7−@ 「ハブ空港」の設立について

2003.11.15

「ハブ空港」の設立について

コミュータービジネス研究所 

代  表 矢 島 征  二

1.始めに

30年程前に米国で始まったハブ・アンド・スポークと言う航空会社のネットワーク運用方式は、1978年の航空輸送についての規制緩和を受けて、急速に路線数を増やしたい航空会社の一つの解決策であったと考えられます。 規制緩和による自由競争市場にあってはネットワークの規模は航空会社の競争力の主要な要素です。 ハブ・アンド・スポーク運用はすでに周知のように、ある中心となる空港-これをハブ空港と呼ぶ-に多くの路線を集中させ、そこで集客した旅客を大型機で第二のハブ空港に輸送し、そこから第二のハブ空港からの路線でそれぞれの目的地に輸送すると言うものです。 これを図示するとハブ空港を中心に路線が車輪のスポークのように配置されるので、この名があります。 ハブ・アンド・スポーク運用に対照的な運用はいわゆる直行便で、ポイント・トゥ・ポイント・サービス(point-to-point service)と呼んでいます。

このハブ・アンド・スポーク運用のメリットは、路線区間がみかけ上多く設定でき、それだけ多数の集客が期待できること、各路線の需要規模に見合う機材が使いやすく、コスト的に合理的な機材運用が可能になることが上げられます。 反面ハブ空港には一時に各路線からの便を集中させなければならないのでダイヤが硬直化する傾向があること、及びハブ空港に一時的に大量の乗り継ぎ旅客が集中するのでハブ空港には一時的に大量の航空機と旅客を取り扱う能力が要求されるのがデメリットと言えるでしょう。 

旅客にとっては、どこまでも一つの航空会社で行けると言う便利さ-これは反面もあるが-と通し運賃の設定により比較的安い運賃が可能になると言うメリットはありますが、デメリットは基本的にどこへ行くのも一回ないしは2回の乗り継ぎを覚悟しなければならず、目的地までの所要時間が長くかかると言うことがあります。 ただ、ハブ空港は特に各便が集中する時間帯は航空機も旅客も溢れかえって、いかにも空港が繁昌しているように見えるので、我が国においても各地でハブ空港待望論が発生しているのは御指摘の通りであります。

2.「ハブ空港」の定義

さて、この「ハブ空港」ですが、実は我が国においては基本的に誤って解釈されており、前述のハブ空港待望論は誤った解釈に基づいています。 「ハブ空港」とは前述のようにハブ・アンド・スポーク運用のなかにおける空港の役割を言っていることであり、それはハードとしての空港を意味するものではありません。 これは航空会社のビジネス手法のなかの用語であって、今流にハードとソフトに分けて考えれば「ハブ空港」はソフトのなかの言葉であります。

各地のハブ空港待望論は国土交通省航空局へ「ハブ空港」建設支援の要請が多く寄せられたと見られますが、これは航空会社のビジネス手法のひつとなので航空局が関与できる範囲ではありません。 また地元が勝手に「ハブ空港」を物理的に建設できるものではなく、そこを「ハブ空港」と呼べるのはそこを運用している航空会社であって、地元ではありません。 それで20025月に国土交通省は誤解をさけるために「ハブ空港」と言う用語は使わないことにし、「拠点空港」と言う用語を採用しました。 具体的に言えば、新東京国際空港は米国ノースウェスト航空にとってはアジアにおける「ハブ空港」ですが、ハードとしての空港は「拠点空港」と呼ぶのが、我が国における正しい呼び方です。

それで、今回のご依頼については、ご趣旨が東北・北海道地区に国内線と国際線が集中して運航される空港を期待されているものと理解しますが、取組むべきテーマを正しく言えば、「東北・北海道地区に国内線と国際線が集中する拠点空港を」と言うことだと思います。

国土交通省ではありませんが、用語は正しく使わないと、特に今回のテーマでは運動が誤った方向に動くことになります。 「ハブ空港」にどうしてもしたければ、運動としてはある航空会社に東北・北海道地区に「ハブ空港」を置くハブ・アンド・スポーク運用をしてくれるよう陳情する以外方法はありません。 今の段階で地元にできるのはそこまでです。 どのような「ハブ空港」にするかは、進出してくる航空会社が、開設する路線数、使用航空機、想定する航空機数や旅客数、持たせるべき機能-例えば運航統制機能や航空機整備機能の配置-などを決めてからでないと、ハードとしての空港施設をどのように整備するのか分からないのです。 ただ、航空会社が進出計画を確定したあとで地元の支援を要請してくることは考えられますが、それ以前にハード整備に動くのは先走りと言えるでしょう。

