被団協新聞

非核水夫の海上通信【2021年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2021年12月 被団協新聞12月号

先制不使用 日本が反対、なぜ?

 米国が検討する核の先制不使用宣言に日本が反対している。松野官房長官は、先制不使用宣言は「すべての国が検証可能な形で行わなければ有意義でない」という。
 だが岸田首相は外相時代の14年、長崎で「核兵器の役割低減」が重要だと演説し、核兵器使用は「少なくとも自衛の極限状況に限定する」と宣言をすべきだと述べ、核保有国は宣言と合致するよう「核の配備態勢を見直す」べきだとした。岸田首相は今この考え方に立ち、核の先制不使用宣言を促し、それを裏付ける配備態勢見直しを求めればよいではないか。なぜ今拒否するのか。
 なおそのときの岸田演説には「核使用を容認するのか」との批判が出て、政府は事後に釈明した。先制不使用は報復攻撃を奨励するものではなく、核使用の可能性を減らし最終的にゼロにするための一歩なのだ。

2021年11月 被団協新聞11月号

ノルウェー 政権交代で核軍縮へ

 10月、ノルウェーの新政権が発足した。労働党と中央党の新政権は、核兵器の非人道性に注目しNATO内外の国々と共に核軍縮に取り組むこと、核兵器禁止条約締約国会議にはオブザーバー参加することを表明。締約国会議への参加表明はNATO加盟国としては初である。
 新首相に就任した労働党のストーレ党首は、2013年にノルウェーが核兵器の人道イニシアティブを始動させたときの立役者だ。だが同年秋の選挙で政権が交代し、ノルウェーはその後の禁止条約制定過程で中心的な役割を果たせなかった。8年ぶりの政権交代で指導力の復活が期待される。
 同じくNATO加盟国であるドイツやベルギーでもこれに続く動きがあるだろう。米国の核の傘下にあるといわれてきた国の中で動きが始まったことで、日本がどうするのかが改めて問われる。

2021年10月 被団協新聞10月号

軍事企業 シンクタンクに出資

 8月9日、ペリー元国防長官など米国の元高官・専門家らが、バイデン政権が検討している核の先制不使用政策に日本が反対しないよう求める書簡を菅首相および与野党党首に送った。書簡は、日本はオバマ政権が先制不使用政策を採択するのに反対し、今も国会答弁等で同政策に反対を表明している、核廃絶を掲げる日本が「この小さな、しかし重要な一歩」に反対するのは悲劇的だと批判している。
 さらに、先制不使用政策をとると抑止力の「弱体化」をおそれた日本が核武装する恐れがあるとの強い懸念が米国内にあるという。なんと不名誉なことか。
 バイデン政権の核政策見直しは来年1月、NPT再検討会議の頃までに完了する見込みだ。政府は、日本の非核三原則は不変であり、米国の先制不使用政策はNPT合意にも沿うもので歓迎する旨、明確に発信すべきだ。

2021年9月 被団協新聞9月号

先制不使用 反対するのは悲劇的

 8月9日、ペリー元国防長官など米国の元高官・専門家らが、バイデン政権が検討している核の先制不使用政策に日本が反対しないよう求める書簡を菅首相および与野党党首に送った。書簡は、日本はオバマ政権が先制不使用政策を採択するのに反対し、今も国会答弁等で同政策に反対を表明している、核廃絶を掲げる日本が「この小さな、しかし重要な一歩」に反対するのは悲劇的だと批判している。
 さらに、先制不使用政策をとると抑止力の「弱体化」をおそれた日本が核武装する恐れがあるとの強い懸念が米国内にあるという。なんと不名誉なことか。
 バイデン政権の核政策見直しは来年1月、NPT再検討会議の頃までに完了する見込みだ。政府は、日本の非核三原則は不変であり、米国の先制不使用政策はNPT合意にも沿うもので歓迎する旨、明確に発信すべきだ。

2021年8月 被団協新聞8月号

核兵器支出 コロナ禍でも8兆円

 昨年、世界の核保有国による核兵器への支出総額は726億ドル(約8兆円)だった。ICANの報告書によるものだ。米国374億ドル、中国101億ドル、ロシア80億ドルと続く。世界の総額は前年より14億ドル増え、1分あたり1500万円の計算だ。新型コロナが拡大しても、安全保障の支出見直しは起きていない。昨年の世界の軍事費総額も前年比2・6%増の2兆ドル(214兆円)で過去最大を記録した。
 報告書はまた、昨年11の企業が核兵器に関わる契約を行ない277億ドルの利益を上げたこと、これらの企業が1億ドル以上でロビイストを雇い、安全保障系のシンクタンクに1000万ドルもの資金提供をしていることを明らかにした。核兵器を製造している企業が「核兵器が必要だ」とする政策の決定にお金をかけて働きかけをしているのである。

2021年7月 被団協新聞7月号

濃縮と再処理 核兵器開発に直結

 ウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理は、核兵器開発に直結しうる「機微」な技術と呼ばれる。原発の燃料は低濃縮ウランだが、高濃縮ウランは核兵器の材料となりうる。また使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムは、やはり核兵器の材料になりうる。
 1992年に韓国と北朝鮮が出した非核化共同宣言は、両国が「濃縮も再処理もしない」と約束していた。
 一方、日本は濃縮も再処理も行なっている。使用済み燃料を全量再処理する政策で、現在45トンものプルトニウムを有している。核兵器約8千発に相当する量だ。そんな日本を見て、韓国では自分たちも同様の権利を持ちたいとの声が上がっている。これは朝鮮半島非核化への妨げとなる。日本が率先して核兵器の材料となりうる物質を作るのを止め、それを地域全体の合意にしていくべきだ。

