Mobley's 2nd Message | ||
![]() 曲:★★★★ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★★☆ モブレー入門度:★★★☆ 評価:★★★☆ |
[Recording Date] 1956/7/27 [1] These Are The Things I Love [2] Message From The Border [3] Xlento [4] The Latest [5] I Should Care [6] Crazeology |
Kenny Dorham (tp) Hank Mobley (ts) Walter Bishop (p) Doug Watkins (b) Art Taylor (ds) |
モブレーお得意の典型的ハード・バップ・アルバム。共演者もハード・バップの世界では名の知れた人ばかりで、手堅く安心して聴ける。アート・テイラーが律儀に小刻みなビートを刻み、ダグ・ワトキンスが弾むようなベース・ラインを繰り出す。モブレーのスムーズでまろやかなテナーと、ケニー・ドーハムの少しヒョロっとした独特のトランペットの相性も良く、特に抜きん出た特徴があるわけではないものの、56年という時代の良さが素直に出ている。プレスティッジのアルバムにしては全体的にまとまりがあるところも良い。初期のドーハム、モブレー在籍時のジャズ・メッセンジャーズが好きな人なら聴いて損はないでしょう。(2008年11月1日) |
Hank Mobley Sextet | ||
![]() 曲:★★★☆ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★ モブレー入門度:★★★ 評価:★★★ |
[Recording Date] 1956/11/25 [1] Touch And Go [2] Double Whammy [3] Barrel Of Funk [4] Mobleymania |
Lee Morgan (tp) Donald Byrd (tp) Hank Mobley (ts) Horace Silver (p) Paul Chambers (b) Charie Pership (ds) |
デビューして間もないリー・モーガンと、既にジャズ・メッセンジャーズで評価を得ていたドナルド・バードを競演させ、全曲モブレーにオリジナル曲を書かせるという企画のブルーノートらしいセッション。これでアート・ブレイキーがドラマーなら、と思わずにはいられないけれどジャズ・メッセンジャーズに近づき過ぎることを嫌ってあえてそうしなかったのかもしれない。聴きどころはやはり2人のスター・トランペッターのバトル。僕はモーガンを最高のトランペッターだと思っている反面、バードにはあまり魅力を感じていないんだけれど、このアルバムではモーガンのスタイルがまだ固まっていないこともあって2人が似たスタイルで演奏していることから、相当な上級者でないとなかなか聴き分けが難しい。モブレーのテナーが緩衝材のような役割になっていてさほど耳に残らないのは仕方ないところか。このメンバーの組み合わせを前提に全曲を書き下ろしたモブレーの曲は強烈な印象を残す類のものではないとはいえ、いかにもハードバップという感じで、しかし良く聴くとモブレーにしか書けない活きの良い曲ばかり。この時代では仕方ないところではあるけれど録音状態があまり良くないのがちょっと残念。(2006年9月10日) |
Hank Mobley And His All Stars | ||
![]() 曲:★★★ 演奏:★★★☆ ジャズ入門度:★★ モブレー入門度:★★ 評価:★★★ |
[Recording Date] 1957/1/13 [1] Reunion [2] Utramarine [3] Don't Walk [4] Lower Startosphere [5] Mobley's Musings |
Milt Jackson (vib) Hank Mobley (ts) Horace Silver (p) Dugg Watkins (b) Art Blakey (ds) |
オリジナル・ジャズ・メッセンジャーズがここで再会したいきさつは諸説あるようで、まずはその話から語られることが多いアルバムだけれど、特にそれを意識させることがないオーソドックスなハードバップ。モブレーはアルフレッド・ライオンからは作曲家として評価されていたこともあり、ここでも全曲を書き下ろし、さらにモブレーを補うかのようにミルト・ジャクソンを加えているのはライオンの慧眼か。ありきたりなテナーのワンホーン作品と一味違うものを狙ったと思われるこの企画は思ったほど特別なものには仕上がっていない印象。ブレイキーはやや控えめで、ホレスはいつも通りなところ(僕はホレスの良さがあまりよくわからないけれど)もあり、モブレーのリラックスしたテナーを楽しむ内容となっている。[4] のようなブルースだと特にミルトの持ち味が生きるし、このメンバーならお手の物という感じ。それにしても録音状態が良くない。ドラムやヴィブラフォンの音は割れているし、57年ならもう少しまともな音でもいいような気がする。(2006年9月10日) |
