用語の解説

初心者の方、ちょっとのぞいてみたという一般の方のために用語の解説を作りました。なにぶん専門家ではありませんのでわからないことはそのままわからないと書いています。もし間違いや不明点についてご存知の方はお知らせいただければ幸いです。

掲載用語へのショートカット

◆出発進行  ◆腕木式信号機  ◆タブレット閉塞  ◆湘南色、スカ色  ◆入出場  ◆吊掛式(旧性能車)  ◆金太郎塗り  ◆(名鉄の)HL車、AL車  ◆昇圧  ◆ライトパープル塗装  ◆信号場  ◆三河弁  ◆甲種、乙種鉄道車両輸送  ◆列車番号  ◆東、稲、名カキ、名シン・・・  ◆SG、EG  ◆EF65  ◆絶気  ◆協調運転、総括制御  ◆VVVFインバーター制御  ◆バス窓

■碧海

碧海とは愛知県西三河地区の刈谷市、安城市、碧南市、高浜市、知立市に市政が施行される前の旧地名(郡)です。最後に市になった高浜、知立が碧海郡高浜町、知立町であったことは私もかすかに記憶があります。碧という字は「あおい」という意味を持ち、紺碧の海を連想させる好きな地名です。
 現在でも銀行の名前や、ケーブルテレビ局の番組名などのほか、名鉄西尾線には「碧海」のつく駅が存在します。名鉄西尾線は「碧海電鉄道」として開業し、後に名鉄に合併されています。今は地名からは消えた「碧海」ですが、再合併によって政令指定都市化を目指す構想もあります。
 なお、かな表示は「へきかい」ですが、本サイトでは地元で慣用的に発音されている「へっかい」と読むことにします。

■出発進行

 テレビ番組などで鉄道の話題が取り上げられるとき、よく使われる言葉の筆頭クラスが「出発進行」といってよいでしょう。いよいよ列車が発進する、運転士さんの腕を前に出して指をさすポーズもかっこいいですね。逆にこれがないと寂しいくらいです。

 かなり多くの方が出発進行を列車が動き出すときのポーズとかけ声(儀式的なもの)だとお思いではないでしょうか。しかし、本当はそうではありません。
 ただし、そのような意味で使われる言葉として定着しているのは事実で、鉄道会社で構成される団体のポスターでも慣用の表現として「出発進行」が使われていますので、「誤りだから使うな。」というつもりはありません。

 それでも本来どんな意味なのか、すこし長くなりますが、どうぞおつきあい下さい。
 「出発進行」とは「出発信号機」が青=「進行」を示していることを喚呼(声に出して確認)する行為です。指も前を指すのではなく、信号機を指しています。(指差確認)つまり、「信号が青です。」ということを確認しているだけなのです。ちなみに列車を動かす指示を出すのは車掌で、出発ではなく「発車」といいます。
列車は青信号で発車するのだから実質同じじゃないかって?これを説明するためには鉄道の信号機について説明が必要です。

1.出発信号機とは

 出発信号機は駅を出る手前の線路の合流地点にあります。たとえば1番線から3番線まである駅で、本線が単線であれば、3つの出発信号機があり、どの番線の列車が駅を出てよいかを示します。単線ならば駅に到着する列車があれば、出発信号機は当然全て赤を示します。
出発信号機の他に駅など分岐点の手前にあって、停車場の場内に入ろうとする列車に進入の可否を示す「場内信号機」、駅〜駅の中間にある「閉塞信号機」などがあります。「ホームタウン」の信号機の下には「出発」と表示されていますが、これが信号機の種類を表しています。(撮影した信号の線路は全列車通過なのですが、通過でも出発信号機です。)

2.信号の色灯の意味

 よく見かける鉄道の信号は赤、青だけのものから、5つ目のものまであります。
鉄道は赤以外ならば進むことができます。青と黄色を組み合わせて速度制限の意味を持たせています。

意味 速度制限(km/h)
青  進行 信号によるものはなし。
青+黄  減速 65
黄  注意 45
黄+黄  警戒 25
赤  停止  



 2色以上の信号は列車の密度が高く、よりきめ細かな速度制限を定める必要のある場合に使われます。

3.ならば「出発進行」とは

 やっと出発進行の意味が説明できます。
「出発」は信号機の種類、「進行」はその信号機が示している命令ということになります。
鉄道では赤以外ならば列車は動くことができるため、写真のような青+黄色でも発車することができます。このとき信号機は「進行」ではなく、「減速」を表していますので、「出発減速」(出発信号機は「減速」を表示している。)となるわけです。そして次の信号機まで65km/h以下で進みます。ちなみに「場内信号機」が黄色を示していれば「場内注意」となります。
 鉄道は運転に関わる人のちょっとしたミスが大事故を引き起こす可能性を持っています。「指差確認」、「喚呼」は黙視だけでなく指で差し示し、声に出すことによってミスをなくすために行われています。

 これで出発進行の元々の意味をおわかりいただけたでしょうか。このことを意識し始めて以来、テレビで「秋だ!旅行だ!おもしろ列車で出発進行!」なんていうタイトルを見ると「秋だ!旅行だ!信号が青だ!」と言っているようでおかしくなる私はやはり偏屈でしょうか。

