ピコ通信/第124号
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フタル酸エステルの生殖毒性明らかに
EU・米国が対策/日本も早急に規制すべき フタル酸エステルは、以前から環境ホルモン作用等の毒性が指摘され、おもちゃ等に一部規制がかけられてきました。 EUが本年10月に発表したREACHの高懸念物質候補リスト(15物質)には、三つのフタル酸エステルが含まれています。 また、今年7月に米国は、子ども用品へのフタル酸エステル6種への新たな規制を決めました。EUでは2005年に同様の規制を決めています。日本の規制の状況はどうなっているのでしょうか。 欧米の規制の状況とも比較しながら、フタル酸エステルをめぐる問題について報告します。 ■フタル酸エステルとは? フタル酸エステルは、プラスチック(主に塩化ビニル)を柔らかく加工しやすくする可塑剤として使われています。 ビニールレザー、ビニールホース、ビニール壁紙、クッションフロア、電線被覆、ビニールボール、浮き輪、ビニール人形等々。あらゆるところで使われています。 可塑剤の8割はフタル酸エステルで、年間約40万トンが生産されています。可塑剤としては、他にはアジピン酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系などがあります。 フタル酸エステルの中でもっともよく使われているのがDEHP(フタル酸ジエチルヘキシル、DOPとも言う)で、汎用可塑剤としてフタル酸エステルの6割以上を占めています。
※化学工業日報社(2007):15107の化学商品 出典:(株)島津テクノリサーチ ウェブサイトから http://www.shimadzu-techno.co.jp/technical/phthalate.html#1 ■フタル酸エステルの毒性 フタル酸エステルは、これまで色々な研究で生殖への影響等を指摘されてきました。 ロチェスター大学生殖疫学センターのディレクターであるシャナ・スワンによる新たな研究が本年10月に発表されました。 スワンは以前の研究で、子宮中でフタル酸エステルに曝露させたオスのラットは、短い肛門性器間距離(AGD)、小さな性器、不完全な睾丸降下、その他オス生殖器官系の変化をもって生まれる。影響を受けた動物が成熟すると、精液の質と繁殖能力が減少し、場合によっては精巣腫瘍を起こすことを明らかにしました。 それがヒトに起こるかどうかを確かめたのが、本研究です。 「米化学会ES&Tサイエンスニュース08/11/12 可塑剤は男児の男らしさを損なうかもしれない」 母親の血液と尿のサンプルを妊娠中及び妊娠後に採取し、男の赤ちゃんの尿を出生後に採取しました。フタル酸エステル類の中で最も生殖毒性の強いものの一つであるフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)の代謝物の高いレベルと、彼女らの息子の短い肛門性器間距離(AGD)、細いペニス、及び不完全な睾丸降下との間に有意な関連性を見出したのです。 ”全国調査で、アメリカ女性の25%は、我々の研究における短い肛門性器間距離(AGD)やその他の変化と関連するレベルと同様なレベルのフタル酸エステル類を持っていた”と彼女は米国全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)を参照しながら述べています。 DEHPはアレルギー患者の炎症反応を高めるという研究結果も、本年11月に発表されています。 ■環境ホルモン学会の研究発表から 12月13日、14日に東京で開催された環境ホルモン学会で、「日本人妊婦のフタル酸エステル類摂取量」(鈴木弥生さんら)の研究発表が行われました。 結論から言うと、フタル酸エステルの1日摂取量は耐容1日摂取量(European Food Security Authority)とのマージンが小さい妊婦が存在し、中には越える者もいたということです。 研究の概要を紹介すると、 2005年から2008年に東京都内の139名の妊婦が対象。尿中の7種類のフタル酸エステルの代謝産物9種類を測定し、摂取量を推定した。結果は、体重当たり1日摂取量の平均値はDMP(0.259)、DEP(0.304)、DnBP(1.70)、BBzP(0.155)、DEHP(1.83)、DINP(0.0376)、DnOP(0.0141)であった。DnBPのTDI(10μg/kg/day)を越える者が3名いた。また、DEHPの最大値は24.6μg/kg/day(TDI 50μg/kg/day)であった。 