Hank Mobley Quintet | ||
![]() 曲:★★★★☆ 演奏:★★★★☆ ジャズ入門度:★★★★ モブレー入門度:★★★★ 評価:★★★★ |
[Recording Date] 1957/3/8 [1] Funk In Deep Freeze [2] Wham And They're Off [3] Fin De L'affaire [4] Startin' From Scratch [5] Stella-Wise [6] Base On Balls |
Art Farmer (tp) Hank Mobley (ts) Horace Silver (p) Dugg Watkins (b) Art Blakey (ds) |
これもオリジナル・ジャズ・メッセンジャーズの再開。トランペッターがケニー・ドーハムからアート・ファーマーに入れ替わっただけという編成の知る人ぞ知るモブレーの人気盤。曲はすべてモブレーのオリジナルで、ありきたりなようで実はモブレーでなければ書けないハード・バップがここでも聴ける。それにしても、モブレーの曲を後のミュージシャンがほとんど取り上げなかった、そしてスタンダードにならなかったのはどういうことなんだろう。それはさておき、演奏はメンツの額面どおりでブレイキーがプッシュ、ワトキンスが太く弾み、ホレスはシンプルで明快に聴かせる。個人的に良い意味で予想を裏切ったのがアート・ファーマーで、特別目立つところはないものの、こういうオーソドックスなプレイをさせるとなかなか味があっていい。モブレーのサッパリ味のテナーも持ち味が良く出ていて嬉しくなる。アップテンポの曲がいかにもこのメンツらしい勢いで繰り広げられており、それこそがモブレーのジャズと言いたくなるのと同時に、[3][6]といったスローな曲に格別な味わい深さがあるのもこのアルバムの聴きどころ。(2007年2月25日) |
Hank | ||
![]() 曲:★★★★☆ 演奏:★★★★☆ ジャズ入門度:★★★★ モブレー入門度:★★★★ 評価:★★★★ |
[Recording Date] 1957/4/21 [1] Fit For A Hanker [2] Hi Groove, Low Feed-Back [3] Easy To Love [4] Time After Time [5] Dance Of The Infidels |
Donald Byrd (tp) Hank Mobley (ts) John Jenkins (as) Bobby Timmons (p) Wilbur Ware (b) Philly Joe Jones (ds) |
「ああ、今日はハード・バップが聴きたいなあ」と思うと、僕はCDラックのハンク・モブレーの棚をついつい探してしまう。そのくらいモブレーはハード・バップを代表するミュージシャンだと思うし、演奏も曲も素晴らしい。このアルバムもそんな「ハード・バップを聴きたい気持ち」に期待通りに応えてくれる1枚。モブレーのテナーが気持ちよく歌い、サイド・メンと一体となってスウィンギーに堂々としたハード・バップを展開。張りのあるトランペットを聴かせるドナルド・バード、シャープなアルトて切れ込むジョン・ジェンキンス、ブロックコード連打はなくとも黒さ濃度を上げているボビー・ティモンズのピアノ、躍動感を支えるウィルバー・ウェア、そしてバンド全体を盛り立てるフィリー・ジョー・ジョーンズのワイルドで生きの良いドラム、いずれも好プレイで、特にバードとフィリー・ジョーの活躍は出色。ほとんど話題に上ることのないアルバム、しかしだからと言って素通りしてしまうには余りにももったいない好盤。(2007年9月8日) |
Hank Mobley | ||
![]() 曲:★★★☆ 演奏:★★★★☆ ジャズ入門度:★★★ モブレー入門度:★★★ 評価:★★★★☆ |
[Recording Date] 1957/6/23 [1] Mighty Moe And Joe [2] Falling In Love With Love [3] Bags' Groove [4] Double Exposure [5] News |
Bill Hardman (tp) Hank Mobley (ts) Curtis Porter (as, ts) Sonny Clark (p) Paul Chambers (b) Art Taylor (ds) |
