7−2−B 将来の北海道内航空交通

Ref.No.2019.01                                                                       2019.01.19

将来の北海道内航空交通

コミュータービジネス研究所

  • 報告の目的

21世紀に入って早くも18年が経過したが、近い将来には北海道内の航空交通が大きく変化しそうな兆しがある。 その一つは2020年に始まると予告されているHACのATR42-600(48席)の運航開始であり、もう一つはANAのMRJ90(88席)の導入である。 HACは1999年3月の運航開始以来Saab340Bで運航しており、今回が初の使用機種の変更である。 ANAについては運航している唯一のターボプロップ機DHC-8-Q400がMRJ90と交代すると予想されるが、その時に道内路線はどうなるのかと言う問題がある。 それは現在のANAの道内路線は座席利用率が採算すれすれと見られ、より大型のMRJと交代すれば更に座席利用率が低下して採算割れとなることが予想されるが、そうなってもANAは道内路線を維持するのかと言うことにある。 そこでこの報告で2020年以降の北海道内の航空交通の姿を予測して見ることにする。

2.北海道内航空交通の現況

先ず航空交通の前提条件となる空港事情と現在の道内航空交通の運航状況を第1表にまとめる。

北海道内空港現況

空港

設置管理者

滑走路長

道内路線

備考

新千歳

国土交通大臣

3000m×2

稚内、女満別、中標津、釧路、函館

稚内

国土交通大臣

2200m

新千歳

釧路

国土交通大臣

2500m

新千歳、札幌

函館

国土交通大臣

3000m

新千歳、札幌

旭川

国土交通大臣/旭川市

2500m

帯広

国土交通大臣/帯広市

2500m

利尻

北海道

1800m

札幌、新千歳

新千歳は夏季のみ運航

礼文

北海道

800m

奥尻

北海道

1500m

函館

中標津

北海道

2000m

新千歳

紋別

北海道

2000m

女満別

北海道

2500m

新千歳

札幌(丘珠)

防衛大臣

1500m

釧路、函館

道外へは三沢線あり

第 1 表

この表に示すように旭川と帯広は札幌に比較的近いので、近年はこれら2空港からの札幌線は運航されておらず、紋別空港も需要が少ないためか道内路線は現在、運航されていない。 離島の礼文空港にはANA、HAC及びJALが800m滑走路で運航できる航空機を保有していないので、運航路線はない。 札幌以外の都市間を接続する路線は過去に開設された事例はあるが、需要規模が小さくて離島路線の函館〜奥尻線以外は全て廃止されている。 なお札幌市場圏には新千歳空港と札幌飛行場(丘珠空港)の2空港があるが、この報告では「札幌」として一つに括ることにする。 第2表に現在の定期航空の運行状況を示す。

現在の北海道内の航空の交通(2018年度)

路線

運航会社別使用機材(基準運航便数)

備考

全日本空輸(ANA)

日本航空(JAL)

北海道エアシステム(HAC)

札幌〜利尻

737-500 (1)

Saab340B (2)

ANAは季節運航

札幌〜稚内

DHC-8-Q400 (2)

札幌〜釧路

DHC-8-Q400 (2)+737-800(1)

Saab340B (3)

札幌〜中標津

DHC-8-Q400 (3)

札幌〜女満別

DHC-8-Q400 (3)

E170 (3)

札幌〜函館

DHC-8-Q400 (2)

Saab340B (6)

函館〜奥尻

Saab340B (1)

合計便数

13+1(季節運航)

3

12

第 2  表

第2表の運航による近年の路線別輸送実績を第1図に示している。

第 1 図

第2図は第1図に示した路線別輸送旅客数を累積して図示したものである。

第 2 図

3.道内路線の将来予測

第2図に見る通り女満別線、釧路線及び函館線は着実に成長しており、利尻線、稚内線、中標津線及び函館〜奥尻線は殆ど成長がないが、道内路線全体としては成長傾向にある。 北海道人口の減少傾向や地方経済の不振を考慮するといずれは頭打ちになると予想するが、今のところ成長鈍化の兆しはない。 

