ユークリッド空間Rn上の直交変換

・定義:直交変換 
・性質:直交変換の行列表示/直交変換による正規直交基底の像 

計量ベクトル空間上で定義される〈一次写像の下位類型〉: ユークリッド空間Rn上の対称変換/計量実ベクトル空間上の対称変換/計量実ベクトル空間上の随伴写像/計量同型写像
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定義:ユークリッド空間Rn上の直交変換 symmetric transformation


定義


・「
n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」とは、
 
線形変換f : RnRn』の前後で内積が変わらないということ、
 すなわち、   
 
n次元ユークリッド空間Rn属す任意のn次元数ベクトル v1, v2にたいして、
   
v1v2 = f (v1 ) f (v2 )  
 が満たされること
  
v1Rn)(v2Rn)( v1v2 = f (v1 ) f (v2 )  
 をいう。
 

[文献]
・佐武『線形代数学』V§7定理11(p.124);
・斎藤『線形代数入門4章§6(p.125)
・永田『理系のための線形代数の基礎4.53(pp.123-4)

一般化:計量同型写像 

設定

なお、この定義がなされる舞台は、以下のように設定されている。
R 実数体R  
Rnn次元数ベクトル空間 
v1, v2n次元数ベクトル
   具体的に書くと、v11, v12, , v1nRとして、v1=( v11, v12, , v1n )n  
           
v21, v22, , v2nRとして、v2=( v21, v22, , v2n )n  
v1v2n次元数ベクトルv1,v2自然な内積
     これによって、
n計量実ベクトル空間となる。 
v‖:計量実ベクトル空間Rnにおけるユークリッドノルム
           (
自然な内積を用いて定義される) 
d (v1,v2)ユークリッドノルムから定められたユークリッド距離  
Rn,d):n次元ユークリッド空間  

[トピック一覧:直交変換]
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定理:ユークリッド空間Rn上の直交変換の行列表現 


定理


1.
次の二つの命題は同値
命題
P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
命題
Q:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』」の標準基底に関する表現行列が、
     
直交行列

2.
次の二つの命題は同値
命題
P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
命題
R:任意のn次元ユークリッド空間Rn正規直交基底に関する線形変換fの行列表示は、
      
直交行列
  

[文献]
・佐武『線形代数学』V§7定理11(pp.122-124):証明つき;
・斎藤『線形代数入門2章§6 [6.4'] (p.65);4章§6[6.6](p.125)
・永田『理系のための線形代数の基礎4.53(pp.123-4)

 

直交行列
   

設定

なお、この定理は、以下の舞台設定上で得られる。
R 実数体R  
Rnn次元数ベクトル空間 
v1, v2n次元数ベクトル縦ベクトル
   具体的に書くと、
v11, v12, , v1nRとして、v1=t( v11, v12, , v1n )n  
           
v21, v22, , v2nRとして、v2=t( v21, v22, , v2n )n  
v1v2n次元数ベクトルv1,v2自然な内積
     これによって、
n計量実ベクトル空間となる。 
v‖:計量実ベクトル空間Rnにおけるユークリッドノルム
           (
自然な内積を用いて定義される) 
d (v1,v2)ユークリッドノルムから定められたユークリッド距離  
Rn,d):n次元ユークリッド空間  

証明

1.
[
命題P命題Q]    
(step1)
命題P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
    すなわち、
n次元ユークリッド空間Rn属す任意のn次元数ベクトル v1, v2にたいして、
          
f (v1 ) f (v2 ) =v1v2 
 
 Rn標準基底{ e1, e2, , en }にたいして、
          
f (ei ) f (e j ) =ei e j (i,j=1,2,n)  
(step2)
 ei e j =δiji,j=1,2,n)   ∵ei e j を計算したらわかる。
(step3)
 定理より、  
 
f (e1 )は、f標準基底に関する表現行列1 
 
f (e2 )は、f標準基底に関する表現行列2 
  :                  :  
 
f (en )は、f標準基底に関する表現行列n 
(step4)
  Step1,2より、
   
[命題P] f (ei ) f (e j ) =δiji,j=1,2,n
  つまり、
   
[命題P]  「{ f (e1 ), f (e2 ), , f (en ) }は、n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす。」
(step5)
Step3,4より、
 
[命題P] f標準基底に関する表現行列各列は、n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす」
直交行列とは、その各列n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす n次正方行列であった。
・以上二点より、
   
[命題P]  命題Qf標準基底に関する表現行列は、直交行列」 
      



[文献]
・佐武『線形代数学』V§7 (pp.122-123):左欄同様。
・斎藤『
線形代数入門2章§6 [6.4'] (p.65):左欄と異なる。


[命題Q命題P]            
命題
Q:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』」の標準基底に関する表現行列が、
     
直交行列
  f (v1) = Av1  かつ f (v2) =Av2    …(1)     
    (∵
標準基底に関する表現行列の定義) 
   
かつ 
   
tA=A      …(2)
    (∵直交行列の定義)  
   f (v1 ) f (v2 ) = (Av1 ) (Av2 )  ∵(1) 
            
=(tA A v1) v2  ∵自然な内積の性質 
             
=( In v1) v2   ∵直交行列の定義 
              
=v1v2 
  すなわち、
   命題
Pn次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』は直交変換
  が成り立つ。
よって、命題
Q命題P  


