7−2−@地域航空の再編

Ref.2018.06                                                                          2018.07.06

地域航空の再編

コミュータービジネス研究所

  • 報告の目的

我が国において、通称「地域航空」と呼ばれる100席以下の小型旅客機を使用する航空会社が、限定された地域内の航空交通網を運営している。 これらの会社は、既存の航空会社が商業的採算の取れる見込みなしとして参入してこなかった区間を運行するために、地域の必要性から関係地方自治体が主導して創立したいわゆる第三セクター航空会社、或いはそれに準ずる会社である。 その創立の経緯から分かるように、どの会社も採算の維持に苦心しており、関係地方自治体からの補助金に多くを依存しているのが実態である。 

これらの地域航空については国もその存続に危機感を持っており、2016年6月に「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」を立ち上げている。 そして2018年2月の中間報告で、JAC、AKX、ORC及びAMXで九州地区を営業地域として@機材共同保有組織の設立、A持株会社の設立、或いはB一社化のいずれかで運営することを検討しているが、いずれの試案も実現は困難としている。 当所としても、少しでも実現の可能性の高い地域航空存続策を研究したのが、この報告である。 

  • 日本の地域航空業界

我が国においては「地域航空」とは社会的通称であって、法的には「地域航空」なるものは存在しない。

それに相当しそうなのは、国土交通省の客席数100席以下の航空機を使用して営業する航空運送事業である「特定本邦航空機運送事業の事業以外の事業者」と言う区分であるが、「特定本邦航空機運送事業者」に含まれている実態的に同業の2社(青字で示す)も加えると、現在は第1表の11社が存在する。

特定本邦航空機運送事業の事業以外の事業者(2018年3月現在)

事業者名(コード)

基地空港

運航開始

資本金

路線数

使用機材/機材数

従業員数

新中央航空(NCA)

調布

1979.03.24

1.80億円

4

Do228-212×6

109

オリエンタルエアブリッジ(ORC)

長崎

1980.05.01

10.72億円

4

DHC-8-201×2

95

日本エアコミューター(JAC)

鹿児島

1983.12.10

3.00億円

24

Saab340B×8

DHC-8-Q400×8

ATR42-600×1

446

琉球エアコミューター(RAC)

那覇

1987.02.17

3.96億円

12

DHC-8-Q400CC×4

121

ジェイエア(J-AIR)

伊丹

1996.11.01

2.00億円

31

CRj200×4

ERJ170×17

ERJ190×8

579

ANAウイングス(AKX)

中部/伊丹

1991.04.23

0.50億円

32

DHC-8-Q400×22

1,346

東邦航空(TAL)

八丈島

1993.08.25

1.80億円

5

SikorskyS-76×2

250

北海道エアシステム(HAC)

丘珠

1998.03.28

4.90億円

6

Saab340BWT×3

87

天草エアライン(AMX)

天草

2000.03.23

4.99億円

3

ATR42-600×1

57

アイベックスエアラインズ(IBX)

仙台/伊丹

2000.08.07

42.00億円

15

CRJ700NG×9

CRJ200ER×1

339

フジドリームエアラインズ(FDA)

名古屋

2009.07.23

4.93億円

16

ERJ170×3

ERJ175×3

448

出所:全国地域航空推進協議会平成29年通常総会資料及びイカロス出版「日本の航空機2017-2018」

第 1 表

しかし、第1表に掲げる11社には、リージョナル・ジェット機を運用して全国的路線網を運行する会社から、19席機で離島区間だけを運行する会社、果てはヘリコプター運航会社まで存在する。 また実態的には地域航空或いは低需要長距離路線運航会社であるが、国の統計上はANAあるいはJALに包含されて、「特定本邦航空機運送事業の事業以外の事業者」には分類されていない航空会社、ANAグループのターボプロップ機を運航するANAウイング(AKX)、JALグループにはリージョナル・ジェット機を運航するジェイエア(J-Air)が存在する。 そのように地域航空の定義が曖昧なので、前述の国の研究会は法的取扱とは別に通称「地域航空」として括っているようである。 それで当所もそれに倣って第1表の11社の中から、「ターポプロップ機によって限定的地域内で営業している航空会社」だけを「地域航空」とみなすことにした。

