Rock Listner's Guide To Jazz Music


Group・Other


Weather Report

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1971/2/16-18
1971/2/22
1971/3/17

[1] Milky Way
[2] Umbrellas
[3] Seventh Arrow
[4] Orange Lady
[5] Morning Lake
[6] Waterfall
[7] Tears
[8] Eurydice
Wayne Shorter (ss)
Joe Zawinul (key)
Miroslav Vitous (b)
Alphonse Mouzon (per)
Airto Moreira (per)
ジャコ・パストリアスが在籍していたときが黄金時代ということになっていることもあってか、このデビュー・アルバムが大きく取り上げられることは少ない。サウンドの感触もかなり違っていて「Heavy Weather」のようなわかりやすいフュージョンというよりは、マイルス・デイヴィスの「In A Silent Way」やウェイン・ショーターの「Super Nova」を通過した、71年という時代ならではの新感覚ジャズ・ロックという趣になっている。ジョー・ザヴィヌルのカラーはまだそれほどは前面に出ていないものの、鋭いエレピのバッキングを随所で決めていて実にカッコよく、ショーターのソプラノ・サックスが絡むことでそれが更に独自の世界となる。特に[1][4][5]のようなドラム・ビートのない、音空間を最大限に生かした曲でそれが顕著で、他の曲も基本的には音空間を重視したサウンドが中心。その分、ミロスラフ・ヴィトウスの前のめり気味なベースの出番は少なく、しかしそんなサウンドこそがこのデビュー・アルバムの持ち味になっている。このスペイシーなジャズ・ロックは、世間一般にイメージされている安楽なフュージョンとは一味違っていてむしろ難解。じっくり聴き込んで細かいニュアンスまでを味わいたい、地味なスリルを備えた1枚。(2007年4月20日)

Live In Tokyo / Weather Report

曲:★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1972/1/13

Disc 1
[1] Medley:
 Vertical Invader
 Seventh Arrow
 T.H.
 Doctor Honoris Causa
[2] Medley:
 Surucucu
 Lost
 Early Minor
 Directions

Disc 2
[3] Orange Day
[4] Medley:
 Eurydice
 The Moors
[5] Medley:
 Tears
 Umbrellas
Wayne Shorter (ss, ts)
Joe Zawinul (key)
Miroslav Vitous (b)
Eric Gravatt (per)
Don Um Romao (per)
ウェザー・リポートのセカンド・アルバムは東京でのライヴ。デビュー・アルバム「Weather Report」とはドラムとパーカッションのメンバーが変わっているものの、中心人物であるザヴィヌル、ショーター、ヴィトウスが残っているためサウンドに大きな変化はない。さて、フュージョンという音楽に明確な定義はないけれど、特に僕のようなロックのリスナーからみると無味無臭で毒にも薬にもならない退屈な音楽というイメージがあり、同じように思っている人も少なくないはず。一方、同じ類の音楽を示すものとしてはクロスオーヴァーという言葉もあって、こちらはどういうわけかジャズを起源としながらもより柔軟に他の音楽的要素を取り入れた進歩的な音楽というイメージがある。初期のウェザー・リポートは僕の勝手なイメージであるクロスオーヴァーに近いサウンド作りに邁進していたグループであるように思う。さらにこのアルバムはライヴということもあって、まさに自由でイマジネイティヴな音楽が展開されている。その演奏はフリー・ジャズと言っても過言ではないほど時にアブストラクトでハード。歪んだザヴィヌルのエレピはマイルス・グループ在籍時のチック・コリアも顔色をなくすほどワイルドで、ショーターのソプラノでミステリアスなムードを加速。ヴィトウスが時に繰り出すフォービートによって、あくまでもこのグループの基本がジャズにあることを思い出させる。このライヴを聴けば、曲の形式などどうでもよく、演奏の自由度こそが重要と考えていたことがよくわかるはず。逆に言えば聴きやすいメロディやわかりやすいリズムなどは皆無に等しいために聴き手を選ぶ音楽であるということでもある。しかし、この時代にしか生まれ得なかったであろう、この演奏こそが最大の聴きどころになっている。後にわかりやすいフュージョン・グループへ変貌して広く受け入れられてしまったが故に初期のウェザー・リポートは軽視されていると思う。(2007年6月1日)