50年代中盤のモブレーのリーダー・アルバムは、メンバーに合わせた良質な曲でその個性を発揮させていた反面、演奏面で言うとあまり主役らしい存在感がない。その演奏面のみを取り上げてB級テナーのレッテルを貼られることが多く「しばしばセッションでの支配力を欠いた」と言う人もいるくらい。そして、このアルバムも恐らくそう評されるであろう1枚。ビル・ハードマンは低迷時期のジャズ・メッセンジャーズにその名前を連ねていたことくらいしか知らず、なかなか触れる機会がないトランペッターだけれども意外と存在感のあるプレイでアート・ファーマーあたりと比べても遜色ないところを聴かせる。注目はここがブルーノート・デビューのソニー・クラークで、憂いのあるムードを伴いつつも溌剌とした演奏は十分耳を惹き付けてくれる。問題(?)はカーティス・ポーターで、2曲のオリジナル曲を提供し、時にはリーダーと同じテナー・サックスまで手にして主役級の存在感。しかし、このポーターのアクの強さこそが本作の聴きどころ。3管編成でありながら過剰なハーモニーにならず、それぞれのメンバーがしっかりと持ち味を出し、アルバムとしてまとまりを見せているのはモブレーの編曲の才能とアルフレッド・ライオンのプロデュースによるものでしょう。(2007年1月10日) |
Peckin' Time | ||
![]() 曲:★★★ 演奏:★★★☆ ジャズ入門度:★★ モブレー入門度:★★★ 評価:★★★ |
[Recording Date] 1957/1/13 [1] High And Flighty [2] High And Flighty (alt take) [3] Speak Low [4] Speak Low (alternate take) [5] Peckin' Time [6] Stretchin' Out [7] Stretchin' Out (alt take) [7] Git-Go Blues |
Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Wynton Kelly (p) Paul Chambers (b) Charlie Persip (ds) |
50年代中盤のモブレーのリーダー・アルバムは、メンバーに合わせた良質な曲でその個性を発揮させていた反面、演奏面で言うとあまり主役らしい存在感がない。その演奏面のみを取り上げてB級テナーのレッテルを貼られることが多く「しばしばセッションでの支配力を欠いた」と言う人もいるくらい。そして、このアルバムも恐らくそう評されるであろう1枚。ビル・ハードマンは低迷時期のジャズ・メッセンジャーズにその名前を連ねていたことくらいしか知らず、なかなか触れる機会がないトランペッターだけれども意外と存在感のあるプレイでアート・ファーマーあたりと比べても遜色ないところを聴かせる。注目はここがブルーノート・デビューのソニー・クラークで、憂いのあるムードを伴いつつも溌剌とした演奏は十分耳を惹き付けてくれる。問題(?)はカーティス・ポーターで、2曲のオリジナル曲を提供し、時にはリーダーと同じテナー・サックスまで手にして主役級の存在感。しかし、このポーターのアクの強さこそが本作の聴きどころ。3管編成でありながら過剰なハーモニーにならず、それぞれのメンバーがしっかりと持ち味を出し、アルバムとしてまとまりを見せているのはモブレーの編曲の才能とアルフレッド・ライオンのプロデュースによるものでしょう。(2007年1月10日) |
Another Monday Night At Birdland / Hank Mobley & Lee Morgan |
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![]() 曲:★★★ 演奏:★★★☆ ジャズ入門度:★★ 評価:★★★☆ |
[Recording Date] 1958/4/28 [1] It's You Or No One [2] Jamph [3] Nutvillle [4] Wee |
Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Billy Root (ts) Curtis Fuller (tb) Ray Bryant (p) Tommy Bryant (b) "Specs" Wright (ds) |
上掲の1週間後同じ場所でのライヴ。曲の知名度が低いけれど、パフォーマンスは良い意味で同等です。(2020年11月17日) |
Soul Station | ||
![]() 曲:★★★★ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★★ モブレー入門度:★★★ 評価:★★★ |
[Recording Date] 1960/2/7 [1] Remember [2] This I Dig Of You [3] Dig Dis [4] Split Feelin's [5] Soul Station [6] If I Should Lose You |
Hank Mobley (ts) Wynton Kelly (p) Paul Chambers (b) Art Blakey (ds) |