それでこれから後は「東北・北海道地区に国内線と国際線が集中する拠点空港を」と言うテーマで進めることにします。

3.「拠点空港」の構築

「東北・北海道地区に国内線と国際線が集中する拠点空港を」と言うテーマで進めるとした場合は、基本的に「拠点空港」周辺に大きな需要がなければなりません。 その点「ハブ空港」は基本的に旅客の乗り換えがやりやすければ良いので、かならずしも空港周辺の需要は必要としません。 それから、ハブ・アンド・スポーク運用と言うのは基本的に一社あるいは一グループでやることであって、複数の会社またはグループではみかけ上ハブ・アンド・スポークになっていても、それはハブ・アンド・スポーク運用とは言いません。 何故ならば、関係のない複数の会社またはグループではダイヤの接続が保証されないこと、及び通し運賃が設定されないからです。 その意味でも御提案の構想は「ハブ空港」の設置ではなく、「拠点空港」の設定として進めるべきでしょう。 しかし、「拠点空港」と言う目標でも、地元が航空会社を設立して運航するのでなければ、既存の航空会社に、それも複数の航空会社またはグループに進出を陳情して行くと言うのが普通考えられるやり方です。 それではここで「拠点空港」とするための条件を列記してみましょう。

1.          想定する「拠点空港」周辺に相当規模の市場が期待できること

2.          「拠点空港」へ国内各地からの路線が多く開設されているか、今後の開設が期待できること

3.          目標とする航空機、運航便数、旅客数等を取り扱える空港施設を有していること。 但し、この整備は計画の進展に併せて今後整備して行くことでも良い

以上について順に検討してみましょう。

(1) 「拠点空港」周辺の市場

「拠点空港」周辺の市場については、ご提案の仙台、或いは新千歳と言うのは適切な選択と言えるでしょう。 仙台空港は宮城県だけでも240万人近い人口があり、航空運送市場としては日本のうちで上位に属します。 新千歳空港は600万人近い北海道の人口をバックに持っていますので、これも有力な候補になります。

(2) 「拠点空港」への路線

「拠点空港」への路線数については両空港とも相当の整備はされていますが、仙台については以前から指摘していることですが、地元である東北地方からのアクセスが仙台空港へ直接でないのが新千歳空港に対しての決定的ともいえる弱点になります。 宮城県を除く東北地方の各県を仙台空港からの国際線の市場とみなすのは、アクセスの面と過去の実態をみれば無理があります。 従って仙台空港を目標とする「拠点空港」に整備するには、東北地方の各県をどのようにして仙台空港からの国際線の市場に組み込むのかがカギになります。 新千歳空港はすでに道内空港、東北地方の各空港及びその他の日本各地からの路線がすでに開設されており、基本的に国内線ネットワークは形成されていると見て良いでしょう。

(3) 空港施設

仙台空港、新千歳空港とも現在の使節・設備で当分は問題ないと考えています。

4.「拠点空港」の構築のための具体策

こうしてまとめてみると仙台空港も新千歳空港も国内線・国際線「拠点空港」としてすでに物理的条件は整っているように見えますが、現在までにそうなっていないのは何故でしょうか。 その最大の理由はこれらの空港発の国際線需要が決定的に不足していることにあります。

また、航空機は一般的に言って大型機=長距離機、小型機=短距離機と見て良いでしょう。 これら2空港に集まる国際線需要は各目的地別に配分すると、一路線当たりでは小さな規模の需要になってしまい、結果として大型機を利用する長距離路線は開設できないことになります。 それが20034月現在で仙台空港からの国際線は8路線、新千歳空港からは7路線で、使用されている最大航空機はDC-10及びA330であり、最長路線がホノルルに留まっている理由であると推測できます。 しかし、A320程度の国際線も増加しているのは確かで、今後はさらに小さな50-100席程度の航空機を使用した国際線の可能性も大きくなって来ています。

