7−3−E DHC-8-Q400の後継機問題

                                                                                                                  2022.09.04

DHC-8-Q400の後継機問題

コミュータービジネス研究所

1.はじめに

DHC-8-Q400は、カナダのBombardier社の製造するターボプロップ式高翼の双発旅客機である。 DHC-8シリーズは39席のDHC-8-100型で始まり、エンジン出力を強化した200型、胴体を延長して56席とした300型に進み、さらに胴体を延長しエンジンを出力3,781 kwに強化して、最大客席数が78席で、巡航速度がプロペラ式旅客機としては異例とも言える667 km/hの大型高速ターボプロップ旅客機、400型に進化した。

400型は、エンジンの大型化に伴いプロペラが4翼から6翼にしてそれまでより低回転するようにし、客室内騒音振動制御システム(NVS)を装備して騒音を低下させたので、Quiet(Q)の字を付してDHC-8-Q400型と言う型式記号となった。 現在Bombardier社が生産しているDHC-8シリーズは、Q400型だけである。 

Q400型には原型であるQ400型と客室設備を改善したQ400NG型があるが、運用上は同一機として扱える。 我が国では日本エアコミューター(JAC)が11機を1997年から2018年まで運用していたが、現在はATR42/72と交代して全機退役している。 現在はANAがQ400型を13機、Q400NG型を11機の計24機を、琉球エアコミューター(RAC)が客貨混載型のQ400CC型を5機保有していて、大手航空会社が自身で運航する唯一のプロペラ機でもある。 

2.DHC-8-Q400の問題

ANAのDHC-8-Q400型(以下Q400と略す)は、1号機が2001年3月に導入され、2017年12月までに25機が納入されたが、9号機は製造時のミスで事故を起こし製造会社に返還されたので、24機が現在も運航されている。 そのQ400で懸念される問題は、機齢が20年を越すものが出てきたことである。 事例として日本航空機製造YS-11は、実に1965年から2006年まで40年も使用されたが、一般的には旅客機は20-30年間くらい使用されている事例が多い。 Q400の機体構造寿命は不詳であるが、定期航空で使用される旅客機にあっては、機体構造寿命の問題よりも、旅客の快適性の維持や時代が要求するサービスに対応するために20-30年くらいまでに交代されるのが一般的である。 それから考えると、ANAはそろそろQ400の交代を考えなければならない時期に来ている。 なおRACのQ400CCは2016年からの導入なので、当分の間この問題はない。 実は以前にANAは三菱スペースジェットを確定15機+オプション10機を発注していたので、これがQ400の後継機になると見られていた。 しかし同機は当初2014年度初めには初号機が納入される予定であったが、開発スケジュールは遅延が続いて、最終的に開発は2020年10月には凍結されてしまった。 以降ANAはQ400後継機については何の行動もとっていないように見えるので、Q400の交代計画は白紙に戻っていると推測する。 2022年4月ダイヤでQ400が運航されている路線を第1表に示すが、これらの運航便数は、CRJ700(70席)を運航するIBXエアラインズ(IBX)とBombardier DHC-8-200(39席)とQ400を運航するオリエンタルエアブリッジ(ORC)とのコードシェア便も包含している。 ANAは事業構造は複雑で、中核となっているのがANAホールデイングス株式会社であり、その下に運航会社である全日本空輸(ANA)、Q400とBoeing 737-800を運航するANAウイングス(AKX)、アジア路線を運航する株式会社エアージャパン(AJX)とLCCのバニラエア株式会社(VNL)が設立された。 なお、VNLはグループ内のLCC、Peach Aviationに吸収されて今は存在しない。 使用機は原則的にANAが保有して、AKXとAJXについては共通事業機として使用できるようになっている。 AKX及びAJXはANAのコード、NHとして運航しており、それでAKXのQ400も利用客にはANAの飛行機としか見えないので、この報告でもANAの運用する旅客機として取り扱う。 

