Rock Listner's Guide To Jazz Music


Wayne Shorter


Second Genesis

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
ショーター入門度:★★
評価:★★★☆
[Release Date]
1960/10/11

[1] Ruby & Pearl
[2] Pay As You Go
[3] Second Genesis
[4] Mr. Chairman
[5] Tenderfoot
[6] The Albatross
[7] Getting To Know
[8] I Didn't Know What Time It Was
Wayne Shorter (ts)
Ceder Walton (p)
Bob Cranshaw (b)
Art Blakey (ds)
Vee Jayレーベル時代の2枚目のリーダー・アルバム。録音こそルディ・ヴァン・ゲルダーでないものの、メンバーはブルーノート縁の強者ばかり。いや、ジャズ・メッセンジャーズとの関連が深過ぎるためにブルーノートならこの構成にはしないであろうメンバーによるワンホーン編成と言えるかも。全体的にブレイキーのリズム感が支配しており、そこにスマートに小切れ良くを推進するクランショウのベースと、脇に徹するウォルトンという編成が肌に合えば気に入るはず。自作曲中心ながらブルーノート時代よりもオーソドックスに、尚且つジャズ・メッセンジャーズとは違う独自色を打ち出したストレートなテナー、そして[6][8]のバラードに後の独特なムードが垣間見えるところが聴きどころ。後のアルバムのオリジナリティと比較するとまだまだの感はあり注目度も低いけれど、ショーターのファンなら聴いておきたい良作。(2012年2月19日)

Night Dreamer

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★☆
ショーター入門度:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1964/4/29

[1] Night Dreamer
[2] Oriental Folk Song
[3] Virgo
[4] Virgo (alt take)
[5] Black Nile
[6] Charcoal Blues
[7] Armagedon
Lee Morgan (tp)
Wayne Shorter (ts)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Elvin Jones (ds)
ブルーノートでの初リーダー・アルバム(それ以前に3作ある)。ジャズ・メッセンジャーズ脱退直前という時期で、そのメッセンジャーズの元メンバーであるリー・モーガンを迎え、リズム・セクションをコルトレーン・カルテットから拝借するというメンバー構成。モーガンがいるとはいえジャズ・メッセンジャーズとは明らかにムードが異なるのは曲調がまったく異なるから。また、リズム・セクションはこの時期のコルトレーン・カルテットのような激しい演奏ではなく、そうかと言って黒子に徹しているわけでもないというまっとうな演奏を展開。重量感あるドラムに流暢なピアノによるリズム感はやはりこの3人ならではで、アルバムのイメージを特徴付けることになっている。アクはそこそこでもミステリアスなショーター・カラーがしっかりと出た好盤。(2006年8月5日)
HDtracksより、96KHz/24bit音源を購入して聴いてみた。HDtracksではブルーノートのアルバムを次々にカタログに加えており、充実一途、中には「ん?こんなアルバムまで?」というものまでハイレゾ化が進んでいる。初期のカタログのものは曲間のインターバルが妙に間延びしているという問題があったとはいえ、リマスタリング、リミックスを施した新音源として非常に価値があるものが多かったのに対して、最近はオリジナル・マスタリング/ミックスのハイレゾ化がほとんどで、純粋にハイレゾ化の効果だけを売りにしている。このアルバムも同様でどれほど違うものかという興味で聴いてみた。結論から言うと、音の滑らかさは向上しているように感じる。特にトランペットやサックスの音はカドが丸くなったように聴こえる。ハイレゾ音源がアナログ(レコード)に近いと言われる所以はきっとこのあたりを指してのことなんでしょう。しかしながら、よ〜く聴き比べて「滑らかになったかも」程度の違いでもある。CDの2倍(192KHzだと3倍近い)の価格であることを考えるとその効果は限りなく小さい。ハイレゾ音源は、聴き倒した上に今でも聴きたくなるようなアルバムを、入手し得る最善の音で聴くことに満足度を得るためのものというのが僕の中の位置付けになりつつある。(2013年9月22日)

JuJu

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★☆
ショーター入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1964/8/3

[1] Juju
[2] Deluge
[3] House Of Jade
[4] Mahjong
[5] Yes Or No
[6] Twelve Or More Bars To Go
[7] Juju (alt take)
[8] House Of Jade
Wayne Shorter (ts)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Elvin Jones (ds)
ブルーノート第2弾は、前作「Night Dreamer」からモーガンが抜けただけのワンホーン・カルテット構成。音楽的には前作の流れを汲んでおり緊張感の中にも適度に肩の力が抜けた、そしてショーターならではの独特のムードがしっかりと漂う演奏となっている。ワン・ホーンなのでショーターのプレイがより堪能できるとともにマッコイの流麗なプレイがより浮かび上がってきている印象。エルヴィンは主戦場(コルトレーン・カルテット)での暴れっぷりからするとずいぶん控えめながら、相変わらず重量感ある複雑なグルーヴを創り出している。コルトレーンが既に大物扱いされていたときに、あえてこのメンツでワンホーンで臨むというのはなんという自信なんだろう。その自信通りに異質なものを生み出しているところはさすがと言えるんだけれど、個人的にはもうワン・パンチ足りない感じがする。(2009年10月18日)