Heavy Weather / Weather Report

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★☆
[Recording Date]
1976/Oct

[1] Birdland
[2] A Remark You Made
[3] Teem Town
[4] Harlequin
[5] Rumba Mama
[6] Palladium
[7] The Juggler
[8] Hanova
Wayne Shorter (ss, ts)
Joe Zawinul (key)
Miroslav Vitous (b)
Eric Gravatt (per)
Don Um Romao (per)
ウェザー・リポートといえばこのアルバムということになっている。というかこのアルバムばかりが一般化している。確かに[1]のキャッチーでありながら実は芸が細かい演奏になっているところなどは素晴らしいと思えるんだけれど、子守唄のような環境音楽的[2]のように今となっては時代を感じさせる曲もある。ウェイン・ショーターのプレイも本領からは程遠い印象。[4]のようなスローな曲はとにかく悪い意味でのフュージョン(スリルがない耳に優しいだけの音楽)のイメージそのもので非常につまらない。僕がここまでウェザー・リポートを理解できないのには理由がある。その1。ジョー・ザビヌルの何が良いのかわからない。少なくとも演奏テクニックには見るべきものがなく、世間で評価されているアレンジャーや作曲家としての魅力もそれほど感じない。その2。神格化されたベーシストのジャコがあんまり好きじゃない。テクニックと感性、いずれを取ってもオリジナリティに溢れたスゴものがあることに疑いはない。でも、僕がベーシストに求めるのはあくまでもバンドのグルーヴを創造することであり、ジャコはベースの役割も担えるソリストに聴こえる。もちろんジャコのベースは、空間すら支配するイマジネーション溢れるプレイにあることは承知しているし、それこそが他のベーシストと決定的に違うところであり、この時期のウェザー・リポートの音楽の中核となっていることもわかってはいる。要は単に好みの問題ということで。ザビヌルの支配力が強まるほどショーターの存在感がなくなるのも僕の好みに反するところ。あまりにも絶賛されてばかりのザビヌル、ジャコが面白くないと言っていると「お前はわかってない」と言われそうだけど、いつか理解できる日が来るんだろうか?(2007年4月15日)

Night Passage / Weather Report

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1980

[1] Night Passage
[2] Dream Clock
[3] Port Of Entry
[4] Forlorn
[5] Rockin' In Rhytm
[6] Fast City
[7] Three Vires Of A Secret
[8] Madagascar
Wayne Shorter (ts, ss)
Joe Zawinul (key,)
Jaco Pastrious (b)
Peter Erskin (ds)
Robert Thomas, Jr
            (hand ds)
「Heavy Weather」を聴いて、どうにもピンと来なかったので次なる人気盤である本作に手を伸ばしてみた。結論から言うとやはりピンと来ない。この時期のジョー・ザヴィヌルのキーボードの「音」がどうにも安っぽくて牧歌的に聴こえてしまう。いや、牧歌的な要素というのはむしろザヴィヌルの持ち味のひとつと思われるので、要するに僕にはザヴィヌルを受け入れる感性がないということなのでしょう。一方でショーター好きの僕にとって、ザヴィヌル・カラーが強くなってからのウェザー・リポートにおいては彼の個性が出ているとは思えない。そうは言いつつも、このアルバムは「Heavy Weather」よりはイイ。ジャコのベースがウネるアップテンポな部分は気持ちいいし、バンドとしての実力は十分高いと思う。反面、ビートのないパートでの音空間は僕にとっては退屈で、こんなところでもザヴィヌルと自分との相性の悪さを感じてしまう。聴きやすさという点ではともかく、僕はミロスラフ・ヴィトウス在籍時のアヴァンギャルドなジャズ・ロックを演っていたウェザー・リポートの方がスリリングで好き。(2008年8月16日)

