一般のベクトル空間における基底 : トピック一覧
・定義:基底/有限個のベクトルの基底/有限次元ベクトル空間/無限次元ベクトル空間
※ベクトル空間関連ページ:ベクトル空間の定義/線形従属・線形独立/部分ベクトル空間/次元
※一次写像関連ページ:一次写像−定義/一次写像と演算/一次写像の代数系/一次写像と線形独立/同型写像/同型写像と線形独立
※いろいろなベクトル空間の基底:一般の数ベクトル空間における基底/実ベクトル空間における基底
実n次元数ベクトル空間Rnにおける基底/Rnの部分空間における基底/R2における基底
定義:基底 basis
[永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.17);『岩波数学辞典』210線形空間:C線形結合(p.571);砂田『行列と行列式』§5.3-b(p.173);志賀『線形代数30講』15講(p.95);ホフマン『線形代数学I』2.3(p.41);酒井『環と体の理論』1.6ベクトル空間(p.23);神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.4(p.112);藤原『線形代数』4.2(p.95);松坂『集合・位相入門』3章§5C(p.134);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
U:Vの部分集合。つまりVに属すベクトルの集合。無限個あってもよい。
v1, v2, …, vl:Vに属すベクトル。つまり、v1, v2, …, vl ∈V 。
a1, a2, …, al :スカラー。 a1, a2, …, al ∈K
【具体的な定義】
「K上のベクトル空間Vに属すベクトルの集合Uが、K上のベクトル空間Vの基底basisである」とは、
Uが次の2条件を満たすことを言う。
条件1:Uからどのように互いに異なる有限個のベクトルを取り出しても、
それらの互いに異なる有限個のベクトルが線形独立となること。
条件2:Uから取り出した有限個のベクトルの一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せること。
つまり、Vに属す任意ののベクトルを一次結合として表せる有限個のベクトルがUに属していること。
※わざわざ「Uから有限個のベクトルを取り出して」考える事情。
・一次結合と線形独立の概念は、有限個のベクトルに関してのみ定義されている。
・しかし、無限個のベクトルを含む集合もUとして(つまり基底として)考えてみたい。
・無限個のベクトルを含む集合に関してそのまま一次結合と線形独立の概念を適用できないので、
互いに異なる有限個のベクトルの集合を、いろいろ、Uから取り出してみて、
これに、一次結合と線形独立の概念を適用。
【抽象的な定義】
「K上のベクトル空間Vに属すベクトルの集合Uが、K上のベクトル空間Vの基底basisである」とは、
Uが次の2条件を満たすことを言う。
条件1:Uが線形独立系であること。
条件2:Uが張る「Vの部分ベクトル空間」《U》が、Vに一致すること。《U》=V
※Uが張る(Vの)部分ベクトル空間は、Uを含む最小の「Vの部分ベクトル空間」と一致し(→理由)、
さらに、Uから生成された「Vの部分ベクトル空間」とも一致する。
したがって、上記の条件2は、次の条件2'に言換えられる。
条件2':Uから生成された「Vの部分ベクトル空間」〈U〉が、Vに一致する。〈U〉=V
※K上のベクトル空間Vの基底(の定義を満たすVの部分集合)は、複数存在しうる。
※基底と同型写像
※ベクトルの有限集合が、基底となることの必要十分条件
※具体例:一般の数ベクトル空間における基底/実ベクトル空間における基底/実n次元数ベクトル空間Rnにおける基底/R2における基底
定理:基底の存在
[松坂『集合・位相入門』3章§5C(p.134):証明付;]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
【本題】
Vが零ベクトル以外の元を含むならば、
Vは基底を有する。
【証明】 松坂『集合・位相入門』3章§5C(p.134)
定理:ベクトルの有限集合が、基底となることの必要十分条件
[永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(p.17);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
U:Vの部分集合で、有限集合。。つまり「Vに属すベクトル」を有限個だけあつめた集合。
u1, u2, …, ul をVに属すベクトルとすれば、 U={ u1, u2, …, ul } 。
【本題】
次の三つの命題は同値。
命題P:K上のベクトル空間Vに属すベクトルの有限集合U={ u1, u2, …, ul }は、K上のベクトル空間Vの基底である。