■腕木式信号機

 21世紀を迎えた現在、腕木式信号機は国内ではほんの限られた場所でしか見ることができません。信号システムの自動化、高度化が急速に進んだためです。腕木式信号機は駅員さんがてこを操作して腕木を上下させて切り替える信号機で、てこから信号機までは延々ワイヤーが伸びており、動力を使わない完全手動式です。
 表示する意味は至って単純で、アームが下がっていれば青(進行)、水平に上がっていれば赤(停止)です。間違って青が表示されるとたいへんなことになりかねないため、おもりでバランスを取り、もしワイヤーが切断された場合は赤が表示されるようにできています。なお、夜間には照明が点灯し、アームと一体になった赤、青の色ガラスを照らします。
 写真は小坂精錬(秋田県)の茂内駅で撮影した場内信号機(上記参照)ですが、右の支柱の下側の信号機はアームの色がオレンジ色になっています。これは「通過信号機」と言い、この腕木が降りている場合はやって来る列車にこの駅を通過する準備ができていることを知らせます。(直接的には出発信号機の予告を意味し、出発信号が赤なら黄色、青なら青を表示するそうです。)下の「タブレット閉塞」で写真を掲げたJR因美線の高野駅にも通過信号機があり、急行の通過の際にはホームの端の支柱にタブレットキャリアが取り付けられました。(1997年、急行も通過信号機も廃止されました。)
 NHKの朝ドラ「すずらん」の第1回では、信号を「青」に切り替えた駅長さんが信号機を指差して「場内信号降下オーライ!」と喚呼するシーンがありました。


■タブレット閉塞

交換列車の運転手のところへタブレットを持ってゆく駅員さん。帽子が風で飛ばされた瞬間、キャリアがよく写っていました。 津軽鉄道、津軽飯詰

通過列車は支柱に取り付けられたキャリアを走りながら受け取りました。一歩間違えば取り損ねたりけがをしかねない熟練が必要な作業でした。 JR因美線、高野

 通票閉塞とも言います。タブレット(通票)は単線区間で使う通行手形のようなもので、ある駅と駅の間では決められた形状のタブレットを持たない列車はその区間に入ることができないという約束に基づいて列車を運行し、衝突事故を防ぎます。駅と駅の間には原則として1本の列車しか入ることができず、その区間を閉塞区間といいます。
丸い輪のことをタブレットと思っていらっしゃる方が多いようですが、袋の付いた輪はタブレットキャリアといい、袋の中に入れる金属製の玉をタブレットと言います。
ずいぶん前の話になりましたが、映画「鉄道員」や朝ドラ「すずらん」で朱色の箱のボタンを押してベルを鳴らすところや、玉を取り出すシーンがあったのでご記憶の方もあろうかと思います。
現在では遠隔操作の自動信号の普及によってタブレット閉塞は日本全国でもわずかしか残っていません。その古い方式が1977年開業という比較的新しい衣浦臨海鉄道で採用されているのは意外に思いました。

通過しながらタブレットを受け取る動画をこちらからご覧いただけます。急行「砂丘」高野通過の動画(Youtube)

 タブレット交換の手順や乗務員のご苦労について愛知県豊田市の朝倉さんにご説明いただきましょう。

●タブレット閉塞があった頃

 交換駅に進入すると原則として列車の左側にまず渦巻き状のタブレット受けが現れ、運転士が手を伸ばしてこれにタブレットを引っ掛けます。タブレット受けがない駅ではタブレットをホームに放っていました。この際、タブレットがへたに転がってホームと列車の間に落ちるとタブレットを轢いてつぶしてしまう惧れがあるので、輪投げの要領でホームに水平に落ちるように放る必要があります。
 駅側から渡すタブレットは、予め通票を入れて、受け器よりも前方にあるタブレットポールに環を縦にして保持しておくと、運転士が手を伸ばしてそれを攫(さら)っていきます。それは手で取るというよりも、腕を曲げて手をタブレットの環(わ)に突っ込み二の腕に引っ掛けるようにして確実に取ります。速度が 30キロ 以上も出ているとこれは相当な衝撃で、腕が腫れるほどであったと聞きます。もしも取り落とした場合は、急停止して運転台から降りて取りに行かなければなりません。
 蒸気機関車の時代はこれは機関助手の辛い仕事の一つだったようです。線区によっては、車両に折り畳み式の鉄の腕を取り付けてあるところもありました。タブレットポールのない駅では、駅長がホームの縁で高く掲げ持ったタブレットを運転士が手を伸ばしてすくい取っていました。
  なお、取ったタブレットが運転台のすぐ後ろのところへ激しくぶつかりますから、ガラス窓などは割れてしまいます。そのため、電車や気動車では防護金網が取り付けられていました。

愛知県豊田市 朝倉昭二様

 朝倉さん、ありがとうございます。上の写真にある因美線の急行「砂丘」はタブレットを受け取るため運転助手が乗務していました。

■湘南色、スカ色

 湘南色は昭和25年、東海道本線東京口に登場した長距離用電車、80系で初めて採用された塗色です。それまで殆どの車両が茶色塗装であった中、お茶の葉とみかんをイメージした緑と黄柑色と呼ばれるやや黄色の強いオレンジ色のツートンカラーが考案され、一世を風靡しました。分割民営化された今もJR東日本、東海、西日本の多数の線区に残る塗装で、市民に親しまれています。
 一方のスカ色は国鉄部内や鉄道ファンの間で使われた俗称で、横須賀線を走る70系電車に初めて採用された塗装であることから、「ヨコスカ」のスカを取ってこのように呼ばれるようになりました。現在では総武、横須賀線のステンレスカーのラインカラー、千葉県の房総各線、中央東線にまで減ってきましたが、かつては高崎地区ローカル、御殿場線、身延線、飯田線、中央西線、岡多線、阪和線、福塩線など各地で見られました。

