Rock Listner's Guide To Jazz Music


Art Pepper


The Marty Paich Quartet Featuring Art Pepper

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1956/Aug

[1] What's Right For You
[2] Yoou And The Night And The Music
[3] Sidewinder
[4] Abstract Art
[5] Over The Rainbow
[6] All The Things You Are
[7] Pitfall
[8] Melancholie Madeline
[9] Marty's Blues
Art Pepper (as)
Marty Paich (p)
Buddy Clark (b)
Frank Capp (ds)
他の項目でも書いている通り、僕はウェストコースト・ジャズがあまり得意ではない。恐らく、いろいろな意味で「軽く」聞こえてしまうからではないかと思いつつ、理由はよくわからない。熱心に聴き込みたいと思うようなミュージシャンも特にいない。その後、いなかったという過去形の言い方に変わった。ジャズを聴き始めて10年弱、ようやくこのアート・ペッパーの魅力がわかるようになってきたから。もちろん、ペッパーはジャズを聴き始めた当初に「Meets The Rhythm Section」を聴いて知っていたんだけれど、当時は「軽い」音楽に聞こえてしまっていた。最初は特に引っかかるものがなくとも、年月を経て、ある日突然魅力がわかるようになる、ということは音楽を長く聴いてきた人なら一度や二度はあると思うんだけれど、僕の場合はペッパーがそれだった。ペッパーの魅力にやられてしまうと、彼の50年代の演奏を片っ端から聴きたくなる。このアルバムはピアノのマーティ・ペイチがリーダーであるものの、多くの人が語っている通り、どう聴いてもペッパーが主役になっている。軽快だけど決して軽薄でなく、良く鳴っているアルトは歌心が溢れ出ている。ありきたりなスタンダードをワンホーンで演奏してこんなに聴き手を魅了できるのは、アルトではペッパーくらいだ。凄みがあるタイプではないけれど、堅実で軽快にスウィングするリズム・セクションがまたペッパーに良く合う。いや、こういうリズム・セクションがペッパーにはむしろ合っている。わずか26分強という時間の短さも、50年代のペッパーを楽しむにはちょうど良い。(2010年8月28日)

Art Pepper Quartet

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1956/11/25

[1] Art's Opus
[2] I Surrender, Dear
[3] Daine
[4] Peppert Pot
[5] Besame Mucho
[6] Blues At Twilight
[7] Val's Pal
[8] Pepper Pot (alt take)
[9] Blues At Twighlight (alt take)
[10] Val's Pal (take 1)
[11] Val's Pal (take 4)
[12] Val's Pal (take 5)
Art Pepper (as)
Russ Freeman (p)
Ben Tucker (b)
Gary Frommer (ds)
50年代のペッパーならなんでもイケるクチになってきたら、この盤も悪かろうはずがない。ペッパーのアルトにはいささかの曇りもなく、その軽快な歌いっぷりに魅了されてしまう。ただし、このメンバーでの演奏はそれほど密度が高くない。全体的にやや緩い感じで、その緩さを楽しむアルバムとなっている。ボーナストラックの別テイク3連発は、基本的な部分とその時の気分で変わる部分が明確にわかって興味深い。本編は約30分とここでも短く、肩肘張らず心地良い気持ちにさせてくれるペッパーをより気軽に楽しめる。そして気軽でありながらその表現が決して浅くないところにこの人ならではの魅力が凝縮されている。(2013年4月6日)

Modern Art

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1956/12/28
1957/1/14

[1] Blues In
[2] Bewitched
[3] When You're Smiling
[4] Cool Bunny
[5] Dianne's Dilemma
[6] Stompin' At The Savoy
[7] What Is This Thing Called Love
[8] Blues Out
[9] Dianne's Dilemma (alt take)
[10] Summertime
Art Pepper (as)
Russ Freeman (p)
Chuck Flores (b)
Ben Tucker (ds)
アート・ペッパーの代表作というと「Meets The Rhythm Section」が挙げられることが多い。確かにあちらのサイド・メンは世界一名前の売れたリズム・セクションだし演奏そのものももちろん素晴らし。一方、このアルバムはのサイド・メンは知名度が低くピアノの軽快さが耳に残る程度。しかし、ことアート・ペッパーのアルトの鳴りっぷりに関してはこちらの方が上でサイド・メンが控え目なことがむしろ吉と出ている。ベースとのデュオによる[1]を聴いただけでペッパーの閃きに満ちた湧き出るような才能が十分すぎるほど伝わってくるはず。というか、その[1]と[8]こそがハイライトではないだろうか。尚、輸入盤は曲順が差し替えられているものがあり"Blues In"に始まり"Blues Out"で終わるはずのこの名盤がめちゃくちゃにされてしまっているので、ボーナストラック目当ての人以外にはお勧めできない。(2006年12月5日)