それにはNCA、ORC、JAC、RAC、HAC及びAMXの6社が該当する。  なおTALはヘリコプター運航会社なので、当所の研究対象外とする。

  • 地域航空各社のプロフィール

地域航空の将来像を検討する前提となる各社の現状を紹介する。

地域航空会社6社のブロフィール

会社名

保有機材

路線数

便数/日

年間旅客数(人)

座席利用率

年間旅客収入(百万円)

HAC

Saab340B(36席)×3

6

14

189,285

67.8%

2,628

NCA

Dornier228-212(19席)×6

4

16

95,465

58.3%

1,176

ORC

DHC-8-200(39席)×2

4

12

167.509

59.1%

1,714

AMX

ATR42-600(48席)×1

3

5

57,518

53.3%

842

JAC

DHC-8-Q400(74席)×8

Saab340B(36席)×8

ATR42-600(48席)×1

24

39

1,391,862

58.9%

17,852

RAC

DHC-8-Q400CC(50席)×4

12

21

493,159

72.6%

3,813

註:路線数と便数/日は2018年4月ダイヤ、輸送実績は2016年度のもの。

第 2 表

地域航空会社6社のうちJACが別格的な事業規模であるが、残りの多くはいわば零細企業である。 なおJAC路線で大型本土内路線についてはJ-Airへの移管が進行しているので、近い将来には基本的に離島路線運行に集約されて、その事業規模はATR42、8機とATR72、1機分になると推測される。 RACは那覇〜宮古、〜新石垣及び〜久米島線はJTAと共同運航しているので、RACの提供座席数に合わせて需要をJTAと配分して、一定の市場を確保していると見られる。

  • 研究会試案の問題点

前述の国が立ち上げた「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」の中間報告によれば、JAC、ORC、AMX及びAKXを統合して九州地区を営業地域とする新航空会社を設立するのは困難としたが、それは当然である。 何故ならば、現在の日本の国内線の事業構造をまったく無視しているからである。 JALグループにもANAグループのAKXと同じ様な運用をしているJ-Airが存在するが、今回の検討からは除外されている。 AKXだけを地域航空会社の扱いとしたのはターボプロップ機を運航しているためと憶測するが、近い将来に予想されるAKXのDHC-8-Q400がリージョナル・ジェット機であるMRJ90と交代したら、AKXの取り扱いはどうなるのであろうか。 日本の国内線事業は、第3表に示す様に基本的にANAグループとJALグループに二部されていて、研究会が統合を検討した4社のうちORCとAKXはANAグループであり残るJACとAMXはJALグループに属している。  更にこのように競合関係にある会社を一社に統合しなければならない事情は、親会社であるANAとJALのどちらにもないと思う。 また地域航空各社には設立から今日に至るまでには地域との深い関係があり、地域航空会社の統合を検討するについては、地域との関係を無視することは出来ない。 研究会は試案の中で地域の意向をどのように反映しようとしているのか、中間報告では不詳である。

日本の航空運送業界の構造

路線形態

ANA系

JAL系

独立系

幹線

全日空(ANA)

日本航空(JAL)

スカイマーク(SKY)

エアドゥ(ADO)

スターフライヤー(SFJ)

主要地方路線

ソラシドエア(SNA)

日本トランスオーシャン(JTA)

低需要長距離路線

アイベックス(IBX)

ジェイエア(J-Air)

フジドリーム (FDA)

LCC

Peach(APJ)

バニラ(VNL)

ジェットスタージャパン(JJP)

エアアジアジャパン(WAJ)

春秋航空(SJO)

