Rock Listner's Guide To Jazz Music


Bass


Pithecanthropus Erectus / Charlie Mingus

曲:★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
1956/1/30

[1] Pithecanthropus Erectus
[2] A Foggy Day
[3] Profile Of Jackie
[4] Love Chant
J.R. Moterose (ts)
Jackie McLean (as)
Mal Waldron (p)
Charlie Mingus (b)
Willie Jones (ds)
チャールズ・ミンガスは異色、個性的、ユニークなミュージシャンである。ビ・バップの時代から活躍してきた伝統的ジャズを背景に持ちながら、自身が作ったグループの発散するムードは他に類を見ない独自の革新性と、洗練とは縁遠いコッテリとした味わいがある。そんなミンガスの個性がもっとも出ているのが本作ではないだろうか。ここでは部分的にはオーソドックスなところがあるとはいえ、フリー・ジャズを先取りしたかのようなものがあって全体的に漂う空気には独特の異様さが漂う。フリーク・トーンを鳴らすジャッキー・マクリーンとダークなトーンのマル・ウォルドロンの印象が強く、モンテローズのオーソドックスで軽めのテナーまでもが怪しげに聴こえてくる始末。そこにミンガスのぶっといベースが鼓動を与えることで、油っこさと泥臭さが注入される。その泥臭さはブルースの持っている泥臭さとはまた違ったミンガスだけが発散するもので、鍛え上げた肉体を持つアスリートの汗臭さ言った方が正しいかもしれない。サイド・メンは自分の個性を出すことよりも、いかにミンガスの意図を理解して手足のように音楽を奏でることができるかに注力している印象を受け、良く言えばミンガスのリーダーシップによって統制が取れた、悪く言えばプレイヤーの個性が薄い演奏となっている。あまり日本人が好むタイプの音楽ではないと思えるけれど、クセの強さは一級品なのでアクを求める人はトライしてみてもいいんじゃないだろうか。これが56年の録音であることに驚いてしまう。(2006年11月20日)

Third Plane /Ron Carter/Herbie Hancock/Tony Williams

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1977/7/13

[1] Third Plane
[2] Quiet Times
[3] Lawra
[4] Stella By Starlight
[5] United Blues
[6] Dolphine Dance
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
3人の名義ながら、ロン・カーター手動によるお馴染みトリオによるアルバム。時期的には V.S.O.P 活動が軌道に乗り始めたころ、恐らくツアーの最中に録音されたと思われるもので、バービー・ハンコック名義の「The Quintet」のライヴ録音の3日前。そんなこともあってか、曲も[1][3]が重複している。いい意味でも悪い意味でもこの3人ならではの演奏で、個々の演奏、そしてコンビネーションもレベルは高い。あえて特徴を述べるとするならば、トニー作の[3]、ハンコック作の[6]以外はロン・カーターのオリジナルで構成されており、演奏もベースがリードしているところが多いこと。インナー・ジャケットの写真もロンだけ大きい。もうちょっとトニーが暴れてくれていれば、個人的にはより楽しめたんだけれど、ここでは脇に回ったということなんでしょう。同じセッションでハンコック名義となっているトリオの方は未聴ながらかなりトニーがアグレッシヴとのこと。(2012年9月23日)

Bass On Top / Paul Chambers

曲:★★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1957/1/14

[1] Yesterdays
[2] You'd Be So Nice To Come Home
To
[3] Chasin' The Bird
[4] Dear Old Stockholm
[5] The Theme
[6] Confession'
Kenny Burrell (g)
Hank Jones (p)
Paul CHambers (b)
Art Taylor (ds)
50年代のモダン・ジャズで、ポール・チェンバースほど多くの録音を残した人はいない。それはベーシストとしての卓抜した力量と安定感を買われていたからであることは言うまでもない。しかし誰のセッションに招かれても良い仕事ができていしまうということはチェンバース自身に強烈な音楽性やベース・プレイじたいにエキセントリックな個性があったわけではなかったということでもある。そんなスーパー脇役ベーシストのリーダー・アルバムを作るというのは実はかなり矛盾に満ちた難題になる。事実、これ以前のチェンバースのリーダー・アルバムを聴く限り、チェンバースがリーダーでなければならなかった理由を見つけるのは難しい。それでもアルフレッド・ライオンはなんとかしようと考えた。ホーンは排除、ジャズの世界では脇役のギターと地味なピアニストに堅実なドラマーを揃え、いかなるときにでもチェンバースのベースが耳に入ってくる仕掛けを作り、もちろんソロのスペースもたっぷりと用意する。時にはベース・ソロに合わせてギターとピアノがサポートするという徹底した演出。結果、誰が聴いてもチェンバースがリーダーであることがわかるアルバムが完成した。チェンバースはアルコでもピチカートでもメロディアスに歌う。メロディアスであるために「あのギーコギーコはどうも」という人にも意外と聴けてしまう。ケニー・バレルの都会的なギター、転がるハンク・ジョーンズのピアノ、決して自己主張しないアート・テイラーの脇役ぶりが、元祖脇役のチェンバースを持ち上げるというの異色のジャズ・アルバム。ベースがリーダーのアルバムとしてこんなにうまく企画されたアルバムはなかなかない。(2007年1月8日)

