2010年11月4日
デヴラ・デービス博士
携帯電話:低減することができる新たな環境的ハザード

情報源:Devra Davis, PhD MPH
Cell Phones: a new environmental hazard that can be reduced
http://www.psr.org/environment-and-health/environmental-health-policy-institute/responses/
cell-phones-a-new-environmental-hazard-that-can-be-reduced.html


これは、2010年11月4日 PSR 環境健康政策研究所の
「次の政策課題になるべき新たに出現している環境的ハザード」

に対するデヴラ・デービス博士の回答である。


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/psr/psr_Devra_Davis_Cell_Phones.html

 携帯電話はひょっとして有害なのではないだろうか? 私が初めてこの可能性について聞いたとき、私はそれを否定した。なんといっても、携帯電話の弱い非電離放射線(訳注1)が我々の細胞を繋いでいる結合を壊すことは不可能である。携帯電話はマイクロ波オーブンと同じ放射周波数を用いているが、その電力消費は2000倍以上小さい。

 携帯電話からの最も明白な問題は、うわの空の車の運転で起きる深刻な事故や、ディナーテーブル、レストラン、コーヒーショップで増えている無作法な振る舞いである。しかし、ほとんどすべての成人と10代の若者が使用している今では世間で普通のこれらの機器のもたらす問題は、これだけではない。携帯電話からの弱いパルス信号は無害ではなく、多くの深刻な生物学的反応を誘発する。今日のスマートフォンからの放射は、DNAを損傷し、人と動物の精子数を減少させ、がんリスクを高めることに関連する有害な血液マーカーの生成を増大し、有害な曝露から脳を保護するバリア(脳関門)を弱める可能性がある。適切な有害化学物質政策を策定するときに、我々はもちろん曝露を減らすべきであるが、携帯電話の放射は全ての化学物質の摂取を高めるので、我々はこの目標を達成するためには、そのような放射を低くする必要がある。

 私の新しい本、Disconnect は、このことの背後にある全ての科学を説明し、タバコやアスベスト産業がしたことによく似た、携帯電話産業によってなされたペテンと否定の複雑で隠されたパターンを報告している。実際、携帯電話の科学と工学は複雑であり、ほとんどの医師や科学者に理解されていない。この複雑さがリスクについて人々を容易に混乱させる。携帯電話放射は有害であり得ることを示す研究が出てくる時にはいつでも、それらは、その科学とその科学者を攻撃することにより、容易に消されるべき「不都合な真実(訳注2)」として扱われてきた。再現性検証のように見えるが実は違う、競合する研究を実施するために懐疑的な人を連れてくることは容易なことであった。この戦略は、この戦略は、二つの主要な事柄が変わるまで機能していた。科学が進んでいる政府は、警告表示を求める規則を発しており、子どもたちへの広告は禁止しており、産業は自身の精密印刷の警告を出している。

 フィンランドからイスラエル、フェウランス、カナダまで、サンフランシスコ、ジャクソン、ワイオミング、そしてルクセンブルグまで、世界中の国や市や州において、規制と宣言は、携帯電話放射は広範な生物学的影響を持つという強い証拠に基づいて、なされている。電話の基準は、20年以上も前に、体重が200ポンド(約90kg)を越える大きな男性の新兵への急性影響を避けることをベースに定められた。世界の40億台の電話のうち、数が増えているのは子どもたちに使用されているものであり、彼等の脳と体はそのような大きな男たちより小さいというだけではなく、そもそも異なる。会社が高解像度印刷の警告を出している理由は、人々は電話を購入した後でしか読むことができないからである。そして、それがサンフランシスコが知る権利の立法を通した理由である。

