2022.10.11

離島への航空便の再開と維持について

コミュータービジネス研究所

1.はじめに

この報告を作るきっかけは、テレビの旅行番組から始まった。 どの列車もがらがらに空いている。 それなのに何故鉄道が維持できるのか不思議に思っていた。 そんな時に聞いたのは、EUでは鉄道は不可欠な交通インフラストラクチャーとして、いくら赤字が出ても補助金を出して存続させる政策なのだそうである。 

日本では採算の取れない鉄道線区は廃線になるのが一般的であるが、ところが日本でも赤字が出るのは覚悟で、鉄道を維持しようと言う動きがあった。

去る10月1日にJR只見線の運転が再開されたことが報道された。 只見線とは福島県の会津若松駅を起点として、JR上越線の新潟県の小出駅を接続135.2kmの地方鉄道路線で、その大部分は山間の豪雪地帯である。 この線区が2011年7月の豪雨で一部区間が不通になった。 その後、不通区間をバス連絡として運行していたが、今年の10月1日に11年ぶりに全線が開通した。 それは地元の福島県や市町村が復旧費用の1/3を負担し、開通後の維持管理費も地元が負担する「上下分離方式」をとったからである。 

しかし、この線区は過疎地帯を通っており、黒字になる可能性は殆どなく復旧費用を回収できる見込みはないと推測する。 それでは何故地元はそれほどの負担をしても鉄道にこだわったのか、この鉄道が地域にとつて不可欠と判断したからである。 それには冬季には豪雪により並行する道路が使えなくなることが多いと言う事情があるにせよ、実際の公共交通機関としての機能に加えて、鉄道が通っていると言う地域の生活の安心感にも対応できると見たからと推察する。 このように地域にとって公共交通機関の存在は、輸送機関としての実利に加えて、情緒的な面があることも理解できる。 只見線の例は、採算を度外視しても存続させたいケースがあることを示した。 このように公共交通機関の存在には、情緒的と言えるのかもしれないが、単なる輸送の道具として以上の象徴的な何かがあると思う。

これと類似するケースとして、当所は離島航空を上げる。 しかるに日本の離島航空は長い間冷遇されてきたと思う。 国としては地方振興の旗を掲げながら、地域のやっていることは必ずしもそうでなかったと見るのである。 その結果、空港があるのに定期航空便が就航していない離島が存在する。 米国の例を見ると、Essential Air Service(必須の航空運送)として、低需要市場の地域では、一定の条件を満たした運営をすれば航空サービスに対して国が補助する制度があり、フランスにも同様の制度があると聞く。 実は日本にも離島航空便の維持のための手厚い助成の制度が存在する。 しかし、実情は一部の例外を除き、それが十分活用されているようには見えない。 本報告は、そのような問題を提起するのが目的である。

2.離島航空路線の現況

最初に離島航空の現状を第1表にて紹介する。 ( )内は標準的運航便数/日である。 なお天草は九州本土とは橋が架けられて実態として陸続きになっており、また那覇空港は、実態において離島路線のハブ空港になっている基幹空港なので、両空港は検討から除外することにした。 なお略号として北海道エアシステムはHAC、新中央航空はNCA、全日本空輸はANA、ジェイエアはJ-Air、オリエンタルエアブリッジはORC、日本エアコミューターはJAC、日本航空はJAL、PeachはAPJ、スカイマークはSKY、そらしどエアはSNA、日本トランスオーシャンはJTA、琉球エアコミューターはRACと記載している。

日本の離島空港の現状(2022年4月現在)

離島空港

設置・管理者

滑走路長

定期便

備考

1

礼文

北海道

800×25m

なし

2

利尻

北海道

1,800×45m

HAC札幌線(1+2/W)

夏季運航あり

3

奥尻

北海道

1,500×45m

HAC札幌線(1)、函館線(1)

4

大島

東京都

1,800×45m

NCA調布線(2)

5

新島

東京都

800×25m

NCA調布線(4)

6

神津島

東京都

800×25m

NCA調布線(3)

7

三宅島

東京都

1,200×30m

NCA調布線

8

八丈島

東京都

2,000×45m

ANA羽田線(3)

9

佐渡

新潟県

890×25m

なし

10

隠岐

島根県

2,000×45m

HAC伊丹線(1)、J-Air出雲線(1)

11

対馬

長崎県

1,900×45m

ORC福岡線(2)、ANA長崎線(2)、

ORC長崎線(4)

