直和が定める射影 : トピック一覧 

・定義:2つの部分空間の直和が定める射影 / 多数の部分空間の直和が定める射影 
・定理:直和が定める射影の性質 
※関連ページ:
 直交射影 
 部分ベクトル空間:定義部分ベクトル空間の性質〜が張る部分空間
           部分ベクトル空間の和・直和分解・補空間部分空間の次元  
 実ベクトル空間:実ベクトル空間の定義一次結合線形従属・線形独立基底次元 
 

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定義:2つの部分空間の直和が定める射影 projection 

 [永田『理系のための線形代数の基礎』4.3(p.120);砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)]

【舞台設定】
 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
 V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 W1V部分ベクトル空間 
 W2V部分ベクトル空間 

【定義】
実ベクトル空間Vが、V部分ベクトル空間W1W2直和分解されるとする。
つまり、  
   
とする。
このとき、直和分解の必要十分条件より、
任意のベクトルvVにたいして、あるベクトルv1W1, v2W2が一意的に存在して、
  vv1+v2
と表せる。 
したがって、P1(v)=v1、P2(v)=v2 を満たす写像P1:VW1, 写像P2:VW2を考えてよい。 
この写像VW1 を、
 直和
   
 が定めるVからW1への射影(もしくは射影作用素)、
この写像P2:VW2 を、
 直和
   
 が定めるVからW2への射影(もしくは射影作用素)
と呼ぶ。


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定理:直和が定める射影の性質

1. 直和が定める射影一次写像の定義を満たす。[永田『理系のための線形代数の基礎』4.3問2(p.120);]
2.    [永田『理系のための線形代数の基礎』4.3問2(p.120);] 
  直和
   
  が定めるVからW1への射影をP1とおく。
  P1は、次を満たす。
   任意のベクトルv1W1にたいして、P1 ( v1 )= v1   
   任意のベクトルv2W2にたいして、P1 ( v2 )=   
2'.    [永田『理系のための線形代数の基礎』4.3問2(p.120);] 
  直和
   
  が定めるVからW2への射影をP2とおく。
  P2 は、次を満たす。
   任意のベクトルv1W1にたいして、P2 ( v1 )=  
   任意のベクトルv2W2にたいして、P2 ( v2 )= v2  
3.   [砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)] 
  直和
   
  が定める
  VからW1への射影をP1とおき、VからW2への射影をP2とおく。
  射影P1射影P2合成写像:P2〇P1 
  射影P2射影P1合成写像:P1〇P2 
  は、零写像となる。    
  P2〇P1=P1〇P2  
4.   [永田『理系のための線形代数の基礎』4.3問2(p.120);砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)] 
  直和
   
  が定める
  
VからW1への射影P1とおき、VからW2への射影P2とおく。
  
射影P1射影P2(一次写像としての)和  
   
P1P2  
  は、恒等写像である。 
5.   [永田『理系のための線形代数の基礎』4.3問2(p.120);砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)] 
  直和
   
  が定める
  
VからW1への射影P1とおき、VからW2への射影P2とおく。
  
射影P1W1であり、射影P2W2である。  
6.   [永田『理系のための線形代数の基礎』4.3問2(p.120);砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.168)] 
  直和
   
  が定める
  
VからW1への射影P1とおき、VからW2への射影P2とおく。
  
射影P1とそれ自身との合成写像P1P1をとったところで、射影P1とかわらない。
  
射影P2とそれ自身との合成写像P2P2をとったところで、射影P2とかわらない。



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定義:多数の部分空間の直和が定める射影 projection 

 [砂田『行列と行列式』§5.2-c(p.169)]
【舞台設定】
 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
 V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 W1 , W2,…,WkV部分ベクトル空間   

【定義】
実ベクトル空間Vが、V部分ベクトル空間W1 , W2,…,Wk直和分解されるとする。
つまり、  
   
とする。
このとき、直和分解の必要十分条件より、
任意のベクトルvVにたいして、あるベクトルv1W1, v2W2 , ,vkWkが一意的に存在して、
  vv1 +v2 ++vk   
と表せる。 
したがって、
  P1(v)=v1P2(v)=v2、…、Pk(v)=vkを満たす写像P1:VW1写像P2:VW2、…、写像Pk:VWk
を考えてよい。 
この
写像P1:VW1写像P2:VW2、…、写像Pk:VWkを、
 直和
   
 が定めるVからW1 , W2,…,Wkへの射影   
と呼ぶ。 
 


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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
集合論のテキスト
松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968年、第1章集合と写像§3-E写像(pp.27-29);§4-C写像の合成(pp.34-36)。
線形代数のテキスト
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.1ベクトル空間(pp.28-34)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§5.2(p.162).§5.3(p.162).
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、13講ベクトル空間へ(pp.85-7);14講ベクトル空間の例と基本概念(pp.88-90)。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。
柳井晴夫・竹内啓『UP応用数学選書10:射影行列・一般逆行列・特異値分解』 東京大学出版会、1983年、§1.2ベクトル空間と部分空間(pp.8-9):実n次元数ベクトル空間のみ。

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)。