実2次元数ベクトル空間R2における基底―トピック一覧 
  ・基底の定義/基底であるための必要十分条件/基本ベクトルは基底の一例/標準基底/基底の存在/座標ベクトル 

実2次元数ベクトル空間関連ページ:実2次元数ベクトル空間の定義/線形結合/一次独立・一次従属/線形結合と線形独立・従属の関係/次元/部分ベクトル空間
基底の一般化:n次元数ベクトル空間の基底/n次元数ベクトル空間の部分空間の基底/実ベクトル空間の基底/体上の数ベクトル空間における基底/一般のベクトル空間の基底  
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定義:実2次元数ベクトル空間R2における基底 basis  
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
R2実2次元数ベクトル空間 
+実2次元数ベクトル空間R2に定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:実2次元数ベクトル空間R2に定められているスカラー乗法
u1, u2, …, ull個の実2次元数ベクトル
        具体的に書くと、
         u1= ( xu1, yu1 )  ただし、xu1, yu1 R 
        u2= ( xu2, yu2 )  ただし、xu2, yu2 R 
        :             :  
        ul= (  xul, yul )  ただし、xul, yul R  
        したがって、u1, u2, …, ul R2 。なお、個数lが有限個であることに注意。
v実2次元数ベクトル。具体的に書くと、x, yRとして、v(x,y) したがって、vR2
a1, a2, …, alスカラーa1, a2, …, al R  
定義 l個の実2次元数ベクトル有限集合{ u1, u2, …, ul }実2次元数ベクトル空間R2基底basisである」
とは、
{ u1, u2, …, ul }が、次の2条件を満たすことを言う。

条件P1u1, u2, …, ul線形独立となること。
条件P2u1, u2, …, ul一次結合として、R2属す任意の実2次元数ベクトルを表せること。
    ( vR2) ( a1,a2,…,al R) ( v a1u1+a2u2++alul ) 
なお、この2条件は、次の条件と同値
条件Qu1, u2, …, ul一次結合としてR2属す任意の実2次元数ベクトルを一意的に表せる。
[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.11);
・グリーン『計量経済分析I』定義2.3(p.24);定義2.6(p.26);

関連事項:基底であるための必要十分条件
活用例:座標ベクトル 


グリーン『計量経済分析I』定義2.6(p.26)は、 
 この定義の必要十分条件(→基底であるための必要十分条件)のほうを「基底の定義」としている。
実2次元数ベクトル空間R2の基底(の定義を満たすR2部分集合)は、複数セット存在する。

・2個の実2次元数ベクトルを集めた { ( 1,-1 ), ( 1,1 )  } は、「R2基底」である。
 その一次結合 a1(1,-1)+ a2( 1,1 ) は、係数a1,a2を調整してやることで[下図参照]、
 R2属す任意の実2次元数ベクトル(つまり、x-y座標平面上の全ての点)を一意に表すことができるから。
 
 [図:線型結合 (1,-1) (1,1) が表す「x-y座標平面上の点」]
実2次元数ベクトルの線型結合
                           
・2個の実2次元数ベクトルを集めた { ( 1,0 ), ( 0,1 )  } は、「R2基底」である。
 その一次結合 a1(1,0)+ a2( 0,1 ) は、係数a1,a2を調整してやることで[下図参照]、
 R2属す任意の実2次元数ベクトル(つまり、x-y座標平面上の全ての点)を表すことができるから。
 この「R2基底」  { ( 1,0 ), ( 0,1 )  } を、「R2標準基底」と呼ぶ。
 
 [図:線型結合 (1,0) (0,1) が表す「x-y座標平面上の点」 ]
実2次元数ベクトルの線型結合
                          


[次のステップへ]
 基底basisの定義は、分かった。
 では、どういう風に、実2次元数ベクトルをあつめると、
 基底basisを構成できるのだろうか?
 つまり、どういう風に、実2次元数ベクトルをあつめると
 それらの実2次元数ベクトルだけの一次結合として、
 R2平面上のあらゆる点を表すことができるようになるのだろうか?
 →答えは、基底であるための必要十分条件を参照。


証明 (証明:条件P1;P2命題Q)
・条件P1;P2条件Q 
   永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(pp.17-8); 
・条件Q条件P1;P2 
   永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.2(p.18); 