ANA DHC-8-Q400の運航形態

Q400単独運航路線

Q400とジェット機との混用路線

区間

運航便数/日

区間

Q400運航便数/日

全運航便数/日

1

成田〜中部

3

伊丹〜福岡

1

6

2

成田〜新潟

1

成田〜仙台

1

2

3

中部〜秋田

2

成田〜中部

2

3

4

中部〜新潟

1

中部〜仙台

3

5

5

中部〜熊本

2

中部〜松山

2

3

6

伊丹〜青森

3

中部〜宮崎

2

3

7

伊丹〜秋田

3

伊丹〜仙台

1

8

8

伊丹〜高知

6

伊丹〜福島

2

4

9

福岡〜小松

4

伊丹〜新潟

2

6

10

福岡〜宮崎

6

伊丹〜松山

7

9

11

福岡〜対馬

5

伊丹〜大分

3

4

12

福岡〜福江

4

伊丹〜熊本

3

6

13

新千歳〜稚内

2

伊丹〜長崎

1

4

14

新千歳〜女満別

3

伊丹〜宮崎

3

6

15

新千歳〜中標津

3

伊丹〜鹿児島

1

6

16

新千歳〜釧路

3

新千歳〜仙台

2

8

17

新千歳〜函館

2

18

新千歳〜青森

2

19

新千歳〜秋田

2

20

新千歳〜福島

1

21

新千歳〜新潟

2

22

長崎〜対馬

4

23

長崎〜福江

2

23路線

66

16路線

36

83

第 1 表

第1表に見るように、Q400単独運航路線は23路線66便であり、その他の機種との混用運航路線16路線の36便/日の計102便/日が24機で運用されているので、DHC-8-Q400の稼働率は4.25便/日となる。 

この報告で問題提起するのは、Q400の機齢が20年を越すものが出現しており、今後高齢化が進むのは明らかなのに、三菱スペースジェットに代わる後継機をどうするのか。全く見えていないことにある。

Q400後継機を導入しないとしても、現在Q400とその他のジェット機と混用運航している16路線は、使用するその他の機材との組み合わせ変更や便数調整で対処できると考えるが、Q400単独運航路線にANAフリートのなかでQ400を次に座席数の少ない146席のA320neoを導入するしかないが、A320neoの座席数がQ400のそれのほぼ2倍であるので、現状の需要/供給のパランスを維持するには、運航便数を半減する必要がある。 しかし第1表に見るごとく、それができそうなのは、現在6便/日が運航されている伊丹〜高知線と福岡〜宮崎線の2路線だけと思う。 それ故に、もしQ400の後継機を導入しないとすれば、21路線が廃止の危機にさらされることになると予想する。

3.DHC-8-Q400後継機の必要性

DHC-8-Q400後継機が必要なのかどうかは、第一義的にはANAの問題であるが、利用者にとっても重大事である。 ANAにはフリートの底あげ大型化を図るために、Q400後継機を導入しないで、単独運航路線は原則的に廃止し、混用路線はQ400なしで済むように機材編成替えをして対処すると言う選択肢がある。 

しかし現在Q400だけで運航している路線については、もし存続させるとしたら同等の座席数を持つ現在生産中の航空機を新たに導入する必要が出てくる。 そのような航空機の候補としては、プロペラ機のATR72-600(70席)と、ジェット機ではEmbraer E170(78席)が挙げられる。 Q400後継機の導入についてANAは未だに意思決定を公表していないが、これはANAの基本的な事業戦略に関わることなので、安易に決定できないことは十分理解出来る。 しかし現実の問題として、Q400を退役させなければならない時は必ず来る。 そしてその時にANAがQ400単独運航路線を廃止することは、可能性としてはありうるのである。 現在のように事態が進行するとなれば、ANAが地方路線から撤退する方向と見られるが、当面は系列会社にそれら地方路線運航を担当させて、延命を図ることも考えられる。 現に系列会社のORCが、ANAのQ400をリースして福岡〜小松線を2往復/日、福岡〜宮崎線を5往復/日を運航している。 しかしORCは実質的に長崎県の第三セクター会社なので、北海道内路線まで運航を拡大するには問題がありそうに思う。 また、ORC運航機も含めてQ400の技術的運航支援は、ANAが行なっていると見られるので、ANAが自社のQ400の退役後も、ORCの運航が自力で継続できる可能性は低いと推測する。 そのように見れば、このやり方はQ400問題の恒久的対策にはならず、多分10年以内には、Q400の退役問題が表面化すると予想する。 現在のところ、ANAが三菱スペースジェットに代わるQ400後継機の手配をしていると言う情報はないので、そうなればANAのフリートはA320が最少座席数の航空機になり、Q400でなければ採算の取れないような路線は廃止するしかない。 運航会社は、航空法第107条の2により、運航計画の変更として路線の廃止を6ヶ月前までに国土交通大臣に届け出れば、地元の意向とは関係なく廃止ができる。 2000年の航空自由化前には、関係地元の同意が要求されたが、今はそんなことはない。 蛇足ではあるが、この報告作成のために、AKXのホームページを呼び出したのだが、今も三菱スペースジェットが導入準備中になっていた。

