Rock Listner's Guide To Jazz Music


Vocal


Yesterday I Had The Blues-The Music Of The Billie Holiday

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★
Released in 2015

[1] Good Morning Heartache
[2] Body And Soul
[3] Fine And Mellow
[4] I Thought About You
[5] What A Little Moonlight Can Do
[6] Tenderly
[7] Loverman
[8] God Bless The Child
[9] Strange Fruit
Jose James (vo)
Jason Moran (p, elp)
John Patitucci (b)
Eric Harland (ds)
2011年1月にブルーノート東京で「マッコイ・タイナー・トリオ・ウィズ・スペシャル・ゲスト・エリック・アレキサンダー&ホセ・ジェイムズ、ミュージック・オブ・ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン」(長い!)という企画があり、観に行った。このときは、「こんな企画なので思う存分コルトレーンやらせてもらいます」的なエリック・アレキサンダーに期待してライヴに行った(実際、高齢のマッコイはもうヨレヨレだった)んだけれども、そこでジョニー・ハートマンの代役を務めていたのがこのホセ・ジェイムだった。ハートマンほど懐の深い低音ヴォイスではなく、メロディの崩し方のアプローチも違うけれど、独特の低い声を聴かせて立派に代役をこなしていた。この「Yesterday I Had The Blues」は、ビリー・ホリデイの愛唱歌を歌うというコンセプトで作られたアルバムで、最後にはアカペラ(バックのハミングのみオーバーダブされている)で"Storange Fruits(奇妙な果実)"が収められている。僕はビリー・ホリデイを聴いていると貧困から這い上がってきた彼女の人生や、黒人差別と戦ってきたところなど、苦悩を背負った生き方がその歌からのしかかってきてちょっと気が滅入ってしまう(エディット・ピアフにも)。だから彼女の歌をホセで聴いてみたいという思いはなくて、純粋にホセのオーソドックスなジャズ・ヴォーカルが聴いてみたくてこのCDを手に取った。このアルバムは現ブルーノートの社長、ドン・ウォズが自らプロデューサーを務めており、ジャケットも往年のブルーノートのテイストで、純粋なジャズ・アルバムとして気合が入ったものであろうことがなんとなく想像できる。ホセの声の魅力を最大限に活かすべく、1曲を除いてすべてスロー・バラードとコンセプトは徹底している。ヴォーカルは、セクシーで甘く、しかしどこかに骨太で芯の通ったところがあり、独特のヴィブラートとメロディの崩し方で個性を主張する。バックはピアノがジェイソン・モラン、ベースがジョン・パティトゥッチ、ドラムがエリック・ハーランドという一流プレイヤーばかりで、最近のジャズ・ミュージシャンはあまりブルース色の強い演奏をする機会はないと思うけれど、ベタなブルースを演奏しても濃厚なフィーリングを表現できており、その安定度と余裕と遊び心には舌を巻く他ない。中でも唯一のアップテンポ曲である[5]におけるピアノ・トリオ演奏部はとてもレベルが高く、ピアノ・トリオをあまり好まないこの僕が、この3人だけでアルバムを作って欲しいと思ったほど。また録音は極上で、歌も楽器もリアリティ十分なところも素晴らしい。歌の節回しとネットリさが個性的なので合わない人もいるかもしれないけれど、男性ジャズ・ヴォーカルをじっくり聴きたい人にはお勧めできる。(2015年5月25日)