Trio Of Doom

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1979/3/3 [1]-[5]
1979/3/8 [6]-[10]

[1] Drum Improvisations
[2] Dark Prince
[3] Continuum
[4] Para Oriente
[5] Are You The One,
                 Are You The One?
[6] Dark Prince
[7] Continuum
[8] Para Oriente
[9] Para Oriente
[10] Para Oriente
John McLaughlin (g)
Jaco Pastrious (b)
Tony Williams (ds)
それぞれの楽器の分野で圧倒的な評価を得ている3人によるスーパー・セッション。従って演奏については超ハイレベルで期待を裏切らない。しかし、あえて言うならばジョン・マクラフリンの輪郭の曖昧な音色のギターは全盛期をやや過ぎていて凄みに欠ける感じがするし、超絶フレーズを連発しているものの空間を支配するジャコのベースの真髄までは発揮されておらずスーパー・テクニシャン以上のものは感じない。そして、トニーだけはいつも通り凄い。ただ、僕はマクラフリンやジャコの良い聴き手ではないのでファンの人にとってどう聴こえるのかはわからない。あと、これはロックの世界でも言えることだけれど既に名声や評価を確立した人が集まった場合、想像の範囲を大幅に超越するようなものは出てこない。特に演奏が重視されるジャズにおいては有名プレイヤーは知り尽くされているために想像の範囲で納まってしまうのは仕方のないところ。凄いんだけど、この3人だからこそというマジックは起きなかった。そんな印象を受ける。(2007年8月25日)

Birds Of Fire / Mahavishunu Orchestra

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1972/Aug

[1] Birds Of Fire
[2] Miles Beyond
[3] Celestial Terrestrial Commuters
[4] Sapphire Bullets of Pure Love
[5] Thousand Island Park
[6] Hope
[7] One Word
[8] Sanctuary
[9] Open Country Joy
[10] Resolution
John McLaughlin (g)
Jerry Goodman (violin)
Jan Hammer (key)
Rick Laird (b)
Billy Cobham (ds)
マハヴィシュヌ・オーケストラの名前はロックしか聴いていなかったころから身近だった。理由はジェフ・ベックとの競演で有名なヤン・ハマーが在籍していたから。ビリー・コブハムは70年代を代表するスゴ腕ドラマーとしてよく見る名前だったし、マイルス・デイヴィスを聴き進んでいけば自然に行き着くジョン・マクラフリンはこのグループのリーダー。まずヤン・ハマーに関して言えばジェフ・ベックと競演しているようなソロはほとんど弾いていないので、そこに期待すとガッカリする。むしろバンドのアンサンブルを司るキーボード奏者として脇役に徹している感じ。期待を大きく上回ったのがコブハムとマクラフリン。マイルス・デイヴィスの「A Tribute To Jack Johnson」はこの2人が参加していたロック的名盤として知られているけれど、コブハムもマクラフリンもたいしたことないではないかと思わせる程度の演奏だった。それがここではどうだろう。コブハムは千手観音のような手数にバス・ドラムをキックしまくって弾力性のあるドラミングを聴かせているし、マクラフリンのハード・ドライヴィングなギターは「A Tribute To Jack Johnson」とは比較にならないほどの迫力。マクラフリンのギターはトニー・ウィリアムスのライフタイムよりもハードロック的な押し出しの強さ。その喧騒にバイオリンが加わり、変拍子の嵐の中、超ハイレベルなハード・ロックともジャズ・ロックとも言えるサウンドで迫る。テクニックの凄みここまで前面に打ち出したグループは空前絶後だったのではないだろうか。(2007年2月10日)

Between Nothingness & Eternity
                                / Mahavishunu Orchestra

