Rock Listner's Guide To Jazz Music


John Coltrane(61-65)


Evenings At The Village Gate

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
1961/Aug

[1] My Favorite Things
[2] When Lights Are Low
[3] Impressions
[4] Greensleeves
[5] Africa
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (bcl, as)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Art Davis (b)
Elvin Jones (ds)
録音日は61年8月、つまりあのヴィレッジ・ヴァンガードのライヴの3か月前で、エリック・ドルフィーを含むメンバーも基本的に同じとなれば期待するなというのが無理というもの。その音源は、ニューヨーク公共図書館で発見されたもので、機材テスト用として録音エンジニアがマイク1本で回していたテープという情報から、録音状態はあまり期待できないことも予想できる。首を長くして届いたCDから音を出し始めた直後には、「おっ、予想よりもクリアで音が良い」と思ったものの、1分も聴き進めていくとやはり難アリであることに気づく。セッティングされたマイクが1本ということから、明確に聴こえてくるのはエルヴィンのドラムのみ。管楽器、ピアノは遠く、ベースは耳を済ませば音が聴こえる程度で低音域にドラム以外の厚みがまったくない。実際のライヴで奏者前のマイクとPA抜きにして天井(管楽器の音が直接的に届かない場所)にマイクをセットしたら、大きな音が出るドラムだけが目立つようになってこうなるだろうな、という音のバランス。決して音がコモっているわけではないんだけれど、コルトレーンとドルフィーの音が遠いのは音源の出自を考えると仕方ないとあきらめざるを得ず、ベースが聴こえないとジャズという音楽はこんなにも力強さに欠けてリズムのウネがなくなるのかと、そしてグループとしての熱気が伝わらなくなるものなのかと実感させられる。一方で、ドルフィーのフルートで始まる[1]、冒頭から曲の半分までがドルフィーのバスクラで進む(その後コルトレーンソプラノ、マッコイと続く)の[2]、正規ライヴ音源としては恐らく初公開で22分に及ぶ[5]は貴重で、ヴィレッジ・ヴァンガードと曲が被る[3][4]も当然パフォーマンスが異なることから資料的な価値は極めて高い。既に没後56年が経過し。正規レーベルからのリリースであっても正規録音でない録音クオリティの発掘になるのは仕方のないこととはいえ、録音バランスさえ良ければ愛聴盤になり得たかもしれない演奏のクオリティなだけに惜しい。(2023年8月13日)

The Complete 1961 Village Vanguard Recordings

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
トレーン入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]

<1961/11/1>
Disc 1
[1] India
[2] Chasin' the Trane
[3] Impressions
[4] Spiritual
[5] Miles' Mode
[6] Naima

Disc 2
[1] Brazilia
<1961/11/2>
[2] Chasin' Another Trane
[3] India
[4] Spiritual
[5] Softly, As in a Morning Sunrise

Disc 3
[1] Chasin' the Trane
[2] Greensleeves
[3] Impressions
<1961/11/3>
[4] Spiritual
[5] Naima
[6] Impressions

Disc 4
[1] India
[2] Greensleeves
[3] Miles' Mode
<1961/11/5>
[4] India
[5] Spiritual
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (bcl, as)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)

Ahmed Abdul-Malok
   (Disc 1 [1] Disc 2 [3]
               Disc 4 [1] oud)
Garvin Bushell
   (Disc 2 [3][4]  Disc 4 [1][5]
                    oboe)
Roy Haynes (Disc 2 [2] ds)
まずは資料的なことから。この4枚組CDセットは、1961年11月1、2、3、5日、ニューヨークのジャズ・クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードに出演したときの記録をクロノロジカルに収録したもので、この音源じたいは、LP時代からさまざまな形で発売されてきた。
「Live At The Village Vnaguard(62年)」
「Impressions(63年)」 (4曲中2曲は別時期のスタジオ録音)
「The Other Village Vangurad Tapes(77年)」
「Trane's Modes(79年)」
「From The Original Master Tapes(85年)」
これらの曲に未発表テイク5曲を加えたものがこのセットになる。

メンバーは曲によって出入りが激しいので詳細は割愛。基本は6人で、ドルフィー、マッコイが曲によっては抜ける。ベースはワークマンが12曲、ギャリソンが4曲、2ベースが6曲という構成。他の3人は数曲参加しているのみ。次に個人的なことを。マイルス・デイヴィスからジャスを聴き始めた初心者の僕は、では次はコルトレーンでも、と自然な(?)流れに沿ってCDショップでアルバムを探した。ジョン・コルトレーンが変貌を続けて行ったジャズ・マンであり、保守的なジャズ・ファンからは「マイルスのところにいたころはまだ良かった」などと言う人がいることも知っていた。では、その変貌した後のコルトレーンを聴いてみようと思い、CDショップで目にしたのは「至上の愛(A Love Supreme)」。オビには「ジャズの金字塔」の文字があった。録音は65年でマイルス・グループを離れて時間が経っていることや組曲風の曲目であることから、恐らく僕が求めている、自己を確立したコルトレーンが聴けるだろうと予想した。もともと、マイルス・グループでのコルトレーンの演奏もその頃は理解していたとは言えず、分かりやすいジョージ・コールマンの方が好きだった時期に聴いた「至上の愛」の第一印象は「気持ち悪い音楽」。正直言ってまったく理解できず。コルトレーンは自分には合わない音楽なのだと思った。しかし、それにも懲りずしばらく間をおいて次に手にしたのが「Live At The Village Vanguard: The Master Takes」。これを聴いて自分の中でコルトレーンの存在が一気に違うものになった。こんなにスゴイ演奏のジャズがあるとは!こんな音楽がこの世にあるのか!と。以来、僕はコルトレーン信者になってしまったというわけです。最後に内容について。「Ole」からわずか5ヵ月後、演奏曲目はこれまでにないものばかりで音楽そのものもドラスティックに変化。保守的なジャズ・ファンはもうお呼びではない。ライヴということもあり、熱い演奏が繰り広げられ、各人のプレイ、全体のグルーヴが昇華した、当時としては先進的な、そして今もって古びていない究極の先鋭的なジャズが展開されている。その素晴らしい成果をもたらした要因は恐らくドルフィーにあり、コルトレーンのアドリブと音全体に与えた影響は絶大だったという定説に異論はない。もちろん、主役はそれでもコルトレーンだし、ドルフィーとの2人のバトルが存分に楽しめる。また、ここでのワークマンのベースは低音から高音まで柔軟かつ自在にグルーヴを支配していて全体に与えている影響は絶大。ギャリソンの演奏ももちろん良いけれど、ここではワークマンの方が光っている。マッコイのピアノが与える流麗なムードも忘れてはいけない。そしてエルヴィンの凄まじいこと。Disc 4 [4] などは黒人の肉体からでしか生まれ得ないプリミティヴなウネリが溢れ出ている。コルトレーンとドルフィーのアドリブは前衛的かつ自由で、リズム・セクションの演奏も従来のジャズから大きく進んだ演奏でありながら決して無秩序ではなく、グループとしての音楽を確立していることこそが高く評価されている理由ではないだろうか。この筆舌に尽くしがたい奇跡の記録を生々しく捉えた録音がまた素晴らしい(一部乱れがあるが)。各楽器の音は鮮明かつ迫力たっぷり。4枚組みというボリュームは重いので、ヴィレッジ・ヴァンガードのコルトレーンをまずは聴いてみようという人には、「Live At The Village Vanguard: The Master Takes」を勧めたい。これは、LP時代のアルバムで言う「Live At The Village Vnaguard」に加え「Impressions」のライヴ2曲から構成されたもので、ドルフィーの出番が少ないという弱点はあるものの、この音世界を体験するには絶好の盤。これを聴いて何も感じない人は、企画モノ3枚(「Ballards」、「Duke Ellington & John Coltrane」、「John Coltrane & Johny Hartman」)を除いて、以降のコルトレーンを追及する必要はないでしょう。(2006年6月16日)

The Complete November 18,1961 Paris Concert

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1961/11/18

Disc 1
[1] Impressions
[2] I Want To Talk About You
[3] Blue Train
[4] My Favorite Things

Disc 2
[1] Blue Train
[2] I Want To Talk About You
[3] My Favorite Things
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (as, bcl, fl)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Elvin Jones (ds)
こちらも数あるセミ・オフィシャル盤のひとつ。ベースの厚み、全体に音の厚みがない、ブートレグ的な音質。シンバルの抜けも良くない。コルトレーンのテナーはまずまずの音で聴こえるし、バンド全体の音はなんとか見通せるので悪いなりには楽しめる。あのヴィレッジ・ヴァンガードでの熱演からおよそ2週間後ではあるものの、曲目も含めムードがだいぶ異なる。やはり、クラブでの演奏とホールでの演奏は違ってくるのが当たり前なんでしょう。演奏については、61年ころとしては平均的、つまりはハイレベルな内容。パリの観客の反応もいい。特に Disc 1 の [1][4] の定番曲での燃焼度はなかなかのもの。ドルフィーのパワー感が少し物足りない感じもするけれど、そこまで望むのは贅沢か。音質が、我慢できるかとうか微妙なラインにいるので、そこにあまりこだわらない人なら楽しめる、このクインテットが好きなら演奏は十分に楽しめるはず。(2012年5月26日)