12

壱岐

長崎県

1,200×30m

ORC長崎線(2)

13

小値賀

長崎県

800×25m

なし

14

上五島

長崎県

800×25m

なし

15

福江

長崎県

2,000×45m

ORC福岡線(3)、ANA福岡線(1)、

ORC長崎線(2)

16

三島村薩摩硫黄島

鹿児島県三島村

600×25m

なし

非公共用

17

屋久島

鹿児島県

1,500×45m

JAC伊丹線(1)、JAC福岡線(1)、

JAC鹿児島線(6)

18

種子島

鹿児島県

2,000×45m

JAC鹿児島線(4)

19

奄美

鹿児島県

2,000×45m

JAL羽田線(1)、APJ成田線(1)、

APJ関西線(1)、JAL伊丹線(1)、

J-Air福岡線(1)、J-Air鹿児島線(7)、

SKY鹿児島線(2)、JAC鹿児島線(1)、JAC喜界島線(1)、JAC徳之島線(2)、J-Air徳之島線(3)、JAC与論線(1)、

20

喜界島

鹿児島県

1,200×30m

JAC鹿児島線(2)、JAC奄美線(2)

21

徳之島

鹿児島県

2,000×45m

J-Air鹿児島線(3)、JAC鹿児島線(1)、JAC奄美線(2)、JAC沖永良部線(1)

22

沖永良部

鹿児島県

1,350×45m

JAC鹿児島線(3)、JAC徳之島線(1)、JAC那覇線(1)

23

与論

鹿児島県

1,200×30m

JAC鹿児島線(1)、JAC奄美線(1)、

RAC那覇線(1)

24

慶良間

沖縄県

800×25m

なし

25

伊江島

沖縄県

1,500×45m

なし

26

粟国

沖縄県

800×25m

なし

27

久米島

沖縄県

2,000×45m

RAC那覇線(6)、JTA那覇線(!)

28

南大東

沖縄県

1,500×45m

RAC那覇線(2)、RAC北大東線(1)

29

北大東

沖縄県

1,500×45m

RAC那覇線(2)、RAC南大東線(1)

30

宮古

沖縄県

2,000×45m

JTA那覇線(8)、RAC那覇線(1)、

ANA那覇線(6)、RAC新石垣線(2)、

RAC多良間線(2)、

31

下地島

沖縄県

3,000×60m

SKY那覇線(1)

32

多良間

沖縄県

1,500×45m

RAC宮古線(1)

33

新石垣

沖縄県

2,000×45m

RAC宮古線(2)、RAC与那国線(3)、

SNA那覇線(3)、JTA那覇線(7)、

ANA那覇線(6)

34

波照間

沖縄県

800×25m

なし

35

与那国

沖縄県

2,000×45m

RAC那覇線(1)、RAC新石垣線(3)

第 1 表

第1表に示すごとく、定期便のない離島空港は9空港あるが、三島村薩摩硫黄島空港は非公共用であることから、そして伊江島空港も沖縄本土へ船舶で30分と近すぎるので、これりらの空港は、この報告の検討は対象から除外する。 第2表に前述の2空港を除外して、現在定期便が就航していない7つの離島をリスト・アップする。 これらはすべて800m級滑走路であり、以前に定期便が就航していた歴史がある。 

日本の定期便のない離島空港の現状(2022年4月現在)

離島空港

設置・管理者

滑走路長

過去の定期便就航

1

礼文

北海道

800×25m

稚内線(ADK DHC-6)

2

佐渡

新潟県

890×25m

新潟線(旭神航空KOK BN-2)

3

小値賀

長崎県

800×25m

福岡線、長崎線(ORC BN-2)

4

上五島

長崎県

800×25m

福岡線、長崎線(ORC BN-2)

5

慶良間

沖縄県

800×25m

那覇線(RAC BN-2)

6

粟国

沖縄県

800×25m

那覇線(RAC BN-2)

7

波照間

沖縄県

800×25m

石垣線(RAC BN-2)

第 2 表

なお当時の使用機材は、エアー北海道(ADK)のDHC-6(19席)以外は、全てBN-2(9席)であった。 ADKはANAに併合されて現在は存在せず、ANAの最小型機材は74席のDHC-8-Q400である。 JALグループでは、HACとJACが運航しているATR42-600(48席)が最小型機材であり、それは800m滑走路で運用できる航空機ではない。 またRACの運航しているDHC-8-Q400CCも最低1,200m滑走路が必要である。 