4.Q400退役に対する対策

ANAがDHC-8-Q400後継機を導入せず、そして低需要地方路線から撤退すると場合を考えると、地域にとっては死活問題になる場合が出てくる。 ANAがQ400の退役させるために路線廃止を法律通りに進めようとすれば、届け出た6ヶ月後には撤退できるが、関係地元等がその対策を講じるには6ヶ月ではあまりにも短期間である。 しかし、ANAがQ400後継機を導入せず、それらの路線は廃止すると今までに予告したことはない。 今までの慣例を見れば、新型機の導入について記者会見しても、ある機種の路線について後継機を導入しないから路線を廃止すると言う記者会見は前例がない。 事前にそんなことを言えば、関係地元からら抗議と路線継続の陳情が殺到するに違いない。 それ故に、Q400を退役させてその路線を廃止することになれば、多分法律上許される6ヶ月前に突然発表するのであろう。 それでも、近い将来に廃止される可能性のある路線の関係地元に今できることは、ANAの動向に注目しているしかない。 そして、ANAがQ400の後継機を導入する意図がないことが明白になったら、その対策を発動するのが唯一の方策であろう。 考えられる対策案は、既存の第三セクター地域航空会社に肩代わり運航させることで、それを第2表に示す。 

ANA DHC-8-Q400路線の地域航空会社等への移管案

Q400単独運航路線

地域航空への移管案

区間

運航便数/日

成田〜中部

3

これらの路線は、ANAの成田からの国際線のフィーダー路線と見られるので、これらの路線はANA自身で運航するより方策はないと思う。

成田〜新潟

1

中部〜秋田

2

中京地区では小牧空港からフジドリームエアラインズ(FDA)が新潟線と熊本線を開設しているので、秋田線も開設して貰い、それらとコードシェアできれば中部路線を全廃しても問題はないと考えられる。

中部〜新潟

1

中部〜熊本

2

伊丹〜青森

3

これらの路線はJALも運航しているので、JAL便をコードシェアすることで対処できる。

伊丹〜秋田

3

伊丹〜高知

6

この路線はJACに運航を移管し、それをコードシェアする。

福岡〜小松

4

これらの路線の一部は、既にORCが運航してANAがコードシェアしているので、それを拡大して全便をORC運航とし、それにコードシェアすることで解決できる。

福岡〜宮崎

6

福岡〜対馬

5

福岡〜福江

4

新千歳〜稚内

2

これら新千歳空港起点の7路線20便/日は、全便をHACに移管して、それをコードシェアすることで解決できる。 しかし、そのためにHACはATR42/72を6機程度増機する必要が出てくるが、その投資資金の調達問題がある。

新千歳〜女満別

3

新千歳〜中標津

3

新千歳〜釧路

3

新千歳〜函館

2

新千歳〜青森

2

新千歳〜秋田

2

新千歳〜福島

1

新千歳〜新潟

2

21路線

61

第 2 表

第2表にしめすように、地域航空会社に肩代わり運航させることで、障害もあるが問題解決が図れる可能性はあると思う。 第2表にあるように、北海道内と北海道〜東北地方路線はHACが、伊丹空港を基点とする路線についてはJACが既に伊丹空港に乗り入れているので、担当するのが適当と考える。 九州地区は現在すでに行われてANAとORCの提携の中で解決できそうで、ORCは今年の7月にATR42-600、1機を購入する覚書を締結しており、2023年度以降に就航する見込みなので、将来にATR42^600の導入機数の増加を期待するのである。 なお、長崎〜対馬線と福江線は、既に全便がORC運航になって、ANAがそれをコードシェアしているので第2表には記載していない。

5.この対策の問題点

しかしこの対策案にも大きな問題がある。 それはこの問題を提起し、対策を講じる旗振り役、プロモーター役を誰がやるのかと言うことである。 前述の九州地区の事例では、国土交通省が主導したものと推測しているが、本報告の案では誰がやってくれるのだろうか。 ANAもJALも現状に問題ありと考えているとは思えないので、航空会社が先導することはないと思う。  ANAは現状維持ができれば、今のところは失うものはない。 当所としても、この報告で将来に起こってくることが確実な問題として提起しているだけで、今問題があると言っているのではない。 要するにこの問題提起には、狼少年を演じていると言われても、仕方がない面がある。 そのような認識の下に、当所は、道内の関係者は将来にはそのような問題の発生を予期して、対策を講じることを警告しているのであるが、その受け皿は見つかっていない。