上位概念:Rnにおける基底/一般のベクトル空間の有限集集合が基底であるということ/体上の数ベクトル空間の有限集合が基底であるということ

→[トピック一覧:基底]
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定理:「実2次元数ベクトル空間R2の基底」であるための必要十分条件

要旨
・「実2次元数ベクトル空間R2基底」は、どれも、
      「2個の線形独立な(=原点を通る一直線上に並ばない)実2次元数ベクトル」である。
・ 逆に、「2個の線形独立な(=原点を通る一直線上に並ばない)実2次元数ベクトル」は、どれでも、
      「実2次元数ベクトル空間R2基底」として用をなす。
・「2個の線形従属な(=原点を通る一直線上に並ぶ)実2次元数ベクトル」は、
      「実2次元数ベクトル空間R2基底」とならない。



2個の線形独立実2次元数ベクトル」を「基底の定義」とするテキストもある。
                 [グリーン『計量経済分析I』定義2.6(p.26)]

正則行列であるための必要十分条件―基底の観点も見よ。
図解
おおよその事情は、下図で確認できる。
・「2個の線形従属実2次元数ベクトル」は、「原点を通る一直線」上に並ぶので、
 この2個の実2次元数ベクトル一次結合は、その「原点を通る一直線」上の点しか表せない。
・これに対して、
 「2個の線形独立実2次元数ベクトル」は 
  原点からそれぞれ別方向の直線上に位置するので、  
  この2個の実2次元数ベクトル一次結合は、R2平面上のあらゆる点をその射程に収めることができる。
[図] p( , )q( , ) は、
   「R2基底」として使えるか?
   p,q線型結合 a1p+a2q で平面R2上の 点を表してみようとすると…。
    ・p,qが「原点を通る一直線」上に位置する(=p,q線形従属)と、
           a1p+a2q は、その直線上の点しか表せない。
    ・「原点とpを結ぶ直線」「原点とqを結ぶ直線」が別方向を向いている(=p,q線形独立)と、
           a1p+a2q は、平面R2全体にわたって、R2上の 点を表せる。             
R2の基底
                        



設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
R2実2次元数ベクトル空間 
+実2次元数ベクトル空間R2に定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:実2次元数ベクトル空間R2に定められているスカラー乗法
u1, u2, …, ull個の実2次元数ベクトル
        具体的に書くと、
         u1= ( xu1, yu1 )  ただし、xu1, yu1 R 
        u2= ( xu2, yu2 )  ただし、xu2, yu2 R 
          :             :  
        ul= (  xul, yul )  ただし、xul, yul R  
        したがって、u1, u2, …, ul R2
        なお、個数lが有限個であることに注意。  
v実2次元数ベクトル
       具体的に書くと、x, yRとして、v(x,y)   
       したがって、vR2
a1, a2, …, alスカラーa1, a2, …, al R   




[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.11);
・グリーン『計量経済分析I』定義2.3(p.24);定義2.6(p.26);
詳細 l個の実2次元数ベクトル有限集合{ u1, u2, …, ul }実2次元数ベクトル空間R2基底である」
ことは、
 { u1, u2, …, ul }が、次の2条件を満たすことと同値である。
  条件R1:u1, u2, …, ul線形独立となること。
  条件R2:l2 であること。 
証明 ・「{ u1, u2, …, ul }が条件R1,R2を満たす」{ u1, u2, …, ul }R2基底の定義を満たす」を示す。
 定理より、
  「実2次元数ベクトル空間R2においては、
     2個の実2次元数ベクトルu1, u2線形独立ならば、R2基底となる」
 から、
 { u1, u2, …, ul }が、条件R1,R2を満たす、 
      すなわち、{ u1u2} が(→R2)、線形独立となる(→R1)  
 ならば、  
 { u1, u2} は、R2基底の定義を満たす。 
・「{ u1, u2, …, ul }基底の定義を満たす」{ u1, u2, …, ul }が条件R1,R2を満たす」
 を示す。 
 ・基底であるための条件P1と、条件R1はもともと同じ。
  したがって、
   「{ u1, u2, …, ul }R2基底の定義を満たす」{ u1, u2, …, ul }が条件R1を満たす」
 ・R2次元に関する定理より、
    { u1, u2, …, ul }R2基底の定義を満たすならば、l2 となる。 
  したがって、
   「{ u1, u2, …, ul }R2基底の定義を満たす」{ u1, u2, …, ul }が条件R2を満たす」