Speak No Evil

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
ショーター入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1964/12/24

[1] Witch Hunt
[2] Fee-Fi-Fo-Fum
[3] Dance Cadaverous
[4] Speak No Evil
[5] Infant Eyes
[6] Wild Flower
[7] Dance Cadaverous (alt take)
Freddie Hubbard (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Elvin Jones (ds)
マイルス・グループ加入後数ヶ月を経た時期に録音されたこのアルバムは、メンツもこれまでとは変わってマイルス系新主流派でガッチリと固めてきた。曲や展開、演奏で特別アヴァンギャルドなことをやっているわけではないけれど、ショーター独特の怪しくもムーディなメロディが前面に出た曲と新主流派メンバーの演奏はフレッシュな感覚に満ちている。ハード・バップとはもう完全に別の世界で、バラードも凡庸な甘さとはまた違うショーターならではのミステリアスなムードが横溢、それがアルバムの個性になっている。ハバードのやや押さえ気味ながらシャープなトランペット、主役ショーターの独特のメロディとフレージングのテナーに魅力があるのに加え、ハンコックの瑞々しいピアノが印象的。[1]をはじめ、全体にのびやかで大柄なリズム感はトニー・ウィリアムスでは出せないフィーリングで、エルヴィンを起用したことこそがこのアルバムの成功のキー・ポイントだったと言える。どこから聴いてもジャズでありながら、他のどのジャズにも似ていないワン・アンド・オンリーの名品。(2006年8月5日)
ハイレゾ音源をHDtracksからダウンロードして聴いてみた。入手したのは 96KHz/24bit の音源。結論から言うとまったくの別物と言えるくらい違う。楽器の定位からして違い(ドラムはほぼ右のみに寄せられている)、トランペットとサックスの音が交じり合う部分でも音が混濁しない。個々の楽器の音の滑らかさとリアリティが大幅に向上。CDではシンバルの音がシャリシャリしていたところは抑えられ自然かつ緻密に響くようになっている。さすがハイレゾと絶賛したいところだけれど、このアルバムはハイレゾ化のために新たにリマスタリングをしており、その効果が出たもの。とはいえ、どんな理由であっても音質が素晴らしければ明らかにプラスであり、オーディオに力を入れている人なら買って後悔しないクオリティで。(2012年8月4日)

The Soothsayer

曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★☆
ショーター入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1965/3/4

[1] Lost
[2] Angola
[3] Angola (alt take)
[4] The Big Fish
[5] The Soothsayer
[6] Lady Day
[7] Valse Trise
Freddie Hubbard (tp)
Wayne Shorter (ts)
James Spaulding (as)
McCoy Tyner (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
この時期のショーターは、マイルス・グループの同僚であるハンコックやロン・カーターは良く起用していたにもかかわらず、ドラマーにはトニー・ウィリアムスではなくエルヴィン・ジョーンズやジョー・チェンバースを起用していた。そんな中、トニーを唯一起用したアルバムがコレ。というか、そういう扱いでしか紹介されることがないアルバム。では内容は悪いかと言えばまったくそんなことはない。曲([7]を除いてすべてショーター作)はいかにもショーターらしい独自のムードを持っているし演奏の質も完成度も十分に高く、ショーターもトニーも好きという人には強くお勧めしたい。マッコイが洗練されたプレイを聴かせつつコルトレーン・カルテットでの演奏のようなアクの強さを出していないため、ハバードのソロ・パートだけを聴いていると一瞬ハービー・ハンコックのリーダー・アルバムを聴いているような錯覚に陥る。つまりそういうことである。トニーを起用すると、どうしてもマイルス・クインテットやハンコックの「Mayden Voyage」のようになってしまう。中でもそのリズムの刻みの個性が際立つトニーをショーターが他のアルバムで起用しなかったのは、当然と言えば当然のことで、このアルバムがすぐに発売されなかったのもその類似性を嫌ってのことだったように思える。前述の通り、ショーターの個性が遺憾なく発揮された曲に、ハイレベルの演奏というわけで、類似性云々を気にしなければ実に素晴らしい。トニーのスピーディなリズムにマッコイのソロが乗るというのは他ではなかなか聴くことができないもので、このアルバムならではの個性にもなっている。ところでジャケットをデザインしている Toshikazu Tanaka ってどんな方なんでしょう?(2006年8月5日)

The All Seeing Eye

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1965/10/15

[1] The All Seeing Eye
[2] Genesis
[3] Chaos
[4] Face Of The Deep
[5] Mephistopheles
Freddie Hubbard
     (tp, flugenhorn)
Alan Shorter
     (flugenhorn on [5])
Grachan Moncur III (tb)
James Spaulding (as)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Joe Chambers (ds)
7人編成による、ショーターのリーダー・アルバムの中でも異色の前衛性を表に出した作品。新主流派メンバーを揃えてショーター流のグループ表現で織り成す先進的ジャズは今聴いても独自性十分。人数を生かした壮大なテーマと各人のアグレッシヴなソロに無調的なインプロヴィゼーションの組み合わせが基本で、コルトレーンの「Ascention」を少し連想させなくもない。それでも曲はそこそこコンパクトにまとめてあり、一線を越えそうで超えていないサジ加減もいい。繰り返し聴くのは体力が要るもののエネルギッシュな力作なのは間違いなく、特にハバード、ショーター、ハンコックのプレイの冴えっぷりは申し分ないしロン・カーターのベースもこの世界によく合っている。曲は [5] を除いてもちろんショーターの自作で、ショーター・ファン、新主流派ファンなら聴いておきたいアルバム。実兄アランが作曲、参加した [5] は呪術的なムードがあって重く、他の曲よりも一段とアブストラクト。(2006年8月5日)