また、フタル酸エステル代謝産物7種類は、ほぼすべての妊婦の尿から検出されたということです(DINPとDnOP代謝産物の検出率は低かった)。 ■欧米と日本の規制の状況 2000年1月、市販の弁当からDEHPが検出され、塩ビ製の調理用手袋からの移行が主原因であるとされました。その後、厚生労働省は塩ビ製手袋の食品への使用を避けるよう通知を出しています。 さらに、2002年8月、厚生労働省はDEHPは乳幼児(6歳未満)が接触する可能性のあるおもちゃ全般を対象として、またDINPは乳幼児が口にするおもちゃを対象として使用禁止としました。さらに、油脂又は脂肪性食品を含む食品に接触する器具又は容器包装にDEHPを原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を禁止しました。 EU、米国、日本の規制をまとめた表をごらん下さい。
■REACH高懸念物質 欧州化学物質庁(ECHA)は、REACHの高懸念物質候補リスト(SVHC)(15物質)に3種のフタル酸エステルを入れましたが、その内訳は以下の通りです。
(発がん性、変異原性についても同様にカテゴリー1,2,3とクラス分けされている) 今後、EU内のさらなる手続きを経て、2009年秋に最終的に高懸念物質として発表される予定であり、認可の対象となり、規制がかけられます。 日本では、EU、米国に比べて早い段階に規制したものの、ほんの一部の規制に終わっていることが分かります。日本が、EUや米国の子ども用品対象の規制並みに多種類のフタル酸エステルを規制するのは一刻も早くするべきですが、はたしてそれで十分でしょうか。 胎児の段階で曝露して影響があるのですから、単に生まれてからおもちゃや乳児用品を規制するだけでは決して十分とはいえません。妊婦は、食べ物、容器・包装、水、空気、化粧品等から体内に取り込んでいると考えられますから、環境中からフタル酸エステル類を減らさなくてはなりません。そのためには、そのような可能性の高い製品中のフタル酸エステル類を早急に規制することが求められていると思います。 REACHの高懸念物質に決まれば、日本のメーカーも対応を迫られます。日本も政策としての対応を当然迫られますが、その前に必要な対策をとるべきです。 ■複合曝露のリスク評価 さらには、米国アカデミーの一員である米国研究協議会は12月18日、「EPAはフタル酸エステル類とその他の化学物質の累積的リスク評価を実施すべきである」と勧告しています。EPAの要請に対して米国研究協議会(NRC)がEPAに勧告したもので、フタル酸エステルのリスク評価には、類似の有害健康影響をもたらす異なる化学物質の複合曝露についての累積的リスク評価を行うよう勧告しています(本紙13頁参照)。 日本においても、これまでその必要性は指摘されながら、単体のリス評価しか実施されてきていません。実際の曝露においては、当然複合曝露であるのですから、今すぐにも複合曝露のリスク評価に取り組むべきです。 (安間節子) |
化学物質過敏症でも障害年金を受給できます
2月5日、「化学物質過敏症の31歳女性に年金支給 障害2級と認定」との毎日新聞記事が報じられました。化学物質過敏症の患者さんは働くことが難しく、食費、医療費、転居費用などに多くのお金がかかり、経済的に困窮している方が多いのです。多くは家族に依存して生活しているので、今回の決定は大変うれしいニュースでした。 ■記事の概要 微量の化学物質に反応して体調を崩す「化学物質過敏症」と診断された川崎市の女性(31)が先月、障害年金の受給を認められた。病気の社会的な認知度が低いうえ申請手続きが煩雑なこともあり、支援団体によると受給が明らかになったのは初めて。「多くの人に希望を与える画期的な決定だ」と高く評価している。 女性は、川崎市の新築マンションに転居した91年ごろから、目まいや倦怠(けんたい)感などの体調不良を訴え、02年1月に化学物質過敏症と診断された。現在は1日数回、発作で1時間以上にわたって呼吸困難に陥るため、母親(57)が付きっ切りで看病する。また、女性は化学物質から遠ざかる転地治療のため、年に数十回、標高1300メートルの長野県の山中に作ったテントに避難する。周囲の畑で農薬が散布される時期になると、山中でも発作が起き、安全な場所を求めて移動を繰り返す。 長野の土地購入費用や交通費で出費がかさんだため、昨年6月、社会保険労務士のNPO法人「障害年金支援ネットワーク」(奈良県斑鳩<いかるが>町)に相談。