僕がハンク・モブレーのプレイを初めて耳にしたのはマイルス・デイヴィスの「Someday My Prince Will Come」。そのアルバム、2曲だけゲスト参加しているコルトレーンの存在感が大きいせいもあってモブレーの印象は極めて薄いものだった。次に聴いたのが初心者向けガイドブックに必ず載っている本作。ここでも印象を払拭することはなく、むしろサイド・メンの演奏が素晴らしいために僕の中では「モブレーは二流のテナー奏者」という評価に落ち着いてしまった。後に他のリーダー・アルバムを聴いてモブレーの持ち味を理解できるようになってきたものの、それでも本作の評価は上がってこなかった。やはりモブレーのワン・ホーンというのは何かが足りない=実力がないという結論に落ち着きそうになってしまう。しかし、それはモブレーの個性なんだと思う。ワン・ホーンというのは実はそのホーン奏者の個性が、ジャズ・リスナーが思っている以上に全面に出る特殊なフォーマットであり、モブレーの魅力を最大限に引き出す形式ではないというだけの話。マイルスにワン・ホーンの名盤がないというだけでマイルスは二流だという人なんていないでしょう?モブレーの自作曲は複数のメロディ楽器があった方が良さが出るものが多い。編成をイメージして最適な曲を書くモブレーは、あるいは実は自らのワン・ホーン編成のために向いた曲を書くことができなかったのかもしれない。そんなこともあって、一般的に代表作とされるこのアルバムだけを聴いてモブレーに低い評価を下してしまうのはちょっともったいないと思う。(2007年10月13日) |
Roll Call | ||
![]() 曲:★★★★★ 演奏:★★★★★ ジャズ入門度:★★★★ モブレー入門度:★★★★☆ 評価:★★★★★ |
[Recording Date] 1960/11/13 [1] Roll Call [2] My Groove Your Move [3] Take Your Pick [4] A Baptist Beat [5] The More I See You [6] The Breakdown [7] A Baptist Beat (alt take) |
Freddie Hubbard (vib) Hank Mobley (ts) Wynton Kelly (p) Paul Chambers (b) Art Blakey (ds) |
ここから、決して長くはないモブレーの充実期が始まる。曲はもちろんいい意味で意外性のないハード・バップで、親しみやすくオーソドックス、それでいてどこか控えめなメリハリ感があるモブレー流。60年ともなれば既に新しいジャズが台頭してきた時期ながら、そんなことはどこ吹く風、曲も演奏もモブレー節全開なのがうれしい。共演者も溌剌としており、特に新進気鋭のフレディ・ハバードと旧知のブレイキーが迫力満点。いや、ブレイキーに至っては時にリーダーかと思えるほどの豪快な叩きっぷり。こういうスタイルのジャズでベースを弾かせれば天下一品のチェンバースがアルバム全体に活気をもたらしていて、ケリーの爽やかなバッキングが新鮮さを加味する。「Soul Station」にハバードが加わっただけで曲調もほとんど違わないのにこれだけ印象が変わるのは決してモブレーがB級だからではなく、クインテット編成の方がモブレーという音楽家の個性が生きるというだけのこと。逆にクインテット編成でハード・バップを表現することにかけて、モブレー以上のミュージシャンはそうはいない。(2007年10月13日) |
Workout | ||
![]() 曲:★★★★★ 演奏:★★★★★ ジャズ入門度:★★★★ モブレー入門度:★★★★★ 評価:★★★★★ |
[Recording Date] 1961/3/26 [1] Workout [2] Ih Huh [3] Smokin' [4] The Best Things In Life Are Free [5] Greasin' Easy |
Hank Mobley (ts) Grent Green (g) Wynton Kelly (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds) |
いまひとつ何かが物足りない「Soul Station」のメンバーに、フレディ・ハバードを加えたのが「Roll Call」なら、ハバードに代わってギターのグラント・グリーンを加えたのが本作。ギターというジャズでは脇役の楽器がパートナーとあって当然テナーが前面に出るという状況。そこでのモブレーはどうかという懸念は一切無用。テナーは饒舌かつ歌心に溢れ、実に味わい深く、言われなくともここでは誰が主役かがわかる。確かに、コルトレーン、ロリンズ、オーネット・コールマンのように吹けば瞬く間に自分の空気で支配していしまうような強烈な押し出しがないのは事実。しかし、相性のいいパートナーさえいればモブレーらしさがにじみ出てくるというのもまた事実。ワン・ホーンで光るころができなから魅力がないミプレイヤーだという短絡的な結論は早計であると思うのは贔屓が過ぎるだろうか。ここでも曲はモブレーらしさ溢れるオリジナルが4曲。ケリー、チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズのリズム・セクション(ここではブレイキーよりも直線的なビートのドラムの方が合っている)も相性抜群で、モブレーを味わうのにこれ以上のアルバムはないと断言できる傑作。(2007年10月13日) |
