7−3−@ 道営HACへの回帰の薦め

2020.01.13

道営HACへの回帰の薦め

コミュータービジネス研究所

  • 報告の目的

北海道エアシステム(HAC)は、主として北海道内を運航する日本航空(JAL)の子会社の地域航空会社であり、JALの国内線ネットワークの一端を担っている。 同社は、元々は全日本空輸(ANA)やJALが運航しない道内低需要区間を運航する目的で、北海道と当時はまだ存在していた日本エアシステム(JAS)の合弁で設立されたが、後にJASがJALに吸収合併されたのでそれに伴いJALグループ入りした。 以後、多少の紆余曲折はあったが、JALグループの地域航空会社として道内の航空運送に一定の役割を演じてきた。しかるに当所は、近年になって北海道内の航空ネットワークの維持の見通しと、HACの将来が不透明になってきた様に感じるのである。 それ故に当所は本報告において予期している北海道内の航空運送にまつわる事業環境の変化と、それに対処するHACのあり方を検討することにした。

  • HACの将来が不透明になったと見る理由

2018年7月18日、HACは現有Saab340Bの後継機としてATR42-600(48席)を選定したプレス・レリーズを発表した。 現在生産しているターボプロップ旅客機はDornier 228-200NG(19席)とATR42-600の2機種しかないので、Saab340Bの後継機を導入するとなればATR42-600の選択は妥当であるが、問題は発注機数にある。 HACはSaab340B、3機をもって5路線15便/日を運行しているが、後継機として発注されたのはATR42-600を確定2機+オプション1機であり、現在は3機を運用しているので確定注文分だけでは現在の5路線15便/日の事業規模を維持できず、10便/日程度に縮小される。 それには使用機の座席数が12席/便も増加するので、釧路線や函館線のような多便数を運行している路線では、提供座席数を同等に維持するよう減便して運航便数を減らす工夫も考えられるが、それだけでは3便/日程度しか捻出できず事業規模の縮小は免れない。 事業規模を縮小するとなれば、まず道外路線の三沢線の2便/日を廃止し、また函館〜奥尻線(1便/日)は座席利用率が40%程度と低いので、廃止したいところであろうが、離島路線なので実際に廃止できるのかと言うこともある。 外野の目としては、Saab340Bの後継機は当然現行ネットワークを維持するのが前提と見るが、この発注機数からは、JALグループが道内路線を縮小しようとしているのか、それとも現在ジェイエア(J-Air)とHACの2社で分担している道内の航空サービスのそれぞれの負担割合の変更を考えているのかのどちらかと推測する。 例えば釧路線の運行をHACからJ-Airに代えれば、それは稼働機数にして凡そ1機分になるので、残りの路線はATR42、2機で維持できる勘定になる。 要するにATR42-600、2機ではHACは事業規模縮小は避けられず、加えて将来の需要増や環境の変化への対応が困難になると予測されるので、それがHACの将来が不透明になったとする所以である。

3.北海道内の航空ネットワーク現況

北海道内の航空運送ネットワークは、ANAと、JALグループがリージョナル・ジェット運航会社のJ-AirとHACの二社の計三社によって運航されており、その現況は第1表に示す様になっている。

北海道内の航空路線

運航都市区間

運航会社

運航路線

使用機材(便数/日)

備考

札幌〜稚内

ANA

新千歳〜稚内

DHC-8-Q400(2)

札幌〜女満別

ANA

新千歳〜女満別

DHC-8-Q400(3)

J-Air

新千歳〜女満別

E170(3)

札幌〜中標津

ANA

新千歳〜中標津

DHC-8-Q400(3)

札幌〜釧路

ANA

新千歳〜釧路

DHC-8-Q400(2)

Boeing 737-800(1)

Boeing 737-800の投入はQ400の機材量不足からと見ている。

HAC

丘珠〜釧路

Saab340B (4)

札幌〜函館

ANA

新千歳〜函館

DHC-8-Q400(2)

HAC

丘珠〜函館

Saab340B (6)

札幌〜利尻

ANA

新千歳〜利尻(1)

Boeing 737-500(1)

夏季のみ運航

HAC

丘珠〜利尻(2)

Saab340B (2)

函館〜奥尻

HAC

函館〜奥尻(1)