BN-2は、現在国内の定期航空では使用されていないが、BN-2が退役することになったのは、実用的に計器飛行ができなかったことにある。 航空法第65条により、「旅客の運送に供する航空機で計器飛行方式により飛行するもの」は操縦士を2名搭乗させなければならないが、 そうするとBN-2は操縦席も含めて10席しか座席がなく、旅客は8名しか乗せられないことになって採算性は大きく悪化する。 それで現在日本国内で定期航空に使用される最小型機は19席のDornier 228-200であり、NCAにより伊豆諸島路線に使用されている。 独立系の地域航空会社では、ORCがDHC-8-200(39席)を、天草エアライン(AMX)はATR42-600を運航しているので、日本の航空会社で800m滑走路で運用できる航空機を保有しているのはNCAだけである。

3.国の離島航空路維持支援策

第1表に掲げるこれらの離島路線を維持するために、国はさまざまな助政策を講じている。 それを第3表に紹介する。

離島航空路維持のための国の施策

補助対象

補助率

備考

機体購入費補助金

1,500m以下の滑走路に離着陸可能な航空機及びその部品の購入費

航空機購入に要する費用の45%を補助

沖縄路線に就航する場合は75%

運航費補助金

離島の住民生活に必要な路線の航空機に係る部品の購入費等の一部

経常損失の9割と物件費のいずれか定額の50%

MSAS(衛星後方補助システム)受信機購入費補助金

1,500m以下の滑走路に離着陸可能な航空機にMSAS受信機購入に要する費用の一部

機体購入補助金と同じ

航空機燃料税の軽減

一定の離島路線に就航する航空機について通常の3/4へ軽減 

1kl=26,000円→19,500円

着陸料の軽減・航行援助施設利用料の軽減

離島路線に就航する航空機について軽減


離島路線に就航する航空機について以下のように軽減

ターボジェット機  一般路線の1/6

ターボジェット機   一般路線の1/6


6t以下の航空機にあっては一般路線の1/16。 但し航行援助施設利用料については15t以下

固定資産税の軽減

離島路線に就航する航空機について軽減


離陸重量20t〜70t

最初の3年間    1/3

次の3年間     2/3

離陸重量20t以下

最初の3年間    1/4

次の3年間     1/2

第 3 表

第3表に紹介したような手厚い国の助成制度があるにもかかわらず、空港があっても定期便が就航していない離島空港が存在するのだろうか? その分析を行う前に、これらの制度を活用して管轄地域内の離島への航空路線を運航している東京都の例を第4表に紹介する。 東京都は意外に思われそうだが、伊豆七島と小笠原諸島、硫黄島、鳥島及び南鳥島も含む多くの離島を抱えた地方自治体であり、伊豆七島には一般住民も多く存在するので、それらの島々への交通の確保は重大事である。 その方策として、東京都は都下の調布空港を主運航基地としている純民間企業であるNCAに対して、運用する航空機の購入費について国の補助金の45%に加えて、55%を補助している。 それで実質的にNCAの使用機材の購入費は全額補助としているので、NCAの国内定期航空運送事業である伊豆諸島路線は、事実上東京都の監督下にあると見ている。 

東京都下の航空路線(2022年4月現在)

島名

船舶便

空港の滑走路

航空便

備考

大島

Jetfoil 4便/日、船舶 1便/日

1.800×45m

NCA 3便/日

利島

Jetfoil 2便/日、船舶 1便/日

ヘリポート

新島

Jetfoil 2便/日、船舶 1便/日

800×25m

NCA 3便/日

式根島

Jetfoil 2便/日、船舶 1便/日

新島空港便を利用

神津島

Jetfoil 2便/日、船舶 1便/日

800×25m

NCA 3便/日

三宅島

船舶 1便/日

1,200×30m

NCA 3便/日

御蔵島

船舶 1便/日

ヘリボート

八丈島

船舶 1便/日

2,000×45m

ANA 3便/日

第 4 表

東京都は空港のない-利島、青ヶ島、御蔵島のために大島〜利島、八丈島〜青ヶ島、八丈島〜御蔵島〜三宅島〜大島に東邦航空によるヘリコプター便も運航しているが、当所はヘリコプター輸送については研究対象外なのでこれ以上は触れない。 東京都の伊豆諸島路線の特徴は、船舶と航空機の2本立て、または区間によってはジェットフォイル、船舶及び航空機の3本立ての交通手段を持っていることである。