No Room For Squares | ||
![]() 曲:★★★★★ 演奏:★★★★★ ジャズ入門度:★★★★★ モブレー入門度:★★★★ 評価:★★★★☆ |
[Recording Date] 1963/3/7 [3] [6] 1963/10/2 [1] [2] [4] [5] [7] [8] [1] Three Way Split [2] Carolyn [3] No Room For Squares [4] Us A Step [5] Me 'N You [6] Old World, New Imports [7] Carolyn (alt take) [8] No Room For Squares (alt take) |
[1] [2] [4] [5] [7] [8] Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Andrew Hill (p) John Ore (b) Philly Joe Jones (ds) [3] [6] Donald Byrd (tp) Hank Mobley (ts) Herbie Hancock (p) Butch Warren (b) Philly Joe Jones (ds) |
ハンク・モブレーは生粋のハード・バッパーとして素晴らしいにもかかわらず、そのハード・バップという音楽じたいが50年代の伝統芸能として認識されている現代では、残念ながらオールド・スタイルのジャズ・ミュージシャンという扱いに落ち着いてしまう。一方で、ハンク・モブレーはテナー・サックス奏者としてはヘナチョコ扱いされているものの、特に60年以降くらいになると従来のまろやかな持ち味に力強さも加わっていよいよ脂が乗ってくる。要約すると音楽家としての輝きに翳りが見られ始める(ハード・バップが下火になる)時期と入れ替わるように演奏家としてのパフォーマンスが上がってきているというのが個人的な意見。両者が高いレベルで重なっている時期は残念ながら短い。このアルバムは、音楽家としては下降線に入りかけてからのもので、アンドリュー・ヒルやハービー・ハンコックが醸し出す60年代的ムードはモブレーの音楽が時代の中心から徐々に外れつつあることを示している。しかし、それでもこのアルバムはいい。最大の貢献者はフィリー・ジョー・ジョーンズ。フィリーの生きのいい、ちょっとラフなドラムはどう聴いても50年代的でモブレーとの相性が抜群。キレ味鋭いリー・モーガンのトランペットと組み合わせればもう言うことはない。本作はあまり取り上げられることはない隠れた好盤。モブレーとヒルの組み合わせに不安がよぎるもののヒルは脇役に徹しているのでその点は心配なし。(2007年1月23日) |
Straight No Filter | ||
![]() 曲:★★★★ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★★ モブレー入門度:★★ 評価:★★★★ |
[Recording Date] 1966/6/17 [1]-[3] 1965/2/4 [4][5] 1963/10/2 [6][7] 1963/3/7 [8][9] [1] Strairht No Filter [2] Chain Reaction [3] Soft Impressions [4] Third Time Around [5] Hank's Waltz [6] Syrup And Biscuits [7] Coming Back [8] The Feelin's Good [9] Yes Indeed |
[1]-[3] Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) McCoy Tyner (p) Bob Cranshaw (b) Billy Higgins (ds) [4][5] Freddie Hubbard (tp) Hank Mobley (ts) Barry Harris (p) Paul Chambers (b) Billy Higgins (ds) [6][7] Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Andrew Hill (p) John Ore (b) Philly Joe Jones (ds) [8][9] Donald Byrd (tp) Hank Mobley (ts) Herbie Hancock (p) Butch Warren (b) Philly Joe Jones (ds) |
