7−C 地域航空に期待する

地域航空に期待する

                                                                                           コミュータービジネス研究所
                                                                                                     代  表 矢  島 征  二

1. はじめに-地方航空路線野存続の危機

  2000年2月に航空運送事業についての需給調整の廃止により、航空運送事業への新規参入が自由化された。それによって、航空運送の分野で運賃が下がり、競争によるサービスの向上が期待され、幹線についてはスカイマーク・エアラインズや北海道国際航空の進出により、幹線においては相当の運賃低下が見られたが、それもいまや下げ止まりのようである。 地方路線においてはスカイネット・ジャパンが東京-宮崎線に参入し、今年4月からはスカイマーク・エアラインズが東京-青森線と東京-徳島線に参入する。 しかし、新規参入会社があったとしても、JAL及びANAグループがあまりにも強大なために、参入効果は限定的なものに留まる可能性の方が大きいと見ている。
 一方、もっと零細な地方路線は新規参入どころか、存続の危機にさらされているところもある。 長野県松本空港関連路線は存続はされるらしいが、機材の小型化による提供座席の大幅減によるサービスの低下が懸念されている。 また、今年の7月から開設される東京-能登線のように地元の財政支援の条件付きのところがあり、この度再開される東京-山形線についても詳細は分からないが、これも地元の財政支援が条件であるらしい。 航空会社がいかにきれいごとを言っても、営利私企業である限り航空会社の負担だけで採算の取れない路線の維持を要求するのも無理があるが、航空会社の方も公言しているほど公共交通機関としての使命感があるとも見えない。 結局、既存航空会社にだけ地域の期待する地方路線の開設や存続を依存するのはもう限界ではないか。 以前はその対策として地域の地方自治体が航空会社経営に参加して、地域の航空交通網を維持しようとしてきた。 長崎航空(現オリエンタル・エアブリッジ)、日本エアコミューター、北海道エアシステムや天草エアランズがそうである。 しかし、航空会社で現在出資している地方自治体が実際的に影響力を維持しているのは、北海道エアシステムと天草エアラインズだけであり、時流は公営事業の民営化である。
  ところが、現実には民間が引き受けてくれない事業もある。 その一つが地方の零細交通機関の維持であり、零細な航空路線もその例外ではない。 もし、地域が、その地域からの航空路線の存続が地域に取って死活問題と考えるならば、それを航空会社への陳情だけで存続を計るのも現実的ではないし、個々の路線への財政支援などの取り引きによる単発的措置により地域の航空路線網を維持しようと言うのも、どれほど有効なのであろうか。 そう考えるとやはり、もし航空路線網の維持・発展が地域にとって重要であると考えるならば、地 域がそれに関係する航空会社経営に積極的に関与する必要があると思う。とは言え、いま補助金漬けの第三セクターなどは受け入れられる訳はないので、それに代わる地域にとって費用対効果の高い、そして確実に地域の航空交通網の維持・発展の計れるやり方を考えなければならない。 この報告は、その問題提起を図るものである。