Adam's Apple

曲:★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★★
評価:★★☆
[Recording Date]
1966/2/3 [1]
1966/2/24

[1] Adam's Aplle
[2] 502 Blues (Drinkin' and Drivin')
[3] El Gaucho
[4] Footprints
[5] Teru
[6] Chief Crazy Horse
[7] The Collector
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Reggie Workman (b)
Joe Chambers (ds)
「JuJu」と同様にワン・ホーン構成ながら、エイト・ビートを取り入れたり、[3] ではラテンっぽい曲に挑戦するなど新しい試みが見られ、「JuJu」とはだいぶ異なる雰囲気。なにしろ、いわゆる典型的なフォー・ビートを刻むベース・ラインが聴ける曲は皆無。そうかと言ってメンバー構成が近い「All Seeing Eye」のような前衛的なものではなく、むしろ整然とした中にもおおらかさすら感じられる聴きやすい内容。マイルス・グループでも取り上げた[4](本当はこういう作風にしたかった?)、[5]など、ショーターらしいメロディ・ラインはもちろん健在。僕はこの時期に流行ったエイト・ビートを取り入れたアコースティック・ジャズがあまり肌に合わなくて、このアルバムもその例に漏れず、あまりピンと来ない。(2006年8月5日)

Schizophrenia

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★☆
ショーター入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1967/3/10

[1] Tom Thumb
[2] Go
[3] Schizophrenia
[4] Kryptonite
[5] Miyako
[6] Playground
Wayne Shorter (ts)
James Spaulding (as, fl)
Curtis Fuller (tb)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Joe Chambers (ds)
ワン・ホーンものを製作したかと思えば今回はまた3管構成。60年代のショーターはワン・ホーンと人数の多い編成での録音を交互に繰り返している。意図的なのか結果的にそうなってしまったのかは不明だけど、この頃のショーターのワン・ホーンはいまひとつ印象が弱いと感じるのでこのアルバムのメンバー構成は歓迎。本作は、前作と似たリズム隊のメンバーということもあり、エイト・ビートの[1]を聴いたときにはただフロントの人数が増えただけの延長線的作品のような印象を持ってしまいそうになる。それでも、ハーモニーを活かしたショーターらしいメロディのムードを持ったスローな[2]、アップ・テンポでスリリング、新主流派ならではのフォー・ビート・ジャズを展開する[3][4](スポルディング作)、と続くうちにやはりこのアルバムにも相応の個性を嗅ぎ取ることができるようになってくる。一風変わったテーマの[6]のような普通でない感覚を持ちながら「All Seeing Eye」のように前衛的なところもなく聴きやすい。ショーターとハンコック以外には特に誰が目立つということはないけれど、スポルディングがフルートを多用していて巷の3管編成作品とは異なるムードと、ジョー・チェンバースのいつもどおり重さを伴う疾走感がアルバム全体のイメージを作り上げている。前「Adam's Apple」よりもスタイリッシュだし演奏もところどころアグレッシヴでジャズ・ロック時期の作品としてはなかなかの良作。(2006年8月6日)

Super Nova

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
ショーター入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1969/8/29
1969/9/2 [3] [6]

[1] Super Nova
[2] Swee-Pea
[3] Dindi
[4] Water Babies
[5] Capricorn
[6] More Than Human
Wayne Shorter (ss)
John McLaughlin
(g, classical guitar [2])
Sonny Sharrock (g)
Walter Booker
(classical guitar [3])
Miroslav Vitous (b)
Jack DeJonette
(ds, thumb piano)
Chick Corea (ds, vib)
Airto Moreira (per [3] [6])
Maria Booker (vo [3])
旧来のジャズが陳腐化してクロスオーバーな音楽がメインストリームになってきた69年、そんな時代にショーターが提示したのが本作。まず、特徴はショーターがソプラノ・サックスだけで通していること。3人のギターがアヴァンギャルドに入り乱れ、一聴くしてそれとわかるヴィトウスの攻撃的なベースとデジョネットのやかましいドラムがグループ全体を強烈にプッシュ、更にパーカッションが混沌を加速するというのが大まかな作り。そのロック的なムードにフリー・ジャズ的な演奏、そしてラテンのフィーリングが加わった本作はスローな曲でも独特な濃厚さが溢れ出ている。パーカッションに支配された曲も含め全編スリリングで、この時代でしか成しえなかったクロスオーバー・ミュージックであり、ある意味プログレッシヴ・ロック的な味わいまである。そして何よりも重要なことは今聴いても音楽がまったく色褪せていないこと。ショーターほど幅広くそして長くジャズに関わってきた人は稀にもかかわらず、リーダーとして歴史的な傑作といわれるアルバムが少ないせいか、特に50年代のジャズを偏愛する人からは二流サックス奏者扱いされることもある。そう言う人たちは、このアルバムのように他に代用品が見当らない素晴らしいクロスオーヴァー・ミュージックを理解できないというだけの話である。(2007年1月20日)