地域航空路線

ANAウイングス(AKX)

オリエンタルエアブリッジ(ORC)

北海道エアシステム(HAC)

日本エアコミューター(JAC)

琉球エアコミューター(RAC)

新中央航空(NCA)

註:青字は親会社と資本関係があることを示し、赤字はコードシェアの関係にあることを示す。

第 3  表

今までは各地域航空会社に対して関係地方自治体は一定の影響力が行使でき、それにより地域航空会社の運営に地域の事情を取り入れることができていると見ている。 一例を挙げると、HACは札幌以外の道内都市間路線を運航することを目的として設立され、函館〜旭川、旭川〜釧路や函館〜釧路線が運行されたことがあるが、JALグループに入った現在は、HACの札幌の拠点は新千歳空港ではなく丘珠空港であるが、主軸となる路線はANA路線と重複する函館及び釧路線である。 そして辛うじて丘珠〜利尻線の通年運行と函館〜奥尻線の運航で第三セクター会社の名目を維持していると言わざるをえない。 丘珠〜三沢線開設は札幌〜女満別線の需要をJ-Airの新千歳〜女満別線に集約するためにHACをはじき出したように見え、それにより運賃は同じだが区間運航時間が50分から60分になったので、HACの採算性は多少悪化したかもしれない。 このように統合地域航空会社になって地方自治体の影響力が低下すれば、企業の論理によって路線整理が行われる可能性は増大するに間違いない。 路線の開設や存続の意思決定は、当然企業の事業戦略に基づいて決定されると思うが、会社が赤字を理由に路線廃止を希望し、地域は存続を希望するが赤字を補填できない場合はどう裁定するのだろうか。 法律的には航空法第107条の2項により、6ヶ月前に届ければ路線廃止はできる。 路線開設が認可事項であった時代には、路線廃止には地元の同意書が要求されたが、現在の法律では路線廃止に対して地元は何の影響力も保証されていない。 前述のHACにしても、将来も離島路線を維持することは義務付けられていない。 研究会はどのように地域航空に対する地域の要望を担保しようとするのだろうか。

 

  • 地域航空の存続に関わる問題点

地域航空の持続発展を望むなら、まず現状の問題点を整理する必要がある。 第2表に掲げた地域航空機会社のうちNCAを除く5社は、第三セクター会社或いはそれに準ずる会社である。 その現状は次のとおりであって、従ってこれらの地域航空会社の再編に関係地方自治体は直接的に関与してくると予想される。 

地域航空会社の株主構成

資本金

主要株主

備考

HAC

4億9000万円

日本航空(57.2%)、北海道(19.2%)、札幌市(13.5%)

NCA

1億8000万円

川田工業(100%)

機材購入に東京都がほぼ全額補助

ORC

10億7200万円

長崎空港ビル(28.8%)、長崎県(11.0%)

AMX

4億9900万円

熊本県(53.3%)、天草島市町村(26.85%)

JAC

1億5000万円

日本航空(60%)、奄美諸島市町村(40%)

RAC

3億9600万円

日本トランスオーシャン航空(74.5%)、沖縄県(5.1%)

第 4 表

第4表に示すように、これら地域航空各社には何らかの形で地元地方自治体が関わっており、0RCとAMXは完全に地元地方自治体主導の会社であり、NCAの機材購入には東京都は殆ど満額の補助金を供与している。 このような地方自治体の関与が、地域航空会社の設立と存続を推進してきたが、反面制約ともなっている。 

それは地域航空各社の路線を見るように、大部分の路線が関係地方自治体の行政区域内にとどまって、路線網の拡大を制限している。 一方民間企業主導のケースを見れば、HACはJAL主導の経営となって、前述の札幌〜女満別、三沢線処理に見るように、地域の影響力は低下していると見ている。 

HACは日本エアシステム(JAS)の子会社として北海道との合弁で、主として道内の札幌以外の都市を直接接続する路線を運行する目的で設立されたが、JALによるJASの吸収合併によりJALの子会社になった。 