 誰が民主的な政府を担っていようと、民主主義は自由に与えられた被治者の合意に基づいている。人々には、携帯電話は頭や体に接触させない時にのみ安全に使用できる小さな送受信マイクロ波放出無線機であるということを知る基本的な権利があり、彼らはその機器を購入することを決める前に、このことを知る権利がある。携帯電話はポケットの中に入れたり体から25mm(訳注:原文は15mm又は0.98インチとあるが、これは25mmの間違いであると思われる。他の多くの文書が25mmとしている。)離していないと安全に使用できないという注意書きが携帯電話と一緒に包装するということは消費者の知性を侮辱するものである。

 『Scientific American』の2010年の10月号の”Skeptic(懐疑論者)”というコラムで、マイケル・シャーマーは、携帯電話はDNAの複雑な構造を繋いでいるイオン結合を直接壊すにはパワーが足りないと正しく主張している(訳注3)。しかしシャーマーが、携帯電話放射は他の方法でDNA損傷を引き起こすことはできない、又はがんはそのような損傷が起きた後にのみ発症すると断言するのは完全に間違いである。

 全米技術アカデミー(National Academy of Engineering)のメンバーであるフランク・バーンズ教授は、無線周波数エネルギーは代謝プロセスをかく乱することができる、又は、好中球(Neutrophils)(訳注4)の方向の移動のような他の生物学的な変化、それはまた多くの他の変更をもたらすかもしれない、を引き起こすことができると報告した。  『The Scientist』は今週、タフツ大学のマイケル・レビンが、細胞のひとつのタイプの電子的特性が他の離れた細胞の挙動を変化させることができ、”幹細胞とがん細胞の差異を調停する主要なスイッチ”であるかもしれないことを見つけたと報じた。

 実際、携帯電話は、信号を送受信するために比較的低いエネルギーに依存する双方向の小さなマイクロ波ラジオである。それらのパルス化されたディジタル信号は、なぜその放射がDNA損傷を誘発し、また精子の特性、運動、数を損なうのかを説明するかもしれない。 REFLEXプロジェクト(訳注6)を後援した欧州連合の一部として活動しているヨーロッパの12の研究所が第三世代携帯電話(3G電話)からの信号によるDNA損傷の重要な証拠を見つけた。6つの異なる国立研究所におけるヒト精子研究の分割サンプルが、携帯電話に曝露したサンプルについては、劣等な形態、運動性、及び病理増加を示している。

 シャーマーは、この問題についての最近の世界保健機関(WHO)の疫学研究は携帯電話の使用に結びついた脳腫瘍の全体的なリスク増大はないことを確認していると主張する。しかし、実際には、このプロジェクトは、そのリーダーたちが継続した調査の必要性を理解しているので、的確に続けられている。(この研究において使用者は、6ヶ月間、週に1回、携帯電話で通話する人であると定義されている。アメリカ人はこの分析には含まれていない。)シャーマーは、10年間、携帯電話を使用している人々は、今日の我々のほとんどがしているように1日に半時間は使用しており、悪性脳腫瘍のリスクが著しく増大しているということを知らないのかもしれない。実際、携帯電話使用者のほとんどの調査は、携帯電話を数年以上使用している人々を対象としていない。携帯電話を数年以上使用している高頻度使用者についての調査では、どの調査も10年後の彼等の悪性脳腫瘍リスクが著しく増加していることを見つけている。

 スウェーデンの研究は、携帯電話を10代で使用開始した人々は成人したときに4〜5倍の脳腫瘍になることを見つけている。(この作業の現在のWHOの主任であるヨアヒム・シュッツ、及び著名なアメリカの疫学者ジョナサン・サメットは、シャーマーの意見に同意しておらず、ヒト証拠だけに基づく確固たる結論を出すためには、もっと長期間にわたるもっと多くの研究が必要であると述べている。)

 我々は本当にタバコ(訳注7)やアスベスト(訳注8)から何も学んでいないのだろうか? これらの機関の研究は、人々がこれらの既知の発がん性物質を使用し始めてから10年後のがんリスクの増加を見出していない。がんは20年、30年後に発現した。実際、今日、我々が携帯電話を使用する方法と、それらを使用する人々は、携帯電話が初めて導入され頃とは激変している。