Saab340B (1)

註:新千歳〜利尻線を除き2019年4月ダイヤによる。

第 1  表

第1表に見る如く、道内航空路線は航空三社が7区間、路線数で10路線が1日当たり最大30便を運航しており、その輸送実績を第1図で紹介するが、丘珠発と新千歳発を「札幌発」に括っている。

第 1  図

この図に見る様に札幌〜女満別線、釧路線及び函館線は増加傾向にあるが、稚内線、中標津線、利尻線及び函館〜奥尻線は需要規模が固定化している。 また紋別線は2014年度から廃止されたままである。

第2図はANA、JAL及びHACの市場分担を表しているが、現在は年間で凡そ80万人が利用しており、ANAが道内市場の凡そ半分強を占有しており、残りをJALグループがJ-AirとHACで運営している事になる。 またこれまでの傾向で見る限り、大型3路線が増加傾向にあるので、全体的に見れば道内の航空市場は現在も拡大基調にあると見て取れる。 

第 2 図

第1表に示した道内航空市場の運用実態を一表にまとめると、第2表のようになる。 HACはSaab340Bを3機運用しているが、道内路線13便のほかに道外への三沢線を2便/日、運行しているので、稼働は5便/機/日となり、それで道内路線に投入している機材量は2.6機と算定した。 ANAの2019年の秋ダイヤを見ると、新千歳空港に夜間駐機しているのは2機で、それに新潟〜新千歳線と仙台〜新千歳線を経由して機材の入れ替えを行っているので、道内路線での稼働機数を2.4機と算定した。 また新千歳〜釧路線にBoeing 737-800を1便/日を投入しているのは、利用できるQ400が不足しているのでBoeing 737-800で補航していると見られる。 また新千歳〜利尻線は季節運行なので、その期間だけBoeing 737-500を回航している。 従ってANAの稼働機数は通年では2.6機、夏季のみ2.8機となる。

北海道内路線の運営実態

運航会社

使用機種(座席数)

運航路線数

運航便数/日

推定必要機数

備考

ANA

DHC-8-Q400(74)

5

12

2.4

Boeing 737-800(167)

1

1

0.2

Q400路線と重複

Boeing 737-500(126)

1

1

0.2

季節運航

小計

7

14

2.8

J-Air

Embraer 170(76)

1

3

0.6

ANA路線と重複

HAC

Saab340B 36)

4

13

2.6

この他に道外路線2便/日運航

合計

30

6.0

第 2  表

4.将来の事業環境の変化予測

本報告はHACの将来を問題視しているのは、Saab340B後継機の注文機数が近い将来に予想される事業環境の変化に対応して居ないと見るからである。 当初が予想する将来の事業環境変化とそれから引き出される問題点は、次の四項目である。

  • ANAの道内路線から撤退の可能性
  • JR北海道の一部区間運行の廃止
  • JALグループの道内路線運営に関わるJ-AirとHACの役割分担の不透明
  • 予想される環境変化に対応するHACの能力不足

以下に項目別に解説する。

  • ANAの道内路線から撤退の可能性

前章で述べた様に道内航空ネットワークではANAが圧倒的に市場を占有しており、運航便数で47%%を占めている。 ところが輸送実績を見て行くと、各路線の需要規模に対してはDHC-8-Q400(74席)では大きすぎて、全線の総合座席利用率は50%代にとどまっている。