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★☆
評価:★★★★
Released in 1973

[1] Trilogy
 The Sunlit Path
  La Mere de la Mer
 Tomorrow's Story Not The Same
[2] Sister Andrea
[3] Dream
John McLaughlin (g)
Jerry Goodman (violin)
Jan Hammer (key)
Rick Laird (b)
Billy Cobham (ds)
超絶技術集団、マハヴィシュヌ・オーケストラのライヴ。曲が長く、それ故にやや間延びしたところもあるけれど、それも含めてインタープレイをタップリ堪能できるのがライヴならではの魅力。「Birds Of Fire」では、あまり目立たなかったヤン・ハマーもここではソロも含めて大活躍、ロック・フィーリング溢れる歪んだマクラフリンのギターとヤン・ハマーのバトルは後のジェフ・ベックとのコラボの雛形を思わせる。コブハムのドラムは録音状態が悪くうまく音を拾えていないのが残念だけどテクニックはやはり凄まじい。ただ、このグループはベースがあまり良くないと思う。テクニックがないと言っているわけではなく、バンドにグルーヴを与えていないという点においてという意味で。でもそれが却って他の楽器を引き立てているという妙なバランス感を生んでいるのも事実。バイオリンが入っているため部分的にキング・クリムゾンを思わせる部分はあるけれど、ジャズ・ロック・グループと生粋の英国プログレッシブ・ロック・グループとは体内に宿っているモノが根本的に違うように感じる(どっちが良い悪いという話ではなく)。それにしても[3]は演奏は凄まじい。是非、大音量で。(2007年2月25日)

Memphis Underground / Herbie Mann

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1968/8/21

[1] Memphis Underground
[2] New Orleans
[3] Hold On, I'm Comin'
[4] Chain Of Fools
[5] Battle Hymn Of The Republic
Herbie Mann (fl)
Roy Ayers
      (vib, conga [5])
Larry Coryell (g)
Sonny Sharrock (g)
Miroslav Vitous (elb)

and The Memphis
Rhythm Section
consists of

Reggie Young (g)
Bobby Emmons (org)
Bobby Wood (p, elp)
Tommy Cogbill (b)
Mike Leech (elb)
Gene Christman (ds)
ジャズ・ファンというのは概して保守的である。平たく言うと、頭が固い。その時代に流行した音楽に応じてスタイルを次々に変えてきたハービー・マンはそんなジャズ・ファンに毛嫌いされていた、あるいは鼻で笑われてきた人らしい。マイルスだってどんどん変わっていたのにそんな言い方をする人はいないわけで、なぜそんな言われ方をしてきたのか知らないんだけれど、そのあたりの事情をとりあえず横に置いておいて無心でこのアルバムを聴いてみると、ソウル・フィーリングたっぷりのリズムをベースに、ヴィブラフォンやフルート、そして歪んだギターが乗る音楽は軽快、だけど決して軽薄な感じはしない。70年代のソウル/ファンク・フィーリングは今の時代に聴いても決して古臭くないどころか、むしろ新鮮。全体に付け焼刃的なイージーさもない。ハービー・マンのフルートだって存在感がある。確かにこれをジャズかと訊かれると答えに窮するけれど音楽としては十分良質だし演奏もいい(メンバーが豪華であるのもハービー・マンの特徴らしい)。眉間に皺を寄せて聴くジャズしか聴けない人はお呼びではないし70年代のソウル/ファンクに興味がない人には辛いのも事実ながら、ある意味ジャズ・ファンの頭の固さを測る物差しになるんじゃないだろうか。先に70年代的と書いたものの、実際には68年の録音であるところに、実はハービー・マンは進んでいたのではないかという思いも頭をよぎる。(2009年8月7日)

