部分ベクトル空間の和・直和分解・補空間 : トピック一覧  

・定義:和空間・和、2つの部分ベクトル空間の直和/補部分空間・補空間/直和分解,
    多数の部分ベクトル空間の直和/直和分解  
・定理:2つの部分ベクトル空間への直和分解の必要十分条件/多数の部分ベクトル空間への直和分解の必要十分条件   
※関連ページ 
 部分ベクトル空間:定義部分ベクトル空間の性質〜が張る部分空間部分空間の次元直和が定める射影  
 実ベクトル空間:実ベクトル空間の定義一次結合線形従属・線形独立基 底次元

線形代数目次 
総目次 

定義:部分ベクトル空間の和空間・和 sum 

 [『岩波数学辞典』210線形空間:F部分空間と商空間(p.571);永田『理系のための線形代数の基礎』1.5(p.33);
  砂田『行列と行列式』§5.2-a(p.160)]
【舞台設定】
 R実数体(実数をすべて集めた集合) 
 V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 
W1V部分ベクトル空間 
 W2V部分ベクトル空間 
【定義】
実ベクトル空間V部分ベクトル空間W1,W2和空間・和とは、
W1に属すベクトル」と「W2に属すベクトル」とのベクトル和をすべて集めた集合  
     
{ v1 +v2 | v1 W1 かつ v2 W2 }  
のこと。
【記号】
Vの部分ベクトル空間W1,W2の和空間・和を、W1W2で表す。
以上の定義により、
  
実ベクトル空間V部分ベクトル空間W1,W2の和空間W1W2属す任意のベクトルは、
  
V部分ベクトル空間W1,W2ベクトル和として表せる
 ことになる。     

定理:部分ベクトル空間の和空間の性質

 [永田『理系のための線形代数の基礎』1.5(p.33);砂田『行列と行列式』§5.2-a(p.162)]
【舞台設定】
 R実数体(実数をすべて集めた集合) 
 V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 
W1V部分ベクトル空間 
 W2V部分ベクトル空間 
【本題】
1. 実ベクトル空間V部分ベクトル空間W1,W2和空間W1W2)もまた、V部分ベクトル空間。 
2.実ベクトル空間V部分ベクトル空間W1,W2和空間W1W2)は、  
 (
W1W2を含む最小の『Vの部分ベクトル空間』。  


→[トピック一覧:部分ベクトル空間の和・直和]
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定義:2つの部分空間の直和、補部分空間・補空間、直和分解  
    direct sum, complementary subspace, direct sum decomposition  

 [『岩波数学辞典』210線形空間:F部分空間と商空間(p.571);砂田『行列と行列式』§5.2-b(p.165);
  神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.2(p.106);永田『理系のための線形代数の基礎』1.5(p.34);
  柳井竹内『射影行列・一般逆行列・特異値分解』 §1.2(pp.8-9):実n次元数ベクトル空間のみ。 ]
【舞台設定】
 R実数体(実数をすべて集めた集合) 
 V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 
W1V部分ベクトル空間 
 W2V部分ベクトル空間 
【和空間の概念を前提した定義】
実ベクトル空間Vが、その部分ベクトル空間W1,W2直和direct sumに分解される」
V部分ベクトル空間W2は、V部分ベクトル空間W1補部分空間・補空間complementary subspace
V部分ベクトル空間W1は、V部分ベクトル空間W2補部分空間・補空間complementary subspace
とは、
  
V=W1W2  かつ W1W2={}  
が満たされることをいい、
記号
   
で表す。
また、このかたちで
実ベクトル空間Vを表すことを、V直和分解direct sum decompositionという。
【和空間の意味に遡る定義】
実ベクトル空間Vが、その部分ベクトル空間W1,W2直和direct sumに分解される」
V部分ベクトル空間W2は、V部分ベクトル空間W1補部分空間・補空間complementary subspace
V部分ベクトル空間W1は、V部分ベクトル空間W2補部分空間・補空間complementary subspace
とは、
 ・
Vが、「W1に属すベクトル」と「W2に属すベクトル」とのベクトル和をすべて集めた集合として表せ、 
 