経験的に航空需要は国内総生産額(GDP)に比例することが分かっているが、道内路線は北海道と言う限定地域での交通であるので、県(道)内総生産額の方がより輸送需要に相関することもあると考えて、その両方についての一次回帰式Y=a+bX(Xは総生産額)で比較して見た。 

総生産額に相関する一次回帰式(Y=a+bX)

相関要素

a(定数)

b(毎年度の増加旅客数)

r (回帰式の相関係数)

国内総生産額(GDP)(兆円)

-1,219,609.353

3,624.035

0.938

県(道)内総生産額(百億円)

-1,720,437.192

129.811

0.767

第 3 表

その結果が第3表であるが、GDPの方がより相関係数が高いことが分かったので、以降需要予測はGDPとの関連で求めることにした。 GDPの数値としては2012〜2017年度は実績値を、それ以降は2005〜2017年度の平均伸び率1.29%がそのまま持続するものとして設定した。 この数字を利用して路線別に計算すると第4表の公式が得られた。 なお紋別線は現在廃止されているので以後の検討対象から除外する。

北海道内路線の回帰分析(Y=a+bX)

路線

a(定数)

b(毎年度の増加旅客数)

r (回帰式の相関係数)

備考

札幌〜女満別

-231,573.142

789.141

0.908

ANA,JAL運航

札幌〜中標津

362.947

190.566

0.888

ANA運航

札幌〜釧路

-326,994.889

911,256

0.864

ANA,HAC運航

札幌〜稚内

-95,191.256

272.306

0.915

ANA運航

札幌〜函館

-461,016.664

1,163.713

0.938

ANA,HAC運航

札幌〜利尻

-86,707.801

235.490

0.971

ANA,HAC運航

函館〜奥尻

2,432.308

15.070

0.553

HAC運航

第 4 表

各道内路線の将来を2017年度までは実績、2018年度から2024年度までを第4表に掲載した予測式で需要予測して図示すると第3図から第9図に示すような需要動向になる。 なお会社別の分析は今後競争関係のへんかが予想できないので省略した。 輸送旅客数は第4表の予測式を使用して求めたが、提供座席数は2020年以後にHACのSaab340B(36席)はATR42(48席)と交代し、ANAのDHC-8-Q400(74席)もMRJ(88席)と交代することを想定した。 それで提供座席数については現行便数のままでATR42又はMRJと一律に2020年度からの交代を想定して輸送旅客数の予測と併せて第3〜9図に示した。 図上では2017年度までが実績、2018〜2019年度は過去6年間の平均値を、2020年度以降はATR及び/又はMRJと交代するので航空機の座席増に比例して年間提供座席数も増加することを想定したものを図示している。 なおANAが釧路線と利尻線に投入している737-500/800はそのまま運航を継続しているものとしている。 

(1)札幌〜女満別線

この路線はANAとJALのダブル・トラックであり、ANAは現行のDHC-8-Q400をMRJと交代することが予想されるが、JALは既にリージョナル・ジェットのEmbraer 170(76席)を投入しており、当分の間機種交代はないと推測している。 それ故にMRJ導入による提供座席増はANA分のみを想定した。

第 3 図

第3図に見るように女満別線は需要の成長が提供座席増に追いついて行けそうである。

(2)札幌〜中標津線

第 4 図

中標津線はANAの単独運行であるが、近年の座席利用率実績が凡そ60%なので、より大型のMRJの投入によって座席利用率が低下し採算は悪化すると予測される。

  • 札幌〜釧路線

第 5 図

札幌〜釧路線は、現在はHACがSaab340Bで3便/日、ANAがQ400の2便/日に加えて166席の737-800を1便/日投入しているので、それは残すことにしてATR42、3便/日、MRJ、2便/日と737-800、1便/日の運航を想定したのが第5図である。 予測通りに進展すれば供給過剰になる可能性があり、そのANAは737-800を引っ込めてMRJの3便/日の運航にするのではないかと予想する。