4.離島への交通手段の確保についての関係地方自治体の関与

我が国において、離島への航空路線の多くが廃止されてきたのは、路線の存廃は航空会社の専管事項であるかのような錯覚を、関係地域が持っていたからではないかと思う。 確かに実際に路線を運航するのは航空会社であり、前述した助政策は航空会社に適用される。 しかし、その路線を必要とするのは、地域の住民である。 従って、関係地域の地方自治体が、地域住民の要望を代表して航空会社に当該路線の維持を働きかけないとすれば、誰がやるのだろうか? 離島にあっては、適切な交通手段の有無は地域の死活問題につながる。 どの離島にも船舶による連絡船はあるが、けれども船舶による交通手段は、台風の時期や冬季には不安定になる可能性が高い。 例えば、台風が到来した後、天候は台風一過の晴天であっても海面の波浪は高く、船舶便が運行できず、島では食料品すら欠乏すると言うような報道は、良く聞かれることである。 

ところが航空は空港施設が破壊されない限り、台風一過で直ちに運航再開できると言う長所を持っている。 それだけでも離島航空路線は、存在価値があるというものである。 ところが空港が存在する離島であっても、定期航空便が就航せず航空が利用できない離島が、第2表に示したように7空港もある。 それらの7空港で定期便が廃止されたのは個々の事情もあろうが、第一に市場が小さくて機材の大型化とミスマッチが生じたこと、加えて当時、航空は贅沢な交通手段とみなされており、島民自身が船舶だけに依存することの不便さ感じていなかったからと推察する。 その結果が、第2表に示された定期便が就航していない空港となっている。 しかし、離島のように代替交通手段の選択肢の少ないところにも、一般的な航空路線と同じに考えて良いのだろうか。 今までは離島路線も営利事業としての航空サービスであり、従って採算が取れないと運航会社が判定すれば廃止された。 全ての公共交通機関が商業的採算だけを存続の基準とすれば、多分相当数の離島路線は廃止に追い込まれ、関係地域の過疎化が促進されるであろう。 

前述の只見線の事例は、離島の航空路線の存続の判定を、営利事業を経営している航空会社の判断に任せて良いのだろうかと言う疑問を提起した。 当所は、離島の場合は関係者が航空便の存続を交通政策としてではなく、地域の生活基盤が維持するための民生・福祉政策の一部として取り扱うべきと考えるのである。 

その視点からすれば、当該離島に航空便が必要であるかないかは、航空会社の判断する問題ではない。 

航空会社が路線を開設しないのは、採算が取れる見込みがないからである。 民間企業である航空会社がそう考えるのは当然であり、ところが大部分の離島路線は、低需要で将来の成長も望めず、採算の取れる路線にはならない。 それで多くの離島路線が廃止されてきたのである。 しかし、離島路線についてはその交通手段が地域にとって不可欠なものであるのかの判断は、航空会社ではなく所轄地方自治体がなすべきことと考えるのである。 これは当該区間の航空路線が営利事業として成立するかどうかの問題としてではなく、地域にとって不可欠な交通手段であるかどうかという問題として取り組まなければならない。 先に紹介した福島県の只見線の事例を見れば、福島県は地域の生活基盤の安定に鉄道が不可欠と考えた。 そして商業的採算が取れるかどうかという問題ではなく、地域の民生・福祉政策の問題として取り組んだのである。 

民生・福祉政策と位置づければ、そこから金銭的利益が生ずることを期待するものはおるまい、 その観点からは、厳しく言えば第2表に掲載した北海道、新潟県、長崎県及び沖縄県は、所管空港に定期便が就航していないことについては、問題の取り上げ方が間違っていると思う。 あえて言えば民間航空会社の問題に転嫁したようにも見えるのである。 第3表にみるように、国は実に手厚い助成制度を設けている。 それから考えれば、離島航空路の再開は商業的採算性の問題ではなく、所轄地方自治体が民生・福祉政策の問題として取り組んでいるかと言う問題である。 第2表に掲載した道県、北海道、新潟県、長崎県及び沖縄県は、掲載された離島への航空路線の存続を、多分航空会社としての基準で判定してきたのである。 

