欧州評議会 議員会議(PACE) 2011年5月6日
電磁界の潜在的な危険性及び環境への影響 報告書/決議案 環境・農業・地方地域委員会 報告者:ジーン・フス氏、ルクセンブルグ、社会党 情報源:Parliamentary Assembly Council of Europe (PACE) 6 May 2011 The potential dangers of electromagnetic fields and their effect on the environment Report1 Committee on the Environment, Agriculture and Local and Regional Affairs Rapporteur: Mr Jean HUSS, Luxembourg, Socialist Group http://assembly.coe.int/main.asp?Link=/documents/workingdocs/doc11/edoc12608.htm 訳:野口知美(化学物質問題市民研究会) 掲載日:2011年6月14日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/emf/110506_PACE_draft_resolution.html 概要 送電線や電気機器周囲の超低周波電磁界による健康への潜在的影響は、現在継続中の研究テーマであり、国民的な議論も盛んになっている。特定の周波数帯の電界や電磁界は医療に応用され、実に優れた効果を発揮するが、極低周波でもこれ以外の非電離周波数や送電線、レーダー・電気通信・携帯電話通信の分野で使用される特定の高周波は、正式な閾値以下のレベルでの曝露であっても、動植物や昆虫の場合と同じく人体に対して潜在的に有害で非熱的な生物学的影響を多かれ少なかれ及ぼすと思われる。 予防原則を尊重し現在の閾値を修正しなくてはならない。高いレベルの科学的・臨床的証明がなされるのを待っていたら、アスベストや加鉛ガソリン、喫煙の場合と同じように健康被害や経済に非常に高いコストをもたらすことになるかもしれない。 A.決議案 2011年4月11日に委員会で満場一致で採択された。 1.欧州評議会議員会議(訳注1)は、国連人間環境会議(ストックホルム、1972)以降の数多くの憲章、協定、宣言、議定書に定められているように、各国が環境及び環境衛生の保持に対して責任を持つことが重要であると繰り返し強調してきた。そして議員会議は、この分野において自らが果たした成果について述べた。それはすなわち、環境と健康に関する勧告1863(2009)、騒音と光害に関する勧告1947(2010)、さらに広く言えばヨーロッパ人権条約の環境権に関する追加議定書作成についての勧告1885(2009)、情報へのアクセス、環境政策決定への市民参加、司法へのアクセス‐オーフス条約の実施‐に関する勧告1430(1999)である。 2.送電線や電気機器周囲の超低周波電磁界による健康への潜在的影響は、現在継続中の研究テーマであり、国民的な議論も盛んになっている。世界保健機関によれば、いかなる周波数であっても電磁界の環境影響が非常に頻繁に見られるし、しかもその影響はとても急速に拡大しているため、こうしたことへの懸念や憶測が広がっているという。今やさまざまな国の国民がさまざまなレベルの電磁界にさらされており、その電磁界レベルは技術の進歩とともに上昇し続けるであろう。 3.携帯電話通信は世界中で実用化されてきている。こうしたワイヤレス技術は大規模な固定アンテナネットワークや基地局に頼り、高周波信号を使用して情報を伝達する。世界各地には140万以上の基地局が存在するが、第3世代技術の導入に伴ってその数は著しく増加している。高速インターネット・アクセス及びサービスを可能にする無線LANなどの無線ネットワークもまた、家庭や職場、数多くの公共の場(空港、学校、住宅地、市街地)において急速に増加してきている。そして基地局やローカル無線ネットワークの数が増加するに従って、高周波への人々の曝露も増加するのである。 4.特定の周波数帯の電界や電磁界は医療に応用され、実に優れた効果を発揮するが、極低周波でもこれ以外の非電離周波数や送電線、レーダー・電気通信・携帯電話通信の分野で使用される特定の高周波は、正式な閾値以下のレベルでの曝露であっても、動植物や昆虫の場合と同じく人体に対して潜在的に有害で非熱的な生物学的影響を多かれ少なかれ及ぼすと思われる。 5.あらゆる種類及び周波数の電磁界放射の基準値や閾値について、議員会議は電磁放射線及び放射のいわゆる熱影響と非熱・生物学的影響の双方を扱うALARA(「合理的に達成可能な限り低く」)の原則を適用するよう勧めている。