一つの方法として、関係地域の地方自治体が関係する地域航空会社に対する影響力を強化、行使して、Q400退役に伴う問題の解決を図ることであるが、それには当該路線が地域にとってどの程度に必要なのか、吟味しなければならない。 それは、肩代わり運航する地域航空会社の保有航空機の増加や運航支援体制の拡張などの事業体制の拡張に伴う投資を、当該地域航空会社にだけに押し付けられず、地域も財政的負担しなければならない可能性が非常に高いからである。 このような事例が鉄道にはある。 福島県会津若松から新潟県小出を接続するJR只見線である。 只見線は険しい山間を縫って走る典型的な過疎地域のローカル線である。 11年前に大雨により一部の路床が流失し、その区間はバス運行になっており、それで当所は只見線がいずれ全線がバス運行に代わると予想していた。 ところがその予想が見事に外れて、11年後の今年10月に運行が再開されることになった。 この線区は大変な豪雪地帯なので、冬季は道路が通れなくなることもあり、鉄道だけが唯一の信頼できる公共交通機関なのだそうである。 それで驚いたことには、福島県は全線の線路をJRから買収し、それを国、地元とJRが1/3ずつ負担して復旧して、JRが運行を再開することになった。 再開後の線路の維持は、福島県と関係地方自治体が負担することになっている。 

肩代わり運航方式を実現するには、当該路線を継承する地域航空会社が、必要な航空機の購入、乗員の確保などについての事業体制拡張の準備をする必要があり、それには多額の投資資金が必要になる。 前述の鉄道の事例から、廃止されるQ400路線を、関係地域の第三セクター地域航空会社に肩代わり運航させるについて、当該地域航空会社に対して地域が財政的支援を考える必要があると思う。 これからは航空会社だけの負担で、採算性の低い地方路線が維持できると考えるのは間違いである。 したがって、廃止の危機にある路線の維持については、関係地域はどこまで財政負担しても良いのか、利便性の確保と財政的負担のバランスを考えなければならない。 そしてそのためには関係地域は、当該路線の存続が地域の生活維持と将来発展のためにどれくらい重要なのか、十分吟味しなければならない。 ANAのQ400の将来動向は、これからの地方路線の存続がどうあるべきかと言う課題も投げかけてきたと考えるのである。 

さらにもう一つの問題がある。 前述のようにANAは6ヶ月の予告期間を置くだけで路線廃止ができる。

しかし、6ヶ月間と言うのは、地域航空会社が肩代わり運航の準備をするにはあまりにも短すぎる。

そこで提案したいのは、8月23日にANA、JAL、ORC、AMX及びJACの5社で締結したコードシェアによる共同運航方式の応用である。 この共同運航では、ANAはJACの鹿児島県下の路線をコードシェアし、JALはORCの九州内路線をコードシェアする。 このANA/JALのグループを越えた共同運航は、日本の航空運送義業界では画期的なことである。 それでその応用と言うのは、第2表に掲げるQ400単独運航路線23路線を対象とし、まず肩代わり運航を予定する地域航空会社が、移管予定の路線をコードシェアする。

そして、地域航空会社の準備が整い次第、当該路線の実運航をANAから地域航空会社に順次移管し、その後はANAがその路線をコードシェアするのである。 例えば、北海道内路線については、ANAの現北海道内路線をHACがコードシェアし、HACが受入れ会社としての準備が整えば、当該路線の移管を受けて運航を開始し、そしてANAがそれをコードシェアする。 この方式を取れば、ANAは北海道内路線において従来の営業ネットワークはそのままにQ400路線を廃止でき、HACは受け入れ準備期間が十分取れるようになり、その後は道内路線を一手に運航するようになる。 これはANA/JALグループ越えの提携が成立するようにならないと実現できないが、今回の九州内路線の共同運航の開始で、その可能性が出てきたと考えるのである。 中部空港の中部〜秋田線、〜新潟線と〜熊本線のうち中部〜新潟線と〜熊本線は、小牧空港からフジドリームエアライン(FDA)が運航しているので、廃止しても大きな問題はなさそうである。 これまでの検討で、Q400が後継機なしで退役する場合の対策は、関係地域が主導しなければ進まないと考えるので、関係地域の地方自治体がこの問題に対して認識を新たにすることを期待したい。 今後は本稿をもって、低需要地方路線の存続について問題提起することとしたい。

以上