Meets The Rhythm Section

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1957/1/19

[1] You'd Be So Nice To Come Home
[2] Red Pepper Blues
[3] Imagination
[4] Waltz Me Blues
[5] Straight Life
[6] Jazz Me Blues
[7] Tin Tin Deo
[8] Star Eye
[9] Birks Works
Art Pepper (as)
Red Garland (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
多くのガイドブックで紹介されているだけに、ジャズ初心者が手に取る最初のペッパー作品がこのアルバムである可能性が高い。しかし、それはあまりに勿体ない。聴くのにお勉強や順番など関係ない、ただ純粋に音楽と接すれば良いというのは正論ではある。また、このアルバムの内容が、音楽的に初心者に難しいというわけでもない。しかし、このアルバムの価値を真に理解するのであれば、あえて同時期の他のアルバムを聴いて、これを後回しにすることを勧めしたい。なぜなら、このアルバムはリズム・セクションが強力すぎるから。もちろん、名盤扱いされている理由がペッパーという稀有なアルト奏者と、当時最強のリズム・セクションとの一期一会にあるということは周知の事実。最強と言っても力づくの最強ではなく、ペッパーを引き立てるために瞬時に合わせて演奏ができるという意味での最強であり、もちろんで出しゃばって邪魔をするようなことはなく、極めてバランス感覚に優れた完成度を誇っていることも、広く語り尽くされている。一方で同じ時期の他のアルバムはリズム・セクションが地味で、だからこそペッパーが際立つという良さがあって、ペッパーのファンならそれこそが本来の姿ということがわかっている。どちらが良いのか? 個人的には他のアルバムの「格落ち」リズムセクションの方がいい。一方でこのアルバムは「一回だけね」のスペシャルな魅力がある。野球で言えばWBCの日本代表みたいなもので、でも野球ファンは普段はチーム力が落ちる自分の贔屓のチームで野球を十分楽しんでいるのと同じように、スペシャルでなくともペッパーは十分に楽しめる。このアルバムだけを聴いているとそういうことがわからないし、このアルバムの本当の意味を理解できないと思う。だから、あえて「Modern Art」から聴くことをお薦めしたい。ペッパーの素晴らしさがわかれば、実はリズム・セクションのレベルにこだわる必要がないと個人的には思っている。(2010年8月28日)

The Trip

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1976/9/15

[1] The Trip
[2] A Song For Richard
[3] Sweet Love Of Mine
[4] Junior Cat
[5] The Summer Knows
[6] Red Car
[7] The Trip (alt take)
Art Pepper (as)
George Cables (p)
David Williams (b)
Elvin Jones (ds)
70年代のアート・ペッパーは50年代とはかなりテイストが違う。50年代はアルト・サックスらしい軽めのトーンを駆使したナイーブかつ小気味良いフレーズで唯一無二の個性を放っていたのに対して、70年代のペッパーは音域が広がってその個性は減退。その代わり、時にはコルトレーンばりのフリーク・トーンまで織り込んだ幅の広い表現を見せるようになった。このアルバムはそんな70年代のペッパーを楽しめる1枚。デヴィッド・ウィリアムズのちょっと電気がかったベースの音も70年代的だし、印象的なジョージ・ケイブルズの流麗なピアノも50年代とは明らかに違うムード。エルヴィンは控えめながら、すぐにそれとわかるゆったりグルーヴ感で時代を超越した存在感を見せる。いずれにしても50年代のペッパーとの落差は大きく、好みが分かれるところで、僕はそれぞれに良さがあることを認めつつ他にはない圧倒的な個性を放っていたという点で50年代のペッパーを支持。余談ながら、某大物評論家は「フル・トーンで鳴っている70年代のペッパーの方が素晴らしい」と言っている。その人が70年代のペッパーを支持することじたいはいいんだけれど、「フル・トーンで鳴っているから」という理由がいかにも可笑しい。音の出し方やフレージングに幅が出たからといって表現が素晴らしくなるとは限らないということを分かっていない人が大物評論家と認められていることに笑ってしまう。しかもこの人は50年代のペッパーが良いという人はペッパーがわかっていないとまで言う。評論家というのはそこまでして自分の感性を正当化しなくてはいけないものなんですかねえ。(2006年12月6日)

Saturday At The Village Vanguard

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1977/7/30

[1] You Go To My Head
[2] The Trip
[3] Cherokee
[4] For Freddie
Art Pepper (as, ts)
George Gables (p)
George Mraz (b)
Elvin Jones (ds)
自由に伸び伸びと演奏している70年代のペッパーを聴きたければ、このヴィレッジ・ヴァンガードにおけるライヴ音源がイイ。というわけでとりあえず聴いてみたのがこの土曜日。そして70年代のペッパーと言えば、太い音を含めた幅広いトーンが特徴で、かつての軽快さは後退、コルトレーンの影響が強く出ている。しかも、[3]は出だしこそいつもどおりのスピードのアルトで飛ばすものの、後半はテナー・サックスに持ち替えてペッパー流テナーのフレーズを紡ぎ出す。ここがこのアルバムの一番の聴きどころかも。全体を通してライヴらしい、ストレートな演奏を楽しめるし、エルヴィンの軽快さも心地良い。それでも、ベースとのデュオから始まり、ピアノの静かな伴奏が加わるだけ(ハイハットの刻みはある)のスローな、そしてかつての演奏に近い[1]が一番の聴かせどころと感じる僕は、やはり50年代のペッパーが好きなんだと再認識してしまう。(2017年5月3日