Moto Grosso Feio

曲:★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1970/4/3

[1] Moto Grosso Feio
[2] Montezuma
[3] Antigua
[4] Vera Cruz
[5] Iska
Wayne Shorter (ts, ss)
John McLaughlin (12 strings g)
Ron Carter (b, cello)
Miroslav Vitou? (b)
Dave Holland (ac-g, b)
Jack DeJohnette
              (ds, thumb piano)
Chick Corea (marimba, ds, per)
Micheline Pelzer (ds, per)
長いキャリアを誇るショーターなだけに、数多くの名盤、好盤がある一方でほとんど語られることなく、長らく廃盤というアルバムもあり、本作もそんな1枚。「Super Nova」と多くのメンバーが被っていることもあってサウンドの傾向は似ている。フリーに足を踏み入れつつ、曲はしっかり構成されている。ただし「Super Novaと比べるとグイグイ押し進むパワーや、エレキ・ギターの性急なフレージングによる緊張感とアグレッシヴな勢いはここにはない(アップテンポの曲はない)。では、弛緩して気の抜けた演奏かというとさにあらずで、穏やかなテンポでもマリンバやギターで空間を埋めるサウンドは不思議なムードを放ち、そこにショーターのソプラノ・サックスが怪しく浮遊する独自の世界を描き出している。表面的には抽象的でわかりにくいものの、内面から湧き出る緊張感があり、それを受け止めるためにはそれなりにメンタルが整っている状態を要求され、BGMには向いていない。表面的には尖りすぎたところがないにもかかわらず、親しみやすさがないところが低評価の理由に思えるけれど、このようなサウンドが好きな僕にとってはなかなかの好盤。(2011年3月27日)

Odyssey Of Iska

曲:★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1970/8/26

[1] Wind
[2] Storm
[3] Calm
[4] De Pois Amour, O Vazio
    (After Love, Wmptiness)
[5] Joy
Wayne Shorter (ts, ss)
Dave Friedman (vib, marimba)
Gene Bertoncini (g)
Ron Carter (b)
Cecil McBee (b)
Billy Hart (ds)
Al Mouson (ds)
Frank Cuomo (ds, per)
70年という時代ならではのクロスオーバー・ミュージックは、ショーターの音楽性にとても良く合っている。「Super Nova」の延長線にありながら、より抽象的かつミステリアスに進化。フォービートは消え、もはや旧来のジャズの概念は超えてしまったサウンド。サックスとギターのみがメロディ楽器という位置づけで他はすべてリズム楽器、打楽器という構成。しかしながらサウンドには淡い色彩感があり、それはリズム部隊が重要なサウンドを作り出していることを意味している。まるで印象派の絵画を見ているかのようなつかみどころのないカラフルさがサウンドの特徴で、そこを駆け抜けるショーターのソプラノが一筋の光のように輝いて聴こえる。確かに今となっては時代の産物と言えるかもしれないけれど、現代ではもう作り得ない音楽であることも確か。アドレナリンが出るような演奏は皆無で緊張感を強いるサウンドがやや人を選ぶかもしれない。ショーターが好きな人なら外せない一作。ブルーノート作品は最後まで駄作なし。(2014年2月8日)

Native Dancer

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
ショーター入門度:★★★
評価:★★★★
[Release Date]
1974/9/12