→[トピック一覧:基底]
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定理:基本ベクトルは基底の一例
定義:標準基底
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
R2実2次元数ベクトル空間 
[文献―R2限定]
・志賀『固有値問題30講』1講(p.2)
[文献]
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.3(p.11);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.4(p.125);
・布川谷野中山『線形代数と凸解析』例2.4(pp.36-7)
定理

実2次元数ベクトル空間R2基本ベクトルe1( 1,0 ),e2( 0,1 ) で、
 「R2基底」をつくれる。


証明 基本ベクトルe1, e2線形独立)。
基本ベクトルe1, e2一次結合として、R2属す任意の実2次元数ベクトルを表せる。
 実際、
  任意v=(x,y)R2は、vxe1+ye2  と表せる[下図参照]。

 [図:線型結合 (1,0) (0,1) が表す実2次元数ベクトル v=(x,y)の図示]
実2次元数ベクトルの線型結合
                          



定義

R2基本ベクトルe1( 1,0 ),e2( 0,1 ) から構成された「R2基底
  {e1, e2}= { ( 1,0 ), ( 0,1 ) }   
を、
   R
2の標準基底

と呼ぶ。
    


→[トピック一覧:基底]
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定理:基底の存在
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
R2実2次元数ベクトル空間 

本題 実2次元数ベクトル空間R2は、すべて、(少なくとも一セット以上の)基底を有す。
証明 少なくとも、実2次元数ベクトル空間R2基本ベクトルは、R2基底であるから。

→[トピック一覧:基底]
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定義:実2次元数ベクトルの座標ベクトル
設定 R実数体(実数をすべて集めた集合)  
R2実2次元数ベクトル空間 
[文献―R2限定]
・志賀『固有値問題30講』1講(p.2)

[文献]
・松坂『解析入門4』18.1-A (p.84):数ベクトル空間限定;
・志賀『線形代数30講』8講:R2のケース「斜交座標」(p.51);10講:R3のケース(p.66)

一般化:
   ・n次元数ベクトルの座標ベクトル
   ・実ベクトルの座標ベクトル
活用例:基底変換行列 
定義

・「実2次元数ベクトルv=(x,y)の《R2基底 { p, q }に関する座標ベクトル」とは、
  実2次元数ベクトルv=(x,y)R2を、
     「R2基底{ p,q }一次結合vpp qq 
  として表した際の、
  実数(p, q)のことをいう。


[図] 
 実2次元数ベクトル ( , )
基底 { , } に関する座標ベクトル
 を   
   
座標ベクトルの図示
                




性質

・「実2次元数ベクトルv=(x,y)R2
        《R2標準基底 { e1, e2 }に関する座標ベクトル」は、
 実2次元数ベクトルv=(x,y)それ自身である。
 実際、
 任意v=(x,y)R2 は、
    v xe1+ ye2  
 と表される。

[図]
 実2次元数ベクトル ( , )基底 { (1,0),(0,1) } に関する座標ベクトル」を   
   
座標ベクトルの図示
                  


・「標準基底 { e1, e2 }以外の《R2基底 { p, q }》に関する
   実2次元数ベクトルv=(x,y)R2座標ベクトル」に、
 基底変換の行列をかけると、
 「実2次元数ベクトルv=(x,y)R2
        《R2標準基底 { e1, e2 }に関する座標ベクトル
 すなわち、
 実2次元数ベクトルv=(x,y)それ自身
 に変換される(→活用例:基底変換行列)。

→[トピック一覧:基底]
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  (reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、15講基底と次元(pp.94-99):有限次元ベクトル空間のみ扱っている。
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.3基底と次元(pp.41-50)。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§5.3-b(p.173).
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。 線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。

代数学のテキスト
本部均『新しい数学へのアプローチ5:新しい代数』共立出版、1969年、5.2-Aベクトル空間(p.132)。
酒井文雄『共立講座21世紀の数学8:環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22):数ページしか触れていないが、逆に、一般の線形空間の理論の骨組みだけを浮かびあがってくるので、何が重要事項なのかを見極める上で便利。

解析学のテキスト
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、I章§4(pp.33-4)

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)。
布川昊,谷野哲三,中山弘隆『線形代数と凸解析』コロナ社、1991年、2.4基底と次元(pp.36-41)。
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§1ベクトル(pp.26-)。


数理統計学のテキスト
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法 (第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)。 

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