しかし現在はHAC路線も設立時の趣旨とは違ってANAと同じ様な札幌中心の路線網であり、利尻や奥尻の様な離島路線を除けばHAC不要論が出ても不思議ではない。 それで当所はJALの本音はHACの清算にあると見ており、その根拠としてJALはJACにはSaab340Bの後継機としてATR42-600を手当てしたが、HACは、現在の路線にはATR42は大きすぎることについてはDHC-8-Q400をMRJ90と交代すると、道内路線の採算性がさらに悪化するので、結果として道内路線より撤退する可能性もあると思う。 

このように、地域航空会社の経営から地元地方自治体の関与がなくなれば、地元の要望する区間や便数が確保される保証はなく、採算が取れないと見れば路線廃止もあると予想される。 歴史的に見ると過去に純民間企業として帯広〜函館線を開設したエア・トランセと福岡〜壱岐線を開設した壱岐国際航空の地域航空会社2社が設立されたことがあるが、いずれも短期間の運航で撤退してしまった。 以上に述べるように民間企業主導には地域航空にも民間企業の論理が適用されることを、地元は覚悟する必要がある。 

6.地域航空と地元地方自治体との関係

地域航空問題を語るにあたり、無視できないのはこれら地域航空各社と地域との密接な関係である。 地域航空会社はいずれも商業的採算を取ることに苦慮しており、現在も運行を維持するについて関係地方自治体からの第5表に示す様な補助金を受けている。 

地域航空各社の運行路線と関係地方自治体の出資以外の支援(2017年4月ダイヤ)

区分

会社

運行路線

地方自治体の助成

独立系

NCA

調布〜新島、調布〜大島、調布〜神津島、調布〜三宅島

離島補助(東京都)

着陸料減免(東京都)

ANAグループ

ORC

長崎〜対馬、長崎〜壱岐、長崎〜福江、福岡〜福江、

福岡〜宮崎

離島補助(長崎県)

着陸料減免(長崎県)

JALグループ

JAC

伊丹〜屋久島、福岡〜屋久島、鹿児島〜種子島、鹿児島〜屋久島、鹿児島〜奄美大島、鹿児島〜喜界島、鹿児島〜沖永良部、

鹿児島〜与論、奄美大島〜喜界島、奄美大島〜徳之島、

奄美大島〜沖永良部、奄美大島〜与論、沖永良部〜喜界島

伊丹〜但馬、伊丹〜出雲、伊丹〜隠岐、福岡〜出雲

福岡〜鹿児島、鹿児島〜松山

着陸料減免(島根県、鹿児島県)

伊丹〜但馬線には兵庫県が使用機材を提供

RAC

那覇〜奄美大島、那覇〜与論、那覇〜北大東、那覇〜南大東、

那覇〜宮古、那覇〜久米島、那覇〜与那国、宮古〜多良間、

宮古〜新石垣、新石垣〜与那国、南大東〜北大東

離島補助(沖縄県)

着陸料減免(沖縄県)

HAC

丘珠〜利尻、函館〜奥尻、丘珠〜釧路、丘珠〜函館、丘珠〜三沢

着陸料減免(北海道)

AMX

福岡〜天草、熊本〜天草、伊丹〜熊本

整備費補助(熊本県、天草市)

註:赤字は関係地方自治体の行政区域外の路線を示す。

第 5 表

また伊丹〜但馬線における兵庫県のかかわり合いのように、別の形の地方自治体の参加形態もある。 JACはこの路線の開設には難色を示していたが、それで兵庫県は但馬空港ターミナル(株)の名義でSaab340B、1機を購入してJACに運航委託する形を取った。 現在はATR42-600と交代して、JACにリースしている。 JACはこの機材を利用して伊丹〜但馬線を一日2往復運航しているが、その飛行分についてのリース料は但馬空港ターミナル(株)が負担するが、飛行機の稼働の余剰分はJACがリースする形になっている。 この仕組みで伊丹〜但馬線の運航費から機材償却分がなくなり、当該路線の採算性を向上させており、加えて余剰稼働時間はJACが有効に使うことによって、JACも利益が出せると言う巧妙な仕組みになっている。 