第 3  図

一般的には採算分岐点座席利用率は60%程度と考えられており、それ故にこの座席利用率では採算ギリギリか、ともすれば採算割れしている可能性すらあると推測される。 一方、ANAは三菱スペースジェット(国内線単一クラス仕様で90席)を確定15機+オプション10機、計25機を発注している。 本来同機はBoeing 737-500の後継機として発注されたが、納期が著しく遅れているうちに737-500は全機退役してしまった。 それでスペースジェットのANAにおける役割は、DHC-8-Q400の後継とせざるを得なくなったと見られる。 しかしBoeing 737-500との交代であれば、より座席数の少ないスペースジェットの使用で需給調整が容易になるが、Q400との交代は使用機材の大型化であり、実情に必要な対策とは逆行する。 現行便数のままでQ400をスペースジェットと交代すると、全線座席利用率が18%程度低下すると予想される。 2019年の9-10月ダイヤでQ400が主力である12路線について、スペースジェットと交代した場合の座席利用率の低下を予測したのが第3表である。 ANA保有の他機種或いはIBX便と併用されている路線は、Q400抜きでも需給調整が可能として検討から除外した。 第3表に示すように、スペースジェット導入後は一般的な採算分岐点利用率と考えられる60%を超過する見込みがある路線はない。 将来の需要増についても札幌〜稚内線、中標津線及び利尻線については期待できず、当面採算割れになる可能性が高い。 札幌〜女満別線、釧路線及び函館線は増加傾向ではあるものの、現在でも機材の大きさに追いついて居ないのに、さらに大型の機材投入に対応できるほど急速に増加すると考えられない。 運航便数を減らして座席利用率を調整使用にも、各路線の運航便数が2〜3便/日なのでその余裕はない。 それでQ400をスペースジェットに交代すると、座席利用率が低下により全般的に採算割れは必至であると予想される。   

DHC-8-Q400がスペースジェットと交代する場合の予測

区間

便数/日

座席利用率(2018年度)

スペースジェット導入時 座席利用率

備考

1

成田〜新潟

1

61.9%

50.9%

2

伊丹〜青森

2

62.6%

51.5%

3

伊丹〜秋田

3

63.0%

51.8%

4

中部〜秋田

2

67.0%

55.1%

5

中部〜新潟

2

54.6%

44.9%

6

札幌〜稚内

2

55.2%

45.4%

北海道内路線

7

札幌〜女満別

3

62.1%

51.1%

北海道内路線

8

札幌〜中標津

3

67.2%

55.3%

北海道内路線

9

札幌〜函館

2

69.3%

57.0%

北海道内路線

10

札幌〜青森

2

47.4%

39.0%

11

札幌〜秋田

2

54.2%

44.6%

12

福岡〜対馬

5

61.6%

50.6%

29

 

 

第 3 表

これまでの検討から、DHC-8-Q400が道内路線から退役する時には、スペースジェットを導入せず撤退する場合もあると予想するのである。 結論を言えば、ANAのスペースジェット導入は、将来の道内路線の維持に繋がるものではなく、むしろ道内路線から撤退する契機になる可能性の方が大きいと思う。

スペースジェットは当初2012年度後半には商業運航に就航する計画であったが、開発の遅れが度重なって現在に至るも引渡日は確定しておらず、2019年パリ・エアショーでの発表では2023年目標となっている。 ANAがスペースジェットを確定15機+オプション10機も発注したのは、Boeing 737-500とDHC-8-Q400の一部との交代を計画して居たと推測するが、スペースジェットの納期が遅れているうちにBoeing 737後継機問題は解決済みとなってしまった。 そうなるとスペースジェットにはQ400の後継機としての役割を負わせる以外使い道がないが、現在、ANAはスペースジェットには全く期待しておらず、事業計画には組み込んで居ないのではないかと推量する。 最早ANAネットワークの中にスペースジェツトの居場所は無くなってしまったように見える。 ANAの道内路線がいまだに維持されているのは、ANAにとって道内路線が有用であるからではなく、スペースジェットの納入遅れでQ4000を退役させられないからではないのか。 ANAがスペースジェットの納期遅れに目立った反応を示して居ないのは、その辺りに理由がありそうである。 当所は依然としてスペースジェットが導入されてQ400の退役が可能になった時、道内路線から撤退すると予測する。 なお路線廃止は、航空法第107条の2項により6ヶ月前に国土交通大臣に届出しなければならない。 言い換えれば6ヶ月あれば関係地元の意向に関係なく、路線廃止が出来るのである。