  • 札幌〜稚内線

第 8 図

稚内線は、この予測では2024年度でようやく座席利用率が60%に近づくくらいなので、理屈としてはMRJを投入するのは適当ではない。 

(5)札幌〜函館線

函館線はHACとANAの両社が運航しているが、市場も大きく現在でも座席利用率は高いので、現在のペースで需要が増加するとATR42/MRJへ機種交代しても提供座席数が不足すると予測される。 それで増便のために、HACはATR42の、ANAもMRJの投入機材の増加が必要になりそうである。 また、そこまで行くとANAは737-800を投入することも考えられる。 HACはATR42導入前にも札幌〜三沢線を休止してその機材での増便や、JACから退役するSaab340Bの移管による増機も検討すべきであろう。

第 9 図

(6)札幌〜利尻線

利尻線はHACが2便/日の通年運航であるが、ANAは夏季の4ヶ月だけ126席の737-500を投入している。

ここではHACがSaab340BをATR42と交代する場合のみ想定しているが、今後の需要増加次第によってはANAが退役の進行している737-500をより大型の737-700/800と交代する可能性も出て来そうである。

第 10 図

  • 函館〜奥尻線

HACの函館〜奥尻線は典型的な離島路線であり、一定の需要はあるものの殆ど成長は期待できない。 第11図を見れば明らかなように、この路線の需要に対してATR42は大きすぎる航空機である。 理論的にはSaab340Bが退役するときに廃止すべき路線であるが、北海道の民生政策としては廃止できないので、何らかの財政支援を条件に運航が継続される可能性が高い。

第 11 図

  • 総合的評価

以上に道内7路線について将来予測を行なったが、それを座席利用率で表したのが第12図である。 損益分岐点座席利用率を60%と仮定すれば、採算が取れているのは函館線、利尻線、女満別線及び中標津線であり、釧路線は採算すれすれと見られるので、MRJとの機材交代はこれら5路線では問題ないと判定する。 

第12図では2020年度からDHC-8-Q400はMRJと、Saab340BはATR42と機種交代することにしてあるが、現在釧路線と利尻線に投入されている737はそのまま残してある。 この図の通りに需要が成長したとすると、函館線、利尻線、女満別線は増便するか、より大型の機材を投入する必要が生じてくると予想する。 HACは、道内路線の他に道外路線の札幌〜三沢線を2便/日を運航しているが2017年度の座席利用率は60.2%であり、この路線にATR42を導入すると座席利用率は45%程度に低下する可能性があるので、ATR42導入後はこの路線を運航継続するよりも、その機材量を函館線あるいは釧路線に振り向けた方が事業収支を改善できると推測する。 また函館〜奥尻線にはATR42は大きすぎるが、現実では前述の通り何らかの財政支援の手当をして路線は維持されるものと予想している。

第 12 図

ANAの稚内線もMRJを投入するには需要が不足すると見られるが、この路線を維持するに必要な機材量は凡そ0.5機と見積もられ、道内路線の機材を全面的にMRJに交代するとなれば所要機数は5機くらいになるので、その中で稚内線も運用して行ける可能性があると思う。 従ってMRJ以後の稚内線の取り扱いは、個別の路線として考えるよりも道内路線全体を維持する中での位置付けにかかっていると思料する。 

4.MRJ導入による競争力の変化

この報告で取り上げる主題は、将来HACはATR42導入により市場競争力がどの程度強化されるのか、またANAがHACの競争力強化をどう評価し、それでもANAの競争力が維持できると結論づけてMRJを持ち込むのかと言うことにある。 

