〜が張る部分ベクトル空間[数学についてのwebノート]
〜が張る部分ベクトル空間 : トピック一覧
・定義:〜を含む最小の部分ベクトル空間 、〜が張る部分空間、両者の一致
※部分ベクトル空間関連ページ:部分ベクトル空間の定義、部分ベクトル空間の性質、和・直和、部分空間の次元
※ベクトル空間関連ページ:ベクトル空間の定義、一次結合、線形従属・線形独立、基底と次元
※いろいろなベクトル空間における「〜が張る部分空間」:
実ベクトル空間で張られた部分空間/実n次元ベクトル空間で張られた部分空間
※高校で習ったようなベクトルを扱う場合は、実n次元ベクトル空間で張られた部分空間を見よ。
定義:〜を含む最小の部分ベクトル空間
[ホフマン『線形代数学I』2.2部分空間:定理2(p.37);永田『理系のための線形代数の基礎』1.5(p.32);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
+:ベクトル空間Vにおいて定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:K上のベクトル空間Vにおいて定義されているスカラー乗法
S:Vの部分集合。Vに属すベクトルの集合。(Vの部分ベクトル空間でなくてよい。)
【本題】
Sを含む最小の「Vの部分ベクトル空間」とは、
任意の「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」に含まれる「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」のこと。
つまり、
「W0が、Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』である」とは、
W0が、以下の3条件を満たすこと。
条件1.W0⊃Sであること。
条件2.W0が『Vの部分ベクトル空間』であること。(→その必要十分条件)
条件3.任意のWに対して、
Wが『Vの部分ベクトル空間』(→その必要十分条件) かつ W⊃S ⇒ W⊃W0
が成立すること。
すなわち、「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」をすべて集めた集合系をЦで表すと、
(∀W∈Ц)(W0⊂W)
【噛み砕いた説明】
Step1. 「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」として、いろいろなものが考えられるが、そのすべてを考えるとしよう。これら、様々な「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」を、W1,W2,W3,W4,…と名づけることにする。
つまり、WiはVの部分ベクトル空間であって、S⊂Wi
Step2. 「W0が、Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』である」とは、
・W0が「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」であって、
つまり、W0はVの部分ベクトル空間であって、
S⊂W0
・W0⊂W1 , W0⊂W2 , W0⊂W3 , W0⊂W4 ,… を満たす
ことをいう。
※例:Sから生成された部分ベクトル空間
※これはSが張る部分空間と一致する(→理由)
Cf. 〜を含む最小のσ加法族
※いろいろなベクトル空間における「〜を含む最小の部分ベクトル空間」:
・実ベクトル空間における「〜を含む最小の部分ベクトル空間」
・実n次元ベクトル空間における「〜を含む最小の部分ベクトル空間」
定義:〜が張る部分空間、〜によって張られる部分空間
[砂田『行列と行列式』§5.2(p.162);2ホフマン『線形代数学I』2.2部分空間(p.37);
松坂『集合・位相入門』3章§5C(p.133); ]]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
S:Vの部分集合。つまり、Vに属すベクトルの集合。
(Vの部分空間である必要はない。また、無限個のベクトルがSに属していてもよい。)
【本題】
Vに属すベクトルの集合Sが張る部分空間とは、あらゆる「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」の共通部分。
記号《S》で表す
つまり、「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」をすべて集めた集合系をЦとおくと、
《S》≡∩Ц
※これは、Sから生成された部分ベクトル空間〈S〉に一致する。
※これは、Sを含む最小の部分ベクトル空間に一致する。(→理由)
※いろいろなベクトル空間における「〜が張る部分ベクトル空間」:
・実ベクトル空間における「〜が張る部分ベクトル空間」
・実n次元ベクトル空間における「〜が張る最小の部分ベクトル空間」
定義:有限個のベクトルが張る部分空間、有限個のベクトルに張られた部分空間
[ホフマン『線形代数学I』2.2部分空間(p.37);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
v1, v2, …, vl:V上のベクトル。つまり、v1, v2, …, vl ∈V
【本題】
v1, v2, …, vlが張る部分空間とは、
あらゆる「v1, v2, …, vlを含む『Vの部分ベクトル空間』」の共通部分。
※これは、v1, v2, …, vlのあらゆる一次結合の集合に一致→定理
※いろいろなベクトル空間における「〜が張る部分ベクトル空間」:
・実ベクトル空間における「有限個のベクトルが張る部分ベクトル空間」
・実n次元ベクトル空間における「有限個のベクトルが張る最小の部分ベクトル空間」
定理:「〜を含む最小の部分ベクトル空間」と、「〜が張る部分ベクトル空間」は一致する。
[砂田『行列と行列式』§5.2補題5.23の議論の骨格から(p.163);]
【舞台設定】
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V:K上のベクトル空間
+:ベクトル空間Vにおいて定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:K上のベクトル空間Vにおいて定義されているスカラー乗法
S:Vの部分集合。Vに属すベクトルの集合。(Vの部分ベクトル空間でなくてよい。)
Ц:「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」をすべて集めた集合系
W0:Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』
《S》:Sが張る『Vの部分ベクトル空間』
【本題】
「Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』」W0と、「Sが張る『Vの部分ベクトル空間』」《S》は一致する。
【証明】
W0⊃《S》かつ《S》⊃W0を示せばよい。
Step1:
・「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」をすべて集めた集合系をЦとおく。
・「Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』」W0は、「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」である。
∵「Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』」の定義
したがって、W0∈Ц …(1-1)
・《S》の定義より、《S》=∩Ц …(1-2)
・集合系の積集合の性質より、任意のW∈Цにたいして、W⊃∩Ц …(1-3)
・(1-3)に(1-2)を代入すると、
任意のW∈Цにたいして、W⊃《S》 …(1-4)
となる。
・(1-1)と(1-4)より、W0⊃《S》
以上によって、W0⊃《S》は示された。
Step2:
・「Sを含む『Vの部分ベクトル空間』」をすべて集めた集合系をЦとおく。
・「Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』」W0は、
( ∀W∈Ц )( W⊃W0 ) …(2-1)
を満たす。 ∵「Sを含む最小の『Vの部分ベクトル空間』」の定義
したがって、集合系の積集合の性質より、(2-1)のもとで、
∩Ц⊃W0 …(2-2)
が成立する。
《S》=∩Ц (∵《S》の定義) を用いて、(2-2)を書きかえると、
《S》⊃W0
以上によって、《S》⊃W0 は示された。
(reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.1ベクトル空間(pp.28-34)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§5.2(p.162).
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、13講ベクトル空間へ(pp.85-7);14講ベクトル空間の例と基本概念(pp.88-90)。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。
代数学のテキスト
本部均『新しい数学へのアプローチ5:新しい代数』共立出版、1969年、5.2-Aベクトル空間(p.132)。
酒井文雄『共立講座21世紀の数学8:環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22)。
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)。