[1] Pontra De Areia
[2] Beauty And The Beast
[3] Tarde
[4] Miracle Of The Fishes
[5] Diana
[6] From The Lonely Afternoon
[7] Ana Maria
[8] Lilia
[9] Joanna's Theme
[1]
Milton Nascimento (vo, g)
Wayne Shorter (ss)
Jay Graydon (g)
Herbie Hancock (p)
Wagner Tiso (elp, org)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (ds)
[2]
Wayne Shorter (ss)
Herbie Hancock (p)
Jay Graydon (g)
Wagner Tiso (elp)
Roberto Silva (ds)
[3]
Milton Nascimento (vo, g)
Wayne Shorter (ts)
David Amaro (g)
Herbie Hancock (elp)
Wagner Tiso (org)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (ds)
[4]
Milton Nascimento (vo,g)
Wayne Shorter (ts)
David Amaro (g)
Wagner Tiso (elp, org)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (ds)
Airto Moreira (per)
[5]
Wayne Shorter (ts, p)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (per)
Airto Moreira (per)
[6]
Milton Nascimento (vo,g)
Wayne Shorter (ts,p)
David Amaro (g)
Wagner Tiso (elp)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (per)
[7]
Wayne Shorter (ts, p)
Wagner Tiso (org)
David Amaro (g)
Herbie Hancock (elp)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (per)
Airto Moreira (per)
[8]
Milton Nascimento (vo, g)
Wayne Shorter (ss, p)
Wagner Tiso (org)
Roberto Silva (ds)
Airto Moreira (perc)
[9]
Wayne Shorter (ss)
David Amaro (g)
Herbie Hancock (p)
Wagner Tiso (elp)
Dave McDaniel (b)
Roberto Silva (ds)
人間というのは自分にないものを求める生き物である。一般的な話としては、クセ毛の人が直毛に憧れたり、早口で滑舌良くしゃべれる人がもっと落ち着いてスピーチできるようになったらと願ったりするようなことが思い浮かんだりする。ミュージシャンの場合には、自分のルーツを深堀りしていく人がいる一方で、自分の属しているジャンルから拡散してエキゾチックな方向に行ったりする人がいて、それが「自分にないもの」を求める人に当てはまる。ジャズ・ミュージシャンがクラシックを取り入れたり、インド音楽を求めたり、ラテン音楽に取り組んだりするのは、自分の体内に宿っていないものへの興味拡大というよりは、体内にないものへの憧れに近いような気がする。そうした音楽性の拡大は新しいことへの挑戦である一方、本来のジャズの枠での表現に行き詰まったことによる逃げと言えないこともない。どちらと解釈できるかは結果がどうかにかかっている。そういう意味でこのアルバムは新しいことへのチャレンジと言えるのに十分な内容。成功の鍵は、真剣にブラジル音楽を探求しようと思っていないことにあると思う。ウェザー・リポートで積み上げてきたクロスオーバーサウンドにブラジル音楽を取り入れただけに過ぎないけれど、だからこそ個性を持つことができ、唯一無二の名盤になることができた。単なるブラジル音楽集団にショーターが参加しただけでは、こうはならないだろう。僕はかねがね言っているんだけれど、自分の本質でない音楽にチャレンジするきにはその「○○」という音楽そのものを目指すのではなく「○○っぽい」程度のある意味軽いノリで接した方が良い結果になると思っている。ただし前提条件があって、自己を確立している人でないと「○○っぽい」だけでは高い音楽性を備えることができない。つまり、こういう本当の意味でのフュージョン・ミュージックは一流が作らないと面白いもの、良いものにはなり得ない。それにしてもここで聴ける、清清しくも密度が高く、適度にエキゾチックな音楽の心地よさと言ったらどうだろう。息もつかせぬ緊張感とはまったく異なる路線ゆえにスリルとは対極にあり、しかしジャズやロックにスリルを求める僕ですら気持ちが豊かになる。ショーターのサックスもサウンドを見事に支えていて伸びやか。リラクゼーション・ミュージックとしてBGMに使うのもいいかもしれないけれど、正座して鑑賞するのにも十分堪える。これをショーターの最高傑作と評する人の気持ちもよくわかる高品質アルバム。(2015年5月12日)

Atlantis

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1985

[1] Endangered Species
[2] The Three Marias
[3] The Last Silk Hat
[4] When You Dream
[5] Who Goes There!
[6] Atlantis
[7] Shere Khan, The Tiger
[8] Criancas
[9] On The Eve Of Departure
Wayne Shorter (ts, ss)
Jim Walker
(fl, alto-fl, piccolo)
Yaron Gershovsky (p)
Michiko Hill (p)
Joseph Vitarelli (synth, p)
Michael Hoenig (synth)
Larry Klein (elb)
Ralph Humphrey (ds)
Alex Acuna (ds, per)
Lenny Castro (per)
Diana Acuna (vo)
Dee Dee Bellson (vo)
Nani Brunel (vo)
Trove Davenport (vo)
Sanaa Larhan (vo)
Edgy Lee (vo)
Kathy Lucien (vo)
74年以来、11年ぶりの自身のリーダー・アルバムは、その時間の飛躍がそのままサウンドに色濃く出たフュージョン・サウンド。あまりフュージョンが好きでない人が「ああ、あの毒にも薬にもならない軽いフュージョンの音ね」とイメージするそのもののサウンドがここにある。具体的にはコンプレッサーがかかった人工的なドラム・サウンドに、当時最先端のシンセベース的な奏法とキラキラしたデジタル・シンセサイザーは、まさにこの時代ならではの音。ハモンド(オルガン)やフェンダーローズ(エレピ)が21世紀になっても効果的に使われているのに対して、コンプがかったドラムサウンドと古色蒼然としたシンセの音は、今となってウケ狙いでも使われないほど陳腐化してしまっている。録音は恐らくポップスと同様に一発録りではなく、ベーシックトラックを入れて、各楽器の録音をして最後にミックスダウンする手法になっていると思われ、音楽から生々しさ、ダイレクト感が失われているのもこの時代のサウンドの特徴。このアルバムから「Joy Ryder」まではコロンビア三部作と言われていて、いずれもそんな80年代サウンドでショーターを聴くアルバムになっている。サウンドと録音は陳腐ではあるんだけれど、曲はしっかりしているしショーターらしさが全開、ショーターはもちろんバックも演奏の質は高いだけに、そんな軽々しい(当時はナウかった)サウンド・プロダクションが勿体ない。録音技術・手法の進歩が必ずしも音楽に良い影響を与えたわけではないんだというこに思いが及んでしまう。年齢を重ねて落ち着いたサウンドに身を委ねることの心地よさがわかるようになった今でも、この軽薄サウンドには退屈さが先行する。ただし、三部作の中ではこのアルバムまだ楽器の音にダイレクト感が残っているのが救い。(2020年5月1日)