それは関係地方自治体の取るべき姿勢ではなかったと思う。 関係地方自治体は、民間航空会社としての採算性ではなく、地域の民生・福祉政策面から考えるべきである。 関係道県がとるべきことは、当該離島路線の必要性を地域の住民の意思も含めて取りまとめ、もし当該離島路線は維持すべきと判定するならば、第3表に掲げたような助成を利用して、もし必要あれば関係地方自治体としての助成も行い、当該離島の航空路線の開設・維持を促進しなければならない立場にある。 離島空港への路線を開設する場合の方法として、兵庫県が採っている方法を準用するのが良いと思料する。 その方式では、伊丹空港から兵庫県内の但馬空港までの路線開設のために、兵庫県は但馬空港ターミナルの名義で航空機を購入してJACに委託運航している。 現在はATR42-600、JA05JCを購入してJACにリースし、JACは形式上JA05JCを使用して、但馬線を運航するが、兵庫県はこの路線分はリース料金をとっていない。 但馬線の運航だけでは稼働時間が少ないので、残り時間については有償でJACがリースできるようになっている。 すなわち、JACの伊丹〜但馬線は、JACが採算の取れる路線として運航しているのではなく、兵庫県の民生・福祉政策の一環として運行されているのである。 参考までに極端な例を紹介するが、採算性を完全に度外視して運行されている連絡船がある。 それは鹿児島県下の三島村と十島村であるが、村役場は鹿児島市内にあって全国で管轄地域内に村役場のないたった二つの村である。 そして村内の連絡は、三島村は村営の「フェリーみしま」を、十島村は村営の「フェリーとしま2」を、当然のこととして採算を度外視して運行している。


5.離島航路の再開と維持の方策

第2表に掲げる離島への定期便を再開するには、関係地方自治体が必要な航空機を国や関係地方自治体の助成を受けて購入し、但馬方式にならって地域の地域航空会社に運航委託することである。 それは公営航空運送事業をやると言うことではなく、当該離島への民生・福祉政策の実行として実施されるものでなくてはならない。 従って、もし使用航空機の購入費と運航費が、国の助成制度だけでは事業採算が取れないとなれば、東京都のように必要な分を、地域の地方自治体が負担しなければならない。 それは前述したように、公営航空運送事業のためではなく、地域への民生・福祉政策費用として支出されるものと位置付けなくてはならないと考えるのである。

6.離島路線の使用航空機

この報告で提案する離島路線への就航機材は、800m滑走路で運用できること、計器飛行ができること、及び入手性等を勘案して、19席級のターボプロップ機が適当と考える。 現在生産中の19席級ターボプロップ機には、ドイツのGeneral Atomic Europe社が製造するDornier 228-200シリーズ機とカナダのViking Air社が製造するDHC-6-400がある。 しかしDornier 228-200の方はNCAが現在も使用中で、さまざまな支援を受けるのにも有利であるので、この構想で導入する航空機として提案する。  なおDHC-6-400は、以前に第一航空が導入して那覇〜慶良間線を開設したが、着陸時に事故を起こして第一航空は廃業してしまい、現在我が国には存在しない。 使用機の購入については第2表に示すように、国の離島航空路線維持対策として、機材購入費の45%を国が助成することが制度化されている。 それで国の補助については既に制度化されているので問題ないが、第2表に掲げた一道三県、北海道、新潟県、長崎県または沖縄県には購入費補助制度の制度化して貰う必要があるかも知れない。 なおNCAを除いた航空会社にはDornier 228の運航経験がないので、委託先の運航会社にあってはバイロットや整備員の増員や訓練などが必要になるので、これにかかる費用を国あるいは関係地方自治体が負担する制度の制定も必要になる。  

