EHN 2008年12月18日
科学者からEPAへ
男性ホルモンを変更する化学物質類のリスクは
一緒に評価されるべき

マーラ・コーン EHN 編集主幹

情報源:Environmental Health News, December 18, 2008
Scientists to EPA: Risks of chemicals that alter male hormones
should be analyzed together
By Marla Cone, Editor in Chief, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/scientists-to-epa-risks-of-chemicals-that-alter-male-hormones-should-be-analyzed-together-to-protect-human-health-national-panel-says

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年12月31日
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"http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_081030_BPA_FDA.html


 ほとんど誰でも男性の生殖健康を損なう化学物質類の混合物に暴露していると結論付けて、科学者からなる審議委員会は木曜日(12月18日)に米環境保護庁(EPA)に対し、その方針を変え、それらがどのくらいの危険性を及ぼすかを判断するときにはそれらをグループにまとめて評価を行うよう勧告した。

 全米科学アカデミーによって召集された同委員会は、消費者製品中に広く見出される議論ある化合物であるフタル酸エステル類に特に目を向けた。フタル酸エステル類は、おもちゃ、建材、医療器具、その他のものを作るるためにビニールを柔らかくするために用いられ、また香水やその他の化粧品中でも使用されている。

 化合物類の人の健康への脅威を分析するときにはそれらを統合すべきとする勧告はEPAの戦略に重大な変更を及ぼすことになるであろう。それはEPAが人に安全であると考えるフタル酸エステル類の合計量を下げさせ、最終的にはその使用に関する厳格な規制をもたらすことができるはずである。

 個々の化学物質を個別に分析することによってEPAはフタル酸エステル類の健康リスクを過少評価していると同委員会は報告している。人の体内でフタル酸エステル類は統合して男性の生殖機能への影響を増幅する。

 ”ひとつだけの分析では、我々はそのリスクを過少評価することになる”と全米研究協議会のフタル酸エステス委員会の議長であるロチェスター大学医学校環境医学教授デボラ・コリスレヒタは述べた。

 その勧告 (訳注1)は、人が様々な化学物質や汚染物質にどの程度暴露しているかのEPAの調べ方を一変させて、フタル酸エステル類を超えてはるかに大きな影響を及ぼすことができる。

 同委員会は、男性ホルモンへの影響に関連する農薬のような他の化合物は、EPAのリスク分析においてフタル酸エステル類と一緒に評価されるべきであると述べた。

 フタル酸エステルだけに焦点を合わせ他の抗アンドロゲン(男性ホルモン物質)を除外することは人為的で累積リスクを著しく過少評価することになる”と同報告書は述べている。

 EPA科学者らは多くのものが同じ影響を持っていることを知っているので、どのようにフタル酸エステル類を評価すべきかに関する助言を全米科学アカデミーに求めた。

 EPAの国立環境評価センターのディレクターであるピーター・プレウスは、彼の”最良の推測”はEPAが勧告されたフタル酸エステル類の累積評価をすることであると述べた。しかし彼は、彼のスタッフが160ページの報告書を受け取ったばかりで、まず委員会はどのように言っているのか技術的な詳細を分析しなくてはならないと述べた。EPAは2010年には少なくとも二つのフタル酸エステル類の評価を終わらせるスケジュールになっている。

 ”アカデミーは、これを実行するために十分な情報があると考えていると明確に述べており、それは我々の次のステップである”とプレウスは述べた。

 ”多くの異なるメカニズムで作用する多くの化学物質があるが、最終的な結果は男性生殖系の発達に関する一連の影響である”と彼は述べた。”アカデミーはこれらの点−エンドポイント、健康影響、そしてそれらからの作業に焦点を合わせることが重要であると述べた”。