かつ 
 ・
V部分ベクトル空間W1,W2共通部分に限られている
ということ、
すなわち、  
  
V={ v1 +v2 | v1 W1 かつ v2 W2 } かつ W1W2={}  
が満たされること、
ないしは、
 ・
実ベクトル空間V属す任意ベクトルが、V部分ベクトル空間W1,W2ベクトル和として表せ、
 
かつ 
 ・
V部分ベクトル空間W1,W2共通部分に限られている
ということ
といってもよい。    
実ベクトル空間Vと、V部分ベクトル空間W1にたいして、W1の補空間は一意的に定まるわけではない。 
  
W1の補空間は、複数とりうる。[例:砂田『行列と行列式』§5.2-b(p.165);] 


定理:直和分解の必要十分条件

[砂田『行列と行列式』補題5.27(p.165):証明付;永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.5.5(p.34):証明付;]
実ベクトル空間Vが、V部分ベクトル空間W1W2直和分解されるということ
つまり、  
  
 
であることの
必要十分条件は、
実ベクトル空間V属す任意のベクトルが、
V部分ベクトル空間W1に属すベクトル」と「V部分ベクトル空間W2に属すベクトル」のベクトル和として、一意的に表せること、
つまり、
実ベクトル空間Vと、V部分ベクトル空間W1W2が与えられているとして、
任意のベクトルvVにたいして、あるベクトルv1W1, v2W2が一意的に存在して、
  
vv1 +v2   
と表せるということ。 



→[トピック一覧:部分ベクトル空間の和・直和]
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定義:多数の部分空間の直和、補部分空間・補空間、直和分解 
     direct sum, complementary subspace, direct sum decomposition  

 [砂田『行列と行列式』§5.2-b(p.165);永田『理系のための線形代数の基礎』1.5(p.34);
  神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.2(p.107);]
【舞台設定】
 R実数体(実数をすべて集めた集合) 
 V実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)  
 
W1,W2,…,WkV部分ベクトル空間 
【定義】
実ベクトル空間Vが、その部分ベクトル空間W1,W2,…,Wn直和direct sumに分解される」とは、
    
V=W1W2Wn 
 
かつ W1(W2Wn)={}  
 
かつ W2(W1W3Wn)={}  
 
かつ W3(W1W2W4Wn)={}  
 
かつ W4(W1W2W3W5Wn)={}  
     :   
 
かつ Wk(W1Wk1Wk1Wn)={}  
     :   
 かつ 
Wn(W1Wn1)={}  
が満たされることをいい、
記号
   
で表す。
また、このかたちで実ベクトル空間Vを表すことを、Vの直和分解direct sum decompositionという。 

定理:直和分解の必要十分条件

[砂田『行列と行列式』補題5.30(p.166):証明付;永田『理系のための線形代数の基礎』1.5(e)(p.35);]

実ベクトル空間Vが、V部分ベクトル空間W1,W2,…,Wn直和分解されるということ
つまり、
   
であることの必要十分条件は、
実ベクトル空間V属す任意のベクトルが、
  「V部分ベクトル空間W1に属すベクトル」と
  「V部分ベクトル空間W2に属すベクトル」と
              :
  「V部分ベクトル空間Wnに属すベクトル」と
ベクトル和として、
一意的に表せること。

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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.1ベクトル空間(pp.28-34)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§5.2(p.162).§5.3(p.162).
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、13講ベクトル空間へ(pp.85-7);14講ベクトル空間の例と基本概念(pp.88-90)。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。
柳井晴夫・竹内啓『UP応用数学選書10:射影行列・一般逆行列・特異値分解』 東京大学出版会、1983年、§1.2ベクトル空間と部分空間(pp.8-9):実n次元数ベクトル空間のみ。

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)。