これらの環境を背景とすれば、今後進めるべき活動の方向について次のように考えます。

1.          目標とする「拠点空港」を決定し、地元需要の拡大を計る。 両空港は類似している条件もありますが、特に空港周辺の市場範囲については大きな違いがあります。 新千歳空港はその市場圏は確立していますが、仙台空港は東北5県をどうやったら仙台空港国際線の地元市場に入れることができるかが最大のカギとなります。 従来からも地元宮城県では仙台空港を東北地方の国際線空港にすると言う動きがありますが、他県からの旅客は勝手に仙台空港へ来るべきだと言うばかりで、他県の国際線需要が仙台空港を利用すればどんなメリットがあるのか無関心でした。 仙台空港が基本的に宮城県国際空港から脱皮できないのは、そこに原因があると思います。 故に仙台「拠点空港」が成立するためには東北5県の支持を得ることと国際線需要をどう取り込むのかにかかっています。

2.          国内線ネットワークを充実させる。 国際線についても「拠点空港」にするには地元需要に加え、国内航空路線を利用する集客ネットワークの整備が不可欠であり、この充実が国際線整備より時間的には優先します。 集客ネットワークの整備はかならずしも航空ではなく鉄道であっても良いのですが、ここでは便宜上地上交通機関での集客ネットワークは地元需要とみなすことにしています。 新千歳空港からの国内線ネットワークはほぼ完成しており、今後はいくつかの路線を補完的に開設して行けば良いのでしよう。 課題は路線数よりも国内線-国際線のダイヤ接続であり、国内線と国際線の運航会社が違う場合が多いので、ダイヤをどう接続させるかが最大の課題になりますが、この決定は航空会社の専管事項であるので相当の難関になります。 仙台空港については20034月現在で12路線であり、新千歳空港の33路線には相当見劣りがするので、この充実が先であろうと考えられます。

3.        国際線ネットワークを充実させる。 国際線の充実は手順としては最後になります。 既存の国際線に加えて開設の期待できる路線は、需要規模が比較的小さいところが主流になると予想されるので、比較的短距離の路線から手始めに誘致して行くのが現実的と考えられます。 すでに韓国、中国方面の路線は比較的充実していますが、それら方面路線のさらなる充実や新しい市場として極東ロシアなども将来的には期待が持てそうです。 加えてETOPS運航(双発機による長距離洋上飛行)の範囲が相当広くなって来ているので、それを活用したアラスカ方面やカナダ、米国の北太平洋沿岸部への路線も可能性が大きくなってくると見ております。

しかし、国内線・国際線拠点空港のかけ声をかけるのは容易いが、現実の問題としては実現の運動としては航空会社に路線開設を陳情する以外方法がないと言うか、やっていないと言うのが現状でしょう。 ここで提案されている構想を成功させるカギは国際線の誘致ではなく、国内線ネットワークの充実であり、それを活用した効果的な集客方法の確立にあります。 従って、運動の主力は国内線ネットワークの充実と、それを活用した効果的な集客方法の確立におくべきですが、それも航空会社への陳情だけで達成しようとするのは無理があります。 

それで地元が主導権のとれる運動としては地元による地域航空会社の設立がもっとも可能性があります。 すなわち、地元が地域航空会社を設立し、その会社は不足している「拠点空港」への国内線ネットワークの充実をはかり、国際線と接続できるダイヤで運航することにより集客に寄与すると言うことです。 既存の航空会社では不足する分は自分達の地域航空会社で埋めてやろうと言う発想です。 この会社は国内線ばかりでなく、その運航する航空機の性能範囲での国際線も運航するようにすれば、さらに「拠点空港」は充実したものになります。 このやり方において、まつたく新しい地域航空会社を設立しなくても、例えば新千歳空港を主基地とする北海道エアシステム株式会社は、北海道も49%参加している第三セクターなので、東北各県も乗りやすいのではないかと思います。 もちろん、北海道エアシステムの株主である日本航空と北海道が了承すればの話ですが。

5.まとめ

地元の経済的文化的活性化のために地域がいろいろな施策を模索することは非常に良いことだと思います。 それに航空が貢献することができれば、航空問題に取組むものの一人として嬉しいことです。 ただ、過去のこう言う運動の大部分に欠如しているものは、地元がその構想のなかでなにを負担するのかと言うことであります。 今まで見られた多くの場合は、航空会社はどんどん出て来て下さい、但し赤字になってもそれはそちらの問題で、地元はその波及効果だけいただきますと言われても仕方のないようなやり方でした。 

もし、ご提案の構想を実現させたければ、まず地元は何を目標とし、その達成のためになにをやるのか、どう言う負担を背負う覚悟があるのかと言うことを明白に打ち出すべきでしょう。 

その方法としては地元主導の地域航空会社はまことに適当なツールとなると確信しています。

以上