Complete 1961 Copenhagen Concert

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1961/11/20

[1] Announcement by
                  Norman Granz
[2] Delilah
[3] Every Time We Say Goodbye
[4] Impressions
[5] Naima
[6] My Favorite Things
     (false start)
[7] My Favorite Things
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (as, bcl, fl)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Elvin Jones (ds)
これも GAMBIT という謎のレーベルから。ブートレグとしては以前から知られていてマニアにはさほど目新しさのない音源。音はかなりコモリ気味なので、本来ならあまりお勧めできないと言いたいところだけれど、何といっても [2] が珍しい。このスタンダードを、当時にはない斬新な解釈をもってソプラノ・サックスで吠える。完成度が高いとは言えないものの、これは一度くらいは聴く価値あり。[3] もあまり記録が残っていないので珍しい部類に入る。あとは [7] のスタートを失敗してやり直しているのもレア。全体としては61年当時なりの平均的な演奏で、この日はそれほど凄みを感じさせない。特に [7] はノリが悪い。それは「このクインテットにしては」という注釈付きの話で決してレベルが低いわけではなく、より良い音源があるためにこのレベルでは満足できなくなっているだけのこと。いや、音が悪いのであまり演奏に集中できないのが問題なのかもしれない。(2011年5月28日)

The 1961 Helsinki Concert

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1961/11/22 [1]-[4]
1960/4/1 [5]-[7]

[1] Impressions
[2] My Favorite Things
[3] Blue Train
[4] I Want To Talk About You
[5] On Green Dolphin Street
[6] Walkin'
[7] The Theme
[1]-[4]
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (bcl, as)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Elvin Jones (ds)

[5]-[7]
John Coltrane (ts)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
これまたブートレグ品質の音源。音の厚みはまずまずも、かなりコモリ気味でシンバル系の響きは絶望的。今宵の [1] は絶好調時に比べると燃え方は標準的で特筆するほどではない。個人的にあまり好きでないレパートリーの [2] もそれほど見るべきものがない。[3] も然りで、悪くはないんだけれど、あまり特徴がない61年モノ音源と言える。あまり感じるものがないのはやはり音質に負うところが大きいかも。まったく同質の録音状態ながら、実はボーナス・トラック扱いされている [5] 以降の3曲の方が貴重。でも、それを楽しむのであれば当日の演奏を完全収録した「Live In '60, '61 & '65 (DVD)」の方が断然お勧め。(2009年8月15日)

Coltrane (Impulse)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★☆
トレーン入門度:★★★☆
評価:★★★★★
[Recording Date]
1962/4/11 [3]
1962/6/19 [1] [2]
1962/6/20 [5]
1962/6/29 [4]

[1] Out Of This World
[2] Soul Eyes
[3] The Inch Worm
[4] Tunji (Toon-gee)
[5] Miles' Mode
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
至高のカルテットによるスタジオ録音第一作目。61年のエリック・ドルフィーとのツアーによりコルトレーンの演奏はよりアグレッシヴに、マッコイはさらに流麗かつ力強く、そしてエルヴィンはよりパワフルかつ多彩になった。前回のスタジオ録音「Ole」からわずか1年、進化という言葉では表現しきれないほど成長し、バンドの結束力も格段に強くなっている。[1] のイントロから漂う重厚なムード。コルトレーンが苦手な人はここでもう逃げ出したくなるに違いない。しかし、僕はこれを味わいたくてこの CD をトレイに乗せる。アドリブで自分の音を主張していたコルトレーンが、全体のサウンドでも自分の音楽と言える領域に到達しはじめたといえるのがこのインパルス盤の「Coltrane」。4人の演奏は既にハイ・レベルで特にキャリソンのベースが全体に重みを与え、エルヴィンは小刻みなポリリズムでボトムを支えていることによって、アトランティック時代よりも遥かに音楽が大きく感じる。とはいえ後の演奏に比べれば全体的にはまだ大人しく、宗教臭いところや黒人ルーツのアフリカの匂いもまだないところがこのアルバムの印象を少し地味なものにしているような気もする。曲もオリジナルはまだ2曲だけ、[2] ではマル・ウォルドロンのバラードを硬質ながらも美しく聴かせてくれる。ルディ・ヴァン・ゲルダーの録音で音の感触は申し分なし。名作揃いのインパルス時代にあって影に隠れたアルバムながら、堂々とした重みが魅力の傑作。ジャケットも秀逸。(2006年6月16日)

Duke Ellington & John Coltrane

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★☆
トレーン入門度:★★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1962/9/26

[1] In A Sentimental Mood
[2] Take The Coltrane
[3] Big Nick
[4] Stevie
[5] My Little Brown Book
[6] Angelica
[7] The Feeling Of Jazz
John Coltrane (ts, ss)
Duke Ellington (p)
Jimmy Garrison (b [2] [3] [6])
Aaron Bell (b [[1] [4] [5] [7])
Elvin Jones (ds [1] [2] [3] [6])
Sam Woodyard (ds [4] [5] [7])
自らの音楽を実現するべく至高のカルテットを組んでみたものの、間もなく取り組んだのは企画モノの3枚。そのうちの1枚が本作で、ハード路線を突き進むコルトレーンに合わせる共演者はなんと重鎮のデューク・エリントン。当時のコルトレーンは保守的ジャズ・ファンからの批判が強く、、要するにプロデューサーのボブ・シールが売れセンのアルバムを企画したということらしい。エリントンと言えば「Money Jungle」の前衛的かつ破壊的なピアノを連想するものの、ここで聴けるエリントンのピアノは瑞々しくモダン。[1] のイントロで聴けるピアノの美しいリフレインに耳を奪われると、そこに入るコルトレーンの高音テナーが美しい響きで迫る。この瞬間だけでも聴く価値がある最高のバラードに仕上がっている。トレーンがハメを外す一歩手前で抑えた、なかなかハードなプレイ(エリントンも手を休めてしまう)の [2]、ユーモラスなメロディをソプラノ・サックスで奏でながらも燃えてくるとやはり一線を越えそうになる [3]、といったコルトレーン組メンバーでの演奏ではやはりエリントン巨匠の存在感は薄くなるものの、エリントン組の [4] [5] になるとやはりオーソドックスなスタイルになる。 [5] のバラードではまた美しいピアノとテナーが堪能できることもあって、どちらかと言えばエリントン組の演奏に魅力を感じる。この2人の競演が噛み合っているか否かは評価の分かれるところだと思うけれど、お互いにリスペクトしあっているからこそ質の高いものができたのでしょう。企画モノ3部作の中ではバラエティに富んでおり、インパルス初期のコルトレーンを気軽に楽しむには良い作品。(2006年7月1日)

At Birdland 1962

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1962/2/9 [1]-[3]
1962/6/2 [4]

[1] Mr. P.C.
[2] Miles Mode
[3] My Favorite Things
[4] Body And Soul
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (as, fl except [4])
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
CHARLYというちょっと怪しいレーベルから出ている62年、バードランドでのライヴ。「Live Trane」の Disc 2 [1]-[3] と重複、そこに [4] を加えたのがこの CD。音質はイマイチでオフィシャル盤と同じ感覚ではとても聴けないけれど、各楽器の音はしっかり分離しているし、まあ鑑賞に耐えるレベル。ドルフィーとの競演盤というところに価値を見出す人もいるかもしれないけれど、そんなことを抜きにしてとにかく演奏は熱い。特に [1] はコルトレーンとドルフィーの激しいブロー合戦が繰り広げられ、それを受けるリズム隊の燃え方もハンパではない。この [1] が凄すぎて他が霞むけれど、演奏は素晴らしく録音状態が悪くなければ名盤扱いされていてもおかしくない内容。[3] は数多く残されている演奏の中でも屈指の好演。[4] はボーナスっぽい扱いでドルフィーもないけれど、こちらも味のある良い演奏。本当にドルフィーはコルトレーンをインスパイアしたんだなあと実感できる記録。(2006年7月2日)

John Coltrane Quintet with Eric Dolphy

曲:★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1962/2/9

[1] Mr. P.C.
[2] Miles Mode
[3] My Favorite Things
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (as, fl)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
「At Birdland 1962」と同じ、つまり 「Live Trane)」 Disc 2 [1]-[3] と同じ音源。持っている人は特に必要ないかと。どうでもいいんですが、このタイトルって6人組という意味にならない?(2008年5月2日)

Ballards

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★★★
トレーン入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
1961/12/21 [7]
1962/9/18 [6] [8]
1962/11/13 [1]-[5]