命題Q:K上のベクトル空間Vに属すベクトルの有限集合U={ u1, u2, …, ul }が、次の2条件を満たす。
条件Q1:U={ u1, u2, …, ul }は線形独立であること。
条件Q2:U={ u1, u2, …, ul }の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せること。
∀v ∈V ∃a1, a2, …, al ∈K ( v =a1u1+a2u2+…+alul )
命題R:K上のベクトル空間Vに属すベクトルの有限集合U={ u1, u2, …, ul }が、次の条件を満たす。
条件R:U={ u1, u2, …, ul } の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを一意的に表せること。
※有限次元ベクトル空間のみを考える場合には、命題Q,命題Rを基底の定義とみなしてよい。 [志賀『線形代数30講』15講(p.95)]
※活用例:一次写像の行列表現
※具体例:一般の数ベクトル空間における基底/実ベクトル空間における基底/実n次元数ベクトル空間Rnにおける基底/R2における基底
【証明:命題P⇔命題Q】
命題Pを、「Vの基底」の定義に遡って言いなおすと、次の命題P' になる(つまり命題P⇔命題P' )。
命題P':K上のベクトル空間Vに属すベクトルの有限集合U={ u1, u2, …, ul } が、次の2条件を満たす。
条件P'1:U={ u1, u2, …, ul } からどのように互いに異なる有限個のベクトルを取り出しても、
それらの互いに異なる有限個のベクトルが線形独立となること。
条件P'2:U={ u1, u2, …, ul } から取り出した有限個のベクトルの一次結合として、
Vに属す任意のベクトルを表せること。
∀v ∈V ∃m≦l ∃un(1),un(2),…,un(m)∈U ∃an(1),an(2),…,an(m)∈K (v =an(1)un(1)+an(2)un(2)+…+an(m)un(m) )
Uが有限集合{ u1, u2, …, ul }であるがゆえに、条件P'1⇔条件Q1となる。
詳しく言うと、
・条件P'1⇒Uから全ての元{ u1, u2, …, ul }を取り出しても、{ u1, u2, …, ul }は線形独立。つまり、条件Q1。
・条件Q1⇒線形独立なベクトルの性質より、{ u1, u2, …, ul }の任意の部分集合も線形独立。つまり、条件P'1。
また、Uが有限集合{ u1, u2, …, ul }であるがゆえに、条件P'2⇔条件Q2
詳しく言うと、
・条件Q2は、すなわち、U={ u1, u2, …, ul } から取り出した有限個のベクトル{ u1, u2, …, ul }の一次結合として、
Vに属す任意のベクトルを表せるということ。
⇒条件P'2
・条件P'2:∀v ∈V ∃m≦l ∃un(1),un(2),…,un(m)∈U ∃an(1),an(2),…,an(m)∈K (v =an(1)un(1)+an(2)un(2)+…+an(m)un(m) )
⇒U={ u1, u2, …, ul } の元のなかで、un(1),un(2),…,un(m)に入らなかった元を、
un' (1), un' (2),…,un' (l−m)で表すと、
an(1)un(1)+an(2)un(2)+…+an(m)un(m) +0un' (1)+0un' (2)+…+0un' (l−m)
=an(1)un(1)+an(2)un(2)+…+an(m)un(m) +0+0+…+0 ∵ベクトルのスカラー0倍
=an(1)un(1)+an(2)un(2)+…+an(m)un(m) ∵零ベクトルの定義
=v
となるから、条件Q2が成り立っていることがわかる。
以上、条件P'1⇔条件Q1、条件P'2⇔条件Q2 を示しめしたことによって、
命題P'⇔命題Qが示された。命題P⇔命題P' だったから、命題P⇔命題Q
【証明:命題Q⇔命題R】
・条件Q⇒命題R
永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(pp.17-8);
・命題R⇒命題Q
永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(p.18);
定義:有限次元ベクトル空間finite dimensional・n次元ベクトル空間
[ホフマン『線形代数学I』2.3基底と次元(p.41);砂田『行列と行列式』§5.3-b(p.174);神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.3(p.110);藤原『線形代数』4.2(p.95);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