2. 地方航空路線の危機-その問題の背景

 この問題に取組むに当たって必要なものは、いままであまり重きを置かれていないように思うが、それはどんな利益を求めて航空交通網が必要なのか、それがどのように地域の発展に資するのかと言う目標の設定と目標を達成するためにどうするのが有効なのかと言う実現手段についての理論武装の確立である。 従来、どこの空港においても決定的に欠けていたのは、まさにこれであると思う。 それは出来うる限り数量化してしめすことも必要である。 何故ならば、結局のところ、どこまでその目標を実現するためにコスト-費用と労力-をかけて良いのかは、最終的に得られるものの大きさで決まってくる。 ところが、それを曖昧にするから、どこまで踏み込んで地域が関与するのか、しなければならないのかが判断できず、つまるところ成るべく地元の負担のない範囲でやろう、航空会社にお願いして実現すればめっけものと言うくらいの発想にしかならない。
  実は従来はそれもある程度通用していた。 それは、当時は航空会社がどの路線を運航するかは監督官庁が事実上決定しており、航空会社も陳情によって路線獲得を目指していた。 その時に地元の応援は少なからず有効であったので、地元支援を得るために航空会社はその見返りサービスとして路線を開設、運航していたことがある。 現在、整理・縮小の対象と見られるような低需要地方路線はおよそこのために開設されたと言っても大きな間違いはない。 そして、路線の廃止には地元の同意書が必要とされていたので、航空会社は採算が取れなくてもやむをえず路線を存続していたところも多かった。
  しかし、前述の規制緩和により事情が変わった。 航空会社はどの路線でも自由に参入、撤退ができるようになり、路線網の拡大や整理のために空港地元のご機嫌をとる必要がなくなった。
松本空港路線を巡る長野県と日本エアシステムの対立や東京〜能登線や東京〜山形線について地元への財政支援要求する航空会社の強気の背景はこれにあると見ている。それでは、どうすれば良いのか。 航空会社への陳情だけで問題解決が出来ないとすれば、地元が主導して問題解決を図らなければならない。 そのときには当然、どこまで費用と労力を注ぎ込んで良いのかと言うことが問題になる。 得られる利益よりもコストがかかつたとしたら、それは何にもならない。 有形、無形を含めて得ようとする利益と実現のために費やすコストのバランスを計る必要がある。 それ故に、得ようとしている利益はどう言う形でどのくらいの価値があり、実現のためにどのくらいのコストまでは容認でき、どのようなやり方で進めるのが費用対効果の効率が良いのか、十分検討して計画として確立して置かなければならない。
当然、当初計画のままで最後まで進められれば良いが、それは殆ど不可能であろう。 それで事態の進展により計画の変更に迫られ、変更しなければならないことも生ずるが、そのときでも目標と実現にかけられるコストの上限は変えてはならない。 それまでも変更しなければならない時は、計画全体の全面的見直しをした方が良い。 それは、目標-獲得したい利益と、かけて良いコストと方法は常に表裏一体であるべきだからである。 故に、最初に必要なものは、このような獲得すべき目標とそれを実現するために有効且つ経済的にも引き合う手段を含めた計画の作成である。 但し、それは具体的にどのようなものとするかは、各地域の事情に基づくものであり、この報告の範囲ではない。