[1] Say It (Over And Over Again)
[2] You Don't Know What Love Is
[3] Too Young To Go Steady
[4] All Or Nothing At All
[5] I Wish I Knew
[6] What's New
[7] It's Easy To Remember
[8] Nancy (With The Laughing Face)
John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison
         (b except [7])
Reggie Workman (b [7])
Elvin Jones (ds)
まず断っておきたいのは僕はコルトレーンのバラードが大好きであるということ。プレスティッジ時代に残した数々のバラードはいずれ劣らぬ名演ばかりで、コルトレーンの大きな魅力のひとつだと思っている。一方でインパルス時代に入ってからも、数は多くないものの甘みを廃した胸を打つバラードが残されている。ここで本題に入る。この大ベストセラー・アルバムは相当つまらない。というか何も感じない。理由を探しても、なかなか自分でも納得できる答えが見つからない。ただ単にメロディをなぞっているだけでも説得力を持つコルトレーンなのに・・・。インパルス企画モノ3部作のうち本作以外の2枚「Duke Ellington & John Coltrane」「John Coltrane and Johnny Hartman」は共演者がいたことによって、相手に失礼のないプレイをしなければならないという緊張感があったのに対し、このアルバムはいつものカルテット、手抜きをしたつもりはなくとも気持ちの入り方が薄かったのではないかと勝手に推測している。ちなみに、定説となっているマウスピース不調説は普通に考えればあり得ないこと。一時的にそういう時期があったことは事実かもしれないし、コルトレーン自身のコメントに端を発しているのも確かではあるけれど、それが一人歩きしてマウスピースが不調だった「から」このバラード集が作られたというように語られているのには明らかに違和感がある。録音日のバラつきを見てわかるように、こんなに長い期間バラードばかりプレイしていたはずがない。本作はボブ・シールの企画による大衆ウケを狙ったもの。それに尽きる。ただ、そんなプロセスはどうでも良く、重要なのはあくまでも結果と考えているので例え売れセン狙いだったとしても構わない。純粋に内容を聴いてこのアルバムには心を動かされるものがないことが残念。(2006年7月18日)

Both Directions At Once: The Lost Album

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1963/3/6

Disc 1
[1] Untitled Original 11383
[2] Nature Boy
[3] Untitled Original 11386 (Take1)
[4] Vilia
[5] Impressions (Take3)
[6] Slow Blues
[7] One Up, One Down (Take3)

Disc 2
[1] Vilia (Take 5)
[2] Impressions (Take 1)
[3] Impressions (Take 2)
[4] Impressions (Take 4)
[5] Untitled Original 11386 (Take 2)
[6] Untitled Original 11386 (Take 5)
[7] One Up, One Down (Take 6)
John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
「Offering」以来久々の発掘音源で、今回はスタジオ録音(2018年6月29日発売)。オリジナルのマスターテープは既に廃棄されており、しかしバックアップ用(コルトレーンが個人的にチェックするために作っておいたコピー)テープが残存していて、それを元にしているらしい(経緯は日本盤の解説に詳しく書かれている)。モノラルながら、思う存分音楽に没頭できる素晴らしい録音状態で、古いであろうテープのヨレもまったくない。この日のセッションは、アルバム制作を前提としていたようで、収録曲の曲調も、アヴァンギャルドさを強め始めたこの時期ならではの演奏を中心に、穏やかな曲、スローブルースまでと幅広く、Disc 1だけで1枚のアルバムとして聴く作りになっている。[1][3][6] が未発表曲で、[7]も後年の同タイトルの曲とは印象がだいぶ違う。パフォーマンスは、この4人であればという前提で言うと、Excellentとは言い難い。廃棄されたものだけにそれは当然のことで僕の感覚としては、ラヴィ・コルトレーンの「小手調べという感じの試験的なセッションじゃないかな」というコメントとほぼ同じ感想。Disc 2は Disc 1の別テイク集なので特筆することはないものの、"Imrpressions" 3連発はここにのみ収録。既に多く公開されているライヴでの壮絶な演奏を知っている身にはややおとなし目、というか何年も演奏してきた曲のはずなのに手探り的なムードが漂っている。take 4だけピアノを抜いたバージョンにしているところにもお試し感がある。スタジオ版として、スタジオ版ならではの演奏が残せるかどうかを探っていたかのような演奏に聴こえる。つまり、全体的に見て演奏はいまひとつ。この63年は、正規録音が少なく企画モノである「John Coltrane and Johnny Hartman」以外では「My Favorite Things: Coltrane At Newport」の1枚めディスク、「Live At Birdland」くらいしかない。録音はその「John Coltrane and Johnny Hartman」の前日で、コルトレーンが休息に進化しはじめた時期だけに、新しい音源はそれだけでも興味深い。63年の録音であることと、録音から55年を経て日の目を見たという資料的価値から、リリース直後には持ち上げる人が多数現れる(現れた)けれど、既存のアルバムにはこれより遥かに素晴らしいものが数多くあり、熱心なコルトレーン・フリーク向けの発掘であることは認識しておいた方がいいでしょう。(2018年10月21日)

John Coltrane and Johnny Hartman

曲:★★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★★
トレーン入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1963/3/7

[1] They Say It's Wonderful
[2] Dedicated To You
[3] My One And Only Love
[4] Lush Life
[5] You Are Too Beautiful
[6] Autumn Serenade

Johny Hartman (vo)
John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
インパルス企画モノ・アルバム第3弾。甘い甘いバラードを、ジョニー・ハートマンのバリトン・ヴォイスとマッコイのこれまた甘美でチャーミングなピアノで聴かせる。コルトレーン自身のプレイも高音を多用してソフトに、時に鋭さが顔をのぞかせつつ甘味たっぷり。「Lush Life」で演奏していた [4] を聴き比べれば、その甘さ加減がよく分かろうというもの。エルヴィンのブラッシュ・ワークも控えめながら実に味わいがある。ヴォーカルの存在で曲の中心が歌メロになったために、オブリガードと短いソロだけという制約が生まれ、コルトレーンの存在感が却って増している感じすらある。ハードさを増すばかりのこの時期に、こんなにスウィートな作品が生まれたのはある意味奇跡。コルトレーンのアルバムとして聴くのではなく、至高のカルテットがヴォーカリストのバッキングを務めた作品として聴くべきアルバム。わずか31分という演奏時間も気軽に聴けて良い。芳醇で上質な音楽を純粋に楽しめる傑作。(2006年6月24日)

Newport '63

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
トレーン入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1963/7/7
1961/11/2 [4]

[1] I Want To Talk About You
[2] My Favorite Things
[3] Impressions
[4] Chasin' Another Trane
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Roy Haynes (ds)
エルヴィンに代わって一時的に参加していたロイ・ヘインズをフィーチャーした音源の中でもライヴ録音を集めたアルバム。へインズはエルヴィンのグルーヴィーさとは正反対の直線的でクリスピーなリズムを持ち味としていて好き嫌いが分かれる。[1] はこの時期によく演奏されたバラードで、この日の演奏はまた一段と音数が多い。カデンツァなんていつまで続くのかと思うくらい吹きまくる(3分超、以降この曲のカデンツァはいつも長い)。[3] はストレートなリズムの疾走曲なのでへインズのドラムがハマっている。実は後半の3分の2はコルトレーンとへインズのデュオによるバトル。[2] はこの曲のベスト演奏と言われているだけあって確かに演奏は良いけれど、個人的にも他にもっと良い演奏があると思う。"My Favorite Things"はトレーンが鬼籍に入った後に発掘された音源がたくさんあり、リアルタイムで正規契約のもとにリリースされた演奏は、初演とコレくらいしか思い浮かばないので、「ベスト」という定説はその時代に作られたものではないかと思う。尚、[4] は「The Complete 1961 Village Vanguard Recordings」収録のものと同じ。

My Favorite Things: Coltrane At Newport

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
トレーン入門度:★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1963/7/7 [1]-[3]
1965/7/2 [5] [6]

[1] I Want To Talk About You
[2] My Favorite Things
[3] Impressions
[4] Introduction by
    Father Norman O'Corner
[5] One Down, One Up
[6] My Favorite Things
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Roy Haynes (ds) [1]-[3]
Elvin Jones (ds) [5] [6]
63年と65年のニューポート・ジャズ・フェスティバルを集約。基本的には既存の音源であるものの、それなりに違いがある。[1]〜[3] は既存の「Newport '63」と同じ音源。[1] では冒頭でアナウンスから入り、少しだけウォーミングアップの音が聞こえてくるところが「Newport '63」とは違っていて、これから始まるというムードがあるところがイイ。 [3] も「Newport '63」では途中からのフェードインだったことがここで判明,、約8分長くなっての完全版として初登場音源となっている。その復活した前半8分はコルトレーン抜きのマッコイ・トリオによる熱い演奏で、以
前はほとんどコルトレーンが吹きまくっている印象だったのはこの部分がなかったことによるものと判明。特筆すべきは音質向上が目覚しいことで完全に一皮剥けたクオリティ。65年の音源は「New Thing At Newport」などでやはり既発のものだけれど、僕は未聴のため違いはわからない。クリアな音質で聴ける至高のカルテットによる "My Favorite Things" は意外と少ないので貴重かも。この日のコルトレー・カルテットはこの2曲のみだったようで、演奏の方も彼らとしては盛り上がっていない感じがする。テンションが低いというわけではないけれど、なんとなく「緩さ」を感じてしまう。そんないつもと違うところがこの日の聴きどころかも。(2007年9月29日)

Live At The Showboat

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★☆
[Recording Date]
1963/7/?

Disc 1
[1] Good Bait
[2] Out Of This World
[3] Mr. P.C.