7.既存地域航空会社への運航委託

当所が分類する地域航空とは、基本的に限定された地域内で、100席未満の客席数をもつターボプロップ旅客機で運営する事業であり、そんな事業を運営する航空会社は6社-HAC、NCA、ORC、AMX、JAC及びRAC-が存在し、橋で本土と接続されている天草諸島も離島と見做せば、ら全部が離島路線を運航している。 それらのうちNCA、ORC及びAMXは、地域の民生・福祉政策の一環として関係地方自治体主導で経営されている。 JACは、当時存在した東亜国内航空(TDA)が、低需要短距離路線であった奄美群島内路線には使用機材のYS-11(64席)では大きすぎるので、機材の小型化のために設立した子会社で、創立時にはDornier 228-200(19席)を運航していた。 2002年に親会社であった日本エアシステム(JAS)がJALに併合されたのに伴い、JALの傘下に入って現在に至っている。 HACは、北海道内路線はそれまですべて札幌中心路線であったので、札幌以外の道内都市間を直接、航空便で接続する意図をもって、北海道と当時の日本エアシステム(JAS)が設立した合弁会社であるが、その後JASのJALへの併合に伴いJALの完全子会社になり、JALグループの北海道内路線を担当している。 第2表に掲げる空港へ路線を開設する場合の運航会社については、この報告の目的のために独立した航空会社を設立するのも大変なので、前述した運航予定地域の既存地域航空会社に委託するのが現実的と考えたのが、第5表である。 第5表の構想を実現するには、HACへ1機、NCAに1機、ORCに1機及びRACに2機の計5機が必要になると算定する。 これらの想定離島路線は商業的に採算が取れるとは考えられないが、これは先に紹介した福島県のJR只見線とおなじような、離島にとってのシビル・ミニマム(住民の最低限の生活基準で、管轄自治体が住民のために備えなくてはならない生活環境の条件)であると位置付けられるべきと、当所は考えるのである。

離島の生活基盤安定路線運航会社(案)

空港

委託先航空会社

想定運航路線

基地

礼文

北海道エアシステム(HAC)

札幌〜礼文〜稚内〜利尻〜稚内〜礼文〜札幌

札幌

佐渡

新中央航空(NCA)

調布〜佐渡〜新潟〜佐渡〜新潟〜調布

調布

小値賀

オリエンタルエアブリッジ(ORC)

長崎〜上五島〜長崎

長崎〜小値賀〜長崎

長崎

上五島

オリエンタルエアブリッジ(ORC)

慶良間

琉球エアコミューター(RAC)

那覇〜慶良間〜那覇

那覇〜粟国〜那覇

那覇

粟国

琉球エアコミューター(RAC)

波照間

琉球エアコミューター(RAC)

新石垣〜波照間〜宮古〜波照間〜新石垣

新石垣

第 5 表

第3章で紹介したように、東京都はすでにそれを実施しており、近い将来には小笠原諸島に空港を建設して、ATR社が開発中の短距離離発着機ATR42-600Sをもって小笠原線を開設する計画を持っている。

東京都は富裕自治体だからできるとの声もありそうだが、これは財政に余裕があるからやるのではなく、地域住民の最低の生活基盤の確保のために対処すべき事柄であると思う。  財政事情を、この問題の取り組みの是非についての判断基準とする地方自治体があるとすれば、その地方自治体はこの問題が公営航空事業設立の問題ではなく、地域の生活基盤安定のための民生・福祉政策であることを理解していないことだと思う。 民生・福祉政策の実施に採算性を求める地方自治体があるとは考えられない。

要は、採算を度外視しても維持しなければならない交通インフラストラクチャーが、必要な場合があると言うことである。 それはある意味において実態的と言うよりも、象徴的なものであるかもしれない。 

鉄道には「鉄路」と言う格好のイメージがあり、その存在感は輸送手段としての価値よりも遥かに大きい場合もあって、それ故に各地の第三セクター鉄道が存続でき、只見線のようなことが可能なのかもしれない。残念ながら航空の場合の空港は、一般的にはそのような存在感に乏しいのかも知れないが、離島航空路の場合は、鉄道のそれに似たような環境にあるのではないか。 そうであるとすれば、離島航空路にも只見線方式を準用することは、航空路線の再開と維持が可能になり、当該離島振興の有効な手段となると思う。 

鉄道の場合は、地域の地方自治体が行ったのは線路の確保であったが、航空の場合は空港が国あるいは地元地方自治体が管理しているので、使用する航空機を調達し、それを運用する航空会社を指名することになる。全ての離島に空港がある訳ではないが、空港のある離島では従来からの船舶に航空も加えて、交通手段を2本立てすることも必要ではないかと思う。 空港が存在するのに、定期航空便が就航しておらず、船舶にのみ依存する離島もあるのは勿体無いことである。 当所は、既存のインフラストラクチャーにより可能な離島には、海運と航空の2本立ての交通手段を商業的採算抜きで確保して、地域の生活環境の向上に貢献させることを提案するが、それは地域航空自身の存在価値を高めることにも有効であると考える。 

以上