(2)  JR北海道の一部区間運行の廃止

平成28年11月18日にJR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区について」と言う報告を発表した。 それによると需要が少ない13線区では、JR北海道単独では維持困難と報告されている。 それぞれの線区は比較的短距離であるが、その区間が利用できなくなるとその線区を通過する長距離列車の運行が不可能になることも予想される。 JR北海道は、運行継続のために関係地方自治体に財政支援を求めて協議に入ったが、今のところそれが進展したとする報道はない。 従って現段階ではJR北海道が提案した線区整理を実行するのか、その場合長距離特急列車にどの様に影響するのか分からず、またその様な事態になった時に航空に要求されることはあるのか見通せないが、本報告ではJR北海道の線区整理が説明通りに実行されて、長距離特急列車の運行ができなくなり、それを航空が可能な限り補完して長距離の公共交通サービスを維持すると言うシナリオを前提として進めることにする。 その様な線区と予想される航空への影響を第4表にまとめた。 これら13線区には航空とは全く無縁と見られる区間も含まれており、またすでにその線区を通過する長距離列車に対応するような航空路線が開設されているところもある。 

JR北海道の線区廃止に伴う航空路線への影響

鉄道路線

該当線区

線区区間距離

影響をうける長距離区間

航空への影響

石勝線

夕張〜新夕張

16.1km

なし

航空は関係なし

札沼線

北海道医療大学〜新十津川

47.6km

なし

航空は関係なし

日高線

鵡川〜様似

116.0km

札幌〜浦河、様似方面

利用できる空港がない

根室線

富良野〜新得

81.7km

旭川〜帯広、釧路方面

過去にHACが旭川〜釧路線を運航

留萌線

深川〜留萌

50.1km

なし

航空は関係なし

宗谷線

名寄〜稚内

183.2km

特急(札幌〜稚内)3本

ANA札幌〜稚内 2便/日

根室線

釧路〜根室

135.4km

道央〜帯広、釧路方面

ANA札幌〜中標津線 3便/日

根室線

滝川〜富良野

54.6km

道央〜帯広、釧路方面

過去にHACが旭川〜釧路線を運航

室蘭線

沼ノ端〜岩見沢

67.0km

なし

航空は関係なし

釧網線

東釧路〜網走

166.2km

釧路〜網走間

両端に空港があり路線開設可能

日高線

苫小牧〜鵡川

30.5km

札幌〜浦河、様似方面

利用できる空港がない

石北線

新旭川〜網走

234.0km

特急(札幌〜網走)2本

ANA/JAL札幌〜女満別 6便/日

富良野線

富良野〜旭川

54.8km

旭川〜帯広、釧路方面

過去にHACが旭川〜釧路線を運航

第 4  表

それで第5表にこれら13線区に対する航空の対応を四つのカテゴリーに分類したが、13線区のうちで4区間は短距離区間で航空とは無関係であり、3区間については現在既に航空サービスが提供されている。 

加えて過去に旭川〜釧路線と函館〜釧路線が開設されて居たのに、現在は廃止されている。 またこれらの線区に対応して居ないので表には記載されて居ないが、過去にエア・トランセがBeech 1900で新千歳〜帯広線及び帯広〜函館線を運行して居たこともある。 鉄道の恩恵を全く受けたことのない紋別へは、過去に札幌〜紋別線も開設されたが、2014年度からは廃止されており、現在はバス輸送だけが頼りである。

そのような経緯から見ると道内の航空ネットワークは以前より縮小されており、更に前述のように近い将来にはANAの撤退も予想される。 そこで関係地域社会が今後取り組むべき課題は、ANA撤退後の道内航空ネットワークをどのように維持するかと言うことであり、それには過去に路線が開設されて居た路線の再開や、鉄道の区間距離からして航空サービスがあっても良いと考えられる釧路〜女満別線などの新路線の開設も課題のうちであろう。 加えて今後検討が必要と見るのは、鉄道路線が廃止されそうであるが空港のない日高線地域への対応であると考えるのである。