Disc 2
[4] The Promise
[5] Solo Fragment
[6] Impressions
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
クレジットではドラムはロイ・ヘインズということになっているものの、聴けばエルヴィン・ジョーンズであることは明らか。録音日の63年6月17日という表記も同7月説が有力とか。音はお世辞にも良いとは言えない典型的なブートレグ品質(オーディエンス録音)でベースの音は薄いし、ピアノの音はヨレている。当然、これからコルトレーンを、という人が手を出すシロモノではないけれど、[1][2] はオフィシャル音源のライヴ演奏は聴けないなどもあってマニアにはなかなか侮れない。演奏も至高のカルテット全盛期とあって悪いはずがなく、特にエルヴィンの重量級グルーヴを堪能できるのはいい。中でも [3] と35分にもおよぶ [6] での暴れっぷりは騒音苦情が来てもおかしくないほどの乱れ打ちで、とにかく凄いったらない。これだけ煽られればコルトレーンの燃え方も然るべきレベルになるというものでしょう。それだけに音の悪さがなんとも惜しまれるけれど、どうせベースの音が聞こえないのならここはコルトレーンとエルヴィンのバトルを堪能する音源として割り切って聴くのが精神衛生上よろしいかと。法の間をくぐりぬけて発売されているオフィシャル盤という名のブートレグのようなものなのでそのつもりで手を出しましょう。貴重な記録のブートでありながらプレスCDで普通(?)のブートより安く手に入ると考えるか、普通の CD ショップで買えるのにこの劣悪な音質かよと考えるかは聴き手次第。(2008年3月30日)

Live At Birdland

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★☆
トレーン入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1963/10/8 [1]-[3]
1963/11/18 [4] [5]

[1] Afro Blue
[2] I Want To Talk About You
[3] The Promise
[4] Alabama
[5] Your Lady
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
アルバム・タイトルであるバードランドでのライヴ盤かと思えば、実際には[1]から[3]までのみで、歓声が入っていないこともあってあまりライヴ盤という印象を受けない。[1]は後にもいくつかの録音が残されている曲で、個人的にはこれがベスト。迫力満点のエルヴィンのドラムに乗って、マッコイのピアノ・ソロのあとに飛び立つソプラノに圧倒されること間違いなしの名演。[2] もよく演奏される曲でライヴ演奏の中では、途中から徐々に盛り上がり、またまた3分以上のカデンツァでの燃焼。それでいて適度にまとまりがある完成度の高いテイク。[3] は一瞬"サマータイム"を連想させるテーマを持ったソプラノ・サックスによる比較的淡白な演奏ながら後半はどんどん音数が増加して静かに盛り上がる。[4] は、後によく聴かれるような重厚なバラード。[5] も淡々としたリズムにソプラノ・サックスが乗る曲で、中盤でマッコイはお休み。3曲目以降、やや地味で印象が薄いアルバムだけれどエルヴィン入りの至高のカルテット、実は63年モノ正規録音はこれだけ(パブロ盤、企画モノを除く)なので意外と貴重かも。(2006年6月29日)

The Complete 1963 Copenhagen Concert

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★☆
トレーン入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1963/10/25

Disc 1
[1] Mr. P.C.
[2] Impressions

Disc 2
[3] The Promise
[4] Afro Blue
[5] Naima
[6] My Favorite Things
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
このGAMBITという謎のレーベル、言ってしまえばブートレグを公式盤としてリリースしているレーベルでレアな音源をリーズナブルな価格で提供するところに特徴がある。それだけに内容も音質もさまざま。このCDは選曲にはあまり意外性がなく当時のヨーロッパ・ツアーの典型的なもの。一方で音質はまずまず、曲によって、あるいは曲の中でも部分的に音がふらつきベースの音が割れ気味のところがあるるものの、「Live Trane」よりワンランク落ち程度に踏みとどまっている。個人的には63〜65年くらいの演奏が一番好きなだけにこの音質でも十分にありがたい。内容はこの時期としては標準的。つまりマッコイは鍵盤を叩きつけ、ギャリソンは長尺ソロで唸り、エルヴィンが暴れ、コルトレーンが爆奏するいつものカルテットのパフォーマンスを堪能できる。慣れというか麻痺というか、このくらいならもう驚かない自分に恐ろしさを感じなくもない。もちろんオフィシャル盤にはもっと音がいいものがたくさんあるので、それだけでは飽き足りない、多少音質が悪くてもいいやというマニアにのみ勧められる音源。(2011年12月5日)

Live Trane

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★☆
1961/11/23 (Stockholm)
Disc 1
[1] Impressions
[2] My Favorite Things
[3] Blue Train
[4] Naima
[5] Impressions
[6] My Favorite Things

1962/2/9 (New York Birdland)
Disc 2
[1] Mr. P.C.
[2] Miles Mode
[3] My Favorite Things

1962/11/17 (Paris)
[4] Norman Grantz Introduction
[5] Bye Bye Blackbird
[6] The Inch Warm
[7] Everytime We Say Bood Bye
Disc 3
[1] Mr. P.C.

1963/11/1 (Paris)
[2] My Favorite Things

1962/11/19 (Stockholm)
[3] The Inch Warm
[4] Mr. P.C.
[5] Naima
Disc 4
[1] Traneing In
[2] Bye Bye Blackbird
[3] Impressions

1963/10/22 (Stockholm)
[4] Swedish Introduction
[5] Traneing In
[6] Mr. P.C.
Disc 5
[1] Naima
[2] The Promise
[3] Spiritual
[4] Impressions
[5] I Want To Talk About You
[6] My Favorite Things

1963/11/1 (Paris)
Disc 6
[1] Mr. P.C.

1963/11/2 (Berlin)
[2] Lonnie's Lament
[3] Naima
[4] Chasin' The Trane
[5] My Favorite Things
Disc 7
[1] Aflo Blue
[2] Cousin Mary
[3] I Want To Talk About You

Date Unknown
[4] Impressions
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (as, ncl, fl
        [Disc 1 & 2 [1]-[3])
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Reggie Workman (b [Disc 1])
Elvin Jones (ds)
61〜63年、ヨーロッパでホール会場におけるツアーの模様を集めたボックス・セット。これらのツアーは、これ以前にはマイルス・デイヴィスのツアーを成功させているノーマン・グランツが主催。ジャズをホールでやるようになったのは、たぶんこの時期あたりからで、それだけジャズが一般に浸透してきたのと同時にビジネスとしての価値も備え始めたということになる。
さて、「The Complete 1961 Village Vanguard Recordings」で異様な緊張感と迫力に打ちのめされた僕は、このカルテットなら同じ様にあの破壊的なジャズを満喫できるに違いないと思って購入したボックス。聴いてみての感想はどうだったと言うと・・・やや期待外れ。理由のひとつは音が悪いことで、録音日にもよるけれど総じて良質のブートレグ・レベルというところでオフィシャル盤として聴くとちょっと辛い。もうひとつは演奏の内容。曲目を見ればわかる通り、以前から演奏していたレパートリーを多く取り上げていることからその音楽性がヴィレッジ・ヴァンガードよりも後退しているように感じるし、グループ全体の演奏もあそこまで過激ではない。あと、何テイクも収録されている"My Favorite Things"が個人的にはあまり好きでないのも理由のひとつかもしれない。ホール、つまり多くのオーディエンスに聴かせる演奏ことから、人気曲、有名曲を選ばせ、演奏のテンションにも影響しているのではないかという気もする。音の悪さには目をつぶって改めて聴きなおしてみると、確かに過激さはそれほどではないもののテンションは一定のレベル以上にある(というかヴィレッジ・ヴァンガードが異常なだけ)し、このカルテットによるこのレパートリーも悪くないな、逆にそれがこのボックス・セットの聴きどころだなと思うようになった。特にマッコイが古いレパートリーをうまく料理しているのが印象に残る。物足りない、と言ってはみたけれど、もちろん中には熱い熱い演奏もある。細かい点に触れると・・・"Naima"は「The Complete 1961 Village Vanguard Recordings」では、主題のメロディを大きく変えて演奏されてたのが、ここではオリジナルのメロディで演奏されているのが興味深い。
ドルフィー入りのストックホルムはイマイチ、反対にバードランドのものは熱い。パリ公演の録音状態はイマイチ。63年以降のストックホルム公演、ベルリン公演はこの中では音質、演奏ともに最良。
尚、付属のブックレットにある録音日、場所のデータがかなり信用できないので、他の書物から得た情報で上掲。ただし、諸説あってどこまで正しいのかは不明。サブ・タイトルに The European Tours と書いてあるにもかかわらずバードランドでの演奏もある(歓声を聞けばクラブでのものということが明らか)。できるだけ枚数を抑えて収録しようというのはありがたいんだけれど、公演日ごとにディスクが分かれていると1つずつ聴く気になれるのに・・・とちょっと思ってしまう。いろいろケチをつけた本ボックス・セット、至高のカルテットの演奏が悪いはずもなく、音源をこれだけ出してくれただけでも十分ありがたいこと。(2006年6月24日)
このボックス、今では廃盤になってしまっているようです。セミ・オフィシャルで各日の音源がバラ売りされているので、そこで多くは入手できると思います。
(2018年10月20日)

Complete Live In Stuttgart 1963

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1963/11/4
1963/11/1 (Disc 2 [4])

Disc 1
[1] The Promise
[2] Aflo Blue
[3] I Want To Talk About You
[4] Impressions