発病以来の闘病記や、衣食住に支障を来している実例の資料を添えて川崎市を通じ、高津社会保険事務所に申請したところ、今年11月、片手や片足を失った人と同等の「障害等級2級」と認定され、月額約6万6,000円の障害基礎年金を受給できることになった。 ■今回のケースは特別なものではない 社会保険労務士のNPO法人「障害年金支援ネットワーク」に電話で話を聞きました。 その結果、以下の事が分かりました。 ・これまでに化学物質過敏症で障害年金を受けた人は3人以上いる。 ・今回のケースは特別なものではない。 ・障害年金とは、日常生活を送る上で困難がある人に支払われる年金なので、化学物質過敏症の場合は、十分対象となり得る。 ・記事が出てから、化学物質過敏症患者から相談が数件あったが、いずれも受給の可能性の高いケースであった。 ■障害年金の基礎知識 同ネットワークのホームページから、障害年金の基礎知識を紹介します。 障害年金とは、厚生年金保険、国民年金、共済年金のすべてに備わっている、老齢年金、遺族年金と並ぶ公的年金の一つです。 この年金は、障害を負ったことで国民生活の安定が損なわれることのないように、働く上で、あるいは日常生活を送る上で困難がある人に支払われる年金のことです。 ということは、高齢者よりはむしろ若年層のための年金と言っていいと思います。 障害年金は、次の4つの条件がすべて満たされた人に支払われます。 1.初診日要件、2.制度加入要件、3.保険料納付要件、4.障害要件(説明略) 障害年金を請求する場合には、必ず医師の発行する診断書が必要です。疾病毎に診断書の様式は決まっています。 ■申請に挑戦してみよう 障害年金受給事例として、化学物質過敏症の場合も紹介されていますので、同ネットワークのホームページをごらん下さい。 (障害年金事例13 「化学物質過敏症でも障害年金が受給できます!) http://syougai-nenkin.or.jp/jirei/10.html 個人でも申請はできますが、受給を認めてもらうには、日常生活の大変さ等を障害認定に携わる社会保険庁に適切に伝えるためにそれなりの工夫が必要なようです。同ネットワークに相談すると、適当な社会保険労務士さんを紹介してくれます。 化学物質過敏症患者のみなさんに、申請に挑戦してみることをお勧めします。 NPO法人「障害年金支援ネットワーク」:障害年金について組織的に支援を行う、わが国最大の社会保険労務士集団。 相談ダイアル(無料)0120-956-119 平日10時〜16時(12時〜13時休憩)土日祝は除く(公衆電話、携帯電話、PHSは不可) http://syougai-nenkin.or.jp/index.html (安間節子) |
増築でクレオソート油を塗られて
家族3人化学物質過敏症に 男性(埼玉県在住) 4年前に、子供部屋を増築する事になって、無添加リフォームのA社に依頼しました。契約の際に基本仕様書により、無添加住宅が出来上がることを約束していました。 しかし、工事が始まってすぐ、基礎の土台にクレオソート油が塗られてしまいました。強烈な臭いがあり、妻は鼻水が止まらなくなる等の症状がすぐに現れました。塗ったものの影響と思われましたので、もう使用しないで欲しいと訴えました。 A社は、もう使用しないと約束をしました。ところが、また塗られてしまったのです。 それから家族に喉の痛み、目のかすみ、めまい、下痢等さまざまな症状が現れるようになりました。私共は塗られた商品が天然成分のものであると信じていたため、娘が目がまぶしくて見えないと言って高熱を発するに至るまで、有害物質のクレオソートを吸入し続けてしまいました。 何であるか知らなかったため、何を塗ったのか教えて欲しいと質問していましたが、エコ商品というだけではっきりとした名前は教えてもらえませんでした。 それがきっかけとなり、妻・娘・息子は化学物質過敏症を発症しました。それ以来、家族は自宅にいられなくなり、安住の地を求めてさ迷い、現在は北軽井沢に転居しています。娘は現在小学5年生ですが、すでに2年半登校できないままです。 ■無添加住宅を約束したのにシックハウス A社には、契約違反や重大な落ち度がありました。 1)無添加住宅を作るべく基本仕様書を見せて説明していた事。 2)天然素材(柿渋液)を塗る約束をしたのにクレオソートを塗った事。 3)クレオソートを塗って3日後に鼻水が止まらないなどの症状の訴えがあり、もう使用しないと約束したにもかかわらず、また塗った事。 4)様々な症状が出始めていたため、何を塗ったのか商品名や成分を教えて欲しいと何度も質問していたが、エコ商品であるなどと騙してクレオソートである事を隠していた事。 ところが、これに対してA社は、 1)無添加リフォームをするとは約束していない。 