多額の投資を要するのでどの道府県でもできることではないが、もっと広がってよいやり方と思う。

商業的採算が取れていないことが、日本の地域航空の最大の問題点であり、国が地域航空の存続についての懸念はまさにここにあると推測する。 そして、ここに地域航空に対する矛盾する社会認識があると思う。 元々第三セクター地域航空会社は、既存の航空会社が参入するほど、或いは新規参入会社が出現するほどの魅力のない路-採算性の悪そうな区間に、地域の必要により設立、運営されている。 赤字事業となることは初めから予想されているのであるが、会社が設立後に浴びせられる社会の声の多くは、事業が黒字にならないと非難することである。 この風潮を断ち切らない限り、日本の地域航空業界の正常な発展はないと思う。

  • 第三セクター地域航空会社の評価

前述したように、日本では第三セクター地域航空会社に注がれる目は厳しい。 この問題の根源は、第三セクター地域航空事業の評価方法が適当ではないことにあると考える。 もともと補助金なしでは事業継続が難しいのが分かっているところから出発しているので、会社の決算だけを事業の成否評価の基準とすれば良い評価が出てくるわけはない。 これは大きな矛盾である。 この矛盾を解決するには適切な評価基準を設定し、社会に認知してもらう努力をしなければならない。 適切な評価基準とは、事業会計に加えて、会社の存在がいかに地域に貢献しているのかと言う項目を追加したものと考えるのである。 それらを列記する。

  • 補助金を除いた場合の会計上の決算数字
  • 地域の交通利便の向上への貢献度
  • 地域の雇用を含めての産業振興への貢献度
  • 地域の社会的知名度の向上やイメージ・アップに対する貢献度

以上の評価に対する公式は、(A+B+C)-@であるが、@以外は数字として現れないので、他の評価項目の数値化、或いは決算数字の抽象的表現を考える必要がある。 従って非常に曖昧な評価基準となるが、それを議論できる地域の気風(カルチャー)がなければ、地域航空は地域の支持を得られないと考える。

今までの地域航空関係者の努力にも拘らず、地域航空に対する社会認知、離島区間を除けば決して高いとは思えない。 しかし、これからも地域航空の存続、発展を意図するなら、まず関係地域に地域航空の社会認知度を高め、その必要性や期待を話し合える雰囲気を作ることが必要ではないかと思う。 地域航空の推進を企図するならば、地域航空に何ができ、何ができないのか、地域の生活にどう関わってくるのかなどが社会的議題になるように、努力する必要があると思うのである。 全般的に見て現在でも地域航空は離島においては高く評価されていると見ているが、それは地域社会によく見える環境で営業しているからであろう。 

それ故に内陸路線では社会的認知度を上る一層の努力を関係者は求められている。

毎年、全国地域航空システム推進協議会の年次総会を傍聴しているが、その議事は極めて低調で、いつも前年度決算と今年度予算を承認し、国への要望をまとめるだけで終わる。 地域航空への問題提起も期待の声もない。 これには地方自治体の人事が大きく関わっているのではないかと推察している。 どうも役所では2-3年程度で担当業務が変わるらしく、担当者が代わった時に前任者の成果を引き継ぐのではないらしい。 それでは担当者が代わるたびに問題への取り組みは振り出しに戻ってしまう。 もし地域が地域航空の発展や新設を望むならば、一定の成果が上がるまで担当者は代えるべきではない。 そしてそれらの活動が正当に評価されるカルチャーを地域に醸成することが肝要と考えるのである。