 さらに科学者らは、EPAは同じ健康影響を持つ化合物の累積影響を含めるためにEPAの全ての評価を広げることを検討するよう強く促した。

 そのことは、例えば 脳、女性の生殖系、肺がん、又は心臓疾患等について、それぞれに影響を与える化合物についての統合的な分析を導くことになる。

  同報告書は、化学物質や汚染物質のそれぞれの安全用量を規定する場合には、それらの累積暴露を考慮すべきとする比較的新しい化学的主張を支持している。

 多くの環境団体と公衆健康専門家らはEPAが化学物質を統合するリスク評価を実施すべきと主張してきており、今回の委員会の意見を歓迎した。

 ロチェスター大学生殖疫学センターのディレクターで、フタル酸エステルに関する指導的専門家の一人であるシャナ・スワンは累積アプローチをホルモンをかく乱する環境化学物質に対する”重要な次のステップ”であるとした。

 ”公衆の健康を守るために累積リスク評価を実施することは非常に重要である”とワシントン大学小児科助教授シーラ・サスヤナラヤナ博士は付け加えた。”科学的実験とは異なり、人は多種の化学物質に毎日暴露している”と彼女は述べ、化学物質を統合することは、”これらの複合暴露が一般集団にどのように健康影響をもたらすかを特定するのに役に立つ”。

 スワンとサスヤナラヤナは委員会のメンバーではないが、二人はフタル酸エステルについて研究してきた。サスヤナラヤナの研究は、フタル酸エステルと赤ちゃん用ローション、パウダー、シャンプーに関連している。スワンと彼女の同僚らは2005年にこの化学物質が新生児の生殖器の女性化の兆候と関連があると報告した。

 米疾病管理予防センターにより実施されたテストはほとんど全ての人々が体内に様々なフタル酸エステル類の痕跡を持っていることを示している。胎児、乳児、子どもは最もリスクが高いと考えられている。

 ヨーロッパとアメリカは、おもちゃやその他の子ども用品中のフタル酸エステル類を制限し、EUでは化粧品中のあるものも禁止した。しかし様々なフタル酸エステル類がいまだに多くの消費者製品に存在する。

 子どもはゴムのアヒルをしゃぶることでフタル酸を摂取するかもしれず、幼児は小児病棟で静脈チューブを通じて暴露するかもしれず、胎児は母親の使用する香水、ローション、マニキュア、その他の化粧品を通じて吸収するかも知れない。  産業側は、フタル酸エステル類を一緒にまとめて評価すべきとする十分な証拠がないと主張していた。

 しかし13人の科学者からなる委員会はその意見に同意しなかった。

 ”我々委員会は、多くのフタル酸エステル類には共通の有害影響があるとの結論に達し、我々はEPAは先に進んで累積リスク評価を実施すべきであると信じている”とコリスレヒタは述べた。彼女は、科学者らはフタル酸エステルへの新たなアプローチを直ちに正当化すべき十分なデータを主に実験動物から見出したと述べた。

 ”特にラットにおいて、フタル酸エステル類がオスの生殖系発達に及ぼす影響を示す多くの文献がある”と彼女は述べた。

 いくつかの種類のフタル酸エステル類は、睾丸、精液、その他男性生殖系の器官の形成を導く性ホルモンであるテストステロンやその他のアンドロゲンの働きを擬したり阻害する。動物テストでは、暴露は不妊、ペニスの奇形、睾丸異常をもたらすが、科学者らはこれらを”フタル酸エステル症候群”とよぶ。

 過去にEPAは、物質が化学的構造が類似している又は同じ様に作用する時には累積評価をしたことがあった。しかし、委員会は、EPAは ”それらが最終的に何をするのか”、すなわちヒトの健康に関する影響にしたがって化合物をグループ化すべきであると述べているとコリスレヒタは述べた。

 化学産業を代表するアメリカ化学工業会(ACC)は木曜日(12月18日)に、同じ様に作用しない”物質に関する累積リスク評価をどのように実施するかについての疑念がある”と述べた。