JR北海道の線区合理化案と航空サービスの関係

区分

関係線区

線区区間

航空での対処

航空サービスは不必要

石勝線

夕張〜新夕張

不要

札沼線

北海道医療大学〜新十津川

不要

留萌線

深川〜留萌

不要

室蘭線

沼ノ端〜岩見沢

不要

利用できる空港がない

日高線

苫小牧〜鵡川〜様似

要空港建設

現在航空サービスが存在

宗谷線

名寄〜稚内

ANA札幌〜稚内 2便/日

根室線

釧路〜根室

ANA札幌〜中標津線 3便/日

石北線

新旭川〜網走

ANA/JAL札幌〜女満別 6便/日

現状インフラで航空サービス提供が可能

根室線

富良野〜新得

過去にHACが旭川〜釧路線を運航

根室線

滝川〜富良野

過去にHACが旭川〜釧路線を運航

富良野線

富良野〜旭川

過去にHACが旭川〜釧路線を運航

釧網線

東釧路〜網走

第 5  表

  • JALグループの道内路線運営に関わるJ-AirとHACの役割分担の不透明

JALグループは現在J-AirとHACの2社で道内路線を運営しているが、将来どの様な役割分担で運営するのか不明である。  前述のようにHACのATR42の注文数から推察すれば、オブション発注を確定注文に転換しなければ、HACネットワークの縮小を招くことは必至であろう。 しかし現在女満別線だけを運航しているJ-Airに需要の多い釧路線も運航させれば、ATR42、2機体制でもHACの全線ATR化が実現できる見込みがある。 但し、札幌〜釧路線の区間距離は252kmでJ-Air路線の平均区間距離622km(全地航平成30年度通常総会資料による)に対して相当短いので、更にJ-Airの道内路線を拡大するのが得策なのかJALとしては悩むところであろう。 オプション購入を行使して3機導入するとなれば、J-Air運航を現行のままでもHACは現路線の現行便数維持が可能になる。 ただ、その場合3機を導入しても総運航便数は現行のままで、使用航空機の座席数の増加分だけを期待するしかない。 要約すれば、HACのATR42のオプション注文の取り扱いにより、J-AirとHACの役割分担が変わり、JALグループの道内ネットワークの運用が変わってくる可能性がある。  

  • 予想される環境変化に対応するHACの能力不足

HACは前述の様に、ATR42-600を確定2機+オプション1機を発注しているが、オプションまで入れた3機を領収しても、基本的に現状維持しかできない。 もしオプションを行使しなければ、HACの事業規模は前述の通り現行の6割強に縮小されるので、ここにJALグループのHACの将来に対する及び腰が窺えるのである。 察するにJALは、HACを北海道内にブレゼンスを示せる最小限の規模に留めたいと考えている様に思える。 またJ-Airの道内展開にも積極性は窺えないので、もしANAが道内路線から撤退したとしても、その時にJALグループがJ-AirとHACを活用して肩代わりをする可能性は小さいと見ている。 従って、その様な事態が発生してもみすみす好機を逃すことになりかねないとも思えるが、むしろANA/JALとも道内航空市場に最早魅力を感じていないのではないかとも推量するのである。

5.道内空港の利用現況

現在北海道内には民間航空が利用できる空港が13空港存在するが、それらの空港の道内航空ネットワークに対する位置づけを一表にする。 北海道内には道内航空ネットワークに組み込まれていない空港が4空港存在する。 この内礼文空港は800m滑走路であるのでATR42級の航空機は運用できないが、その他の空港は問題ない。 旭川と帯広が道内ネットワークに組み込まれて居ないのは、両空港が札幌に近いことに原因があり、現在の道内航空ネットワークは札幌を中心としたハブ・アンド・スポーク型である。 世界的にも一時はこのスタイルは大流行したが、旅行者にすれば意図しない乗り換えを強いられていることになり、現在は直行便の運航に替わって来ている。 それは使用航空機がBoeing 747のような大型機からAirbus 330やBoeing 787のような中型機運行に比重が移っていることで、目に見えるものになっている。

道内空港の利用現況

空港

滑走路長

道内路線(運航会社)

道外路線(運航会社)

新千歳

3000m×2

稚内線(ANA)、女満別線(ANA/J-Air)、中標津線(ANA)、釧路線(ANA)、

函館線(ANA)

稚内

2200m

新千歳線(ANA)

羽田線(ANA)

釧路

2500m

新千歳線(ANA)、丘珠線(HAC)

羽田線(ANA)、羽田線(JAL)、羽田線(ADO)

関西線(APJ)

函館

3000m

新千歳線(ANA)、丘珠線(HAC)、

奥尻線(HAC)

羽田線(ANA)、羽田線(ADO)、羽田線(JAL)

中部線(ADO/ANA)、関西線(ANA/JAL)

旭川

2500m

羽田線(ADO)、羽田線(JAL)、中部線(ANA)

帯広

2500m

羽田線(ADO)、羽田線(JAL)