■入出場

 鉄道車両は法定の期限ごとに分解検査を受けなければなりません。中京圏の東海道線、中央線で使用されていた大垣電車区、神領電車区の電車達の担当工場は当時、国鉄浜松工場でした。
 検査期限を迎えた電車は数両ずつ工場に送られましたが、運転台やモーターを持っていない車両があったため、それらの先導役として茶色のクモヤ22、クモヤ90、スカイブルーのクモハ40が活躍していました。検査が終わるとピカピカに塗装し直されて、やはりクモヤ22などに先導されてそれぞれの車庫へと帰っていきました。 

■吊掛式(旧性能車)

 吊掛式とは電車が開発された頃から採用され続けてきた駆動方式です。この方式を採用した電車を国鉄では旧性能車と呼んでいました。モーターの重量を台車のばねと車軸で支え、機構が単純であることが特長である反面、強度を保つために重くなったり、乗り心地が悪くなるなどの欠点があり、高速運転に向いているとは言えませんでした。ギアのかみ合いから独特な音を発し、この音を昔から聞いてきた人にとっては懐かしい音といえるでしょう。最近のハイテク電車にはない温もりを感じさせます。
 1950年代に入ると車体を軽量化し、駆動方式に中空軸カルダン式などを採用した新性能車が続々登場し、ずっしり重い感じの吊り掛け式から軽快な感じの音に変わっていきました。
 国鉄では旧性能車を2桁の形式番号+000または001から始まる3桁の製造番号で、新性能車を3桁の形式番号-製造番号で表示していました。

■金太郎塗り

 湘南電車80系の塗装は全国の鉄道車両に影響を与えました。先頭車クハ86の前面のオレンジ色の部分が金太郎の腹巻きに見えることから、この塗り分けは金太郎塗りと呼ばれました。

■(名鉄の)HL車、AL車

 電車の運転席にはノッチというハンドルが付いています。これは自動車で言えばアクセルに相当します。変速を行うのに自動車にマニュアルシフトとオートマチックがあるように、電車にも手動進段と自動進段があります。
旧型の電車は抵抗器をつなぎ換えてモーターに流れる電流を変えながら加速していきますが、HL方式はノッチを1段、1段手動で上げていくのに対して、AL方式はこれを自動的に切り替えて加速します。(HL、ALの元々の意味は違うのだそうですが、慣用的に使われていましたのでこのまま続けます。*1
 名鉄の旧型電車にはHL方式とAL方式があり、制御方式の違う車両がお互いに連結して走ることはなく、HL方式は形式名が3700番台(モーターなしの車は2700番台)で区別されていました。3700番台は主に大正時代に製造された木造車などの足回り、電気部品を再利用し、車体を新製して改造されたグループで、制御装置も流用したため古来の制御方式となったようです。
 例外には築港支線(大江ー東名古屋港)で使われていた3790系がありました。この形式は水害で廃止になった岐阜県の東濃鉄道駄知線で走っていた元西武鉄道の車両を譲り受けたもので、3700番台でも車体更新車ではありませんでした。ちなみに最高速度が遅い三河線は過半数の電車がHL車で運転されていました。


*1 本来は米国のウエスチングハウスと提携企業である三菱電機が製造した制御装置の分類です。「L」は制御電流を架線から直接取る方式を示す記号で、バッテリーやMG(電動発電機)などの補助電源装置から取る方式は「B」となります。従って、近年まで存在した名鉄のAL、HLはそれぞれAB、HBが正しいのですが、そこまでの厳密な分類は行われず、慣用的にAL、HLと呼ばれていました。
 参考文献 : 鉄道ピクトリアルNo.624特集名古屋鉄道(1996.7)

■昇圧

 日本の直流電化区間の架線電圧は1500Vが主流ですが、地方のローカル線や路面電車ではまだまだ600Vや750Vなどの電圧も使われています。使用する架線電圧を上昇させることを昇圧と言います。
 電圧を高めれば小さな電流で同じ出力が得られるため、スピードアップや輸送力増強のために昇圧が行われますが、全車両の改造または入れ替えが必要で、本当のメリットは私にもよくわかりません。ただ、理由としてもう一つ考えられるのが、中古車を導入する場合、導入元となる大手私鉄の大半が1500Vであり、自社で使うために600Vへの改造が必要となるのを避ける目的があるものと思われ、中古車を大量導入するタイミングに昇圧を行った事例は数多くあります。
 愛知県を例に取れば、名鉄瀬戸線と豊橋鉄道が比較的近年に昇圧が行われています。いずれも一夜にしてその線に属する全ての車両が入れ替えられました。