時期もメンバーもバラバラな4つのセッションを寄せ集めた未発表音源集。ところがこれが意外と侮れない。全曲モブレーのオリジナル、60年代的な洗練と緊張感のあるサウンド、さらにブルーノート・オールスターズがサイドを固めているんだから質が保証されているのも当然か。[1]-[3]はモーガンの鋭いトランペットと、バッキングでもソロでも持ち味全開のマッコイのピアノが好調、スピーディーなヒギンズのドラムも冴えた、個人的にはこの中ではベストなセッション。 [4][5]はハバードの軽快なトランペットをフィーチャーしたオーソドックスな仕上がりで、そうなったのはスタイルの古いチェンバースのベースに負うところが大きい。[6][7]は鬼才アンドリュー・ヒルのプレイが他では聴けないほどに普通で、モブレーの60年代ジャズをまっとうに表現。リラックスしたモーガンのプレイも心地良く、モブレーとの相性の良さを再認識できる。[8][9]でピアノを弾くハンコックもここではオーソドックスに、しかし確実にハンコックらしさが出た適度にファンキーで軽快なプレイ。フィリー・ジョーは[6][7]のセッションも含めてここでは控え目な印象。[8][9]のバードのトランペットはモーガンやハバードと比べるとやはり個性という点では及ばないものの、ここで展開されているジャズにおいてはその普通さが良く合う。全体を通して聴いても散漫な印象がないのは、モブレーの曲、アレンジと好調なテナーが下支えしているからであり、地味だけど実は底力があるというモブレーの個性をよく表したアルバムとして聴ける。尚、[4][5][8][9] は「The Turnaround」のアウト・テイクと思われる。(2011年7月16日) |
The Turnaround ! | ||
![]() 曲:★★★☆ 演奏:★★★☆ ジャズ入門度:★★★★ モブレー入門度:★★ 評価:★★★ |
[Recording Date] 1963/3/7 [2][3] 1965/2/5 [1][4]-[6] [1] The Turnaround [2] East Of Village [3] The Good Life [4] Straight Ahead [5] My Sin [6] Pat 'N' Chat |
[1][4]-[6] Freddie Hubbard (tp) Hank Mobley (ts) Barry Harris (p) Paul Chambers (b) Billy Higgins (ds) [2][3] Donald Byrd (tp) Hank Mobley (ts) Herbie Hancock (p) Butch Warren (b) Philly Joe Jones (ds) |
アルバムのジャケットには4人のサイド・メンバーしか書いていないけれど、6曲のうち2曲はまったく別メンバーによる別セッション、しかも時代としては2年も開きがあるという、あまりブルーノートらしくない構成のアルバム。60年代からのモブレーはテナーに力強さが加わったところに魅力があるんだけれど、このアルバムはあまりその力強さを打ち出していない。それでも50年代の線の細さとは一味違う鳴り方ではある。曲は全体的にアグレッシヴなものがなく、落ち着いて聴ける内容。音楽的に何か尖った部分があるわけではないのはモブレーを知っている人なら予想できるわけで、実際その通りの仕上がり。演奏は当然メンバー相応の水準レベルにある。中でも、いい意味で力が抜けているフレディ・ハバードが心地よい。地味盤ながら60年代のモブレーをリラックスして楽しみたい向きには好適。(2013年8月10日) |
Dippin' | ||
![]() 曲:★★★★★ 演奏:★★★★★ ジャズ入門度:★★★★★ モブレー入門度:★★★★ 評価:★★★★☆ |
[Recording Date] 1965/6/18 [1] The Dip [2] Recado Bossa Nova [3] The Break Through [4] The Vamp [5] I See Your Face Before Me [6] Ballin' |
Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Harold Mabern (p) Larry Rideley (b) Billy Higgins (ds) |