[文献]
・佐武『線形代数学』V§7 (p.123) :左欄同様。

証明

2.
[
命題P命題R]
(step1)
命題P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
    すなわち、
n次元ユークリッド空間Rn属す任意のn次元数ベクトル v1, v2にたいして、
          
f (v1 ) f (v2 ) =v1v2 
 
 任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }にたいして、
          
f ( pi ) f ( pj ) = pi pj (i,j=1,2,n
(step2)
  任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }にたいして、
    
pi pj =δiji,j=1,2,n)   ∵正規直交基底の定義。


[文献]
・佐武『線形代数学』V§7 (p.123) :左欄同様。

(step3)
任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に関する線形変換fの行列表示
 
A=(aij)
とおく。
 
線形変換f任意基底に関する表現行列の定義より、
  
f (p1)=a11 p1a21 p2an1 pn  
  
f (p2)=a12 p1a22 p2an2 pn  
   :     : 
  
f (pn)=a1n p1a2n p2ann pn  
 したがって、
 
f ( pi ) f ( pj )
  =a1i p1a2i p2ani pna1j p1a2j p2anj pn
  
= a1i p1a1j p1+a1i p1a2j p2++a1i p1anj pn) 
   
+a2i p2a1j p1+a2i p2a2i p2++a2i p2anj pn) 
    
+…             
     …
+ani pna1j p1+ani pna2i p2++ani pnanj pn) ∵自然な内積の線型性1 
  
= a1i a1jp1p1+ a1i a2jp1p2++ a1i anjp1pn) 
   
+ a2i a1jp2p1+ a2i a2jp2p2++ a2i anjp2pn) 
    
+…             
     …
+ ani a1jpnp1+ ani a2ipnp2++ ani anjpnpn) ∵自然な内積の線型性2 
  
= a1i a1j 1+ a1i a2j++ a1i anj0 
   
+ a2i a1j+ a2i a2j++ a2i anj0 
    
+
     …
+ ani a1j+ ani a2i++ ani anj1 ∵step2 
  
= a1i a1j + a2i a2j ++ ani anj  
 これは、                   
  「
Rn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に関する線形変換fの行列表示A=(aij)
   
ijとの自然な内積にほかならない。
(step4)
  Step2,3を使って、step1に登場する「f ( pi ) f ( pj ) = pi pj 」の右辺、左辺を書き換えると、
  
step1は、次のようになる。
  
[命題P] 任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に関する線形変換fの行列表示」のijとの自然な内積=δiji,j=1,2,n
  つまり、
   
[命題P] 任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に関する線形変換fの行列表示」の各列は、n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす。」
(step5)
直交行列とは、その各列n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす n次正方行列であった。
step4より、
   
[命題P]  命題R任意のRn正規直交基底に関する線形変換fの行列表示は、直交行列となる。」 


[命題R命題P]            
命題
S任意のRn正規直交基底に関する線形変換fの行列表示は、直交行列
命題Qn次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』」の標準基底に関する表現行列が、直交行列」  
命題P  ∵ 本定理-1.を見よ。
よって、命題
R命題P  
 

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定理:ユークリッド空間Rn上の直交変換の性質 


定理


次の二つの命題は
同値
命題
P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
命題
Q: 任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に対して、
    
n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』による像 
           
{ f ( p1), f ( p2 ), , f ( pn ) } 
    も、「
n次元ユークリッド空間Rn正規直交基底」。 

[文献]
・佐武『線形代数学』V§7定理11-2(p.124);
・川久保『線形代数学』定理1.7.4(p.270):計量実ベクトル空間一般。PQの証明はそのまま使えるが、QPの証明は、このまま数ベクトル空間で使っていいものかどうか…。



設定

この定理は、以下の舞台設定上で成り立つ。
R 実数体R  
Rnn次元数ベクトル空間 
v1, v2n次元数ベクトル
   具体的に書くと、v11, v12, , v1nRとして、v1=( v11, v12, , v1n )n  
           
v21, v22, , v2nRとして、v2=( v21, v22, , v2n )n  
v1v2n次元数ベクトルv1,v2自然な内積
     これによって、
n計量実ベクトル空間となる。 
v‖:計量実ベクトル空間Rnにおけるユークリッドノルム
           (
自然な内積を用いて定義される) 
d (v1,v2)ユークリッドノルムから定められたユークリッド距離  
Rn,d):n次元ユークリッド空間  

証明

[命題P命題Q]  
(step1)
  命題P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
      すなわち、
n次元ユークリッド空間Rn属す任意のn次元数ベクトル v1, v2にたいして、
            
f (v1 ) f (v2 ) =v1v2 
  
 任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }にたいして、
          
f ( pi ) f ( pj ) = pi pj  =δij (i,j=1,2,n)   ∵正規直交基底の定義。
  つまり、
  命題
P:n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』が直交変換である」
  
命題P' :任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に対して、{ f ( p1), f ( p2 ), , f ( pn ) }は、n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす。」  
(step2)
 ・n次元ユークリッド空間Rn正規直交系は、一次独立。(∵定理
 ・
n個の一次独立n次元数ベクトルは、n次元数ベクトル空間Rn基底をなす。(∵定理) 
 この二点より、
  命題
P' :{ f ( p1), f ( p2 ), , f ( pn ) }は、n次元ユークリッド空間Rn正規直交系をなす。」
  
 命題Q: 任意のRn正規直交基底{ p1, p2, , pn }に対して、
    
n次元ユークリッド空間Rn上の線形変換f : RnRn』による像 
           
{ f ( p1), f ( p2 ), , f ( pn ) } 
    は、「
n次元ユークリッド空間Rn正規直交基底」。  






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