 ”これは本質的には、財政的その他について制限のない調査を強いることになることを考えると、これは非常に野心的でEPAにとって問題がある”とACCの化学製品技術部門の執行ディレクターであるクリス・ブライアントは述べた。

 ”議会は消費者製品安全委員会にフタル酸エステル類に関する累積リスク評価を実施するよう求めており、EPAが同時に調査することは冗長ではないかという疑問がある”と彼は述べた。

 化学産業はまた、今月はじめに出されたEPAは化学物質のリスク評価にもっと強力に注力すべきと助言した全米アカデミーの他の報告書とどのように折り合いをつけるべきかについて疑問を持っている。

 コリスレヒタは、累積評価は”EPAにとって”真のパラダイム変更”であることを意味し、”彼らにとって幾分難題かも知れない”ことに同意した。EPAの科学者にとってのひとつの障害は、全てのフタル酸エステル類が正確に同じ影響を持つ又は同じ効果を持つわけではないということである。

 ”EPAは確かに、構造が類似しており同じような作用をする化学物質について累積リスク評価を実施する方向に動いている。これが次のステップ、すなわち有害影響に目を向けることである”と彼女は述べた。

 ”委員会は、この概念的アプローチは広く他の化学物質にもまた適用可能であると非常に強く信じている”と彼女は加えた。

 例えば、EPAは、鉛、メチル水銀、PCB類などは全て脳の発達を損ない、子どもの知能指数(IQ)を低下させるが、EPAはこれらの複合暴露のリスクを評価できるはずであると委員会は述べた。

 ”このような評価を行うために個別の化学物質に関する十分ななデータを我々が持っているかどうかが疑問となる。フタル酸エステル類については、その答えは明らかにイエスである”とサスヤナラヤナと述べた。しかし、”まだ広範に研究されていないその他の化学物質については、例えば胎児への影響というような特定の情報を見つけることは困難かもしれず、この点が委員会のサマリーの中でハイライトされている”。

 EPAが全ての化合物を統合するための十分な情報を持っていないひとつの例はナノ粒子であり、それらは日焼け止めなど様々な消費者製品中で使用されていると彼女は述べた。

 ”我々は多くの化学物質についてこれを実施するためのデータをまだ持っていないかもしれないが、これが必要であることを認識することは、これを実現するために必要なデータを収集する方向に規制当局が動くことに役立つ”とスワンは述べた。

 EPAのプレウスは、”フタル酸エステル類以外の化学物質にもこれを適用するのは、男性の生殖だけに関してでも明らかに挑戦である”ことを認めた。彼のスタッフはひとつの化学物質を含める前にどのくらい多くの化学的証拠が必要とされるのかについての疑問を解かなくてはならないであろう。

 ”我々は困難な評価をしている組織内でひとつの役割のようなものを持っている”と彼は述べた。”我々が保有する現状の職員数でこのようなことに対応するということ自体が明らかに難題のひとつである”と彼は述べた。

  サスヤナラヤナは、化学物質が体にどのように作用するかだけではなく、それらが体に何をするかということにしたがって、化学物質をグループ化するという委員会の勧告に同意した。

 ”私はそれは非常に重要であると考える。この焦点のシフトは、混合物がどのように有害な健康影響を及ぼすのかについてのよりよい評価をもたらすことができるであろう”。

 男性生殖健康を超えて、委員会の報告書は、プレウスのスタッフが、同じ呼吸器系及び心臓血管系のダメージを及ぼすことができる大気汚染物質のロングリストを含んで、多くの化学物質の安全量をどのようにして決定すべきかについて興味ある疑問を提起している。

 ”我々がいかに広く彼らが勧告するこの原則を適用することができるかについて、この報告書をフォローするために非常に多くの議論が行われるであろうと私は確信する”とプレウスは述べた。”私は、それは全く興味あるそして議論あることだと考える”。


訳注1:関連情報
訳注:フタル酸エステル類関連記事 訳注:フタル酸エステル類関連資料(日本)



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