U:Vの部分集合。つまりVに属すベクトルの集合。
【本題】
・K上のベクトル空間Vが、有限次元ベクトル空間であるとは、
「Vの基底」の定義を満たす
「Vに属すベクトルの有限集合U={ u1, u2, …, ul }」が存在することをいう。
・ベクトルの有限集合が基底となることの必要十分条件に従うと、上記は次のように、言い換えられる。
K上のベクトル空間Vが、有限次元ベクトル空間であるとは、
ある「Vに属すベクトルの有限集合 U={ u1, u2, …, ul }」が存在して、次の2条件を満たすことである。
条件Q1:U={ u1, u2, …, ul } は線形独立であること。
条件Q2:U={ u1, u2, …, ul } の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せること。
∀v ∈V ∃a1, a2, …, al ∈K ( v =a1u1+a2u2+…+alul )
・ベクトルの有限集合が基底となることの必要十分条件に従うと、上記は次のようにも言い換えられる。
K上のベクトル空間Vが、有限次元ベクトル空間であるとは、
ある「Vに属すベクトルの有限集合 U={ u1, u2, …, ul }」が存在して、次の条件を満たすことである。
条件R:U={ u1, u2, …, ul }の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを一意的に表せる。
※具体例:有限次元実ベクトル空間
定義:無限次元ベクトル空間 infinite dimensional
[ホフマン『線形代数学I』2.3基底と次元(p.41);砂田『行列と行列式』§5.3-b(p.174);神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.3(p.110);藤原『線形代数』4.2(p.95);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
U:Vの部分集合。つまりVに属すベクトルの集合。
【本題】
・無限次元ベクトル空間とは、有限次元ベクトル空間ではないベクトル空間のこと。
・つまり、
K上のベクトル空間Vが、無限次元ベクトル空間であるとは、
「Vの基底」の定義を満たす
「Vに属すベクトルの有限集合U={ u1, u2, …, ul }」が存在せず、
どのように「Vの基底」をとってみても、
「Vの基底」は「Vに属すベクトルの無限集合」になる、ということ。
・「Vの基底」の定義に遡って、言いなおすと、
K上のベクトル空間Vが、無限次元ベクトル空間であるとは、
次の3条件をともに満たす「Vに属すベクトルの集合」Uが、存在しないことを意味する。
条件1:Uは有限集合であること。
条件2:Uに属す互いに異なる有限個のベクトルが線形独立であること。
条件3:Uから取り出した有限個のベクトルの一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せること。
・ベクトルの有限集合が基底となることの必要十分条件に従うと、上記は次のようにも言い換えられる。
※具体例:無限次元実ベクトル空間
例: [神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.3(p.110);ホフマン『線形代数学I』2.3基底と次元(p.43);]
・関数空間
reference
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、15講基底と次元(pp.94-99):有限次元ベクトル空間のみ扱っている。
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.3基底と次元(pp.41-50)。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§5.3-b(p.173).
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。 線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。
代数学のテキスト
本部均『新しい数学へのアプローチ5:新しい代数』共立出版、1969年、5.2-Aベクトル空間(p.132)。
酒井文雄『共立講座21世紀の数学8:環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22):数ページしか触れていないが、逆に、一般の線形空間の理論の骨組みだけを浮かびあがってくるので、何が重要事項なのかを見極める上で便利。
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)。