Phantom Navigator

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
ショーター入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1986

[1] Condition Red
[2] Mahogany Bird
[3] Remote Control
[4] Yamanja
[5] Forbidden Plan-It!
[6] Flagship
[1]
Wayne Shorter (ts, ss, vo)
Gary Willis (elb)
Mitchel Forman (synth)
Tom Brechtlein (ds)

[2]
Wayne Shorter (ss)
John Patitucci (b)
Gary Willis (elb)
Stu Goldberg (synth)
Chick Corea (p)
Scott Roberts (per)
Bill Summers (per)

[3]
Wayne Shorter (ts, ss)
Alphonso Johnson (elb)
Jim Beard (synth)
Jeff Bova (synth)
Stu Goldberg (key)
Jimmy Bralower
(ds, per, programing)

[4]
Wayne Shorter (lyricon, ss)
John Patitucci (elb)
Stu Goldberg (synth)
Mitchel Forman (key, p)
Scott Roberts
(ds, per, programing)
Bill Summers
(ds, per, programing)
Ana Maria Shorter (vo)

[5]
Wayne Shorter (ts, ss)
John Patitucci (elb)
Jim Beard (synth)
Stu Goldberg (synth)
Scott Roberts
(ds, per, programing)
Bill Summers
(ds, per, programing)

[6]
Wayne Shorter (ts, ss)
Gregor Goldberg (vo)
Stu Goldberg (synth)
Mitchel Forman (key, p)
Scott Roberts (per)
コロンビア三部作の第二弾は、さらに80年代色が強まっている。ドラムサウンドは生音には程遠い加工された音で、シンセサイザーの導入もより大胆に。ベースの音(とグルーヴ感)をあまり前面に出さないのもこの時代のトレンドに沿ったもの。自分がもっとも多感だった10代のときに流行ったサウンドであるにもかかわらず、この加工されすぎた音が好きでない僕にとって、古臭さしか感じないサウンドのせいでで肝心の音楽が心に入ってこない。そこには目を瞑って聴いてみると、音楽のクオリティは高く、演奏の質も高いことに気付かされる。曲とソプラノ・サックスの音はショーター以外には作り得ないもので、(反論を承知の上で言うと)同時代のマイルス・デイヴィスよりも音楽としては進んでいるし、最新トレンドへの向き合い方は突き抜けているように思う。ショーターのファンなら聴いて損はない(2020年10月11日)

Joy Ryder

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★
ショーター入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1987/Oct

[1] Joy Ryder
[2] Cathay
[3] Over Shadow Hill Away
[4] Anthem
[5] Causeways
[6] Daredevil
[7] Someplace Called "Where"
Wayne Shorter (ts, ss)
Patrice Rushen (key)
Geri Allen (key [1]-[3][5][7])
Herbie Hancock (key [4][7])
Nathan East (elb)
Darryl Jones (elb [4][6])
Terri Lyne Carrington (ds)
Dianne Reeves (vo [7])
バリバリのフュージョン路線三部作を締めるこのアルバムも、キラキラしたシンセを中心に音作りはもちろん80年代のトレンドに則ったもの。まあ、ここは今更嘆いても仕方ない。三部作いずれも散漫なところはなく、曲も演奏もショーターらしさに溢れた作品として、安定感は抜群。立て続けに同じ路線で制作してきたこともあってか、バックメンバーが異なっていても、このアルバムが特に安定感があるように思う。ただし、ショーターのソプラノは前作ほど弾けていないこともあって、バンドとしての表現に心を砕いた感じもある。それ故に、この80年代サウンドに身を委ねることができるかどうかがポイントになってくる。個人的には、女性らしからぬ重量感が魅力のテリ・リン・キャリントンのドラムの音が軽々しく処理されているのがやや残念ではあるけれど、それも全体のまとまり、バランスを考えると納得できるところではある。三作続けてきたこの路線で、やり尽くしたと思ったかどうかは定かでないけれど、ショーターが次のリーダーアルバムを制作するまでには実に8年もの歳月を要することになる。(2021年2月13日)

High Life

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★
ショーター入門度:★★
評価:★★★☆
[Release Date]
1995/10/17