Disc 2
[5] My Favorite Things
[6] Every Time We Say Goodbye
[7] Mr. P.C.
[8] Chasin' The Trane
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
これも数多あるセミオフィシャル盤のひとつで、音質は万全とは言えないものの、鑑賞に堪える程度は確保されおり、テナーの音色もまずまず表現できているし各楽器のバランスもこのテのものにしては良好。音にかなり厳しい人でなければ十分演奏を楽しめる。そもそも63年録音はオフィシャル音源が少ないだけに、あるというだけで貴重。その数少ない63年オフィシャル盤「Live At The Birdland」と比較すると、そして特に同じ曲 [2] [3] で比較すると、演奏はやや緩いし、テンションもあそこまでは高くない。[3] のカデンツァなど、あまりに元気がない。ただし、こちらは(恐らく)1ステージの収録であり、1回のライヴ・パフォーマンスを楽しむという意味ではこちらの方がベター。緩いと評したとはいえ演奏の質が低いということではないし、これでも十分凄まじく、特に [4][5] はかなりの勢いがある(ただし、フレーズ的にはやや単調)。もちろん、初心者が手を出すべきものではないとはいえ、このカルテットの記録として十分に価値がある。(2012年12月8日)

Crescent

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
トレーン入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1964/4/27 [2] [4] [5]
1964/6/1 [1] [3]

[1] Crescent
[2] Wise One
[3] Bassie's Blues
[4] Lonnie's Lament
[5] The Drum Things
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
至高のカルテットにでバラード・アルバムといえば、そのまんまタイトルの「Ballards」を真っ先に挙げる人がほとんどでしょう。企画モノだったあちらに対し、このアルバムはコルトレーンが自らの意思で純粋にバラードに取り組んだ作品で、甘さを排除した重厚かつ美しい表現と味わいがあり、その深遠な表現に感銘を受ける。反面「Ballards」が好きな人がこのアルバムを聴いたら重すぎると感じて楽しめない可能性が高いんじゃないだろうか。この時期のコルトレーンの書いた曲としては珍しい軽快なブルース[3]が唯一ノリがいい曲で、重厚なバラードの中に入ると一服の清涼剤のような役割を果たしていてちょっと面白い。いずれにせよ至高のカルテット、真のバラード・アルバムはコレ。(2006年7月7日)

Blue World

曲:★★
演奏:★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
1964/6/24

[1] Naima (Take 1)
[2] Village Blues (Take 2)
[3] Blue World
[4] Village Blues (Take 1)
[5] Village Blues (Take 3)
[6] Like Sonny
[7] Traneing In
[8] Naima (Take 2)
John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
至2019年10月リリース。プレス・リリースによると、『フランス語映画「Le chat dans le sac (英題:The Cat in the Bag)』(日本未公開)の為に録音した曲で、はいずれもコルトレーンのオリジナル曲の再演であったため、熱心なファンの間でも映画にはオリジナル・ヴァージョンが使用されているものと思われており、映画用に再録音されたものであるとは長らく知られていなかった。』とのこと。映画用に別途録音した人と気づかなかったのではなく、映画があまりにも無名すぎて誰も知らなかったからなのではないか、と思わずにはいられない。なぜなら、誰が聴いてもオリジナルの演奏とは違っているから。全曲、演奏はまるでリハーサルかのような緩いムード。激しい曲を選んでいないせいもあるとはいえ、緊張感は薄く、映画のために一発凄いやつを吹き込んでやろうという気概は感じられない。しかし、重く、シリアスな路線を進んでいたこの時期のコルトレーン至高のカルテットで、こうしたリラックスした演奏が聴けるのはマニアにとっては魅力的ではある。"Naima"のこのメンツでのスタジオ録音があることも貴重。音質は一部テープのドロップがあるモノラルながら良好。と、そんな内容なので完全にマニア向け。貴重な発掘には違いないけど。(2019年10月14日)

A Love Supreme (Deluxe Edition)

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1964/12/9
(Disc 1 [1]-[3], Disc 2 [6] [7])
1964/12/10 (Disc 2 [8] [9])
1965/7/26 (Disc 2 [1]-[5])

Disc 1
[1] Part 1 - Acknowledgement
[2] Part 2 - Resolution
[3] Part 3 - Pursuance
   /Part 4 - Psalm

Disc 2
[1] Introduction By Andre Francis
[2] Part 1 - Acknowledgement
[3] Part 2 - Resolution
[4] Part 3 - Pursuance
[5] Part 4 - Psalm
[6] Part 2 - Resolution
[7] Part 2 - Resolution
[8] Part 1 - Acknowledgement
[9] Part 1 - Acknowledgement
John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)

Archie Shepp
           (ts disc [8] [9])
Art Davis (b [8] [9])
このアルバムとの出会いは、「The Complete Village VanguardRecordings」の項目に書いた通り。「うわっ、宗教」「気持ち悪い」「暗い」「普通のジャズじゃない」。正直言ってまったく理解できず、コルトレーンは自分には合わない音楽なのだとのあきらめに至るまでにそう時間はかからなかった。
「Meditations」や「OM」を聴いて快感を得るようになった今、このアルバムをどう感じているか。演奏的には前後の作品の流れを汲んだハイ・レベルなものであることに疑いはなく、しっかりと構成された曲によって、高い完成度を持ったこの時期のコルトレーンの極みを示した作品と理解している。それでもやはり大のお気に入りになったわけではない。第一印象がトラウマになっているのか?何度も聴いていると作りこまれた演奏の完成度の高さがわかるようになり、ひとつの音楽世界を作り上げたんだということが理解できるようになってくる。それでも演奏は後のコルトレーンほどは激しくないし、それでいて普通のジャズから逸脱しているところが中途半端に思えてしまう。つまり未だにこのアルバムを真に理解できていない。逆に言えば、このアルバムが理解できなくてもコルトレーンにハマることは可能だと自分の経験から断言する。無理してこのアルバムを持ち上げてコルトレーンを理解したフリをする必要はないと思う。(2006年6月16日)
いや、やっぱりこの完成度は凄い。一番激しい[3]がこの時期らしい演奏であり、もっとも興奮できるんだけれど、この [3] を核にしつつ、[1] [2] で起承の流れを作り、最後に [4] で締めるという、プログレッシヴ・ロックのような構成を持ったジャズ・アルバムは他にはない。Disc 1 は新しく発見されたオリジナル・マスター・テープからのマスタリング(既発盤はコピーをマスターに使用していたとのこと)とあって、既存のものより明らかに一皮向けた音質。これだけでこのデラックス・エディションを買う意味アリ。次に Disc 2 について。まず、アーチー・シェップ入りの未発表テイクは、聴かなくてはならないという程のものではない。一方、ライヴの完全演奏は、音質も良く演奏もライヴらしい熱気があって実に素晴らしい。猛烈な勢いで進化していったこのカルテットにとって、スタジオでの録音から8ヶ月経過していることの意味も小さくない。ライヴでは僅か2度しか演奏されなかったとされるこの曲が完全な形で残っているというのはファンにとってまさに至上の悦び。同梱の解説は非常に読み応えがある。ただ神がどうのこうのといった精神性に僕は全く関心がない。そこまで理解してこそ真のコルトレーン・ファンだとマニアは言うでしょうが、僕はコルトレーンの音楽が大好きだし充分に楽しんでいるつもり。(2011年8月8日)

Quartet Plays

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★☆
トレーン入門度:★★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1965/2/17 [6]
1965/2/18 [3] [5]
1965/3/28 [7]
1965/5/17 [1][ [2] [4]

[1] Chim Chim Cheree
[2] Blazzilia
[3] Nature Boy
[4] Song For Praise
[5] Feelin' Good
[6] Nature Boy (first version)
[7] Nature Boy (live version)
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison
   (b [1] [2] [3] [4] [7])
Art Davis (b [3] [5] [6]
Elvin Jones (ds)
65年のコルトレーンの音源量はハンパでない。64年以降は自らの意思でスタジオ・セッションを数多くこなし、ライヴ・レコーディングもコンスタントに行っていたのがその理由でしょう。そして64年〜65年というのはまたコルトレーンがさらに大きく進化していった時期でもある。具体的にはフリーク・トーンが増え、低音域をより多く使うようになり、音楽性はますます重苦しいものになってきている。また、65年はそれだけグループが充実期していた時期でもある。65年のコルトレーンを楽しめる人は重度のマニアになれる素養アリ。さて、このアルバムの存在は実に目立たないんだけれど、もちろん質は保証されている。メリー・ポピンズの挿入歌でポップでな[1]ですら重いムード、後半はソプラノが飛び狂う。[2]はヴィレッジ・ヴァンガードでも演奏されていた曲でやはり重厚感が増加。[3]は、アート・デイヴィスが終始アルコ奏法で通し、ギャリソンも定型リズムを刻まないためにボトムの薄い浮遊感あるムード、それなのに重苦しいというこの時期のコルトレーンらしい演奏。[4]も一定のリズムを持たないビターなバラード。[5]以降のボーナス・トラックを含めて特別ハードさが目立つわけではないものの、テナーとソプラノはますます怪しく吼え、重厚に展開されるところがこのアルバムの醍醐味。(2006年6月23日)