3. 地方航空路線の維持・発展問題の取組み

  この問題の取組みに当たって、前述のように陳情だけと言うのは除外した方が良いであろう。 それから、航空会社への財政支援による路線の開設・維持は、その効果が限定的であるが故にそれだけに依存するのも問題がある。 その理由は、路線数が多くなると必要な支援額が急激に増加する可能性があること、及び路線の集客や収支について航空会社に一任し、それを鵜呑みにする以外事実上方法がないこと、加えて、無制限に補助金を出すと言うのでなければ路線の存続は補助金を含めて採算がとれている間と言うことで、存続期限は実質的に一年ごとの更新に等しく、地元の期待する永続性にはならないことである。 それ故に、もし地元が地元の空港に関わる航空路線網の永続的維持と状況に合わせたサービスの提供を期待するならば、より踏み込んだ関与が必要であると考える。
航空運送業界はいまや経済的に危機状態にある。 需要は多くの路線でほぼ頭打ちとなり、地上交通機関や同業他社との競争によりその収入単価は低下の一途を辿っている。 そのため航空各社はコスト削減のいろいろな対策を講じているが、それでもまだ採算的には危機ラインにあると見られる。 故に、当分の間、日本の航空会社は事業採算性の回復のために、コスト削減と併せて収入が採算ラインに届かない路線の廃止を進めるに違いなく、現にそうしている。 その結果、極論を言えば東京関連路線以外は全て見直しの対象になっていると見ても、大きな間違いではないであろう。
 2002年度の実績で東京・羽田路線は日本の国内航空旅客数の63%を占めており、その他の路線は大手航空会社にとってそれほど大きな比重ではない。 東京関連路線は基本的に路線ごとの需要が大きく、また比較的長距離が多く、輸送効率をあげるのに適当な路線が多い。 また、現在でもある程度需要が伸びているのは東京関連路線だけと言ってもそれほど過言ではなく、地方間路線は基本的に現状維持が精一杯で、需要が漸減している路線も多い。 地方間路線は大手航空会社にとってすでに魅力のない存在となっている。
そう考えれば、地方間路線維持・発展問題はそれを必要とするものが取組む以外、方法はない。 そして、大手航空会社がそれを必要としていないのは明らかである。 そうなれば、それを必要とする地元が主導的に取組む以外ないのである。 そして、その取組み方法の内、航空会社の陳情は問題を堂々回りさせるだけだし、財政支援は限界が見えているのは前述したとおりである。 実に皮肉なことに、規制緩和前より今の方が地方間路線の維持・発展について第三セクタᬢ航空会社が必要なのではないか。
   天草エアラインズを見れば良い。 大手航空会社がどこも手を出さなかった天草空港路線を実現できたのは、同社が第三セクター航空会社だったからではないか。 また北海道で離島路線を除く道内都市間路線が実現したのは、北海道エアシステムが第三セクター会社であり、北海道がその影響力を行使できる仕組みとそれを担保する支援体制を作ったからではないか。 一方、オリエンタル・エアブリッジは今年の1月8日から壱岐-福岡線を運休した。 同社はエアーニッポンが撤退した壱岐-福岡線を再開するために旧長崎航空を第三クターから純民間会社に改組し多額の財政支援をしたのに、結局当初目的である壱岐-福岡線の存続は果たせなかったことになる。
  長野県では松本空港に地域航空を導入して活性化を図ろうとしている。 しかし、現存の地域航空会社でその期待に自発的に応えようとするところがあるだろうか。 ところが、松本空港には皮肉な形で地域航空の導入が実現しようとしている。 2003年の四月から松本-大阪線は従来の日本エアシステムのMD87(134席)、一往復/日に代わり、日本エアコミューターがDHC-8-400(74席)を一往復/日することになった。 地域航空に代わったために提供座席数が減り、かえってサービスの低下になってしまう。 この一事を見ても分かるように、地域航空を導入して活性化を図ることは間違った方針とは思わないが、その実現を既存の航空会社にだけ依存するのは間違いではないのか。 今回の場合ももしDHC-8-400を二往復/日とすれば、提供座席数は以前と同等で、それが2便ともなれば利便性は大幅に向上したはずで、それが需要増になる可能性も大きい。 長野県が期待したのはそう言うことであろう。 ところが、大手航空会社グループは地域航空を撤退のための一段階と言うか、路線縮小の手段としてしか見ていないように見える。
 福井県の福井空港は1,200m滑走路が延長される見込みが立たなくなり、大手航空会社の機材では運航できないので、地元の期待にも関わらず、航空路線が開設される見込みはない。 その他の地方空港でも低需要路線の休止が発生している。 もはや、既存の航空会社だけに依存して地方空港がその航空路線網を存続させようと言うのは不可能に近い。 
  また、最近の報道を見て行くと、いま全国的に離島を持つ都道府県で今後10カ年の離島振興計画の見直しをしているらしい。 そのなかで、新潟県は佐渡空港の滑走路延長を計画しており、鹿児島県は南西諸島に「航空需要に対応した地域航空ネットワークの形成」を計画している。 しかし、その計画は実行の段階でいったい誰が運航するのかと言う問題が出てくるのは火を見るより明らかである。 
いまこそ、第三セクタᬢ航空会社の存在価値を見直すべきではないか。 それは、過去にあった第三セクタᬢ事業の一部にあった補助金頼みの事業では無く、採算のとれる、そして将来への発展性のある事業であり、地元の経済活性化に資することは第一であり、その事業自体も地場産業の一翼を担うようなものであるべきである。 大事なことは、その事業が地元の利益を優先して事業活動するような仕組みを持つことである。