第 13 図

現在ジェット機とターボプロップ機がそれぞれ3便/日を運航している札幌〜女満別線での輸送実績を見ると、第13図に示すように近年ANA:JALの市場占有率は概ね47:53で、道内路線のような比較的短距離区間ではジェット機の高速性は強力な武器とはなっていないと見られる。 現行ダイヤで見ると、ジェット機の高速性がターボプロップ機に対して特に優位に立っているようにはうかがえない。

機種別往復所要時間の比較

区間

ジェット機

ターボプロップ機

JAL E170(76席)

737-800(167席)

Saab340B(35席)

DHC-8-Q400(74席)

札幌〜女満別

90分

95分

札幌〜釧路

90分

85分

95分

第 6 表

しかるに市場占有率ではANA:JALが47:53であるのに対して、提供座席数についてはANA:JALは49:51なので、そこから類推すると4%近いジェット効果があると推測できる。 またHACとの競争条件を見ると、HACは丘珠空港、ANAは新千歳空港を利用すると言う使用空港の違いがあり、離発着時の空港内タキシング時間のためか、釧路線ではSaab340Bの方が737-800より所要時間が短いと言う結果になっている。

それに加えて空港へのアクセス条件の差があるが、丘珠空港の方が有利である。

札幌市場圏空港へのアクセス条件

空港

使用航空会社

交通機関

所要時間

運賃

丘珠空港

HAC

バス

30分

400円

新千歳空港

ANA,JAL

JR北海道

50分

1,070円

第 7 表

その条件の違いが集客にも影響していると見られ、それで釧路線と函館線に於けるANAとHACの座席利用率の差を調べて見た。 札幌〜釧路線はANAとHACも3便/日を運航し運賃も同額であるが、HACは小型機と言うイメージの低さに関わらず第14図に見るようにHACの方が高い座席利用率を獲得しており、それは丘珠空港の利便性が貢献した結果と分析する。

第 14 図

また函館線を見ると、第15図に示すようにこの路線でもHACの方がANAよりも高い座席利用率を獲得しているのが明らかであるが、HACが6便/日運航に対しANAが2便/日運航とHACの方が極めて有利な条件にあるのに対し、座席利用率の差が釧路線ほどではないのはHACの座席利用率が飽和状態にあることに起因すると考える。 結論としてHACが釧路線と函館線にATR42を投入すれば、シェアを拡大できる可能性があると推測できる。

第 15 図

一方、ANAは使用機材をジェット機であるMRJと交代したところで、女満別線の例で見るように格段と競争力が向上するとは考えられない。 まして道内路線は区間距離が最長の中標津線でも374kmでしかなく、ANA全線の平均搭乗区間距離911km(2017年度)から見れば、道内路線は極めて非効率な路線である。 

その見地からすれば、当所はANAがある程度までは採算性を度外視してでも全国ネットワークを維持しようとするのでなければ、道内路線にMRJを投入するのは必ずしも得策とは言えないと思うのである。

5.道内路線へのMRJ投入の可能性

HACのATR42導入は発注数が3機と報道されているので、基本的に現在の路線と便数はそのままで機種を入れ替えるだけと予測される。 一方、ANAは道内路線に使用しているDHC-8-Q400をMRJと交代してJALグループに対抗しようとするのか、その意図はまだ見通せない。 ANAはMRJを確定発注15機+オプション10機を発注しており、本来、これは737-500と交代するものであった。 しかるにMRJの引き渡しが大幅に遅れている間に737-500の退役は進んで、今は11機を残すのみになっている。 実際にMRJと交代できる時に737-500がどのくらい残っているのかわからないが、多分10機以下になるのであろう。 

