スリランカ料理トモカの評判

スリランカ料理トモカ掲載記事一覧　1983-1995

　１９８３年から１９９５年までの１２年間、東京・四谷にスリランカ料理トモカという小さなエスニック料理店がありました。
　映画『異人たちとの夏』(大林宣彦監督)の冒頭、主演男優二人が街の料理店へ行って食事をするシーンがあります。その料理店がトモカです。
　あの薄暗い店内で二人が食べていたのはスリランカ料理。スリランカ料理には必ず出てくるアーッパを二人が指でちぎりながら食べていました。
　そのシーンで流れていた音楽はスリランカ民謡だったのですが、いま、流通する『異人たちとの夏』ではあのシーンの背景に流された音楽が割愛されています。封切されて数年はスリランカの民謡が流れていたので、あの作品をご覧になった方なら、ああ、あの曲、と思い出されるかも。
　あの民謡はいつもトモカの店に流れていた曲だったのです。
　薄明かりの下、スパイシーな食卓。アジアン・エスニックな香りと南の島の昔の歌声。あの民謡はトモカの店に流れていた曲でした。

　「"異人たちとの夏"に出ていましたね」
　トモカの常連さんがうれしそうに、でも何だかもったいなさそうに声を掛けてくれたのを思い出します。声をかけてくれた常連さん、ぜったい、あの映画を観た後、風間杜夫か永島敏行になって、スリランカの民謡を聴きながらトモカのアーッパをちぎって口に運んで"夏"に浸っていたと思う。

　バブルという言葉が流行語大賞をとる２年前の1988年、『異人たちとの夏』は封切られました。エスニックという語が幅を利かせていた頃です。まだそのとき、愛と資本主義のたがは弾けてなくて、浮かれ始めた世間がまぶしさの盛りに向かっていました。
　たまたまバブルとエスニックの二つの流れに乗ってしまったトモカは流行の飲食店の様子を知らせる雑誌によって個性豊かにさまざまに紹介されました。
　トモカを世間に紹介する先鞭を切ったのは業界老舗のアンアンでした。