 この国では生体電磁気学における主要な研究と訓練プログラムは現在行なわれておらず、現在ではいたるところで使用されているこれらの機器のヒト影響に関する主要な調査は計画されていない。マイクロ波及び電磁界放射への曝露についての国家調査は1980年に実施されて以来、行なわれていない。もし、携帯電話が実際に安全なら、全てのスマートフォン主要製造者らは、なぜ、携帯電話はFCC規格(訳注9)に反して、頭や体に直接近づけて使用することはできないと、高解像度印刷の警告文を発行したのか? なぜ、二次保険会社は携帯電話による健康関連の損傷について最早カバーしないのか?

 公衆政策として、我々は、問わなくてはならない−−−我々は、現在いたるところに行き渡っている現代の機器の限られた疫学的研究だけに頼り、増大する実験の結果を無視すべきなのか? 我々はタバコやアスベストに対する行動をいつとったのか? フランス、フィンランド、及びイギリス政府は携帯電話の影響に関する全ての情報に目を向け、ハンドセットやスピーカーフォンを使用するよう警告を発した。フランスでは、現在、ヘッドセット又は安全使用についての警告なしに携帯電話を販売することは違法であり、携帯電話の子どもへの広告は禁止されている(訳注10)。

 シャーマーの物理学は正しいが、彼の生物学は全て間違っている。双方向マイクロ波無線機の使い方に今、予防を考慮することは非常に合理的であり、我々の孫に健康負荷の多大な軽減をもたらすかもしれない。


訳注1:非電離放射線
訳注2:不都合な真実
  • 不都合な真実/ウィキペディア
     不都合な真実(原題: An Inconvenient Truth)は2006年のアメリカ合衆国の映画。主演はアル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領。日本では2007年1月20日公開。地球温暖化の問題に熱心に取り組んできたアル・ゴアのスライド講演の様子を、アル・ゴアの生い立ちを辿ったフィルムを交えつつ構成したドキュメンタリー映画。過去の豊富な気象データや、温暖化の影響を受けて衝撃的に変化した自然のフィルムを数多く使いながら、この問題を直視しない政府の姿勢を批判し、人々が生活の中で環境を守る努力を続けることの重要さを訴えている。
訳注3:Scientific American
訳注4:好中球
  • 好中球/ウィキペディア
    好中球は5種類ある白血球の1種類で、3種ある顆粒球の1つ。中性色素に染まる殺菌性特殊顆粒を持つ顆粒球である。盛んな遊走運動(アメーバ様運動)を行い、主に生体内に侵入してきた細菌や真菌類を貪食(飲み込む事)殺菌を行うことで、感染を防ぐ役割を果たす。骨髄で作られ、成熟する。
訳注5:幹細胞
  • 幹細胞 (Stem Cell)/応用細胞再生医学講座
     幹細胞は、自己複製能と様々な細胞に分化する能力(多分化能)を持つ特殊な細胞である。この2つの能力により、発生や組織の再生などを担う細胞であると考えられている。幹細胞には、その由来や能力などから、幾つかの分類がされており、主に胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、iPS細胞などが挙げられる。
訳注6:REFLEXプロジェクト
訳注7:タバコ
訳注8:アスベスト

訳注9:FCC規格

  • FCC規格とは/ウェブサイト
     FCC規格の「FCC」とはアメリカ合衆国の携帯電話、インターネット、テレビ放送、衛星放送、ケーブルテレビなどの通信や放送などに関するものにおいての規定や認可などを行うアメリカ合衆国の政府の組織の事を指し、アメリカ合衆国内の各州の通信の規制や各国との国際的な通信を規制する役割をしています。ちなみにFCC規格の「FCC」とはFederal Communications Commission(米国連邦通信委員会)の略称になります。
訳注10:携帯電話に関する当研究会紹介記事


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る