7−3−I ANA/ORCの事業戦略とQ400の行方

Ref.No.2023.04                                                                       2023.02.02

ANA/ORCの事業戦略とQ400の行方

コミュータービジネス研究所

1.はじめに

昨年の11月に、報告Ref.No.2022.11「オリエンタルエアブリッジのATR42導入」にて同社の新しい事業展開方向について検討した。 その時点では、オリエンタルエアブリッジ(ORC)は実質的に長崎県営航空なので、路線展開ではその地盤である長崎県と福岡県から片足は離せず、それ故に福岡〜小松線が限界と見ていた。 ところが、最近の業界ニュースによれば、ORCは3月からDHC-8-Q400(以下Q400と略す)で宮崎〜中部国際空港〜秋田への路線を開設するとのことである。 但し、それは全日本空輸(ANA)とのダブルトラックであり、ORCへの路線の全面移管ではないのは、どんなな意味があるのだろうか。 ANAのQ400の将来に、ORCがどのように関与するかを暗示しているのだろうか。 この状況をこの報告で検討する。

2. ANA/ORCのQ400運用現況

最初にANA/ORCのQ400の運用現況を第1表に示すことにする。 なおORCは、主に長崎県内の離島路線を運航する目的で、1961年に第三セクター航空会社して設立された長崎航空の後身である。

ANAグループDHC-8-Q400運航路線(2022年4月ダイヤ)

Q400単独運航路線

他機種との混用路線

ORC Q400路線

備考

 

区間

便数/日

区間

Q400便 /日

便数/日

区間

便数/日

ダブルトラック

1

成田〜新潟

1

伊丹〜福岡

1

5

福岡〜
小松

2

ANA

2

中部〜秋田

2

成田〜仙台

1

2

福岡〜
宮崎

5

ANA

3

中部〜新潟

1

成田〜中部

2

3

福岡〜
対馬

2

ANA

4

中部〜松山

2

中部〜宮崎

2

3

福岡〜
福江

2

ANA

5

中部〜熊本

3

中部〜仙台

3

5

長崎〜
対馬

1

6

伊丹〜青森

3

伊丹〜仙台

1

8

長崎〜
福江

1

7

伊丹〜秋田

3

伊丹〜福島

2

2

8

伊丹〜高知

6

伊丹〜新潟

2

6

9

福岡〜小松*

2

伊丹〜松山

7

9

10

福岡〜宮崎*

1

伊丹〜大分

3

4

11

福岡〜福江*

1

伊丹〜熊本

3

6

12

福岡〜対馬*

3

伊丹〜長崎

1

4

13

新千歳〜稚内

2

伊丹〜宮崎

3

6

14

新千歳〜女満別

3

伊丹〜鹿児島

1

6

15

新千歳〜中標津

3

新千歳〜仙台

2

6

16

新千歳〜釧路

3

17

新千歳〜函館

2

18

新千歳〜青森

2

19

新千歳〜秋田

2

20

新千歳〜福島

1

21

新千歳〜新潟

2


合計便数

48

27

77

13


推定稼働機数

13

7

4

註:*マークのついた路線はANAとORCのダブルトラック路線を示している。

第 1表

第1表に示すように、2022年4月現在42路線88便/日を24機のQ400で運用しており、そのうち4機分をORCが運用していると見られる。 但し、ANAは特定の機体をORCにリースするのではなく、外見上もANA塗装のまま共通事業機として指定し、ORC便のみORC路線をORCの乗員により運航する形をとっているので、ORCのQ400事業の規模は見えにくく、それで第1表の稼働機数は当所の推定である。 

また福岡〜小松線、福岡〜宮崎線、福岡〜福江線及び福岡〜対馬線は、ANAとORCのダブルトラックとなっている。 2022年4月ダイヤを調べると、ORCの夜間駐機基地は福岡に3機と長崎に1機なので、これからORCが管理しているQ400は4機と推測した。 福岡の3機の初便は、宮崎行き、対馬行き及び福江行きであり、長崎の1機の初便は対馬行きである。 ORCはQ400とは別にATR42-600、2機を導入中であるが、これらの機体は長崎〜対馬線、長崎〜壱岐線及び長崎〜福江線の離島路線を運航しているDHC-8-Q200と交代するもので、Q400の動きとは関係ない。 