■ライトパープル塗装

Photo Shopでライトパープル塗装を再現。 3780系が1966年にデビューした時は斬新なライトパープルの塗装でした。まだ幼かった私にも大きなインパクトを与え、この塗装の車両が増えていくのが楽しみでした。実際、刈谷駅で見た三河線の電車はこの塗色の比率がかなり高い時期があったことを覚えています。
 しかし、当時としては斬新すぎたのか評判は決して良くありませんでした。母は「藤色の電車」と呼んでいましたが、父も含めてよい評価をしていませんでした。そして、間もなくクリーム色に赤帯の塗装が登場すると3780系を含めて塗り替えられていきました。
 幼い頃のお気に入りであったこの塗装を再現してみようと、Photo Shop LEやPhoto Deluxeを使って画像の加工を試みました。なにぶん4〜5歳の頃の記憶が頼りであるため、「たしかこんな色だったな。」程度のものでしかありませんが、当時を偲ぶ一助となれば幸いです。

 拡大画像には新作を加え、思い出のコーナーを設けました。  ライトパープル塗装の思い出

■信号場

 駅と駅の間で列車が行き違いをする場所です。単線区間で駅間が長い場合、単純計算で両駅間の往復の所要時間が列車の最短間隔となります。駅間距離があまりに長いと列車の間隔を縮められないため、本数を増やすことができません。そこで、このようなケースでは中間に信号場を設けることによって対処します。(北海道の石勝線は駅よりも信号場の方が多いくらいです。)信号が自動化された現在では信号もポイントも遠隔操作されるため、信号場は無人で、駅ではないため行き違い列車待ちで停車した列車のドアは開きません。

■三河弁

● 〜で、〜りん

 「写真撮ったげるでみんなで顔出しとりん。」を標準語に直すと次のようになります。
 「写真撮ってあげるからみんなで顔出していなさい。」

 「〜だから」が三河弁では「で」に変わるのが特徴で、ニュアンスは変わりませんが、「りん」は「〜なさい」よりもソフトな感覚で使い、「〜したらどうか」という推奨の意味合いが含まれるように思います。私にはぴったりの標準語が見つけられませんでした。
 また、語尾に「ん」がつくため、近県以外の方には否定の意味と感じられ、慣れるまでは違和感を持たれるようです。

● 〜まい

 「名鉄で行こまい。」の「行こまい」とは「行こう。」、「行きましょう。」という意味になります。
 前出の「りん」と同様、慣れない方には否定の意味と感じられるようですが、「もう2度と行くまい。」(こちらは標準語)の場合は強い否定であり、「こ」と「く」の差だけで意味は全く違います。

● たるい

 「つまらない」という意味です。ごく口語調の例を挙げれば「○○が負けてばっかりだでたりぃーでかんわ。」(○○が負けてばかりだからつまらなくていけないな。)というように使います。

● き(い)ない

 黄色を「きいない」(「きない」、「きな」)と呼びますが、かなり年輩の方でないと使っておらず、死語となるのは時間の問題かも知れません。
 私の中学時代の卒業アルバムには三河弁丸出しだったK先生の顔写真があり、吹き出しの中には「きなで書いてみりん。」(黄色のチョークで書いてみなさい。)と書かれています。

甲種、乙種鉄道車両輸送    04.07.28 更新

 最近、機関車が電車や気動車を牽く回送列車が何でもかんでも「甲種回送」と呼ばれているのを耳にします。そもそも「甲種回送」という言葉自体中途半端な理解から来たものであって、本来は正しくありません。堅い話しを抜きにすれば実質上は回送列車であるこれらの列車は、外見は同じ格好であってもその扱いはいろいろな種類があります。それらを全て区別せよと言うのは酷であり、その必要もありませんが、鉄道という一種お堅い風土から生まれたであろうさまざまな運転形態について整理してみましょう。

●甲種は回送ではない(*1)

 車両メーカーで製造された車両は購入者に引き渡される場所まで輸送されます。その方法は自力による運転、機関車による牽引、トレーラーによる陸送がありますが、この内、機関車に牽引されて運ばれるのが「甲種鉄道車輌輸送」です。(*2)省略して「甲種輸送」または単純に「甲種」と呼ばれています。

 甲種輸送は旅客用車両であってもJR貨物が担当する「貨物列車」です。では、電車や気動車がなぜ貨物扱いなのかということになりますが、鉄道車両は定められた試運転(公式試運転)を行い、法令による基準を満たし、支障なく営業運転に使用できることが確認されなければ正式な車両ではないからです。公式試運転をパスしていない新車は電車の形をした物体と解釈されるのです。

 車検証がない自動車を公道上を走らせてはいけないのと同様に、本来ならば貨車に積んで運ぶべきなのですが、線路上を走らせられる車輪やブレーキが付いている事実があり、空車で運ぶだけなら走らせてもよいでしょうと、自分の足で走ることができる「特別な貨物」として扱われるのです。このように自分の足で輸送できる車両(レール幅が異なり、仮の台車を取り付けたものを含む)を甲種鉄道車両と言います。(公式試運転を受けていない車両でも貨物扱いせずに運ぶ方法があるのはややこしいのですが。→後述)

 よく「甲種回送」という表現を見かけますが、JR貨物が依頼主(一般的には車両メーカー)から運賃をもらって「製品」を輸送する営業列車なので「回送」ではなく、少なくともJRには甲種回送という列車種別は存在しません。近年、月刊誌に運転計画が掲載されていますが、列車番号に「回」が付いていないことにもお気づきいただけるでしょう。

 甲種輸送では(旅客)営業運転では決してみられないであろう他の鉄道会社や海外の車両が思わぬところを通過する光景が見られることがあり、大半の場合、その線を通過するのは最初で最後ということになります。