そう考えると確定注文分のうち737-500の後継機引き当て分を取ると、Q400との交代に充当できるのは5機程度と推測される。 ANAの2019年1月ダイヤを見ると、Q400、22機で80便/日を運航しており、それは3.64便/日/機の稼働に相当する。 MRJを導入しても区間所要時間は大きくて変わることはなさそうなので、Q400と同等の稼働になると予想される。 それで確定注文分の15機の中でQ400との交代に利用できるのは5機くらいと見れば、それでは18便しか交代できない。 ANAはMRJの導入は発表したが投入路線については何も語って居ないので、現段階ではANAがMRJをもって将来も道内路線を維持するのか分かっておらず、道内路線から撤退する可能性も依然として残っていると考える。 なおQ400の後継機がMRJ以外の機種となる可能性も殆どないと思う。 737-500退役後はANAが保有する737シリーズ航空機では737-700(120席)が最小型機になるが、基本的に-700はAIRDOに移管しており、その上の737-800(166席)では大き過ぎる。 従ってもしANAが道内路線を継続しようとすれば、MRJを導入するしかないと考えられる。 ANAの道内路線の基準運航便数は現在13便/日であるが、それに本土内路線からの回航分として札幌〜仙台線と札幌〜新潟線の各1便を追加すると、道内路線関係運航便数は15便/日になり、予想されるQ400との交代に充当できる機材量とほぼ一致する。  しかし、道内路線は稚内線と中標津線以外はJALグループとダブル・トラックなので、JALグループとの競争に負ければMRJを運航するには需要が不足なる可能性が出てくるが、前述のように現在はHACに対しては多少遅れをとっていると見られる。 ANAのDHC-8-Q400がMRJ90と交代する時に、ANAが取る道内路線への取り組みとして次の三つのケースが考えられる。

  • 現行路線を全てMRJで運航する。
  • MRJを投入するのに適当な路線だけにMRJを投入して運航を継続する。
  • MRJは道内路線運航には大きすぎるので、これを機に道内路線から撤退する。

以上の三案のうち、1.案の「現行路線を全てMRJで運航する」については、第3章にて述べたように、稚内線は採算割れとなる可能性がある。 また女満別線、釧路線及び函館線は、同時期にHACがATR42を導入するので道内路線の提供座席数は一度に増加し、市場の競争環境は一時的には悪化すると予想される。故に競争による市場分割があってもどの程度の需要を確保できるかにかかっており、安心できるのは中標津線だけになりそうである。 それでもANAがJALグループと対抗するため全国ネットワークを強化しようとするならば、2.案の大型路線だけを残すのはネットワークとしての競争力が落ちるので、得策とは思えない。3.案は現段階では最も現状に即していると思われるが、この案を採用するとANAの北海道に於けるプレゼンスの低下になるのは避けられず、それはとりもなおさずANAの国内線ネットワークの充実度の低下になる。 故にANAが道内路線にMRJを導入する可能性は、全国ネットワークを維持する必要性と道内路線でのJALグループとの競争に成算があるかにかかつていると考える。 この報告ではANAのMRJ導入時期を2020年度と仮定しているが、MRJが実際に2020年度から引き渡せるのか、また引き渡し機数のペースはどのくらいなのかも分かっていないので、現実としては導入時期がもっと後になる可能性は依然として残っている。

また過去のANAのやり方を見ると、DHC-8-Q400以前はDHC-8-300で道内路線を運航していたが、この機種をまとめて運用したのは道内路線が最後であった。 そこからANAがQ400を最後まで道内路線に残すことも予想できるので、そうなれば道内路線へのMRJ導入が問題になるのは2020年度中よりもさらに数年後になろう。 その時はHACのATR42と対抗することになる。

6.JALの戦略

ANAの将来戦略が現段階では不透明であることを前述したが、JALグループについても不詳である。 JALグループはHACが丘珠空港から利尻線、釧路線、函館線、三沢線と函館〜奥尻線を、J-Airが新千歳〜女満別線を運航しており、道内路線ネットワークは2分された形になっている。 ANAは純民間企業としての運営でありJ-Airも同じ位置付けであるが、HACはJALの子会社とは言え、北海道が19.2%、札幌市も13.5%の株主なので第三セクター色を残しており、それが事業内容にも影響していると見られる。