Infinite Search / Miroslav Vitous

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1969/Nov

[1] Freedom Jazz Dance
[2] Mountain In The Clouds
[3] When Face Gets Pale
[4] Infinite Search
[5] I Will Tell Him On You
[6] Epilogue
Joe Henderson (ts)
John McLaughlin (g)
Herbie Hancock (elp)
Miroslav Vitos (b)
Jack DeJohnette
         (ds except [6])
Joe Chambers (ds [6])
チェコ出身の異色ベーシスト、ミロスラフ・ヴィトウスのリーダー作。この時代は欧州出身の白人プレイヤーがアメリカのジャズ・ミュージシャンに迎えられていた時代。ジョン・マクラフリンやデイヴ・ホランドなどが代表格。この人のベースはホランドと同じように、アグレッシヴで、太く歯切れ良いサウンドに特徴がある。ここでは時代相応のジャズ・ロック的サウンドに太いアコースティック・ベースが切れ込む様が実にカッコいい。共演者もマクラフリンにジャック・デジョネット、そしてエレピを弾くハービー・ハンコックと、ロック的ジャズを演奏するのに申し分ない豪華メンバーで、これで演奏がスリリングにならないはずがない。「Miles Smiles」の名演で余りにも有名な[1]は、よりジャズ・ロック的に迫る。もちろん全編にヴィトウスの迫力あるベースがフィーチャーされていて、2分弱の短編である[2]をはじめ全編、張り詰めた緊張感がある。フリー・ジャズ的な曲も織り交ぜながら展開される音空間は、どこかウェイン・ショーターの「Super Nova」と共通するムードがあるのはメンバーが重複しているので当然か。ヴィトウスのウッド・ベースは50年代にはありえなかった先進的なものだったし、今聴いても斬新と思える。(2006年11月20日)

Jaco Pastrius

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Release Date]
1976

[1] Donna Lee
[2] Come On, Come Over
[3] Continuum
[4] Kuru/Speak Like A Child
[5] Portrait Of Tracy
[6] Opus Focus
[7] Okonkole Y Trompa
[8] (Used To Be A) Cha-Cha
[9] Forgotten Love
[10] (Used To Be A) Cha-Cha
[11] 6/4 Jam
[1]
Jaco Pastorius (b)
Don Alias (conga)

[2]
Sam Moore (vo)
Dave Prater (vo)
Randy Brecker (tp)
Ron Tooley (tp)
Peter Graves (btb)
Michael Brecker (ts)
David Sanborn (as)
Howard Johnson (bs)
Herbie Hancock
(clavinet, fender rhodes,
                        elp)
Jaco Pastorius (b)
Narada Michael Walden
                     (ds)
Don Alias (conga)

[3]
Herbie Hancock
(clavinet, fender rhodes,
                        elp)
Alex Darqui
    (fender rhodes, elp)
Jaco Pastorius (b)
Lenny White (ds)
Don Alias (conga)

[4]
Herbie Hancock (p)
Jaco Pastorius (b)
Bobby Economou (ds)
Don Alias (conga)
David Nadian (violin)
Harry Lookofsky (violin)
Paul Gershman (violin)
Joe Malin (violin)
Harry Cykman (violin)
Harold Kohon (violin)
Stewart Clarke (viola)
Manny Vardi (viola)
Julian Barber (viola)
Charles McCracken
                  (cello)
Kermit Moore (cello)
Beverly Lauridsen (cello)

[5]
Jaco Pastorius (b)

[6]
Wayne Shorter (ss)
Herbie Hancock
(fender rhodes, elp)
Othello Molineaux
          (steel drums)
Leroy Williams
          (steel drums)
Jaco Pastorius (b)
Lenny White (ds)
Don Alias (conga)