  • 地域航空発展のための課題

当所の考える「地域航空発展のための構想」は、国の主導する統合ではなく、地域の主体性を生かした協力関係の構築である。 どの地域航空会社と関係地方自治体は、今までも様々な困難に対して打開策を模索してきている。 それから考えると、問題解決を全国統一方式でやれるとは考えられない。 地域航空会社と関係地方自治体の一層の創意工夫は要求されるが、そこから出てきた地方だけでは解決できない問題にだけ、国が関与すべきであると思う。 機材統一なども国が旗を振らなくとも、既にATR42についてはJACの機材をAMXとの共同事業機とし、AMX機の整備運休時にはJAC機材が代行して欠航とならない様になっている。 HACのSaab340Bの運航支援についても全面的にJACの支援を受けていて、例えば整備員の一部はJACからの派遣である。 またRACのDHC-8-Q400CCについては、必要あれば同じグループのJAの技術支援を受けることは可能であろう。 

研究会の目するところは、地域航空発展のためには地域航空各社が提携することが重要であり、どのような提携が可能なのかと言うことと思う。 提携関係には使用機種の整備等の航空機維持業務について、及び空港における旅客・貨物ハンドリングの共用などが考えられる。 空港ハンドリングについて実情は把握していないが、ある空港において一方の会社が他方の空港ハンドリングの委託を受けることは一般的に行われていることである。 また前述したように地域航空会社も、NCA以外はANAまたはJALの傘の下にあり、それぞれの属している親グループのサービスを利用できていると推測する。 要するに空港ハンドリングについても、わざわざ地域航空だけの体制を構築する必要性はない。 例えばHACは丘珠空港を除きJALのサービスに依存していると見ている。 但しNCAの路線は他社の路線と完全に隔離されており、使用機材は19席機であるので、使用機材の維持と全ての空港におけるハンドリングは自前でやるより選択肢はない。 

結論を言えば、研究会が中間報告までに検討した九州地区の地域航空会社の統合による合理化は、事実上ANA/JALグループを巻き込まない達成できず、両グループには競合グループと地域航空会社の統合まで行って地域航空路線を維持する理由があるとは考えられない。 まして各地域航空会社の関係地方自治体が地域航空会社統合により自身の影響力の低下を歓迎するとは思えない。 そこで地域航空業界に提示された課題は、各社が基本的に現体制を維持したままでどこまで提携の実を上げられるかと言うことである。

そしてさらに近い将来に地域航空業界にて取り組むべき課題は二つあり、一つはHACとORCの30席級機の後継機をどうするのかと言うことであり、もう一つの問題はAKXの将来計画と大きく関わってくるが、AKXが機材をジェット化する時、地域航空にどう影響してくるのかと言うことと考える。 HACとORCが現在運航している路線は市場規模から見れば30席級機が適当であり、もし現在も生産中の唯一ターボプロップ地域航空機であるATR42では大きすぎて、現在運航している30席級機が使用できなくなれば、それらの路線の存続が危ぶまれる。

30席級機の運航路線

使用航空機

運航路線

便数

旅客数

座席利用率

ATR42利用率

備考

HAC

Saab340B(36席)

丘珠〜釧路

3

70,556

70.8%

53.1%

丘珠〜函館

6

100,955

73.0%

54.8%

丘珠〜利尻

2

18,850

69.7%

52.2%

丘珠〜三沢

2

13,319

52.1%

39.1%

函館〜奥尻

1

10,107

41.2%

30.9%

ORC

DHC-8-Q200(39席)

長崎〜対馬

3

67,246

58.7%

47.7%

長崎〜壱岐

2

29,732

56.9%

46.2%

長崎〜福江

2

31,373

40.8%

33.2%

福岡〜福江

3

38,712

70.1%

60.0%

ANAも1便運航

註:旅客数と座席利用率は2016年度実績。ATR42利用率はATR42(48席)と交代した場合の座席利用率

第 6 表

HACとORCの30席級機路線の需要規模では、ATR42(48席)ですら大きすぎる路線であることが明白である。 それでこのまま行くと、HACは会社清算の可能性が大きいと見られ、ORCはDHC-8-Q400を導入して大型路線にも進出しているので、内部補助により会社としてはこれらの路線を維持するものと予測する。

