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DANCYU 1991年2月号

調理の基本は鰹節。
インドとは、一味違うスリランカ料理を味わう





   昭和59年にオープンした都内でも珍しいスリランカ料理の専門店である。実は店主の丹野富雄氏には、スリランカ料理が一般に「カレー」という範疇にくくられていることに、少なからず戸惑いがある。
 すでに知られているように、「カレー」という言葉は、香辛料を効かせたインド風調理全般に対する欧米人の側からの呼称である(いうまでもなく日本人も同じ使い方をしている)。そして、インドの近隣諸国の料理も、似たような調理であれば、広く「カレー」としてくくられる。したがって、その慣行に従えば、なるほどスリランカ料理も「カレー」のひとつといえなくはない。
 しかし、「カレー」と一口にいわれてしまうと、スリランカ料理が、まるでインド料理の亜流にすぎないように誤解されかねない。スリランカ料理はあくまでも独自のスリランカ料理なのに、と丹野氏は残念に思うのである。
 それでこの店には「カレー」という表記はない。また、料理も3600円のディナーーコースのみである。一品料理を列記しても、スリランカに馴染みの薄い客には、中身が分からず注文のしようがない。ならばいっそ、代表的料理を一揃いのコースにしてしまったほうが、スリランカ料理とはいかなるものか、かえって客に知ってもらえる。ディナーコースのみというスタイルは、こうした思いの表れなのである。
 コースには肉・野菜料理が7品、それに米の粉を薄く焼いたアッパーという名のパン、豆の粉を揚げたせんべい状のパパダム、ご飯。紅茶がつく。
 7品の内容は鰹のから炒り、小魚と香辛料の煮物、チリパウダー入りココナッツの煮物、なすの煮物、ココナッツとにがうりのあえものなどである。なかでも日本人の興味をひくのは、おそらく鰹のから炒りではなかろうか。こま切れを煮つめたもので、日本人の舌にまるで違和感のない味である。
 実はスリランカでは鰹は主要な食料の一つで、特に鰹節は、煮物の調理にかかせない基本食材なのである。食べてみて、意外なほどの親しみを感じるのは、こうした鰹の存在や、煮物料理の多さによるのかもしれない。また、煮物のベースはすべてココナッツミルクで、基本のスパイスはコリアンダー、クローブ、シナモンなどだそうだ。
 ベランダには実益を兼ねて、彼の地の香味植物がいっぱい栽培されている。10人で満席になるほどの小さな店だが、ここは隅から隅までスリランカで満ちているのである。
●東京都新宿区四谷1―7―27 第43東京ビル3階 電話03―3353―79** 営業時間/18時から21時 日祝休み

DANCYU 1991年2月号 プレジデント社


【解題】  「ディナーコースのみというスタイルは、こうした思いの表れなのである」とあるけど、本当にその思いは強かった。酒のつまみにアジア・エスニックの辛い一品を注文して異国異次元気分に浸ろうという線はこの店にはない。アジア慣れしたお客さんに「フィッシュ・ヘッド・カレーを」などと注文されようなら、この店の主はそれから一夜、ずうっと不機嫌だった。
 スリランカで食べる。そのときのスタイルそのままを東京で試み、再現する。ただ、それだけ。
 それをライターさんにきれいに纏めていただくと「ディナーコースのみというスタイルは、こうした思いの表れなのである」となるようだ。  スリランカそのままに料理を提供する店はまだ、トモカを除いて日本になかった。しかし、このスタイルはその後、東京の他のスリランカ料理店でも試みられるようになった。
 文中、「小魚と香辛料の煮物」はハールマッソーのこと。いわしの類の小魚一般をハールマッソーと呼んでいる。「チリパウダー入りココナッツの煮物」は誤りで、唐辛子(日本ではカイエンヌ・ペパーが商品名となっている)とココナッツと赤玉葱を合わせてひき潰したペーストに鰹節を加え、スダチの汁を加えたもの。ポル・サンボールと言う。なすの煮物、ココナッツとにがうりの和え物など、とあるのはちょっと乱雑な解説なので意味が不明、詳しくお知りになりたい方は「南の島のカレーライス」の付録ページをご覧いただきたい。 「基本のスパイス」とあるのも単純化のし過ぎで、どうせ単純化して覚えるなら、ひとつの料理にはその食材にあったひとつのスパイスをベースに用いるのが基本、ということになる。DANCYUの読者の方には正確な情報をフォローしたい。  料理説明の最初にある「鰹のから炒り」とあるのは、正確に表現すればバラマール(鰹)のアンブルティヤルと言う。アンブルティヤルは梅干のような酸味を持つゴラカという食材を使った料理の総称。

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