(*1) 実質上回送だと言っておきながら、回送でないとは矛盾しているようですが、「車両」と「甲種鉄道車両」の差は法律上認められたか、まだかだけであり、物理的には何らの違いはありません。それを抜きにすれば「回送」で差し支えなく、例えば新聞社に「機関車に牽かれて回送された。」という表現は誤りだと訴えたところでらちが開かないでしょう。しかし、「甲種」と言いたいのであればそれが貨物列車の一種であることを理解し、「回送」よりも「輸送」とした方がより適確な表現になるのではないでしょうか。

●国鉄時代は自力回送された電車が甲種輸送に

 2002.8.7、新十三塚駅にアップした211系の甲種は国鉄時代ならば「自力回送」であったと記載しています。それは、国鉄が全国組織であったため、公式試運転をメーカー近くの国鉄線上で行い、国鉄への引き渡しを済ませていたためです。つまり、国鉄自社の正式な車両であるため、貨物として輸送する必要はなく、「回送」として運転できたのです。

 ところが、民営化されたとたんにJR他社エリアにあるメーカーの車両は自力運転ができなくなり、JR貨物の機関車が牽く「甲種鉄道車両輸送」となりました。自力回送が当たり前であった国鉄形新製電車が甲種で運ばれることは当時ファンの間では大きな話題となりました。(但し、近年ではATSーPなど保安装置の高度化、運転方法の差別化などで現実的に自力運転が困難になっています。)

●一見甲種でも甲種にあらず

「甲種輸送」と同じ形態で運転されても「甲種輸送」ではない列車があります。イベント列車は別として、JR旅客会社自社の電車や気動車を自社の機関車で牽き、社内で輸送が完結する場合などです。このようなケースではJR貨物に貨物輸送として委託されないので、甲種でも乙種でもありません。

 国鉄時代は公式試運転が済んだ車両であれば回送列車として扱われていましたが(*3)、分割民営化後は「配給列車」として扱われるのが一般的です。具体的な事例としてはJR東日本新津車輌製作所で新製された自社の電車や、新潟トランシス(旧新潟鐵工所の車両製造業務を承継した新会社)で新製されたJR西日本の気動車が挙げられます。

 JR西日本のケースでは糸魚川まではJR貨物による甲種輸送ですが、ここで「製品」はJR西日本に引き渡され、以降はJR西日本の機関車が牽いて配給列車として運転されます。北陸本線は直江津からJR西日本ですが、ここは車両基地としてはJR東日本であるため、受け入れ体制が取れる糸魚川で受け取るのであろうと考えられます。JR西日本としては自社が発注した車両を過半の区間自社線を経由して運ぶのに、JR貨物に運賃を払って運んでもらうのは不合理だと考えるのは当然でしょう。

 これらのケースでは電車や気動車は「貨物」ではなく、営業外の事業用列車になりますので、スタイルは同じでも列車の位置付けは大きく異なります。

 なお、現段階では確認ができていませんが、前記のJR西日本糸魚川での受け入れ車両はここでは公式試運転を実施しないようです。したがって、まだ正式な車両になっていないという意味では甲種と変わりありません。しかし、「配給列車」では廃車や休車で営業用に使用できない状態の車両を機関車牽引で運ぶことがありますので、法律上の車両ではない車両はそれに準じた扱いで運ばれるものと考えられます。

(*3)国鉄時代、公式試運転を終えて正式な車両となった気動車を機関車牽引で回送した事例を碧海猿渡駅第4展示室で公開しています。かつては機関車と回送車両の間に客車を連結していましたが、国鉄末期の頃はそれも省略され、甲種輸送との区別は困難でした。

●こんな場合は?

 また余談になりますが、次のような場合はどうなるのでしょうか。例えば某旅客会社が自社の車両を民間に払い下げ、自社の駅の真横でレストランとして使われるという想定をしてみましょう。
 この場合はJR貨物に委託されて甲種輸送されるのが本筋でしょう。しかし、JR貨物も免許を得ていない区間だったら・・・。もし仮に、旅客会社が自社の機関車で対象車両を牽き、配給列車として運転しても、依頼主から運賃を請求できないと思います。なぜならば、旅客会社は「甲種鉄道車両輸送」という貨物輸送の営業認可を受けていないからです。こうなると甚だ不合理ですが、トレーラーによる陸送しかないでしょう。
 表面上は機関車があるのだから牽いていけば済むではないかと思いますが、そう簡単に事は運ばないものです。なお、余談の余談になりますが、群馬県横川の鉄道文化むらでは展示車搬入に際して実際にJR貨物の甲種の他、JR東日本の配給列車も運転されましたが、経費を誰がどう負担したのか興味あるところです。