2021年6月 被団協新聞6月号

日本の抵抗 ああ言えばこう言う

 この間、ペリー元国防長官やカントリーマン元国務次官補が、米国が核兵器の先制不使用政策をとろうとしたが日本の反対で実現しなかったと証言した。4月、この問題を国会で問われた茂木外相は、先制不使用は「すべての核兵器国が検証可能な形で同時に」行なわなければ機能せず、検証もできない宣言で「わが国の安全保障に万全を期すことは困難」と述べた。核の先制使用はやめようという提案に対して相手が先制不使用を宣言しても信用できませんと返している。話のすり替えだ。
 核兵器禁止条約に対して政府は「そのような包括的な合意は時期尚早だ。一歩一歩進むべきだ」と言ってきた。では先制不使用という一歩を踏み出してはどうかと言われると「包括的な合意がないから無理だ」という。ああ言えばこう言う。そもそも核兵器をなくす気があるのか。

2021年5月 被団協新聞5月号

共同声明 アメリカの「核」を再認識

 4月、菅・バイデン両首脳の初の共同声明では、米国による「核を含むあらゆる種類の米国の能力」を用いた日本防衛への「揺るぎない支持」が表明された。2017年の安倍・トランプ両首脳の初声明も「核」を明示していたが、それが再確認された形だ。3月の日米安保協議委員会(2+2)で合意された「拡大抑止の強化」が踏襲されている。
 今回の共同声明は「台湾海峡」に言及するなど、中国と対峙する姿勢を鮮明に打ち出した。報道は米中新冷戦だとばかりの過熱ぶりだ。人権、民主主義、法の支配などの価値の共有が叫ばれているが、「平和」もまた基本的価値であるのを忘れてはならない。国連憲章の紛争の平和的解決の原則、日本国憲法の平和主義。核兵器についてはNPT第6条の下で米中共に核軍縮義務を負っている。まちがっても軍備競争に陥ってはならない。

2021年4月 被団協新聞4月号

イギリス 驚くべき方向転換

 英ジョンソン政権は3月、新しい外交安保政策で、保有核弾頭数の上限引き上げを発表した。同国は昨年6月現在195発の核弾頭を持っている。これを20年代半ばまでに180発以下にすると公約してきたが、これを撤回し、保有上限を260発にするという。4割以上の引き上げだ。イギリスはこれまで5核兵器国の中ではもっとも誠実に核軍縮に取り組んできただけに、驚くべき方針転換である。
 脅威として名指しされたロシアや中国が反発して同様の行動を取れば、世界規模で核軍拡競争を助長しかねない。グテーレス国連事務総長も憂慮を表明している。NPT第6条の核軍縮義務や過去の再検討会議合意に違反していることは明らかであり、8月のNPT再検討会議でどう説明するのかが注目される。日本政府はきちんと憂慮を伝達し説明を求めるべきだ。

2021年3月 被団協新聞3月号

女性の参加 軍縮とジェンダー

 軍縮にジェンダー(社会的な性)の視点を取り入れる動きが広がっている。2000年国連安保理の、国際平和活動への女性の完全参加を求める決議がその原点だ。近年ではNPT会議でもジェンダーと軍縮が論じられている。
 論点の一つは紛争や武器により女性に偏った被害が出ていることだ。直接的な性暴力はもちろん社会的影響もある。核兵器の場合には女性が放射線の影響を特に受けやすいという問題がある。
 もう一つの論点は軍縮議論への女性の参加促進である。各国政府代表団の男女構成は、今や評価の対象だ。男性だけの代表団や委員会、パネル討論などは忌避されている。
 軍事力を「強い」優れたものとみなす価値観は、いわゆる「男らしさ・女らしさ」の固定観念と通じる。男女平等参画を通じて、そうした固定観念を打破する必要がある。

2021年2月 被団協新聞2月号

核の先制使用 日本のために使ってほしい?

 産経新聞によれば菅首相はバイデン大統領との初会談での共同声明に「米国の核で日本の防衛にあたること」の明記を求めるという。2017年の安倍トランプ初声明で米国が日本を核を用いて防衛することが明記されたが、これは1975年の三木フォード会談以来のことだった。この再確認を日本が求める理由として、政府内に「オバマ政権の再来を懸念する声」があるという。バイデン氏が副大統領をつとめたオバマ政権では核の先制不使用が検討された。そうなれば「中国や北朝鮮は米国の核攻撃を警戒せず、通常兵器で周辺国を攻撃できる」。だから日本のために核を、いざとなれば先に使ってほしいというわけだ。
 核兵器禁止条約により違法化された核の使用を、あろうことか日本政府が要請している。これが民意であるはずはない。国会は政府を厳に質すべきだ。

2021年1月 被団協新聞1月号

条約発効 国際法で禁じられる核兵器

 核兵器禁止条約は1月22日に発効する。原爆投下から75年を経てついに核兵器が違法化された。核兵器の終わりの始まりである。
 保有国が加わらないからこの条約には実効性がないというのは誤りだ。対人地雷やクラスター弾は禁止条約が作られたことで生産も取引も使用も激減した。条約に加わらない国も使用を止めるなど事実上の行動変容が起きた。国際法で禁じられた兵器の製造に銀行は投資を止めるので生産の継続は困難になる。こうした効果が核兵器にも期待される。核兵器は使えない兵器となり、その維持は経済的負担でありリスクともなる。賢明な指導者なら核兵器によらない安全保障を構想するだろう。
 日本政府はいまだに核兵器の他国への使用を前提とした政策をとっている。これを転換し日本を条約に加入させることが私たちの最大の課題である。