WHO タバコ産業文書に関する専門家委員会 2000年7月
WHOにおける
タバコ会社のタバコ規制に対する妨害戦略に
関する報告書の紹介


情報源:WHO Report of the Committee of Experts on Tobacco Industry Documents July 2000
Tobacco Campany Strategies to Undermine Tobacco Control Activities
at the World Health Organization
http://repositories.cdlib.org/context/tc/article/1107/type/pdf/viewcontent/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2000年11月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tobacco/kaigai/00/00_11_who_tobacco_company.html

 世界保健機関(WHO)が進めているタバコ規制を妨害するために、タバコ会社がWHOに専門家やスタッフを派遣して工作をしていることが分かり、WHOがその実態を調査して報告書としてとりまとめ、2000年8月2日に公式発表しました。全文260頁にわたる報告書ですが、ここでは、報告書の序文と本文の目次を紹介します。(訳者)


WHOにおけるタバコ会社のタバコ規制に対する妨害戦略
WHO タバコ産業文書に関する専門家委員会
2000年7月
 この報告書は世界保健機関の国際専門家委員会の総意に基づくものである。委員会のメンバーは各国政府やいかなる団体の代表でもなく、報酬を受けることなく、専門知識に基づき任務を遂行している。この委員会は事務局長によって招集され、件名について調査の上、勧告書を作成して報告するよう求められた。この報告書自体は必ずしも世界保健機関の決定、または方針を示すものではない。

序 文

 タバコ業界が作成した文書により、タバコ会社は長年にわたって世界保健機関(WHO)のタバコ規制に対する努力を覆そうと計画的に工作を行ってきたことが判明した。その試みは念入りに計画され、十分な資金に裏付けられ、精巧に仕組まれており、通常は隠密に行われていた。

 アメリカにおけるタバコ産業に対する裁判において数百万ページに及ぶタバコ会社の秘密文書が公開された結果、タバコ会社がタバコ規制に反対するために行ってきた様々な工作が白日の下に晒された。タバコ会社がタバコ規制に反対することは驚くに当たらない。しかし、明らかになったことは、その汚い戦略と戦術が大規模で、強烈であるということである。

 タバコ会社の文書によれば、タバコ会社は、国際的な公衆衛生機関としてのWHOを自分たちの最大の敵の一つであると見なしている。さらにタバコ会社は世界的規模の戦略をもってWHOの信用を傷つけ、その使命を遂行できなくしようとしていた。タバコ会社の反WHOキャンペーンは、喫煙による人々の健康の問題に対する解決に何ら寄与しない。それどころか、タバコ会社は人々の注意を健康の問題から背け、WHOが行う科学的及び政治的な活動のための予算を削減し、国連の他の機関に対しWHOに反対するようけしかけ、発展途上国に対しWHOのタバコ規制プログラムは発展途上国の費用使った先進国のための計画であると信じ込ませ、WHOのタバコに関する重要な研究成果をねじ曲げ、公的機関としてのWHOの信用を傷つけようとしていた。

 これらの戦略及び戦術は、しばしばタバコ会社の最高幹部によって企てられたが、それを実行するタバコ産業界の職員の役割は通常、秘密にされていた。反WHOキャンペーンを展開するに当たっては、タバコ業界が秘密裏に資金を提供している、学会もどき、世論形成団体、ビジネス団体、等の陰に隠れて表には出ないということをタバコ会社の文書は示していた。またそれらの文書によれば、WHOを切り崩すためのタバコ会社の戦術は、タバコ産業界と陰で資金的につながりのある国際的な科学者達に強く依存していた。
 恐らく最も当惑することは、タバコ会社は、WHOのタバコ規制に反対するよう、国連の他の機関や発展途上国に対し、密かに働きかけていたということをそれらの文書が示していることである。

 タバコ会社の最高幹部は、WHOは有害であるとして、WHOを葬り去るための策略を練り、推進していた。タバコ会社の工作により世界中のタバコ規制プログラムが遅れ、効果的な実施が妨害されたと専門家委員会は確信している。
 限られた調査の中で判明したタバコ会社の各種妨害工作の試みやその成功の数々を考えると、WHOのタバコ規制に対するタバコ会社の妨害工作によって、喫煙による被害が著しくもたらされたと考えるのが妥当であると専門家委員会は確信している。
 タバコ会社の妨害工作によって影響を受けた、または失った人命の数は定量化することは出来ないが、タバコ会社の行為に対する糾弾と適切な対策をとることが何にもまして重要である。

 当専門家委員会は、本報告書で述べられているようなタバコ会社の行為に対し、WHO及び加盟国が断固とした措置をとるよう主張する。本報告書には、タバコ会社による謀略を防ぐための多くの勧告が述べられている。これらの勧告の中で最も重要なことは:

  1. 加盟各国は、自国のタバコ規制への努力に対するタバコ会社の影響について、WHOと同様な調査を実施する。
  2. WHOは、この報告書で判明した戦略が引き続き行われているかどうか見極めるために、タバコ産業の行為をさらに監視する。
  3. WHOは、加盟各国がタバコ会社の犯した違法行為に対処するために何をなすべきかを決定するために必要な援助を行う。

 アメリカのいくつかのタバコ会社は、自分たちの行為は改められたので、過去の違法行為について罰せられる必要はないと主張している。そのような違法行為はもうしないという約束は、それが真実であったとしても、タバコ会社の一国だけにおける行為に限定されるべきではない。もしタバコ会社が、卑劣な戦略や戦術を世界の他の場所でも続けるのならば、アメリカ国内だけで悔い改めて“行いを正しても”駄目である。タバコ会社が本報告書に述べられているような戦略と戦術を採り続けるならば、WHOはタバコ会社の行為を世界中に知らせるつもりである。
 加盟各国もまた、自国民の健康と福祉に対するタバコ会社の過去の影響を注意深く検証し、過去の違法行為への対処と将来の違法行為の防止のための対策を立てる必要がある。

医学博士、トーマス・ゼルツナー
理学博士、デービッド・ケスラー
理学博士、アンク・マーティニ
医学博士、フェゼル・ランデラ


目 次

エグゼクティブ サマリー ......................................
T.序文........................................................
U.方法論......................................................
V.WHOのタバコ規制に影響を与えるためのタバコ会社の戦略と戦術...
W.フィリップ・モリスのBOCA RATON 計画.........................
X.第3世界の問題...............................................
Y.第3者によるWHO批判..........................................
Z.第8回たばこか健康か世界会議.................................
[.EBDC農薬に関する国連標準の設定..............................
\.国際がん研究機関(IARC)の喫煙(ETS)に関する研究...............
].勧告........................................................
XI.結論........................................................
略語参照.......................................................
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(訳:安間 武)

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