●乙種鉄道車両輸送

甲種に対して乙種は自分の車輪で走らせることができない車両、結果的には貨車に積み込んで輸送するものを呼び、対象には路面電車などがありました。過去形になっているのは、近年はほぼ100%路上輸送となっていて、乙種鉄道車両輸送は全く行われていないためです。
 東京都電7000型の乙種輸送写真は相互リンク先「五条川鉄道写真館」の吉野富雄さんからご提供いただいた東京都交通局7000型の乙種輸送の模様です。写真のような停車駅で貨車の組成を変えながら走る形態の貨物列車が大幅に減った今、乙種輸送を行おうとすれば行き先次第では臨時列車を仕立てなくてはなりません。仮に走らせても駅から車庫までは結局トレーラーに積み替えなければならず、積み替え用のクレーンまで用意すれば莫大なコストになってしまいます。また、需要が激減すれば乙種輸送用の貨車=長物車を走れる状態に維持する意義が薄れ、載せるための貨車が減ってしまえばますます乙種輸送の実施が困難になります。このような制約の大きさ、メリットのなさが乙種輸送消滅の理由と思われます。
 なお、余談ながら、軌道線の車両が「鉄道車両」かという疑問が残りますが、参考文献によれば、運転取り扱いの他、運賃を定める分類とされていたようですので、料金表の用語と考えれば厳密な解釈は必要ないものと思われます。

(*2)「機関車が牽くこと=甲種」という解説をよく見かけますが、これは誤りです。輸送車両自身の車輪で走るのが「甲種」、それ以外の方法、事実上は貨車に搭載されるのが「乙種」となります。結果的には甲種乙種共機関車が牽くのであって、動力種別を区別しているのではないことがわかります。

参考文献:鉄道ダイヤ情報1994年4月号(No.120)  鉄道ジャーナル2001年12月号

列車番号

 列車には固有の列車番号が付けられ、運転管理はこの番号によって行われます。国鉄、JRの場合の列車番号の付け方を説明します。

 位  意味
 1000  なし〜5000 定期列車
6000〜7000 季節列車
8000,9000 臨時列車
 100  関連する線区を表す
参考までに東海道本線名古屋地区は400,500番台(最近は100、200番台)
武豊線は900番台(最近は500番台)。
0は線に関係なく特急
 10 0 〜4旅客、ただし、急行は0または1、普通は2以上。5以上:貨物列車(ただし、電車、気動車の場合は旅客)
これが原則ですが、急行列車が少なくなった現在、快速や普通列車でも急行のような10番台の番号のものがあります。(快速は旅客案内上の種別で、運転上の列車種別は普通列車となります。)
 1  奇数:下り列車、偶数:上り列車。ただし、2つ以上の線をまたがって走り、途中駅で上下が切り替わるケースでは列車番号を変えず、例外的に奇数、偶数が逆転している列車があります。
 先頭
末尾
 先頭ーなし:「試」:試運転、「回」:回送、「配」:配給列車。
末尾ーなし:機関車牽引、M:電車、Dですが、種別を区別する必要のない大都市圏では他の記号を付けている場合もあります。

●配給列車

配給列車とは、国鉄時代には車両工場から整備用の部品を車両基地に運搬する列車を指していました。しかし、元々の配給列車の使命はトラック輸送に移行し、民営化後は回送列車との区別がわかりにくくなっています。明確な定義は私にもわかりませんが、例を掲げておきましょう。

種別運転形態
回送目的地へ向けてその列車本来の動力で運転される非営業の列車営業運転の始発、終着駅と車両基地や一時待避する駅との間で運転される列車
定期検査のため、車両工場と車両基地との間で運転される列車
配給対象とする車両(通常は客車、貨車以外)を自力ではなく機関車の牽引によって運転する列車工場入出場車が自力で運転できない場合
SLの地方での運転時など自力での回送が不適切な場合
休車、廃車などのため自力で運転することができない場合
新製車両をJR貨物に委託せず、自社の機関車で工場から車両基地へ回送する場合

■東、稲、名カキ、名シン・・・

車両にも「家」(車庫)があって、国鉄、JRの車両はその所属先が車体に表示されています。機関車の場合は漢字1〜2文字で表します。

東 =東京機関区
稲二=稲沢第二機関区

のようになります。

 一方、電車、気動車の場合、国鉄時代は鉄道管理局を表す漢字+カタカナ2文字の略号(電略と呼ぶ)で表されます。

名カキ=古屋鉄道管理局、大電車区
名シン=古屋鉄道管理局、領電車区
名ナコ=古屋鉄道管理局、名古屋第一機関区、名古屋客貨車区
静シス=岡鉄道管理局、岡運転所
南チタ=東京鉄道管理局、田町電車区

のようになります。「カキ」や「シン」などは素直ですが、田町の「チタ」は少々不可解です。他には「タマ」、「タチ」、「マチ」が候補に挙がりますが、東京地区ではどれも他の駅などとダブりやすいため、「タチ」の前後を逆にしたのではないかと思われます。
 参考までに、東京の京浜東北線、東十条に隣接する電車区に車両が配置されている頃は「北モセ」の表示でした。東京鉄道管理局、下十条電車区を意味しますが、旧仮名遣いの「しじゅうう」 から取ったものと思われます。電略の歴史は長いのです。

 面白いものでは「米イモ」なんていうのもありますが、どこを表していると思いますか。

 なお、前記の解説は国鉄時代のもので、民営化によって「鉄道管理局」がなくなった現在では、その配置基地を司る会社名や支社名を表す漢字を用いています。
 支社の場合は容易ですが、本社直轄の場合は会社によってばらつきがあります。
 JR東海は「東」を使うと「東京」や「東日本」とだぶるため、「海」を使っています。また、JR四国は全て「四」で明快です。個人的に少々気に入らないのがJR九州で、運行本部を表す「本」を使っていますが、これが一時期JR西日本の「近畿圏運行本部」の「本」とだぶってしまっていました。

