有効で症状の改善だけではなく、予防にも使え高齢者のメンタルヘルスには欠かせない「気付け」くすりといえます。

高齢者のこころの養生

近年では、高齢者に限らず身体的な健康だけでなくこころの健康(メンタルヘルス)にも注目が集まり関心が高まっています。
養生としては、心穏やかにし、心身共にリラックスし適度に体を動かし脳に適度な刺激を与えるようにしましょう。その要点は

  • 規則正しい生活(メリハリのある生活)
  • 適度な運動(歩くことが基本)
  • 新しいことへのチャレンジ(関心や興味を持つ)
  • 五感を刺激する(外出し自然に直接触れる)
  • 食事を美味しくいただく(旬の食材と五味の調和)
  • 脳を鍛える(音読、文字を書くなど海馬を刺激する)

 

「五感を刺激する」に関して、貝原益軒の養生訓の中に
「天地四時、山川の好景、草木の欣栄、是亦楽しむべし」
「自然の四季を感じ、山川の美しい風景を眺め、草木がすくすくと育つのを愛でるなどして楽しむべきである」と言っています。

 

高齢者場合、普段の生活の中で精神症状の他覚的、自覚的把握がしにくい場合もあり、周りの人や家族の細やかな対応が必要になります。
周りの人の注意点としては

  • 励まさない
  • 強要しない
  • 心配し過ぎない
  • 一定の距離で見守る

貝原益軒の養生訓の中から 「養老」
老人の保養は常に元気ををしみてへらすべかゃらず。気息を静かにしてあらくすべからず。言語をゆるやかにして早くせず、言すくなし、起居行歩もしづかにすべし。言語をあららかに、口はやく、聲高く、颺言すべからず。怒なくうれひなく、過ぎ去りたる人の過ちををとがむべからず。我が過ちをしきりに悔ゆべからず。人の無礼なる横逆をいかりうらむべからず。是れ皆老人養生の道なり。又老人徳行のつつしみなり。

 

老ひては氣すくなし。氣をへらす事をいむべし、第一、いかるべからず。うれひ、かなしみ、なき、なげくべからず。喪葬の事にあづからしむべからず。死をとむらふべからず。思ひを過すべからず。尤も多言をいむ。口はやく、物云ふべからず。高く物いひ、高くわらひ、高くうたふべからず。道を遠くへ行くべからず。道はやく行くべからず。重き物をあぐべからず。是皆氣をへらずして氣をおしむなり。

高齢者の精神症状と食養生

食養生については、基本的には他の疾患の食養生と同じように五味の調和を調え近郊の野菜、近海の魚等の旬の食材をいただくことにあります。
老化は、腎機能の低下であり、食養生も腎を補う食材は重要です。日々の食事には、クルミ、黒胡麻、黒豆、黒きくらげ、山芋などを取り入れましょう。古典にもあるように老化は肝と腎に関係していることから肝を補う酸味と腎を補う鹹(塩辛い)を毎日バランスよく摂ることが大切になります。体の調子のことを「塩梅」と言ったりします。まさに梅(酸味)塩(鹹味)です。

 

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