[1] Children Of The Night
[2] At The Fair
[3] Maya
[4] On the Milky Way Express
[5] Pandora Awakened
[6] Virgo Rising
[7] High Life
[8] Midnight in Carlotta's Hair
[9] Black Swan
Wayne Shorter (ts,ss)
Rachel Z (key)
Dave Gilmore (g)
Marcus Miller (b)
Will Calhoun (ds)
Terri Lyne Carrington (ds [8])
Lenny Castro (per)
Munyungo Jackson (per [8])
Kevin Ricard (per [8])
Dave Ward (arr)
and ensamble
マーカス・ミラーをプロデューサーに据えて製作されたフュージョン・アルバム。穏やかなアンサンブルに包まれた耳あたりの良いサウンドで仕上げられているものの、質は高く、ただのイージー・リスニング音楽にはなっていないところはさすが。[1]はかつてのジャズ・メッセンジャーズの名曲ながら利用しているのはメロディのごく一部だけで予備知識なく同じ曲とわかる人はまずいないであろう別モノ。とはいえ、それが良いかどうかはまた別の話ではある。後追いリスナーとしては後のアルバム「Alegria」の原型はこんなところにあったんだというのが正直な感想。でもウェザー・リポートのときのショーターよりはこちらの方が自分の個性を出せている感じがして好ましい。リラックスしたいときに聴く音楽には違いないので、スリルや怪しいムードを求める人は別のアルバムをどうぞ。(2011年1月11日)

Footprints Live!

曲:★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2001/July

[1] Sanctuary
[2] Masqualero
[3] Valse Trise
[4] Go
[5] Aung San Suu Kyi
[6] Footprints
[7] Atlantis
[8] Juju
[9] Chief Crazy Horse
Wayne Shorter (ts, ss)
Danilo Perez (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)
7年ぶりの新作としてリリースされた2002年の作品。当時の僕はまだジャズを聴き始めたばかりで、ここに収録されている数々の有名曲のオリジナルを知らずにこのアルバムを手にしていた。しかし、独自のサックスの音色とフレーズ、そしてあくまでもショーターを中心にしながらも曲を解体して緊張感を高める他のメンバーと共に織り成す一種のフリー・ジャズに心を躍らせ、既に70歳手前の年齢にもかかわらず枯れるどころか独自の音楽を展開しているショーターに感銘を受けたものだった。僕の経験上、ロックにしてもジャズにしても一番輝いていた黄金時代に作られた作品こそが素晴らしいと思っていて、ジャズについても新作として購入したものはたいていはつまらなくて聴かなくなってしまうことが殆どなんだけれど、このアルバムは例外で現代の音楽として充分通用する力があると思う。尚、収録されている有名曲はオリジナル曲のメロディが少し顔を覗かせる程度で完全に解体されているので「知っている曲がたくさん入っている」という理由で買うのはオススメできない。(2006年8月6日)

Alegria

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★☆
ショーター入門度:★★★
評価:★★★☆
Released in 2003

[1] Sacajawea
[2] Serenata
    (Leroy Anderson)
[3] Vendiendo Alegria
    (Milka Himel-Joso Spralja)
[4] Bachianas Brasileiras No.5
    (Heitor Villa-Lobos)
[5] Angola
[6] Interlude
[7] She Moves Through The Fair
[8] Orbits
[9] 12th Century Carol
    (Anonymous)
[10] Capricorn II
Wayne Shorter (ts, ss)
Danilo Perez
 (p [1][3][7][9][10])
Brad Mehldau (p [2][5][8])
John Patitucci (b)
Brian Blade
  (ds [1][2][6][7][8][10])
Terri Lyne Carrington
  (ds [3][5][9])
Alex Acuna (per [3][4][5][9])
レギュラー・カルテットを中心に、曲によってはメンバーを入れ替えホーン・アンサンブルを加えたスタジオ録音。前作「Footprints Live!」と較べると、スタジオ録音ということもあり荒々しさは後退。それでもレギュラー・カルテットによる演奏はやはりタイム感覚が独特。ブローするよりもメロディーとムード作りに主軸を置いたショーターのサックスにホーン・アンサンブルを加えることによって統制と優美さを得ることに成功しており、またしてもワン・アンド・オンリーの世界を創り上げてしまったという感じ。[5][8][10]といった過去に取り上げた曲は別の曲として生まれ変わっているけれど、ショーターにとっては過去の曲も今の曲として連続性があるのかもしれない。(2006年8月5日)

Beyond The Sound Barrier

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2002/Nov-2004/Apr

[1] Smilin' Through
[2] As Far As The Eye Can See
[3] On Wings Of Song
[4] Tinker Bell
[5] Joy Ryder
[6] Over Shadow Hill Way
[7] Adventure Aboard
                 The Golden Mean
[8] Beyond The Sound Barrier
Wayne Shorter (ts, ss)
Danilo Perez (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)  
ミュージシャンには旬というのがある。いわゆる脂が乗っている時期というヤツで、殆どの場合、若い時期に頭角を現し始めてから名声を確立するまでの段階がそこに該当する。その後、いかに下降線の角度を緩やかにすることができるかでミュージシャンとしての寿命が決まる、というのが僕の意見。ウェイン・ショーターはジャズ・メッセンジャーズで輝きを見せはじめ、マイルス・クインテットで創造性が最高潮に達した。その後の下降線はかなり緩やかであることが息の長い活動を可能にしているのだけれど、近年のショーターはまた上昇カーブを描いているのではないかと思えるほどその音楽は斬新。過去に引きずられた路線でなく独自のフリー・ジャズを展開しているところが素晴らしい。もちろん、このようなキレのあるリズムを必要としていないスタイルは年齢を隠すには都合が良いのは事実だし、サックスのフレーズに衰えを感じないこともないけれど、表現しようとしている音楽がユニークであることの方が重要。このカルテットによる演奏はそんな独自のパワーが漲っている。(2006年11月27日)