■SG、EG

 機関車が牽引する客車列車は室内灯を車軸に取り付けた発電器とバッテリーでまかなっていましたが、エネルギー消費の大きい暖房については機関車から供給していました。SLの時代はボイラーで沸かした蒸気をパイプで送ればよかったのですが、電化が進むと電気機関車にも蒸気暖房用の蒸気発生装置を搭載したものが現れました。そのボイラーのことを蒸気発生装置(SG)と呼びます。SGを持つ電気機関車は客車に連結する前から水を沸騰させているため、供給前の蒸気を外部に排出する必要がありました。その結果、SLでもないのに蒸気を高らかに吹き上げる光景が見られたわけです。
 電化がさらに進んでくると全区間が電化区間である列車が増えたり、交流電化の場合は変圧器を介して容易に電気を供給できることから、客車に電気暖房を取り付けて、機関車から電気を供給する方式が増えていきましたが、その電源装置のことをEGと呼びます。直流区間でもインバーター方式によって交流の電源を供給できるようになりました。
 東海道本線ではEF58とEF61が蒸気暖房(SG)、EF58を置き換えたEF62は電気暖房(EG)でした。元祖ブルートレインの20系以降(除く50系)は客車で自前の電源装置を持つようになり、電源を機関車から供給する必要がなくなりました。

■EF65

 私が写真撮影を始めた頃の東海道本線の電気機関車の主力はやはりEF65でした。EF65は1964年に製造が開始された形式で、その用途に応じてバリエーションが発生しました。

区分 番号 特徴
基本型 1〜 一般の貨物列車を牽引する目的で製造されました。製造当時から青い車体に前面にクリーム色の前掛けをした塗装でした。
P型 501〜512、527〜531、535〜542 東海道、山陽線の寝台特急(ブルートレイン)を牽引するために製造されたグループです。(一部は一般型からの改造)ブルートレインの老舗といえる20系客車に合わせて側面にクリーム色の帯が入り、前面もクリーム色の部分が多い軽快な塗装になりました。客車列車の牽引の用途に使われるためPassenger(旅客)のPを取ってP型と呼ばれます。客車列車用といっても客車暖房用の装置を持っているわけではなく、20系客車を牽引して高速運転を行うためにブレーキ装置の強化を図ったものです。
F型 513〜526、532〜534 P型と明確な番号区分はありませんが、高速貨物列車を牽引するために製造されてグループです。Freight(貨物)のFを取ってF型と呼びます。
PF型 1001〜 P型、F型両方の機能を持たせたグループです。重連総括制御(機関車2台を連結し、前側の運転台から2台を同時に制御すること)のとき後部の機関車の点検に行ける通路を確保するため、前面に扉が取り付けられ、外観上の大きな特徴となっています。

■絶気

 蒸気機関車(SL)は石炭を焚いて蒸気を作り、それをシリンダーに送って車輪を回して走るところまではよいでしょう。運転席のレバーを引くことによってシリンダーに蒸気が送られますが、加速が終わればその必要はなくなり、蒸気を止めて惰性による走行に移ることを絶気といいます。自動車でいえばニュートラルで走るようなものです。
 機関車が2両連結(重連)となる場合は、電気機関車のように2両同時の制御ができないため、前後の機関車が協調する必要があります。絶気を行うときに後ろの機関車とタイミングを合わせる必要があり、その合図には汽笛が使われます。運転席ではだいたいこんな事が行われます。
   1.前の機関士が「ボーッ、ボッ、ボッ」と鳴らして「閉めるぅ〜っ。」と喚呼すると機関助手が復唱します。
   2.後ろの機関士は「了解」の合図として同じ汽笛を返します。
   3.了解の汽笛を確認してレバーが閉じられます。
 この汽笛による応答は重連運転の時独特のもので、2台が合図を交わしながら力を合わせる様はSLの持つ生命感を感じさせます。

■協調運転、総括制御

 この2つの用語を私なりに定義してみます。

協調運転:1つの列車の複数の動力車の加減速特性を同調させて運転すること。

総括制御:1つの列車の1台の制御器で複数の動力車の制御を一括して行うこと。

総括制御できない機関車の重連運転や機械式気動車(*1)の連結運転では動力車それぞれに運転士が乗務し、汽笛や無線を使って加速レバーを操作します。慣用的にはこの運転方法を総括制御との対比の意味で「協調運転」と呼ぶことがありますが、「総括制御」であっても「協調運転」と呼ぶ場合があります。

 横川ー軽井沢間ではEF63と連結相手の電車双方に運転士が乗務していましたが、EF63自身と電車の制御はEF63の横川寄り運転台から一括して行われ、下り列車(登坂)の電車の運転士は最前部で前方を注視しながら無線でEF63の運転士に指示を出すだけで、運転操作は行いませんでした。実質的にEF63による「総括制御」でしたが、この運転方法は現場でもファンの間でも「協調運転」と呼ばれ、EF63の運転台には確かに「協調」というパイロットランプがありました。