3.ORC路線の拡張の理由

当所は以前にはこれからANAは順次Q400のORCへの移管を進めて、近い将来にはQ400運用から手を引く方向と見ていた。 しかし、2017年10月から2023年4月までの5年7ヶ月間に、6路線13便を運行する4機分しかORCに移管されていない。 そして今回の発表によれば、今年の3月から中部〜宮崎線と中部〜秋田線にORCが参入するが、このORCの参入は路線全体を移管されるのではなく、ANAが2便/日を運航している秋田線を、ANAとORCがそれぞれ1便/日を運行するように分け合い、中部〜宮崎線は冬ダイヤでは1便/日なのでORCは通年運行するが、ANA便を期間運休するとしている。 これでORCのQ400運行がほぼ1機分増加すると見られるが、これらの路線がANAとORCのダブルトラックとなっている理由の説明はない。 この2路線が選択されたのは、いずれもANAグループの単独運行路線であり、中部〜宮崎線は中部国際空港への回航経路として設定し、ここを足がかりにORC路線を北方に延伸しようとしていることも考えられるが、単にこれまで小松までであったORCの運用地域を広げただけなのかも知れない。 ANA Q400のORC運用の拡大の主たる目的は、ANAがORCに路線を移管することによって浮いてくるリソースを、国際線事業に向けようとすることと推測するが、ORCの運用地域を拡げたのは、そうしなければORCの運行を増やせないからかも知れない。 これまで当所はORCが実質的に長崎県営航空会社である故に、その地盤である長崎県と福岡県から離れた路線には参入しないと推測していたが、今回開設する中部〜秋田線はそうではない。 今回の措置の考えられる理由は、ORCが経営状態を改善するために、収益性の良い路線に参入することを希望し、ANAはORCをANAグループに抱え込むために、ANA路線の一部の移管を進めている可能性はある。 更にANAのQ400路線のORCへの移管の目的は、リソース利用の合理化だけでなく、グループの事業構造の再編成も狙っていることも推測できる。  第2表にANAと日本航空(JAL)グループの路線網運営の構図を示すが、JALグループの国内線網は、JAL本体の運営する路線網の下に子会社のジェイエア(J-Air)、北海道エアシステム(HAC)と日本エアコミュター(JAC)に加えて、コードシェアによるフジドリームエアラインズ(FDA)と天草エアライン(AMX)の5社による100席以下の小型機路線網の二重構造になっている。 それに対し、ANAグループでは100席以下の航空機ではアイベックス(IBX)がANAとのコードシェアによりANA運航路線を補完して運行しており、それは小型機の路線網ではなく、ANA本体と同じ路線網の運行に組み込まれている。 そしてORCがコードシェアで運航している路線以外は、実質的にANAと一体であるANAウイング(ADK)がQ400をもって運営している。 実態的にANAは自身が74席のQ400まで抱え込んでおり、ORCの路線網は原則的に長崎県下と福岡県下に限られているので、全体的に見ればANAはQ400を最小型機材とする一層構造である。 それでANAも事業構造を二層構造にしようとしているとの見方もできるが、その場合は一挙にやらなければ効果が少ないので、現在の進め方からすれば、その目的とするところはリソース利用の合理化が主目的であるように見える。 

ANA/JALの事業構造(2022年7月現在)

ANAグループ

JALグループ

座席数区分

運航会社

運用機種(機数)

運航会社

運用機種(機数)

400席以上

ANA

Boeing 777-200(3)

300〜
399席

ANA

Boeing 787-8(11)

Boeing 787-9(4)

JAL

Airbus A350-900(16)

200〜
299席

ANA

Boeing 767-300ER(9)

JAL

Boeing 787-8(4)

JAL

Boeing 767-300ER26)

100〜
199席

ANA

Boeing 737-800(30)

JAL

Boeing 737-800(35)

ANA

Airbus A321-200(4)

Airbus A321-200N(22)

ANA

Airbus A320-200N(11)

50〜99

ANAウイングス

(ADK)

DHC-8-Q400(13)

DHC-8-Q400NG(11)

J-Air

Embraer 170(18)

Embraer 190(14)

ORC

DHC-8-Q400(ANAと共通事業機)

FDA

Embraer 170(3)

Embraer 175(13)

IBEX

CRJ700 NextGen(10)

JAC

ATR72-600(2)

50席未満

ORC

ATR42-600(2)

HAC

ATR42-600(3)

ORC

DHC-8-200(3)(但し退役進行中)

JAC

ATR42-600(9)

AMX

ATR42-600(1)

註:赤字は非子会社であることを示している。 機数については一部推定を含む。

第 2  表

第2表に見られるように、ANAグループは100席未満の機種を使用する路線では、ADK、IBX及びORCの3社で39機を運用しているが、JALグループはJ-Air、HAC、JAC、FDA及びAMXの5社で63機を運用する。 なおIBXが現在CRJ700 NextGenを10機運行しているが、IBXは(株)日本デジタル研究所をはじめとする投資家が投資目的で設立した会社であり、現在以上に事業規模を拡張する意図はないと見られ、IBEXを小型機使用分野の拡張には利用できないと推測する。