また、近い将来にAKXのDHC-8-Q400(74席)がMRJ90(標準的座席数88席)と交代する見込みがあるが、その結果機材の大型化により路線を維持するのが難しくなる低需要路線が出てくる。 その対処法のひとつとして、ANAはORCへDHC-8-Q400をリースして福岡〜宮崎線に参入させ、それ以前にはANAが6便運航していたものをANA2便、ORC4便としている。 将来的には福岡〜五島福江線の全便ORC化や福岡〜対馬線のORCへの移管も考えられる。 それで現在ANAがDHC-8-Q400を投入している路線をMRJ90で運航する場合を検討して見る。

AKXのDHC-8-Q400路線

区間

2018年4月運航便数

2015年度実績 

MRJ交代後の利用率

 

DHC-8-Q400

その他機種

旅客数

座席利用率

 

成田〜仙台

2

 

86,393

47.3%

39.8%

成田〜新潟

1

 

25,767

47.9%

40.3%

中部〜秋田

2

 

61,227

56.1%

47.2%

中部〜仙台

3

1

126,046

50.7%

 

中部〜新潟

2

 

55,294

51.1%

43.0%

中部〜松山

2

1

108,730

67.3%

 

中部〜福岡

2

5

334,438

62.4%

 

中部〜熊本

3

1

113,931

67.6%

 

中部〜宮崎

2

1

159,328

68.2%

 

中部〜鹿児島

2

2

211,286

63.0%

 

伊丹〜青森

3

 

80,912

50.7%

42.6%

伊丹〜秋田

3

 

98,864

61.6%

51.8%

伊丹〜仙台

1

4

516,871

67.7%

 

伊丹〜新潟

1

2

208,644

69.6%

 

伊丹〜高知

5

1

265,014

66.9%

 

伊丹〜松山

5

4

435,592

68.3%

 

伊丹〜大分

3

 

100,168

60.8%

51.1%

伊丹〜熊本

2

4

307,953

62.6%

 

伊丹〜宮崎

2

4

354,775

67.7%

 

伊丹〜鹿児島

2

4

372,138

57.3%

 

福岡〜新潟

1

 

99,239

53.8%

45.2%

福岡〜宮崎

2

 

96,368

58.9%

49.5%

福岡〜対馬

2

2

171,177

59.4%

 

福岡〜福江

1

 

56,723

50.5%

42.5%

新千歳〜稚内

2

 

46,258

46.7%

39.3%

新千歳〜女満別

3

 

84,452

53.5%

45.0%

新千歳〜中標津

3

 

99,406

62.7%

52.7%

新千歳〜釧路

2

1

92,302

42.0%

 

新千歳〜函館

2

 

61,740

58.2%

48.9%

新千歳〜青森

2

 

48,153

45.3%

38.1%

新千歳〜秋田

2

 

49,504

46.7%

39.3%

新千歳〜仙台

2

2

126,969

66.1%

 

新千歳〜新潟

2

 

63,138

74.3%

62.5%

第 7 表

AKXのDHC-8-Q400投入路線は34路線あるが、Boeing737系などの航空機と併用されている路線は機材交代後の提供座席数調整がやりやすいので除外し、Q400だけが運航している路線を見ると17路線ある。

これら17路線の機材をMRJ90に交代すると、第7表の「MRJ交代後利用率」欄の座席利用率に低下すると予測される。 その結果一般的に採算が取れそうな座席利用率60%を超過する路線は、新千歳〜新潟線、1路線しかない。 即ち残る16路線、34便/日からAKXが撤退する可能性があると言うことになる。 