Reflections

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
Unknown

[1] Untitled Original
[2] Impressions
[3] Chim Chim Cheree
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)  
PASSPORT AUDIOという正体不明のレーベルからリリースされているCDで録音日などの情報が一切書いていないけれど、レパートリー、演奏の内容からみて恐らく65年。モノラルでコモリ気味の音質は 「Live Trane」よりもさらに二段落ちる。それでも一応ベースの音は聴き取れるし、なんとか聴くに耐えるレベルといったところか。[1]から怪しいムード全開の至高のカルテット後期らしい激しい演奏で、しかし7分足らずでフェード・アウトしてしまうあたりもブートレグ的。値段が1,000円もしなかったことを考えるとあまり贅沢は言えない。そんな欠点だらけのCDだけれど演奏は凄まじい。[2]の突進力、暴走力は僕が持っている音源の中でも最上級に入る。注目はインパルスからの正式盤では出ていないライヴ・バージョンの[3]。最初は、穏やかなムード。コルトレーンのソプラノが徐々に乗ってくると、バンド全体(特にエルヴィン)が燃えてくる。曲のテンポが[2]より遅いので勢いが劣るように感じるけれど演奏はかなり熱い。こんな演奏を生で聴いていたらどんな気持ちになっただろうかと思わされる凄さ。せめてもう少しいい音で聴けたらと思わずにはいられない熱演集。(2006年12月1日)

One Down, One Up (Live At The Half Note)

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★☆
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1965/3/26 (Disc 1)
1965/5/7 (Disc 2)

Disc 1
[1] Introduction & Announcements
[2] One Down, One Up
[3] Announcements
[4] Afro Blue

Disc 2
[1] Introduction & Announcements
[2] Song Of Praise
[3] Announcements
[4] My Favorite Things
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)  
2005年に突然リリースされたジャズ・クラブ、ハーフ・ノートでの演奏を収めたライヴ盤。脂が乗りきっていた時期の至高のカルテットの演奏が高音質で聴けるとはなんたる幸せ。ただし、ラジオ放送用のテープがマスターのようで途中でフェード・アウトしてしまう曲("Afro Blue" "My Favorite Things")があるのが悔しい。Disc 1 冒頭(フェードイン説アリ)からギャリソンのベースにアナウンスが乗って曲が始まる展開がなんともカッコイイ。14分を過ぎたあたりからコルトレーンとエルヴィンのデュオ・バトルに突入。以降そこからさらに14分間、終わりまで休むことなく吹きまくり、叩きまくる。Disc 1 [4]はテナーでテーマを演奏(これがなかなか良い)し、そのままマッコイのロング・ソロへ。この時期のマッコイは指は良く動くし、少しダークなムードがいい。その後オフ気味の音からコルトレーンがソプラノでフワッと入ってくるところは「Live At Birdland」での演奏とはだいぶ違う雰囲気。ソロがはじまって4分くらいしたところ、さあこれから熱くなってくるぞ、というところでアナウンスがかぶって音量ダウン。アナウンサーが喋っている後ろでどんどん激しくなっていくコルトレーンが聴こえてくるだけにフェード・アウトしてしまうのがなんとも残念。Disc 2 [2]は「Quartet Plays」とは異なり、フォー・ビートのリズムに乗った演奏。Disc 2 [4]は、いつもならマッコイがマンネリ気味の軽快なピアノをタラタラと続け、エルヴィンもややおとなし目にプレイするところを、この日はマッコイがちょっと違うムードで進め、序盤はおとなしいエルヴィンもだんだんと燃えてくる。コルトレーンのフレーズも62年〜63年ころとは二味くらい違ってこれがまた素晴らしい。僕の中ではこの曲のベスト演奏はコレ。ただし、これまた長いマッコイのソロのあとに延々と続くと思われる、そして燃焼途上のコルトレーンのソロ・パートがフェード・アウトで終わってしまうのがなんとも惜しい。音も演奏も良く、発掘されたことを大いに喜びたい音源、それ故にフェード・アウトが残念に思えるという、嬉しいような悲しいような複雑な気分にさせてくれるライヴ集。(2006年6月29日)

Live At The Half Note

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
Unknown

[1] I Want To Talk About You
[2] Brazilia
[3] Song Of Praise
[4] One Up, One Down
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)  
これも録音日不明。しかもバラバラのような感じさえする。ただし、選曲と演奏の感じからすると65年あたりか。音質はコモリ気味で広がり感のないブートレグ品質。ただし、ベースの音はまずまず拾えていて各楽器のバランスは良い。さて、先に書いた通り65年くらいの録音と予想される通り、フォービートが部分的に出てくるものの所謂普通のジャズ的なノリを持つものはほとんどなく、激しい演奏で占められていている。そこがたまらないほど好きな僕にはなかなか価値のある音源集。ただし、演奏の燃え方については良くも悪くも平均レベル(それで十分でだけど)。この時期定番の "My Favorite Things"や"Impressions"が入っていないところは好き嫌いが分かれそうではあるけれど、それらは有り余るほど他の音源に収録されているからこの選曲も却って新鮮味があっていい。[4]はこの題がつけられているものの、聴いたことのない入り方で曲そのものが違うような気がする。それでも演奏はやはり過激でいい。(2010年12月12日)

Dear Old Stockholm

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
トレーン入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1963/4/29 [1] [2]
1965/5/26 [3]-[5]

[1] Dear Old Stockholm
[2] After The Rain
[3] One Down, One Up
[4] After The Crescent
[5] Dear Lord
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Roy Haynes (ds)
ロイ・へインズをフィーチャーしたカルテットのスタジオ録音を集めた企画盤。へインズがドラムを担当した演奏のスタジオ録音が少ないこと、更に65年モノが聴けるという意味で貴重なCD。オフィシャル盤でアルバム・タイトルにもなっている[1]をコルトレーンが取り上げているのは僕の知る限りこれのみ、「Transition」を輸入盤でしか所有していない僕にとって[5]が収録されているとう点においても非常にありがたい。[1]はやはりというか、マイルスの「'Round About Midnight」の哀愁漂うクールな演奏とは違ってコルトレーンらしくちょっと暗いムード。この時期らしいフレーズを用いながらもやや落ち着いた演奏。[2]も静かなバラードで抑え気味のコルトレーンと美しいマッコイのピアノが聴きどころ。65年録音になるとぐっと重苦しいムード、フリーキーで激しい演奏が展開されるけれど、ドラムだけを比較するとやはりエルヴィンよりパワー不足の感は否めず、[3]を「One Down, One Up (Live At The Half Note)」での演奏と比較するとその差は歴然。[4]も重苦しく結構ハードな演奏ながらアッサリしているのは同様にドラムの違いによるところが大きい。その代わり全体に整然としたムードがあって、こちらを好む人がいたとしても不思議はない。[5] は先にも触れた通り、国内盤「Transition」に収録されているもので、この時期には珍しい素直で爽やかなバラード。へインズ入りカルテットを知るには最良のアルバム。(2006年7月2日)

Transition

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1965/6/10 [1]-[3]
1965/6/16 [4]

[1] Transition
[2] Welcome
[3] Suite
 a. Prayer and Meditation: Day
 b. Peace and After
 c. Prayer and Meditation:
                                 Evening
 d. Affirmation
 e. Prayer and Meditation: A.M.
[4] Vigil
John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p except [4])
Jimmy Garrison (b except [4])
Elvin Jones (ds)
所有しているのは輸入盤で、国内盤と曲目が異なり、"Dear Lord" が外れて代わりに「Kulu Se Mama」に収録されている[2]と[4]が収録されている。でも、こちらの輸入盤の方が1枚のアルバムとして統一感がある構成になっていると思う。[1]はコルトレーンの激しいブロウとマッコイの流麗なピアノとエルヴィンの重量感&躍動感タップリのドラムで15分間休みなく突っ走る。フリーク・トーンが多用されているのはこの時期以降続く特徴ではあるけれど、エルヴィンのドラムを中心にグループ全体パワフルに疾走する中での激しいテナーのブロウが延々と続く演奏は意外とそれほど多くはない。[2]もこの時期特有の、甘さを抑えた硬派でしかも美しいバラード。壮厳なイントロからまたしてもフリーク・トーンと激しいドラムにフリーキーなピアノが絡むアグレッシヴな[3]は20分を越えるタイトル通りの組曲形式による大作。途中、テンポを落としてギャリソンがピチカートからアルコに変わってもエルヴィンは躍動。そのまま長いベース・ソロに流れた後、疾走を再開して最後まで燃えに燃える。[4] はコルトレーンとエルヴィンのデュオで、ステージでは部分的によくやっていたバトルをやってみましたという感じ。とにかくこの時期の至高のカルテットは本当にハード。また、ここで聴けるテナーのトーンは硬質な太さを持っていて素晴らしい。(2006年6月23日)

Living Space

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1965/6/10 [2] [5]
1965/6/16 [1] [3] [4]