Blueslike / One For All

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2003/12/1

[1] Five Outs To Go
[2] We'll Be Together Again
[3] Till There Was You
[4] In Between The Heartaches
[5] Blueslike
[6] Yasashiku
[7] Naima
[8] Giant Steps
Jim Potondi
     (tp, Fluegelhorn)
Eric Alexander (ts)
Steve Davis (tb)
David Hazeltine (p)
Peter Washington (b)
Joe Farnsworth (ds)
2000年代の録音としては実に古いセクステットという編成、しかもアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズ黄金時代と同じ楽器構成というところであえて勝負してみたという感じのグループ。ニューヨーク界隈で活動していると思われる、気心知れた仲間でのオーソドックスなジャズ。もちろん、演奏のスタイルは2000年相応であり、その点での古臭さはない。王道すぎて面白みはないけれど、やはり王道と言われるものには普遍的な魅力があるのもまた事実。テクニックも確かなものがある。小難しく考えずに、質の高い演奏を聴きたいときに何の不満もなく楽しめるのが強み。それでもやっぱり、もう少しアクや個性があってもいいんじゃないかと思ってしまう。でもきっと今はそういうクセのようなものは暑苦しく押し付けがましいと疎まれて評価されない時代でもある。現代のジャズの良さと、発展が見込めなくなったジャズの限界の両方が見えてくる。(2012年4月21日)

Your Queen Us A Riptile / Sons Of Kemet

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
Released in 2015

[1] My Queen Is Ada Eastman
[2] My Queen Is Mamie Phipps Clark
[3] My Queen Is Harriet Tubman
[4] My Queen Is Anna Julia Cooper
[5] My Queen Is Angela Davis
[6] My Queen Is Nanny Of
   The Maroons
[7] My Queen Is Yaa Asantewaa
[8] My Queen Is Albertina Sisulu
[9] My Queen Is Doreen Lawrence
Shabaka Hutchings (sax)
Pete Wareham (sax[4])
Nubya Garcia (sax[7])
Theon Cross (tuba)
Tom Skinner
 (ds [1][2][4][5][6][9])
Seb Rochford
 (ds [1][2][4][5][6][9])
Moses Boyd (ds [3][7][8])
Eddie Hick(ds [3][7][8])
Maxwell Hallett (ds [9])
Congo Natty (vo [2])
Joshua Idehen (vo [1][9])
最近のジャズ・シーン、特に英国となるとさっぱり疎いんだけれど、あるとき知ることになったのがシャバカ・ハッチングスというサックス奏者、バンドリーダー。いくつかのユニットに分けて活動しているようで、このSons Of Kemetというユニットは、ハッチングスのサックス、チューバ、そしてツイン・ドラムという編成から成っている。前半はチャカポコしたアップテンポなドラムで畳み掛けるんだけれども、ベースラインを担うのがチューバというのが肝。早いパッセージで疾走するも、楽器の特性上、音に締まりがなく、シャープなキレとは程遠いほのぼのした音ゆえに疾走にはいたらず、だからこそ出てくる妙な浮遊感が気持ちいいんだか悪いんだかわからない。ドラムのチャカポコ感は、中南米の音楽を思わせる忙しなさ。コアな部分はこのリズムで占めていて、リズムの饗宴が取り柄かと思えば、中盤以降は音楽的にも表現の幅を広げはじめ、ラップ的な要素まで取り込まれ、前半の能天気な雰囲気を薄く残しながら、やはり気持ちいいんだか悪いだかわからない音楽が延々と展開されてゆく。アナーキーなメッセージを込めていながら半分ふざけているのかも、と感じさせる遊び心と収まりどころがない居心地の悪さも特徴。こういうリズム感、音楽こそユニーク(=唯一無二)と呼ぶに相応しい。(2020年7月5日)