エイトビートのリズムにトランペットがリー・モーガン、ドラムがビリー・ヒギンズと来れば嫌でも「The Sidewinder」をはじめとする一連のモーガン作品を連想してしまう。[1]のちょっと俗っぽい、ポップで適度に力の抜けた曲を聴くとますますその印象が強くなる。そしてあまりにも有名な[2]も然り。憂いを漂わせた軽快なこの曲、モブレーが自分のスタイルに徹しながらも曲に合った素晴らしいアドリブを聴かせ、徐々に熱気を帯びてきたところでモーガンにバトンタッチ。モーガンでしか吹けない節回しで哀愁漂うメロディを放射して少しずつ勾配を登ると盛り上がりが頂点に。ハロルド・メイバーンはその余韻を引き継いでこれまた哀愁溢れるピアノを聴かせ、本来ならクサいと揶揄されてもおかしくないヒギンズのわざとらしいオカズまでもが絶妙にハマる。ジャズに名曲なしとは良く言うけれど、この演奏は曲が引き出したものだと思わずにはいられない。冒頭2曲があまりにも印象深いために他が霞んでしまうのは仕方がない。でも、[3]以降のこの時代の空気をしっかりと消化したモブレーらしい曲と小気味良くもシャープな演奏が心地よい。これはヒギンズの小刻みなドラムと軽快かつ明快なメイバーンのピアノが貢献が大きい。[5]はメイバーンの美しいピアノとおおらかなモブレーのテナーがとろけるようなムードを醸し出し、コルトレーンの「Ballards」なんかよりも遥かに豊穣な世界が聴ける。そして全編通してモーガンが素晴らしい。50年代とは一味違うモブレー+モーガンのコラボレーションが楽しめる好盤。(2007年1月23日) |
A Caddy For Daddy | ||
![]() 曲:★★★ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★★☆ モブレー入門度:★★ 評価:★★★☆ |
[Recording Date] 1965/12/28 [1] A Caddy For Daddy [2] The Morning After [3] Venus Di Mildew [4] Ace Deuce Trey [5] 3rd Time Around |
Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Curtis Fuller (tb) McCoy Tyner (p) Bob Cranshaw (b) Billy Higgins (ds) |
リズム・セクションは60年代ブルーノートの看板であるボブ・クランショウにビリー・ヒギンズ、これだけで聴こえてくる音が想像できそう。そして実際に想像通りのサウンド。モーガンは適度にスリリングでリラックスした変幻自在なプレイ、モブレーは以前と比べると低めのトーンを多様して力強さをが増したプレイ、つまりはこの時期らしく、全体的に典型的な60年代ブルーノート・サウンドと言う事ができる。故にサプライズがなく、刺激を好む人には物足りなさを感じ、安定を求める人には満足を得られる1枚。このアルバムならではの個性となると、コルトレーン・グループを脱退したばかりのマッコイが脇役に徹しつつもフレッシュなプレイを聴かせているところか。カーティス・フラーは出番が少なめで、3管編成ならではのアレンジがされているわけでもないせいか存在感が薄い。ウェイン・ショーター作の[3]を除き、モブレーのオリジナル曲の構成で、編成に合わせて絶妙に曲を仕上げるモブレーのマジックがやや色褪せつつあるようにも思える。内容は平均点レベル以上のものがあるものの、「このアルバムならでは」というものがないところが弱点か。(2008年3月1日) |
Reach Out | ||
![]() 曲:★★★☆ 演奏:★★★★ ジャズ入門度:★★★☆ モブレー入門度:★★ 評価:★★★ |
[Recording Date] 1968/1/19 [1] Reach Out I'll Be There [2] Up Over And Out [3] Lookin' East [4] Goin' Out Of My Head [5] Good Pickin's [6] Beverly |
Woody Shaw (tp) Hank Mobley (ts) George Benson (g) Lamont Johnson (p) Bob Cranshaw (b) Billy Higgins (ds) |
モブレー後期のアルバムは、元来ハード・バッパーの自身を、やや無理をして煽り立てるように60年代のサウンドに挑んでいて、それはそれで僕は結構高く評価している。ところが、それだけではどうにも個性が立たないのか本作のようにポップスをカヴァーさせるという企画が出てきてしまうところに、この時代のモブレーは居場所の狭さを感じてしまう。そんなポップ路線は[1][4]。[1]は有名曲らしいけれど僕は知らない。それにしてもこの[1]、冒頭からジョージ・ベンソンのギターだけでポップに寄って行く演奏は実にイージー・リスニング的。[4]も然りで[6]もその傾向あり。スリルも熱狂も皆無。反面、他の4曲はいい。ウッディ・ショウ(素直でキレのいいトランペットが聴ける)にベンソンという組み合わせはちょっと珍しく、ストレート・アヘッドなジャズ的演奏に安心。モブレーのテナーも熱い。エイトビート(ポップ路線)と、フォービート(ジャズ路線)の曲が別れていて聴き側の気持ちがなかなか落ち着かないのが難点の評価に困る1枚。(2010年5月10日) |