[1] Living Space
[2] Untitled 90314
[3] Dusk-Dawn
[4] Untitled 90320
[5] The Last Blues
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
至高のカルテット最終期にあたる65年にはかなりの数の録音を残しているものの、コルトレーン存命中にリリースされたのはごく一部に過ぎない。この時期のコルトレーンが一番素晴らしいと思っている僕としては、さまざまな形で未発表だった曲が出ているのは嬉しいのと同時に、リアルタイムを知らない自分にとってはそのアルバムが発掘音源かどうかはあまり重要ではない。このアルバムは発掘音源を集めたもので、[1]-[4] は「Feelin' Good」というアナログ盤で日の目を見たものらしい。未発表音源集とはいえ、録音は「Transition」と同じ日で、あちらがさまざまな形態の曲と演奏で構成されているのに対して、こちらは全体を通して4人一体の演奏で占められているせいか全体の印象はやや異なる。どういうわけかテーマでソプラノ・サックスがオーバー・ダビングされている[1]に始まり、最後の[5]まで、コルトレーンが激しくブロウし、ギャリソンの浮遊的ベースによってエルヴィンの多彩かつパワフルなドラムがより浮き立ち、マッコイの力強いタッチのダークなピアノがスピリチュアルなムードを高めるという、いかにもこの時期のカルテットらしく硬派で激しいパフォーマンスが濃縮されている。しかしながら力ずくという感じはあまりなく、ハードでありつつも聴き入ってしまう静謐さがあるところがまた素晴らしい。良く聴いてみれば部分的にダレる部分もあって、恐らく本人はこの程度の演奏では満足していなかったんだろうなあとは思うものの、それが却ってカルテットの素の実力がそのまま出ている感じがしてむしろ好印象。尚、本作は同じタイトルとジャケットで[2][4]が収録されていないものもあるので要注意。(2007年7月8日)

Ascention

曲:★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1965/6/28

[1] Ascention (Edition Two)
[2] Ascention (Edition One)
Freddie Hubbard (tp)
Dewey Johnson (tp)
John Coltrane (ts)
Pharoah Sanders (ts)
Archie Shepp (ts)
John Tchicai (as)
Marion Brown (as)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Art Davis (b)
Elvin Jones (ds)
オーネット・コールマンの「Free Jazz」から5年、コルトレーンも集団即興に挑戦。そんなこのアルバムもフリー・ジャズの代表作として語られることが多い。ところでフリー・ジャズとはなんなんだろう。既存のジャズの形式から開放されたフリーなのか、あらゆる音楽形態から開放されつつもジャズの手法を用いたものなのか。このアルバムで聴ける演奏は、集団で演奏しているパートは一見メチャクチャやっているように思えるけれど、よく聴けば一定の形に収めたものであることがわかる。ソロ・パートは前衛的なフレーズが多いとはいえ、それほど型破りな感じでもない。僕にとってはフリー・ジャズっぽい集団演奏という印象でそれほど規格外の混沌としたものとは思えないし、オーネットの「Free Jazz」のアイディアを超越した何かを感じるわけでもない。それでも集団パートはこれでもかというほど喧しく、サッパリと小奇麗なジャケットとは裏腹にその喧騒だけでもういいやと思う人がいても当然と思えるムードではある。ソロ・パートではコルトレーンもメンバーの1人扱いなのでトレーンのテナーを堪能したい人には物足りないかもしれない。コルトレーン以外にソロで印象に残るのはファラオ、ハバード、シェップ。それにしても、ファラオ・サンダースのテナーはどうやったらこんなに汚い音になるのかと思わせるノイジーさ。尚、最初にリリースされたときのものがエディションI 、その後、本人の意思でエディションII に差し替えられたということらしいんだけれど、演奏のコンセプト、質、共に大差なく聴き分けることができるのはよほどのマニアに限られるでしょう。 (2006年7月5日)
後日、某書に書かれていたアーチー・シェップのコメントによると、スタジオに行ってみたら大勢のミュージシャンがそこにいて、コルトレーンから譜面が渡されたらしい。コード進行やソロを取る順番は決まっていたて、このことからも即興というよりは作りこまれた曲だったことがわかる。一方で、リハーサルはほとんどなく事前に簡単な説明を受けただけで何がなんだかよくわからないまま皆が演奏したとのこと。一定の型に収めたものと感じた僕の印象は、シェップの「とても整然としたものに思える」というコメントとなんとなく一致しているし、フリーフォームな喧騒部分はリハーサルがなかったことによってもたらされたんじゃないかと思うようになった。(2007年10月25日)

Live In Paris

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1965/7/27,28

[1] Naima
[2] Impressions
[3] Blue Valse (Part 1)
[4] Blue Valse (Part 2)
[5] Afro Blue
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
65年7月27日、28日の音源をミックスしたもの。後に出た「Live In France July 27/28 1965」を聴くと、[1]と[2]が27日、[3]とベースソロがカットされている[4]が28日の演奏のようだ。スクラッチ・ノイズが聞こえるのでアナログ落としと思われる。音質は結構クリアで特にサックスの音は非常に生々しく捉えられている。その代りベースの音がほとんど聞こえない。さて、65年のコルトレーンといえば膨大なスタジオ録音が残されている反面、ライヴ音源はあまり多くない。そして65年のカルテットの激烈な演奏が好きでたまらない僕には、たとえ音質がイマイチであってもこの CD はやはり無視できない。静かな[1]でもクライマックスはしっかりと激しく盛り上がる。[2]も普通に始まりつつ、エルヴィンとのデュオになるとコルトレーンのテナーは燃え上がる。どうせベースが聞こえないからこのデュオを堪能しようかと思っていると意外やアッサリ終了。[3]は "Ascention" のカルテット・バージョン。これが導入部分から雄大な展開で至高のカルテットらしい激しさ全開の演奏。途中、ギャリソンのうめき声付きアルコ・ソロがたっぷりフィーチャーされている(どういうわけかここでのベース音はバッチリ録れている)。とにかく凄いこの [3]〜[4]こそが問答無用のハイライト。ベースの音がしっかり拾えていれば言うことなし。(2008年5月2日)

Live In France July 27/28 1965

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1965/7/27 (Disc 1)
1965/7/28 (Disc 2)

Disc 1
[1] Announcement
[2] Naima
[3] Ascension (Blue Valse)
[4] My Favorite Things
[5] Impressions

Disc 2
[1] Ascension (Blue Valse)
[2] Afro Blue
[3] Impressions
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
普通にAmazonなどで買えるセミ・オフィシャルものがかなりある中、まずこのCDは音質がなかなか良いと言う点でお勧めできる。もちろんオフィシャル・レベルとまではいかないまでも、特に Disc 1は低音の厚みもしっかり出ていて、[5]で音量がやや下がり僅かにコモるという部分的な不備があるにしても、良いオーディオ環境での鑑賞に堪える。Disc 2は、やや低音の厚みが不足し、ピアノの音が少し濁って聴こえるけれど、こちらもブートレグと考えればまずまず。そして、熟成され、崩壊直前の至高のカルテットのパフォーマンスが過不足なく収められているのだから文句のつけようがない。「熟成され、崩壊寸前」というこの時期は、個人的には4人の結束力が緩み始めた時期でもあると思っている。鉄壁と思えたカルテットが崩れ始める危うさと、それに構わずどんどん破滅的に吹きまくるコルトレーンが織り成す独特のバランス感がカルテット到達点だったとするなら、熟成の極みと言える演奏がここには収められている。65年はスタジオ録音が豊富な反面、まともなライヴ音源が少ない中では上物と言える素晴らしき音源。尚、上の「Live In Paris」はこの2日の音源を組み合わせたもので価値が低いものの、28日の音源はそちらのほうが圧倒的にクリア、ただし低音がスカスカという音質の違いがある。(2011年5月28日)

Sun Ship

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1965/8/26

[1] Sun Ship
[2] Dearly Beloved
[3] Amen
[4] Attaining
[5] Ascent
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
いきなりアブストラクトかつ性急なテーマから始まりマッコイのダイナミックなピアノが疾走、エルヴィンが重く激しいドラムをドッタン・バッシャンと叩きつける[1]。その後半はコルトレーンの太くフリーキーなソロが炸裂してあまりの迫力にただただ圧倒される。[2]は会話の後、 Ready? の声に間髪要れず4人一体で重厚に展開する激しくもビターなバラード。カッコイイ。もう、そうとしか表現できない自信に満ちた世界。以降もコルトレーンは甘さを排除した激しいプレイの連続。マッコイのピアノがここまで激しいのも珍しい。ギャリソンのベースも通常のフォービートを超越した独自のウネリを創出。エルヴィンはすべてのコルトレーン・スタジオ録音中もっとも荒々しい叩きっぷりでバンドを鼓舞し続ける。そんな激しさの中でもスロー・パートやベース・ソロで緩急を付けることにも抜かりなく、飽きさせない。以降のカルテットでは、リズムは混沌を演出するべく不規則なものになっていくのに対して、ここでは時折フォー・ビートも織り交ぜながらバンドとして大波のようなグルーヴを持ち続けており、ぎりぎりジャズの世界に踏みとどまっている。それでいながらコルトレーン・ミュージックを極めていることは特筆に価する。至高のカルテットの中で最も激しい演奏が聴ける1枚で、その激しさ故に聴き手に緊張感を強いるため体調が悪いときにはちょっと聴く気になれない。晩年のコルトレーンはどんな感じなんだろうという入門者には思い切ってこのアルバムから入ってみるのもいいかもしれない。録音がルディ・ヴァン・ゲルダーでなく、もうひとつクリアでないところが唯一の弱点。尚、このアルバムのリリースは71年だったらしい。(2006年6月29日)