We Are Sent Here By History
                     / Shabaka And The Ancestors

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
Released in 2020

[1] They Who Must Die
[2] You’ve Been Called
[3] Go My Heart, Go To Heaven
[4] Behold, The Deceiver
[5] Run, The Darkness Will Pass
[6] The Coming Of The
                        Strange Ones
[7] Beasts Too Spoke of Suffering
[8] We Will Work
   (On Redefining Manhood)
[9] Til The Freedom Comes Home
[10] Finally, The Man Cried
[11] Teach me How To Be Vulnerable
Mandla Mlangeni (tp [7])
Shabaka Hutchings (ts, clarinet)
Mthunzi Mvubu (as)
Siyabonga Mthembu (voice)
Nduduzo Makhathini
                  (elp [2][4])
Thandi ntuli (p [2][11]
Ariel Zamonsky (b)
Tumi Mogorosi (ds)
Gontse Makhene (per)
英国ジャズ・シーンの重要人物であるらしい、シャバカ・ハッチングスが主宰するプロジェクトのひとつ。スピリチュアル・ジャズと呼ばれているだけに、きっと晩年のコルトレーン系列の音が出てくるんだろうな、という予想は、当たっているところもあるし、そうでないところもある。リズムは、フォービートなどのいわゆるジャズのそれとは異なり、アフリカンでプリミティヴ。この呪術的とも言えるウッドベースの繰り返しリズムはシャバカ・ハッチングスの音楽のコアな部分にあたるらしく、一聴すると別音楽に聴こえるSons Of Kemetプロジェクトでもリズム感は共通している。本プロジェクト、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズでは、掛け声、語りのようなアフリカンな歌が至るところに入り、アフリカ音楽であることを前面に出したもの。そういう意味では例えば70年前後のファラオ・サンダースの音楽などの系譜にあると言える。エレピやキーボード、ピアノの音の使い方はごく控えめ(でも効果的)で、コンガのようなパーカッションは最小限に留め、ベースとドラムをメインのリズム楽器としてアフリカンなリズムで迫る。歌の内容はわからないけれど、怒りやアナーキーなムード故に、楽しく聴ける音楽ではないし、正直なところやや重い。それでも70年代のアフリカ回帰志向ジャズと比べると格段にサウンド、表現は洗練されているし、引き締まっているところが現代的。サックスは、コルトレーンやサンダースのように雄叫びを上げることはない。それでも、主張している音楽には黒人特有のエネルギーが漲っており、泥臭く、バタ臭い。苦手な人は徹底的に苦手、好きな方はハマる魔力がある。(2018年12月25日)

The Best of Irakere

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1979/Apr

[1] Gira Gira
[2] Claudia
[3] Ilya
[4] Anunga Nunga
[5] Ciento Anos De Juventud
[6] Aguanile
[7] Misa Negra (The Black Mass)
[8] Adagio On A Mozart Theme
[9] Xiomara
[10] Por Romper El Coco
[1][2][4][5][9][10]
Arturo Sandoval (tp)
Jorge Varona (tp)
Paquito D'Rivera (Sax)
Carlos Averhoff (Sax, fl)
Carlos Emilio Morales (g)
Chucho Valdes (p)
Carlos Del PUerto (b)
Enrique Pla (ds)
Jorge "El Nino" Alfonso
                          (per)
Armando Cuervo (per)
Oscar Vandes (vo, per)

[3][6][7][8]
Arturo Sandoval (tp)
Paquito D'Rivera (Sax)
Carlos Emilio Morales (g)
Chucho Valdes (p)
Enrique Pla (ds)
Oscar Vandes (vo, per)
その昔、21世紀に入るかどうかの境目のころにキューバ音楽が流行した、らしいんだけれど僕の記憶では流行したというほどの印象ではない。それは熱心な音楽ファンとは言えない一般人にまで広まったわけではなく、音楽好きの一部で話題になったレベルだったからなんでしょう。そしてキューバ音楽と言えば、いかにも地元土着型のブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのような音楽を連想する。しかし、いろいろ調べてみるとキューバという国は政治情勢に揉まれながら、アメリカ(ジャズ)の影響やロシア(クラシック)の影響を受けたり、他の国の音楽要素もごちゃまぜになっていることがわかってくる。その中でもっともジャズ寄りなのがこのイラケレ。キューバ音楽的なテイストはもちろん、フリー・ジャズやブルースの要素までが入り混じった、他の国からは出て来ようがない音楽が面白い。イラケレは、キューバでも高度な音楽を追求するミュージシャンが集まった先進的なグループで、後のアルバムではジャズ色が一層濃くなるものの、このアルバムに収録されている演奏は初期のイラケレのキューバ音楽(まだ踊れるノリがこの頃のイラケレにはある)、ジャズ、ファンクなどが渾然一体となった革新性が良く出ている。演奏技術も確かなもの。キューバ音楽の底力の一端を知るにも良い素材になる1枚。(2021年6月20日)