4.ANAグループの問題点

第2表に見られるように、ANAは小型機を使用する比較的小規模の地方路線市場でJALグループに遅れをとっているのは明白である。 加えてANAグループはQ400を運用するADKの運営をANA本体と一体化しており、それが運航コストを押し上げている可能性がある。 それでANAもQ400の運用をORCに移転してコスト・ダウンを図ろうとしているのではないかと推察するのである。 けれども、ORCが実質的に長崎県営航空会社であるので、もし無条件にANA路線をORCに移管し、その結果ORCの事業収支が悪化するようになれば、ANAは当該路線の赤字を長崎県に転嫁すると取られかねない構図となる可能性がある。 その視点から見れば、中部〜宮崎線と中部〜秋田線はANAグループの独占路線であり、ORCの参入に際してANA便を減便すると発表しており、これらの路線はANAが開拓してきた市場をそのままORCと分割できて、ORCへの赤字転嫁にはならないと見られる。

5.将来展開の予想

ANAからORCへの路線移管の進行のペースが遅いことについて、ANAは何も発表していない。 もしかすると長崎県側のORCへの移管条件の厳しさの他に、問題が大き過ぎていまだに方針設定ができていない可能性もある。 今回ANAが進めている路線再編成の条件は、次のように要約できると考えられる。

1.  ANAグループの単独運航路線であること。

2.  ANAとORCがダブルトラック運航できるように2便/日以上運航していること。

3.  将来、さらに路線を接続して延伸できる可能性があること。

宮崎〜中部〜秋田線の想定ダイヤは、現行ダイヤをなぞるとすると、福岡発1225発、宮崎 1310着/1355発、中部 1545着/1545発、秋田着1705で、ここで折り返し便となっている。 今回発表したANA/ORCの協同運航の仕組みを適用できる路線はあるのか調査したが、現行ダイヤの中にはそのような路線の組み合わせができる便は発見できなかった。 現段階ではORCが北海道にまで路線を延伸するのか分からないが、少なくとも足がかりは残したと見られる。

6.ANA/ORC路線の再編成

ANA/ORCともに今後どのように進展するのか何も発表していないので、ANA Q400路線のORCへの移管は遅々としている理由について、当所の予想を述べることにしたい。 Q400路線の将来計画については三通りの選択肢があると考えられるが、いまだにその進路が定まっていないように見える。

1.  ANAは、当面Q400路線は継続運行することとし、一部の路線についてはORCに運行させる。

2.  Q400路線でジェット化するほうが適当な路線には、リージョナル・ジェットを導入して交代し、ORCの運用Q400と併せて、原則的に現行Q400路線を維持する。

3.  ADKの運用する高齢化したQ400を、新造ターボプロップ機と交代して、ORCの運用するQ400と併せて、原則的に現行Q400路線を維持する。

しかし、今までリージョナル・ジェットも新造ターボプロップ機を発注する行動は取っていないので、選択肢としては上掲の第一案を取ることしか残っていないが、まだANAはQ400の将来計画を決めかねていると思う。 多分、第一案のANAは小型機を使用する市場から撤退して大型機路線に集中し、現行Q400路線は原則的にORCに移管したい考えはあるものの、長崎県営航空であるORCには黒字路線しか移管できそうになく、どのくらい路線を移管できるのか、見通せないからではないのかと推察する。 しかし、Q400、24機の輸送能力は相当に大きくANAの事業の大きな部分を占めており、Q400を退役させるとしたらどのようにその埋め合わせが出来るのか、見通せないまま現在のANA/ORCによる連携運用の形となっていると推察するのである。 以前は三菱スペースジェットを大量発注していたので、これがQ400の後継機となると予想されていた。 ところが三菱スペースジェットの開発が中止されてQ400/三菱スペースジェットの交代計画は白紙となり、現在に至ってもQ400の将来の見通しがつけられていないと見るのである。 それでもORCへのQ400路線と機材の移管が進行しているところを見ると、当面ORCのQ400運用を可能な範囲で拡大しながら、環境の変化を見守っているのではないかと思う。 

6.総括

以上のように検討して行くと、Q400事業だけを考えるとそれなりの合理化が考えられるが、ANAグループとしての営業戦略の中でQ400の占める地位によっては、Q400をどう利用すべきか、別の考え方もできると思う。 その中には24機のQ400を当分使用すると言う考えもあるのかもしれない。 またJALグループに倣って小型機使用の市場への取り組みをもっと拡張することも必要かも知れない。 少なくとも小型機使用の市場への取り組みを強化しないと、JALグループに遅れをとることは間違いないと思う。 そう考えると、Q400の将来はまだ決められないととしても、当面はORCとの提携を強化して小型機使用の市場を確保しておきたいとするのが正解のような気がする。 当所としてはこの問題に継続して注目して行くことにしたい。

以上