2013年4月、The Complete Session がリリースされた。
Disc 1
[1] Dearly Beloved (Takes1&2,false start and alt version)
[2] Dearly Beloved (Take 3, breakdown)
[3] Dearly Beloved (Take 4, complete version)
[4] Attaining (Take 1, alt version)
[5] Attaining (Take 2, breakdown)
[6] Attaining (Take 3, complete version)
[7] Attaining (Take 4, insert 1)
[8] Sun Ship (Take 1, breakdown)
[9] Sun Ship (Take 2, complete alternate version)
[10] Sun Ship (Take 3, Insert 1)
[11] Sun Ship (Take 4, complete version)
Disc 2
[1] Studio Conversation
[2] Ascent (Take 1, complete version)
[3] Ascent (Take 2, incomplete version)
[4] Ascent (Take 3, false starts and imncomplete version)
[5] Ascent (Takes 4-6, inserts/false starts)
[6] Ascent (Take 7, complete insert 4)
[7] Ascent (Take 8, complete insert 5)
[8] Amen (Take 1, alternate version)
[9] Amen (Take 2, released version)

先に結論から言うと、このComplete Sesseionは、完全にマニア向けで初めて聴く人が手を出してはいけない。理由はオリジナル・アルバムと完全に同一のテイクは1曲(Disc 2 [9])しか入っていないから。通して聴くものではなく、あくまでも記録としてセッション全体の音源を楽しむもの。各曲の本テイクは以下のように作られていることが明かされている。
"Sun Ship"は、Take 4 のエンディング・ドラムをカットしたもの。
"Dealy Beloved"は Take 4 の冒頭に Take 1 のスタジオ会話を追加したもの(つまり Ready? からいきなり曲に入るのは編集による演出だった)。
"Amen" は Take 2 をそのまま採用。
"Attaining" は Take 3 最初の7分24秒に、Take 4 Insert 1 の後
半3分58秒をつなぎ合わせたもの。
"Ascent"は Take 1 のベースソロを1分30秒カットしたもの。
あまり話題になることがない、しかし非常に充実した内容を誇るこのアルバムのセッション全貌が公開されたのは、個人的にはうれしい限り。実は継ぎ接ぎされて作られたことがわかるこのセッション集、全体を俯瞰して聴いてみると録音しておいた音源から選りすぐりのもので構成した作品として仕上げていることがわかる。素材からのネタばらしを楽しむことを喜びとして感じられるかどうかによって評価が変わるでしょう。とはいえ、何度も繰り返して聴くものではありませんが。(2013年5月3日)

First Meditations

曲:★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★
トレーン入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1965/9/2

[1] Love
[2] Compassion
[3] Joy
[4] Consequences
[5] Serenity
[6] Joy (alt take)
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
「Meditations」に先駆けること約2ヶ月、これらの曲を演奏するために至高のカルテット最後の録音が行われた。それがこのアルバム。わずか1週間前に録音された「Sun Ship」の延長線上にある演奏ながら、録音バランスのせいかエルヴィンの盛り上がりがもうひとつで結果的にバンド全体の勢いも減速気味でタイトさにも欠ける。あるいは勢いよりも、重厚さを狙ってのこだったのかもしれない。結局、ここでの録音は一旦お蔵入りしたんだけれど、この4人による音楽に対する行き詰まり感のようなものを感じることから充分納得できる。行き詰まりを感じる最大の原因は、コルトレーンのサックスがもうリズムのグルーヴを必要としなくなってきているせいであるように思える。僕は至高のカルテットに心酔しているので、余計なメンバー(失礼)がいる「Meditations」より本作を先に聴いたけれど印象に残らなかったし、今でもその感じ方は変わっていない。とにかく何か噛み合っていないチグハグで散漫な感じがしてしまう。この時期コルトレーンが求めているサウンドはこのメンバーではもう無理だったことが後の「Meditations」を聴けば歴然としている。(2006年6月19日)

Live In '60, '61 & '65 (DVD)

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
画質:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1960/3/27 [1]-[5]
1961/12/4 [6]-[8]
1965/8/1 [9]-[11]

[1] On Green Dolphin Street  
[2] Walkin’  
[3] The Theme  
[4] Autumn Leaves/What's New
          /Moonlight In Vermont  
[5] Hackensack  
[6] My Favorite Things  
[7] Ev’rytime We Say Goodbye  
[8] Impressions  
[9] Vigil  
[10] Naima  
[11] My Favorite Things
[1]-[5]
John Coltrane (ts)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
Stan Getz (ts [4] [5])
Oscar Peterson (p [5])

[6]-[8]
John Coltrane (ts, ss)
Eric Dolphy (bcl, as)
McCoy Tyner (p)
Reggie Workman (b)
Elvin Jones (ds)

[9]-[11]
John Coltrane (ts, ss)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)
正直なところ、僕はジャズの映像にあんまり興味がない。ショウアップされていないのは当然のこと、さらにジャズ黄金時代の映像はモノクロで画質もカメラワークも悪いから観ていてあまり面白いと思わない。でも、やっぱり僕はコルトレーンが好きなんだなあと改めて思ったのがこのDVD。60年、61年、65年の映像を収めてコルトレーンの進化を楽しんでくださいという嗜好を狙ったのかどうかはわからないけれど、結果的にこのわずか5年間の変化を知ることができる。
[1]-[5]
60年春にマイルス・クインテットでヨーロッパ・ツアー(マイルスの「Spring, 1960 (Bootleg)」や「If I Were A Bell (Bootleg)」などで聴ける)をしていたときにドイツのテレビ番組が収録したもの。このツアー、人気投票で選ばれたスタン・ゲッツ、オスカー・ピーターソンのグループと一緒に回っていたもので番組では彼らとのジャム・セッションが企画されていたのに、マイルスは「そんなの出る気がない」ということで親分抜きのコルトレーン・カルテットとして出演、しかし本来は親分が選ばれたということからか選曲はマイルスのレパートリーそのままで演奏されたという経緯を持った貴重と言えば貴重な演奏。演奏の質もただマイルスが抜けただけという仕上がりで、貴重でありながらびっくりするほど意外性がない。つまり、このときのマイルスのツアーはグループ表現なんてどうでもよく、堅実なリズム・セクションを従えてのマイルスとコルトレーンのガチンコ勝負こそが聴きどころだったことが改めてよくわかる。そして目立っていたのはマイルスよりもコルトレーンだったという、マイルスの音楽人生で例外的に主導権を握れなかった稀なグループだったということもまた再認識させてくれる。ここではゲッツとピーターソンとのセッションも収録、 "What's New" をこの時期のコルトレーンらしいフレーズと音色でリリカルに決めているところなんて意外性も手伝ってとても新鮮。その後、ピーターソンのスウィンギーなピアノに乗って繰り広げられるゲッツとの掛け合いも、音色、スタイルが違いすぎていてかなり面白い。
[6]-[8]
61年のドルフィー入りクインテット。こちらもドイツのテレビ番組のスタジオ収録とあって全体的にスッキリまとめた感じ。熱さはそこそことは言え演奏の質が低いわけではなく、ドルフィー入りクインテットの動く映像が見れるだけでもうれしい。画質も時代を考えれば良好。
[9]-[11]
至高のカルテット崩壊直前、65年のベルギーでの屋外ライヴ。8月だと言うのに吐く息は明確に白く、「湯気のエルヴィン」として古くから知られる映像。画質も音質も悪いけれど、演奏は激烈で凄まじいったらない。他の項目でも書いている通り、個人的に"My Favorite Things" は好きじゃないんだけれど、ここでの [11] は何かに取り憑かれたかのように吹きまくるコルトレーンに圧倒されてしまう。65年の至高のカルテットは本当に凄いと改めて思い知らされる。(2008年4月13日)

Chasing Trane (Bru-lay, DVD)

画質:★★★★
評価:★★★★
2016年に公開された1時間40分のドキュメンタリー。故に演奏シーン、動いているコルトレーンのシーンは少ない。しかし、コルトレーン関連の映像は元々少なく、低画質、低音質のものしかなかったことを考えると、高画質、高音質(5.1ch DTS Master Audio、もちろん演奏シーンの画質と音質は悪い)、編集や構成など現代の水準で作られた映像作品が重要かつ貴重であるこに異論を挟む余地はない。ジミー・ヒース、ソニー・ロリンズ、ベニー・ゴルソン(フィラデルフィア時代からの仲間)、ラヴィ・コルトレーン、カマシ・ワシントン、ウィントン・マルサリス、サンタナ、ウェイン・ショーター、マッコイ・タイナーらミュージシャンの他に、コルトレーンの継娘、ビル・クリントンなどがコメントを寄せている。そこに、恐らくコルトレーンの当時残したコメントを元にコルトレーンが語る(声はデンゼル・ワシントン)形をところどころ挿入して進む。幼少期にどのような環境で育ったかなどの紹介はなく、若いときにフィラデルフィアでチャーリー・パーカーを観て衝撃を受けた時期あたりから始まり、これまでに知られていなかったと言えるような情報はあまり多くはないのは、残された記録の量を考えると仕方のないところか。それでも、通して観ればいかにコルトレーンがリスクを恐れずに、それまでのジャズとは異次元ステージの独自の世界を突き進んだのかを再認識する。唯一の来日を採り上げ、長崎を訪れて平和を強く望んでいたことを示すエピソードには胸を打たれる。(2023年1月8日)