HACは元々、日本エアシステム(JAS)が北海道と合弁で設立した道内路線運航会社で、JASがJALと合併した時に日本エアコミューター(JAC)と一緒にJALグループに編入されたものである。 現在のところJALはJACの本土内路線は基本的にJ-Airに移管し、JACを薩南諸島及び奄美諸島路線に特化するように編成替え中である。 HACについては機材の発注状況から現行路線の維持には向かっているようで、J-Air路線との統合は考えていないようである。 HACがATR42を導入するのは事業戦略からというよりも、運航支援面からではないかと推測する。 現在HACはSaab340Bの運航支援を全面的にJACに依存していると見られ、将来もその体制のままとすればJACの機種交代に追従させるしか方法がないのである。 従ってHACにATR42を投入しても基本的に現状維持となれば、JALの道内航空戦略は何をしたいのか分からない。 ANAのMRJ導入に対抗するとなれば、HACよりもJ-Airに担当させた方が有効かとも考えられるが、HACを増強して路線数も便数もANAに対抗できるようにすると言う策も考えられる。 それともそのような投資をしても将来の発展を見込めないのでANAと正面から対抗するつもりはなく、本当は撤退したいのだけれど過去の経緯からやむを得ず事業を継続していると言うことなのだろうか。 また別の視点として、ANAが全国ネットワークの充実のために道内路線から撤退しないように、JALも北海道でのプレゼンスの維持だけが目的となってきているようにも思えるのである。  そう見るとANAが道内路線から撤退しても、HACがフリートを増強してANA撤退の穴埋めをすることを期待できない可能性も出てくる。

7.総括

この報告における検討結果として北海道内航空需要は依然として成長傾向にあり、現在のところそれが頭打ちになる兆候は見出せない。 それでは道内路線の維持は全く問題ないかと言えば、必ずしもそうとは言えない。 道内路線は全国的な基準で見ればどれも小型路線であり、最大路線の女満別線ですら現在は年間21万人くらいしかなく、既存の定期航空会社にとって魅力的な路線ではない。 HACは道内路線事業だけが事業なので、それを継続する以外の方法はないが、ANAについてはMRJでより経済効率の良い運航のできる路線が多数本土内に存在する。 それでもANAがMRJをもって道内路線にとどまるとすれば、それは経済的理由よりも全国ネットワークの維持という大義名分のもとではないかと思う。 そしてANAも本報告で予測したような需要の成長を期待してMRJを導入することも考えられるが、それでもMRJは路線に対してはオーバーキャパシティの感は免れない。 万一、ANAが道内路線から撤退することになっても、HACが直ちにその穴を埋められる能力は持ち合わせていない。 法的には6ヶ月の予告期間をおけば、航空会社はいつでも路線廃止ができるので、もしANAが道内路線から6ヶ月の予告期間を置くだけで撤退したとすると、HACがその穴を直ちに埋められないので、当分の間道内の航空路線網はごく限定されたものになろう。さらに言えば前述したようにHACがフリートを拡大して、ANAが撤退した後を埋めると言う可能性は低いのではないか。 ANA/JALには会社の採算性を悪化させてまで道内路線を維持すべき理由はない。 この問題が必ず発生するとは言えないが、その可能性の存在を地元北海道は認識する必要がある。 その対策としては、第一にはHACに対する地元の影響力の強化である。 ANA/JALの企業論理に依存すれば、道内路線を維持しなければならない理由は希薄であると思う。 それでHACに対する地元の発言力を強化して、現在退役が進行中のJACのSaab340BをHACに移管して道内路線事業を拡大して、ANAの撤退以後に備えておくのが良いと考える。 その時には道民航空としての責任として、紋別線や札幌以外の都市を接続する路線の再開も検討すべき対象となると思う。 今や北海道内航空交通網の維持を、ANAとJALグループのような純商業的企業だけに依存して将来が展望できるのか、自問するときだと思うのである。

以上