利尻

1800m

新千歳線(ANA)、丘珠線(HAC)

礼文

800m

奥尻

1500m

函館線(HAC)

中標津

2000m

新千歳線(ANA)

羽田線(ANA)

紋別

2000m

羽田線(ANA)

女満別

2500m

新千歳線(ANA)

羽田線(ADO)、羽田線(JAL)、中部線(ANA)

丘珠

1500m

函館線(HAC)、釧路線(HAC)

利尻線(HAC)

第 6 表

しかるに道内路線ネツトワークだけは札幌をハブとした旧来のハブ・アンド・スポーク型で、それがこれからもが続きそうな気配である。 しかし道内航空の活性化は、ハブ・アンド・スポーク型での機材大型化よりも、小型機による直行路線の開設に将来があるのではないかと思うのである。

6.北海道が取り組むべき課題

以上に述べた様に、JR北海道の線区合理化が実行されても、前掲の第5表に示したように大部分の区間では現在の航空ネットワークが維持されていれば、航空により相当部分を補完できるが、ANA/JALともに道内路線の維持に魅力を感じなくなっている可能性も懸念される。 もしJR北海道の線区合理化が実行され、ANA/JALが道内路線から撤退或いは縮小するとなれば、道内の地域間交流への影響は極めて大きいと予想される。 しかし、本当にその事態が発生することが見えてから、その対処に乗り出したのでは対応が間に合わない恐れがあるので、当所は北海道が今からその様な事態の発生を考慮して、今から道内の長距離公共交通機関の維持・整備を主導すべきと考える。 その際には、日高線沿線地域には空港がなく、道央地域への公共交通はバス輸送だけに依存せざるを得ないので、この地域への空港建設を検討すべきであろう。 

.「HACの道営交通への回帰」構想の提案

前章に述べた北海道が取り組むべき課題について、その方策として「HACの道営交通への回帰」構想を提案する。 HACは元々北海道とJASの合弁会社として創立され、その創立目的は北海道の希望する道内航空ネットワークの充実であった。 しかるにその後JALの子会社となり、JALはHACを北海道内でプレゼンスを維持できる最小限の事業規模に留めようとしていると、推察される。 ここで提起したいのは、近い将来に予想されるJR北海道の縮小とJAL/ANAの道内路線ネットワークの縮小を、地域社会が放置していて良いのかと言うことである。 これまでの経過を見てはっきりしたことは、ANA/JALとも経済性を無視してまで道内公共航空交通を維持しようとは考えていないと見られることにある。 今や、民間営利企業であるANA/JALに道内の航空ネットワークを将来も依存することは出来なくなることを認識しなければならない。 この問題を放置できない立場にあり、それに取り組まなければならないのはANA/JALではなく、北海道地域社会である。 本報告はその取り組みについての具体案を提案するものである。 

筆者が航空会社在職中に接した各地でしばしば感じられたのは、地域の自己贔屓である。 それはわが郷土は航空会社にとって魅力的な市場であって、航空会社が撤退することはない、または自主的に路線を開設してくれると言う郷土愛からの発想である。 しかしここに大きな誤解がある。 航空会社がある路線から撤退しても大きな損害が発生するわけではない。 機材や要員はもっと条件の良い別の路線に移動すれば済む。 それは過去において航空会社がずっと続けてきた手法であり、それは現在も、そして将来も有効であろう。 関係地域社会が認識していないのは、航空会社は他の地域に移転できるが、地域社会はそこから動けないと言うことである。 いくらそれが不利であっても、地域の地政学的条件から逃れられない。 昨今は路線の開設・維持には、関係地域社会も応分のリスク負担が求められている。 その実例に石川県下の能登空港がある。 ANAは東京線開設にあたり、地元から収入保証を取り付けている。 今回の場合で言えば、北海道内路線は、その市場規模からして航空会社にとって魅力のある市場ではない。 結論を言えば、大手航空会社は今や零細地方路線を運航する機材を保有して居ないか、少なくとも将来は最小限の保有に止めようとしていると見るのである。 その様な事情と道内路線の市場規模からすれば、近い将来にANAは道内路線から撤退し、JALがATR42を運用するには需要の不足する路線から撤退する可能性が生じてくる。 故に本報告が主張するのは、北海道内航空ネットワークを将来も維持、発展させようとするなら、それは北海道の地域社会自身が主導して取り組まなければならない課題であると言うことである。