4. 地域航空事業の採算性の向上

  前述したように、この報告の論点は新しい形の第三セクタ-地域航空会社を導入しようと言うことである。 その具体的な姿はそれぞれの地域の事情を反映したものとなり、画一的なものとすべきとは考えていない。 しかし、大事なことは採算のとれる事業とすることである。 そうしなければ、その構想は長続きしない。
採算が取れるようにするにはコストを下げなければならない。 航空会社のコストはその事業規模に大きく関係する。 一口に言えば事業規模が大きい程座席当たりのコストが安くなると考えてよい。 ところが、各地域で第三セクタᬢ航空会社を設立したとしても、常識的に考えれば大きな事業規模になる見込みはなく、それが採算性を悪くする。 その対策として二案が考えられる。
  第一案は複数の地元が共同して地域航空会社を立ち上げることである。 こうして単純に事業規模を大きくできる。
第二案は複数の地域航空会社で共同運航支援体制を作ることである。 もし、機材が統一できればその効果は大きい。 共通の規定類、航空機整備、空港ハンドリング、要員訓練、燃料・物品の共同購入、空港ハンドリングの相互支援などはすぐ考え付くことである。 この方法はそれぞれの地域航空会社が地元の主体性を維持しながら、事業規模拡大の経済効果が得られることである。 現実にはそれでも一社があまりに小さいとコストダウンも難しいから、できるところは複数の地元で共同してできるだけ大きな形の地域航空会社を立ち上げ、次いで、それの複数の地域航空会社が提携して共同運航支援体制を構築するのが良いのであろう。 

5. 既存の第三セクター地域航空会社への期待

  もし、この構想を立ち上げるとしたら、すべてが新規の航空会社でスタートするのは費用と時間が大きくかかってくる。 そこで既存の第三セクター地域航空会社、北海道エアシステムと天草エアラインズが注目されるのである。 まずこの両社が提携して第三セクタ-地域航空連合(仮称)のあり方、運営方法などを検討し、それに新たに地域航空の導入を図っている地元が参加して行くと言うやり方をとることはできないだろうか。 故に、我が国最大の第三セクター地域航空会社である北海道エアシステムのリーダーシップに大きく期待したい。  
 また、天草エアラインズにもパイオニア・エアラインとしての経験と知恵に強く期待するものである。 ただ、北海道エアシステムは第三セクターとは言え、経営の主導権を日本エアシステムが持っているのが問題になるかもしれない。 それ故に、北海道エアシステムの経営の主導権を北海道が持てる方策はできないものだろうか。 しかし、それはJALグループの営業ネットワークから離脱することを必ずしも意味しなくてよいのではないかと思う。 JALネットワークの一員として機能も果たしながら、第三セクタᬢ地域航空会社のリーダーとしての自由活動と両立させる工夫ができないものだろうか。 
報道の限りではあるが、JALシステムは北海道エアシステムは従来どおりの役割を担当させるとのことであり、そうであればこの構想にのることも全くの夢物語ではないのではないか。 JALシステムが保有している北海道エアシステムの株式の51%と言うことは見直した方が良さそうに思えるが、その微調整で北海道が同社の経営の主導権を持ちながら、同社がJALシステムのネットワークの一員と言う役割を果たすことは、それほど矛盾した構想とも思えない。

6. 終りに

  今、地方航空路線はどこと言わずすべてが程度の差こそあれ存続の危機にある見てよいのではないか。 一方、地方の独自性がより強調される時代となり、地域航空への期待はいままで以上に高まりつつあると見ている。 しかし、問題はいまだ地域航空が地域の発展の一翼を担う責任のとれる仕組みを見つけていないことである。 その仕組みのキーワードは、「地域の主導」と「事業の採算性」であると考える。この二つを両立させる仕組みを作らない限り、地域航空は地域の発展に積極的に寄与するものとはならないと信ずる。

以上