Without A Net

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2011/Unknown
2010/12/8 [6]

[1] Orbits
[2] Starry Night
[3] S.S. Goalden Mean
[4] Plaza Real
[5] Myrrh
[6] Prgasus
[7] Flying Down To Rio
[8] Zero Gravity
    To The 10th Power
[9] (The Notes) Unidentified Flying
     Objects
Wayne Shorter (ts, ss)
Danilo Perez (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)

[6]
The Imani Winds:
Valerie Coleman (fl)
Mariam Adam (cl)
Toyin Spellman-Diaz (oboe)
Monica Ellis (bassoon)
Jeff Scott (frh)
21世紀に入ってから、活動の中心となっているレギュラー・カルテットによる少々インターバルが空いてのライヴ盤3枚目。基本的な路線は「Footprints Live!」「Beyond The Sound Barrier」と変わっていない。そういう意味で今となっては斬新さに欠けるので、それらを聴いてきた人が更に聴く価値があるかという観点で書いてみよう。もちろん従来路線が大好きという熱心な愛好家には安心して勧められる。その2枚でもう十分という人に新たな魅力を感じさせるものがあるのか。結論から言うと、見方によってあるとも言えるしないとも言える。先に書いた通り、基本的な路線は変わっていないから。それにサックス奏者としてのショーターはさすがにもう力量は落ちている。ほとんどソプラノ・サックスしか吹いていないのはテナーだと粗が見えやすいという理由もあるように思える。また、リズム感の衰え(2007年10月の国際フォーラムで確認済み)はリズムが解体されたこのカルテットの演奏では表面化しない。このカルテットは極めてオリジナリティが高いことは確かながら、ショーターはもうこういう曖昧なリズムの音楽しか演奏できない。ここまでを結論とするのなら、この「3枚目」には新しい魅力はない。でも、歳を考えたら当たり前のことなのだから、それは決してネガティヴなことじゃないと僕は思う。むしろ、そんな歳になっても自分の音楽は発展させてくれる若手がリスペクトしてついてきていること、衰えたとはいえ音だけでもショーターとすぐにわかるオリジナリティを持っていること、このようなアブストラクトな音楽をやろうという音楽への熱意があることこそが賞賛されるべきだと僕は思う。そのように考えられるのであればこの「3枚目」はまだ大いに価値がある。カルテットのインタープレイはより複雑かつ柔軟になり、その絡み方は有機的で深化している。そして、木管アンサンブルを加え、唯一「作られた曲」として収録された23分にも及ぶ[6]は、「Alegria」との中間的な音楽性を持った発展路線と言える。演奏技術が落ちたとしても音楽家としてのエネルギーには聊かの衰えを感じないところは実に立派。(2013年3月9日)

Live At The Detroit Jazz Festival / Wayne SHorter,Leo Genovese, Esperanza Spalding, Terri LyneCarrington

曲:★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
ショーター入門度:★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2017/9/3

[1] Someplace Called "Where"
[2] Endangered Species
[3] Encontros e Despedidas
[4] Drummers Song
[5] Midnight in Carlotta's Hair
Wayne Shorter (ts, ss)
Leo Genovese (p, key)
Esperanza Spalding (b, vo)
Terri Lyne Carrington (ds)
2017年にデトロイト・ジャズ・フェスティバルのレシデンス・アーティストを務めたショーターは、ダニーロ・ペレス、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドとのレギュラー・カルテットでの演奏に加えて、その場限りの即席カルテットとしてレオ・ジェノヴェーゼ(この3ヶ月前に亡くなったジュリ・アレンの代役)、エスペランザ・スポルディング、テリ・リン・キャリントンとのカルテットでも演奏した(もうひとつオーケストラとのステージは悪天候でキャンセル)。そのときにライヴ・レコーディングをしたのが本作で、ショーターのリーダー・アルバムではなく4人の共同名義になっている。事前のリハーサルが a few times と言われていることからも想像できるように、演奏はフリー・フォーム(他項目でも書いている通り高齢のショーターは定形リズムでの演奏は厳しい)でレギュラー・カルテットと方向性はそう違いはなく、他のメンバーの資質の違いそのまま違う結果をもたらしている。ダニーロ・ペレスより若いジェノヴェーゼのピアノはより整っていて流暢に流れ、テリ・リン・キャリントンのドラムはブライアン・ブレイドより重くてシャープ、故にタイム感覚がやや異なる。エスペランザ・スポルディングの掴みどころのないスキャットのような歌が演奏のクオリティを引き上げているとは思えないが、スターが華を添えていると思えばまあ気にならない。ショーターは当時84歳だったことを考えると、なかなかのパフォーマンスでフィジカルが衰えていても感性は変わっていないことに驚く。個人的にはキャリントンのドラムでショーターを聴けるという意味でなかなかの好盤。(2023年2月12日)