[7]
Jaco Pastorius (b)
Peter Gordon
         (french horn)
Don Alias
  (okonkoko iya, conga,
   afuche)

[8] [10]
Hubert Laws
        (piccolo, flute)
Herbie Hancock (p)
Jaco Pastorius (b)
Lenny White (ds)
Don Alias (conga)

[9]
Herbie Hancock (p)
David Nadian (violin)
Harry Lookofsky (violin)
Paul Gershman (violin)
Joe Malin (violin)
Harry Cykman (violin)
Harold Kohon (violin)
Stewart Clarke (viola)
Manny Vardi (viola)
Julian Barber (viola)
Charles McCracken
                  (cello)
Kermit Moore (cello)
Beverly Lauridsen (cello)
Matthew Raimondi
                 (violin)
Max Pollinkoff (violin)
Arnold Black (violin)
Al Brown (viola)
Alan Shulman (cello)
Richard Davis (bass)
Homer Mensch (bass)

[11]
Herbie Hancock
  (fender rhodes, elp)
Jaco Pastorius (b)
Lenny White (ds)
Don Alias (conga)
僕はジャコの良い聴き手ではない。テクニック、センスについてどうのこうの言うつもりは毛頭なく、それどころかただただ素晴らしいとさえ思う。その演奏はベースの範疇を超えてしまっていて、その結果、ベースらしさがなくなってしまっている。そんなところに僕の音楽観が付いていけないらしい。ジャコの活動で最も評価されているウェザー・リポート(というかとジョー・ザヴィヌル)があまり好きでないことも印象を悪くしている原因かもしれない。そんなジャコの最初のソロ・アルバムは、豪華なゲストを迎えてハービー・ハンコックの全面バックアップによって造られている。参加メンバーのバラつきから予想できる通り、ファンク風のものからシンフォニックなものまである程度散漫になるのは仕方がないものの、ジャコとハンコック(とドン・エイアスも)がそれをつなぎ止めている。演奏も音楽のスタイルも76年という時代を反映したものだけに、今となってはサウンドは目新しくはないけれど、音楽そのものはまったく色褪せていないし、何よりも音楽性そのものは高く、気持ちよく演奏を楽しめる。ウェザー・リポートが苦手な僕がジャコを楽しみたいときに、これ以上のアルバムはない。ビ・バップ時代の有名曲を[1]をこんな風にベースで聴かせてしまうセンスとテクニックに感服。ボーナストラックはなくても良かったかも。(2010年9月4日)

Junjo / Esperanza Spalding

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2005/4/6,7

[1] The Peacocks
[2] Loro
[3] Humpty Dumpty
[4] Mompouana
[5] Perazuan
[6] Junjo
[7] Cantora de Yala
[8] Two Bad
[9] Perazela
Esperanza Spalding
                   (b, elb, vo)
Aruan Ortiz (p)
Francisco Mela (ds)
歌う女性ジャズ・ベーシストとして名を馳せるエスペランサ・スポルディングのデビュー・アルバム。若くしてバークレー音楽院の教壇に立ち、グラミー賞も受賞、数多くの有名ミュージシャンにも称賛される才女として今では高い評価を受ける彼女は、このアルバムの後にシンガーとしての主張を強めたポップ志向のアルバムを出したり、室内楽的なアルバムを出したりと、ジャズの枠に囚われない音楽活動を行っている。その音楽は、アヴァンギャルドを志向していないものの、凡百の才能ではできない複雑味を持ったもの。このデビュー・アルバムもピアノ・トリオの基本形態を取り、時折スキャットを織り交ぜて耳あたりこそ良いものの、その音楽は複雑で、聴き手を唸らせる。しかし、溢れる才能を音楽に詰め込もうとの思いが強いすぎるのか、悪い言い方をすると素直さのないこじれた、否、こじれまくった音楽で、その手の音楽が好きな僕でさえも聴いていて疲れてしまうのも事実。豊かな才能が話題になりつつも、一般的人気に結びつかないのもその気難しさゆえのこと。これも若さゆえのことだとしたら、もう少し円熟して、あるいは枯れてきたときに、素晴らしい作品を出すのではないかという気にもさせられる。尚、このアルバムはピアノ・トリオ形態のジャズで、こじれ具合も後のアルバムと比べるとまだ控えめ。(2020年2月23日)