この便数を継承するには凡そ10機が必要になるが、現在の地域航空の路線網から地域別に割り振って見たのが第8表である。 第8表のようになれば、HAC、AMX及びJACは機材としてはATR42-600を投入するのが適当と見られ、ORCについてはDHC-8-Q400になるのであろう。 しかし、この案の難点は路線の一部がANAグループからJALグループに映ることである。 ANAがこれらの路線がJALグループに移ることを嫌って、一部路線についてはIBXに現在の10機体制を増強させてコードシェア運航させることも考えられるが、その場合でも全路線を継承することは難しいと思う。 それで、全ての路線の運航を継続させるには、一部路線をJALグループに移管する必要があり、その斡旋こそ国の責務であろう。 またHACがANAの道内路線を継承できない場合は、JALはSaab340Bの経済的寿命が尽きた段階で会社を清算することと予想している。

AKXが撤退することが予想される路線の処遇予想

会社

運航を移管する路線と便数

備考

HAC

新千歳〜稚(2)、新千歳〜女満別(3)、新千歳〜中標津(3)、新千歳〜函館(2)

新千歳〜青森 (2)、新千歳〜秋田 (2)

NCA

該当なし

ORC

福岡〜宮崎(2)、福岡〜福江(1)

AMX

伊丹〜大分(3)

JAC

伊丹〜青森(3)、伊丹〜秋田(3)、中部〜秋田(2)、中部〜新潟(1)、福岡〜新潟(1)、成田〜新潟(1)、成田〜仙(2)

RAC

該当なし

第 8  表

  • 結論

当所は、地域航空会社6社は、現在の枠組みで営業を継続するのに基本的な問題はなく、現状を基盤とするのが適当と考える。 以上の検討から地域航空6社の将来の動向予測を次のように要約する。 

地域航空会社の将来動向予測

会社

予測する将来動向

HAC

現有Saab340Bの経済的寿命があるうちは、現在の運営形態を継続すると推測する。 AKXが道内路線から撤退するとなれば、ATR42を導入して道内路線を運航すると考えられるが、ANAグループが現在の道内路線網を維持するとなれば、会社が清算される可能性がある。

NCA

現在の運営形態を継続する。 なお小笠原空港が建設されれば、ATR42-600Sを導入して調布〜小笠原線を開設すると予想する。

ORC

DHC-8-Q200は経済的寿命のあるうちは、DHC-8-Q400にて参入する路線を増加して、会社の内部補助で30席級機路線も維持すると予測する。

AMX

現在の運営形態を維持する。

JAC

大型内陸路線はJ-Airに移管し、ATR42により主として離島路線を運航すると予想される。 結果として事業規模は現在の半分以下となると予測する。

RAC

現在の運営形態を維持する。

第 9 表

以上のように、問題を抱えながらも地域航空各社は今後も事業を継続できると見られる。 それでここは地域航空関係者の創意工夫に期待して、そして必要な時に国が財政支援すれば良いと思う。 離島航路についてはすでに機体購入費及び運航費への補助制度が確立しているが、これを一定の条件を満たす内陸路線も対象とすることを提案したい。 これらの路線とはいわゆる辺地路線で、例示すれば札幌〜紋別線(もし再開されれば)、伊丹〜但馬線及び天草〜熊本線などが考えられると思う。 この助成制度の拡大は、地域航空会社がAKXのDHC-8-Q400退役に伴う路線廃止への対策として必要である。 将来的には、関係地方自治体の行政区域を超える路線開設についても、一定の条件下での補助金の供与も検討課題としたい。 例えば新幹線のない区間で、地域航空を代替高速交通機関として整備するのも一案と思う。 さらに新規参入を促進するような施策も研究課題として必要かもしれない。 地域航空会社の運営には、それぞれに歴史と事情がある。 それが故に、それぞれの環境に合わせた各社と関係地域の最大限の努力と工夫に期待し、それを応援する体制を確立したいと思うのである。

以上