2)天然成分の防腐剤(柿渋液)を使用するとは言ってない。 3)無添加リフォームの説明はしていない。 4)クレオソートは防腐・防蟻剤として国が許可した優れた商品である。 5)クレオソートはシックハウスの原因物質ではない。 6)発症原因はクレオソート塗布以前の生活にある。 7)(製造元の吉田製油所は「クレオソートを家屋や住居に使用しないで下さい」と缶に明記しているのに対して)塗布したのは基礎部分であり、基礎は家屋外になるのでメーカーの取り扱い方法も守っている、何ら問題ない。 などの信じられないウソや問題の摩り替えで、責任逃れをしようとしています。その姿は本当に醜いです。 基礎部分(床下)は住居ではないなど、常識では考えられません。それに私共は、クレオソートが法律的に使用しても良い商品かどうかなどを問題にしているのではありません。 私共が問題にしているのは、無添加住宅を作ると約束したのに、天然成分を使用すると言って基本仕様書まで見せて説明したのに、天然の物でも臭いがきつくて合わない物もあるので、使用する商品は匂いをかいで確認してもらってから進めますと言っていたのに、何にも知らせずに、よりによってクレオソートを塗ってしまった事、その事実を娘が倒れるまで隠していた事なのです。 ■家族の人生がめちゃめちゃに 妻と娘(7歳)息子(2歳)は、クレオソート塗布直後から様々な症状が発現しました。発症原因はクレオソート以外にありません。 妻は子供達を二人とも帝王切開で出産しています。もし、もともとそんな重大な病気を抱えていたならば主治医にも相談をしているはずですが、妻は何の問題も無く麻酔を使用して出産しています。 私たち家族は、クレオソートを塗布されるその日まで、とても元気で健康で明るく楽しく暮らしてきました。クレオソートを塗られた日から家族の健康は奪われ、今まで知らなかった様々な臭いに苦しむようになりました。今まで使用していたものに反応するようになり、様々な家庭用品や身の回りの物が使えなくなりました。 せめてA社は、クレオソートにより私達に健康被害が出始めたときに真実を明かしていたならば、私の子供達はこのように致命的な病気を背負わずにすみました。当時娘は7歳、息子は2歳で子供達の人生は始まったばかりでした。家族が、子供達の人生が全てめちゃくちゃになりました。絶対に許す事は出来ません。 東京白金の北里研究所病院・化学物質過敏症外来で妻と娘は化学物質過敏症と診断され、息子は幼少のため充分な自己診断テストができず、診断書こそ出ていませんが、先生は化学物質過敏症と認めています。 ■裁判官のCSへの理解に不安 現在A社を相手に裁判をしておりますが、裁判官に化学物質過敏症という病気への理解があまりないように感じられます。私共の訴える苦しみや悲しみ、厳しい現実がなかなか伝わらないように感じられるのです。 裁判官には、この病気を理解した上で公正な判決を下されることを切に願っています。そのためには私共の力だけでは状況を変えることが難しく、社会の皆様に関心を持って見守っていただきたいのです。家族は本当に苦しんでいます。どうか私共に力をお貸し下さい。 ■無添加リフォームを売り物にTV出演 A社は関東一円に支店を持ち、無添加リフォームを売りにしていて、この事件の後にフジテレビのニュース番組「ニュースJAPAN」に社長が出演して、住宅は無添加であるべきと主張していました。 私には四国に弟がいます。弟には今回の事件のことは伝えてあるので知っているものの、相手の会社名までは伝えていませんでしたが、この番組を見て、私にメールを送ってきました。「テレビに無添加リフォームの会社の社長が出演していたけど、兄貴のところもこんな会社に頼んでおけばこんなことにならなかっただろうにね」と言われました。今回うちが頼んだところはその会社なんだよと回答メールを出したところ、絶句の返事がきました。 1月28日(水)13時30分〜14時30分に、私の証人尋問がさいたま地方裁判所(※)で行われます。また、月日は未定ですが、おそらく1か月後くらいに今度はA社の取締役と担当者の尋問が開かれます。傍聴していただければ大変ありがたいです。 ※さいたま地方裁判所: 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-16-45 (JR京浜東北線・高崎線・宇都宮線浦和駅西口下車徒歩15分) TEL 048-863-4111 ※傍聴していただける方は、事務局までメール、電話、FAXでご連絡ください。 フタル酸エステル類関連情報
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