8.北海道内路線の歴史

以上に述べた理由により、将来も道内航空ネットワークの維持し、更に地域の要望に応えて発展させることをANA/JALに依存することは不可能であり、もし道内ネットワークを維持・発展させようとするならば、まずHACをJALより取り戻して道営航空会社に回帰させるのが現実的な方法と思う。 この構想を進めるにあたり、過去の運航実績を第7表に整理する。  

北海道内路線路線の歴史と現状

区分

区間

使用航空機

便数/日

ATRとの交代

備考

現在のHAC路線

札幌〜利尻

Saab340B

2

札幌〜釧路

Saab340B

4

札幌〜函館

Saab340B

5

函館〜奥尻

Saab340B

1

小計

12

現在のJ-Air路線

札幌〜女満別

Embraer 170

3

現在のANA路線

札幌〜利尻

Boeing 737-500

1

季節運航

札幌〜稚内

DHC-8-Q400

2

札幌〜女満別

DHC-8-Q400

3

札幌〜中標津

DHC-8-Q400

3

札幌〜釧路

DHC-8-Q400

3

札幌〜函館

DHC-8-Q400

2

小計

15

過去に運航実績のある路線

函館〜旭川

Saab340B

2

不適

ATRには需要不足

旭川〜釧路

Saab340B

1

不適

ATRには需要不足

函館〜釧路

Saab340B

1

不適

ATRには需要不足

函館〜女満別

Saab340B

1

不適

ATRには需要不足

稚内〜礼文

DHC-6

1

不適

ATRには需要不足

稚内〜利尻

DHC-6

1

不適

ATRには需要不足

丘珠〜紋別

Saab340B

1

不適

ATRには需要不足

丘珠〜女満別

Saab340B

1

不適

ATRには需要不足

小計

9

合計

39

第 7  表

札幌側の主基地としては市内に近い丘珠空港を想定するが、現段階では新千歳と区別しないで「札幌」と表記している。 次に需要不足として廃止された路線について、どのくらいの需要があったのか確認するために、これら廃止された8路線について運行されて居た時の輸送旅客数を調査し、グラフ化したのが第4図である。 なお2004-2005年度にエアトランセが帯広関連の路線を開設しているが、いずれも短期間でデータとして活用できそうなのは2005年度の函館〜帯広線の輸送旅客数8,328人だけなので、それ故にグラフには含まれて居ない。

第 4 図

9.必要な航空機

今のところHACは将来、ATR42-600で運航できるだけの需要が見込める路線だけの運行を継続する意図と見ているが、もしJR北海道の線区合理化等を考慮して廃止路線区間も含めて、道内の長距離公共交通機関として密な航空ネットワークを構築・維持するとなれば、ATR42では大きすぎる低需要路線の存在が問題になり、それに対応するにはATR42より小型の機材も導入する必要がある。 その航空機としては現在事実上唯一の生産中の19席機、Dornier 228-200NGになろう。 ATR42の標準的座席数は48席なので、実用上の年間輸送能力は概ね25,000人/便となるが、第7表でATR42の就航が不適とされた年間需要24,000人未満の8路線には年間輸送能力が概ね10,000人/便である19席機を投入するのが適当である。 仮に1機種だけを運用するには30席級機が道内路線の市場規模からは適当なのであるが、現在生産中の新型30席級機はないので、50席級機と19席級機の組み合わせで対応する以外の方策はない。 

10.新道営HACの構想

前述の様にANAが北海道から撤退し、JR北海道の線区合理化が進行したとして、その対策として長期的にHACを拡大して道内航空ネットワークを一手に運航させることは、HACがJALグループの子会社である間は実現する可能性はない。 それでそのような方策をとるとすれば、まずHACをJALグループから離脱させて実質的に道営航空会社とする必要がある。 その形態としては、道直営、第三セクター会社として運営するやり方の他に、東京都のように純民間会社に対して使用航空機の購入を全額補助して実態的には都営航空の民間委託の様な形をとることも考えられる。 HACの場合、どのような方式が適切なのか、地域社会の意向も質さなければならないが、北海道がHACの経営主導権を持つ第三セクター会社とするのが最も現実的の様に思うのである。 それでそうなった前提で新道営HACの事業構想を進めることする。