日本の鉄道車両の動力車には「蒸気機関車(SL)」、「電気機関車(EL)」、「ディーゼル機関車(DL)」、「電車(EC)」、「ディーゼルカー(DC)」の5種類がありますが、この3例で共通しているのは異なる車種の「総括制御」であるということです。車種が異なれば運転上の特性も異なり、ただ連結してスイッチ1つ入れれば走るというものではありません。両者が連結したときにそれぞれが別個に走る時と同様の加速を行えば連結器に無理な力が作用したり、特定の車両だけに負荷が集中することにもなりかねません。司令塔(制御器)からはそれぞれの形式に合った命令を与えて加速特性を同調させなければスムーズな運転はできないのです。

JR九州の「有明・オランダ村特急」はモーターとディーゼルエンジンという全く異なる動力の車両を1つの制御器でコントロールし、一人の運転士で運転できるという画期的な列車でした。その後、「オランダ村特急」の「ゆふいんの森U」への転用によって解消されてしまいましたが、現在ではJR北海道で気動車と電車の総括制御が行われています。

今まで私は「協調運転」と「総括制御」を対義語と考えていましたが、実は両者は視点が異なっていて、「総括制御」による「協調運転」も正しい表現ではないかと思うようになりました。

*1 機械式気動車:

クラッチによるギアの切り替えを行って変速する制御方式で、自動車で言えばマニュアルシフト車のことです。日本で正式な鉄道車両としては現存しません。

■VVVFインバーター制御

 新型電車に乗ったとき「プ〜ン、ウイ〜ン、ウイーン・・・」という独特の加速音を耳にされた方も多いことでしょう。この加速音がVVVFインバーター制御の大きな特徴となっています。VVVFとはVariable Voltage Variable Frequency(可変電圧、可変周波数)の略で、インバーターで直流を交流に変換し、交流モーターを駆動する電車の制御方式です。
 電車や電気機関車の歴史上、長らく直流モーターが採用されてきました。それは、高い起動力を必要とする鉄道車両に適していたためです。直流モーターの最大の欠点は回転部分(電機子)に電流を伝える整流子(ブラシ)という接触部分が存在することで、摩耗や絶縁不良を防ぐために高頻度のメンテナンスが必要となります。
 それに対して交流モーター、中でも三相誘導モーターは整流子がないため、そのメンテナンスの削減、故障のおそれの低減が可能であるほか、整流子がない分、回転子を大きく作ることができ、直流モーターと同じ大きさならばより大きな出力を出すことができます。しかし、日本で使われている50Hzや60Hzの周波数の電流をそのまま与えても起動力が小さいため、鉄道車両には不向きとされてきました。
 近年のエレクトロニクスのめざましい進歩に伴い、直流を変換して誘導モーターの回転数に合わせて最適な周波数、電圧を自由に作り出すことができるようになりました。

誘導電動機を効率よく回す

 さて、一言に最適と言われても理解しづらいことでしょう。誘導モーターはロータの周りの電磁石のN極S極を円周方向に順番に切り換え、ロータに発生する磁力と引き寄せられたり反発したりする力を利用して回転しますが、その効率について、イメージしやすくするため、バケツに張った水に浮かべたボールの周囲をさおでかき回してボールを回すことを考えてみましょう。
 さおをいきなり速く回しても水はなかなか回らず、ボールにあまり回転が伝わりません。モーターで言えば、電気を浪費している状態に相当します。ボールの回転よりも少し速いくらいでさおを回すのが最も効率よくボールの回転を速められることが想像できるのではないでしょうか。しかし、うまく周期を合わせても、さおをつま楊枝に変えたら回転はなかなか上がりません。さおの太さ=回す力の強さが電圧、回転の周期=ロータ周りの電磁石の極を切り換える周期、つまり周波数に相当すると考えれば、これらをロータの回る周期に合わせて最適なものとすることで効率よく回転させることができるようになります。その交流電流を自由に作ることができるのがインバーターです。

インバーター電車の特徴と将来

三相交流誘導電動機は大容量インバーターの登場によって1980年代から鉄道車両でも本方式が採用されるようになり、1990年代後半以降に登場した新型電車の大半がVVVFインバーター制御となっています。比較的初期の車両は独特の加速音が形式ごとに個性があって、その違いを楽しむ人たちも登場しましたが、近年はIGBT方式の普及でうなり音がほとんどしない車両が増えています。
 VVVFインバーター制御はモーターに滑らかな直流を与えるときよりもレールと車輪の滑りに対する抵抗力(粘着力。摩擦力と同義ではない。)が大きいため、電動車1両あたりの出力を大きく取ることができます。その結果、電動車の比率を下げることができ、編成全体の軽量化が可能です。
 最近では誘導電動機に次ぐ次世代の電動機として希土類永久磁石電動機が開発され、既にエレベーターなどでは実用化されています。鉄道車両ではギアを介さず、直接車輪を回す方式(=DDM)も試作研究され、動向が注目されます。しかし、当面、VVVFインバーター制御は省エネルギーへの貢献、騒音の低減が可能な「人に地球に優しい車両」としてさらに成長を続けていくことでしょう。

■バス窓    02.2.3 UP

1950年代に製造された気動車の側面窓は上昇式で、上部のふところの部分がHゴム支持になっていました。この形態は路線バスで広く採用されていたため「バス窓」と呼ばれました。代表的な事例には国鉄キハ10、17系やキハ55系の初期製造車両があるほか、地方のローカル私鉄でも結構見られました。
 21世紀を迎えた現在ではバス窓の鉄道車両はごく僅かで、バスの窓自体も変わってしまい、その意味を知る鉄道ファンも少なくなりつつあります。