第8表に新HACの運航する路線を掲載するが、これはHACが全面的に北海道内路線を運営する最終的な形を想定したもので、現実としてはANAのスペースジェット導入に伴って段階的に進展すると予測している。 想定需要は現在需要の2割増しを想定し、廃止路線は運用期間中の代表的年間実績を引用した。

新道営HACの運航する路線

区分

区間

想定需要(人/年)

使用航空機

便数/日

備考

現在のHAC路線

札幌〜利尻

52,000

ATR42-600

3

札幌〜釧路

205,000

ATR42-600

9

札幌〜函館

230,000

ATR42-600

5

函館〜奥尻

11,000

Dornier228-200

2

現在のANA/J-Air路線

札幌〜女満別

260,000

ATR42-600

10

現在のANA/路線

札幌〜稚内

67,000

ATR42-600

3

札幌〜中標津

130,000

ATR42-600

6

過去に運航実績のある路線

函館〜旭川

15,000

Dornier228-200

2

旭川〜釧路

9,000

Dornier228-200

1

函館〜釧路

13,000

Dornier228-200

2

函館〜女満別

11,000

Dornier228-200

1

稚内〜礼文

3,5 00

Dornier228-200

1

民生路線

稚内〜利尻

6,000

Dornier228-200

1

民生路線

丘珠〜紋別

3,000

Dornier228-200

1

民生路線

丘珠〜女満別

10,000

Dornier228-200

1

小計

ATR42-600

36

Dornier228-200

12

合計

1,013,000

運航便数

48

第 8 表

第8表に掲載した路線のうち、稚内〜礼文、稚内〜利尻及び札幌〜紋別線は予想される需要規模からは路線開設する理由はないが、辺地、離島の民生政策として開設を考慮する必要があるかもしれない。なお既存の空港を利用して航空路線として成立しそうな区間もある。 その候補としては前述の札幌〜紋別、釧路〜女満別及び函館〜帯広線をあげることにする。

開設を期待できる路線

区分

区間

備考

既存空港を利用できる路線

釧路〜女満別

鉄道区間距離161.9km、快速列車で3時間9分

札幌〜紋別

過去に運航実績あり。現在はバス輸送(5時間20分)のみ

函館〜帯広

過去に運航実績あり。2005年度で8,328人を輸送

第 9 表

以上の検討から新生HACが必要とする機材量は、開設期待路線分は除いてATR42が9機、19席機が3機必要と見積もる。  なお航空の民生政策への対応を考えると、日高地域も問題として取り上げる必要がありそうである。 日高地域には空港がないので新空港建設が必要になるが、JR北海道の日高線が災害により現在不通となっているので、その復旧状況も勘案して検討すべき問題であろう。 HACの運航主基地は、ANA/JALと直接対峙する場面を回避して、札幌中心地から新千歳空港より近く、アクセス費用も安い丘珠空港にとどまるべきである。 同空港利用では通年ジェット化は難しいが、HACは道内路線にとどまる限りターポプロップ機使用が適当であり、同空港の使用が問題になることはないと考える。

11.結論

本報告で取り上げた問題は、将来の北海道内航空ネットワークの維持と発展をANA/JALに期待しても無理だと言うことである。 ANA/JALにとっては、道内路線から撤退して問題を解決すると言う手法をとることができる。 しかし、北海道の地域社会はその場所から移動することは出来ない。 将来の北海道内航空ネットワークの維持と発展について、北海道がこの問題の直接当事者であること認識しなければならない。 その実行のためには、北海道がHACの運営に対して主導権を持つ様にするのが第一であると考える。 

今までの検討で構築する新生HACの有姿を要約する。 

  • 主運航基地;丘珠空港
  • 運航路線;15路線+検討3路線
  • 使用空港数;9空港+2空港を検討
  • 使用機種と機数;ATR42-600 9機+Dornier 228-200 3機
  • 年間輸送旅客数 ;1,013,000人

2020年3月29日からHACはATR42を就航させると報道されている。 これを好機にHACのあり方を地域社会として塾考すべきと思うのである。

以上