そして科学的評価により十分な確信を持ってリスク判断することのできない場合には、予防原則を適用すべきである。特に若者や子どもなどの弱者を含む人々の曝露が増大している状況だからこそ、早期の警告を無視するようなことがあれば、何もしないことから生じる人的・経済的損失が大幅に拡大する恐れがある。 6.議員会議が遺憾に思っているのは、予防原則を尊重するよう要求があり、さまざまな勧告や宣言が出され、数多くの法律・法令が改善されてきたにもかかわらず、既知のあるいは新たな環境健康リスクへの対応がいまだに欠如しており、効果的な予防措置の採用及び実施が意図的に遅らされている事実に対しても手つかずのままだということである。高いレベルの科学的・臨床的証明がなされるのを待ってからやっと、よく知られたリスクを防ぐための行動を起こすのであれば、アスベストや加鉛ガソリン、喫煙の場合と同じように健康や経済に非常に高いコストをもたらすことになるかもしれない。 7.さらに電磁界や電磁波の問題と環境や健康へのその潜在的影響について、議員会議は医薬品、化学物質、殺虫剤、重金属、遺伝子組み換え生物のライセンス供与などといった現在の問題にそっくりであると指摘している。それゆえ、環境とヒトの健康への潜在的な有害影響について透明かつ公正な評価を行うため、科学的専門知識の独立性と信頼性が極めて重要であると強調している。 8.上記の検討事項を踏まえ、議員会議は欧州評議会の加盟国に対して以下のことを勧告する。 8.1.概要 8.1.1 電磁界の中でも特に携帯電話からの高周波への曝露、とりわけ頭部腫瘍のリスクが最も高いと思われる子どもや若者の曝露を低減するために、あらゆる合理的な措置を講じること。 8.1.2 国際非電離放射線防護委員会が設定した現在の電磁界の曝露基準は深刻な限界があるため、その科学的根拠を再検討し、電磁放射線及び放射のいわゆる熱影響と非熱・生物学的影響の双方を扱う「合理的に達成可能な限り低く」(ALARA)の原則を適用すること。 8.1.3 環境とヒトの健康に対する潜在的に有害かつ長期的な生物学的影響について、特に子どもや10代の若者、出産年齢である若い女性を対象とした情報キャンペーンや意識向上キャンペーンを実施すること。 8.1.4 電磁界に帰因する不耐症に苦しむ「電磁波に過敏な」人々に対して特別に配慮し、無線ネットワークの構築されていない電波フリーエリアを作るなどして彼らを守るための特別措置を導入すること。 8.1.5. コストを削減し、エネルギーを節約し、環境とヒトの健康を守るために、新型のアンテナ、携帯電話、DECT装置に関する研究を強化し、効率性を保ちつつ環境や健康への悪影響を減らす技術に基づいた電気通信を発展させるための研究を推進すること。 8.2携帯電話、DECT電話、Wi-Fi、無線LAN、コンピュータや赤ちゃん監視装置などの無線機器用のWIMAXを私的に使用することについて 8.2.1 予防原則に従って、あらゆる屋内でのマイクロウェーブへの長期曝露のレベルに予防閾値を設定すること。この閾値は0.6ボルト毎メートル(V/m)以下に設定し、中期的には0.2V/mにまで下げること。 8.2.2 全ての新型機器について、ライセンス供与前に適切なリスク評価手法を実施すること。 8.2.3 マイクロウェーブや電磁界の存在、機器の送信電力や比吸収率(SAR)、機器の使用に関連する全ての健康リスクを明確に示すラベリングを導入すること。 8.2.4 常にパルス波を発しているDECTタイプの無線電話や赤ちゃん監視装置などの家庭用電気器具について、あらゆる電気機器がいつも待機状態であったとしても潜在的な健康リスクが存在するということへの認識を深めるとともに、家庭では有線の固定電話を使用するか、それが無理であればパルス波を常に発することのないタイプの電話を使用することを勧めること。 8.3.子どもの保護について 8.3.1. さまざまな省庁(教育や環境、健康)内で、教師、親、子どもに対象を絞った情報キャンペーンを展開すること。その目的は、マイクロウェーブを発する携帯電話などの機器を幼い頃から無分別に長期間使用することによる特異的なリスクに対して注意を喚起することである。 8.3.2 いくつかの地方自治体や医師会、市民社会団体が主張しているように、教室や学校内でのあらゆる携帯電話、DECT電話、Wi-Fi、無線LANシステムを禁止すること。 8.4.電力線や中継アンテナ基地局に関する計画について 8.4.1. 高圧送電線などの電気設備は住宅に危険が及ばないよう距離を置くという都市計画措置を導入すること。 8.4.2. 新興住宅の電気系統を安定化させるために、厳しい安全基準を適用すること。 8.4.3 ALARA原則に従って中継アンテナの閾値を下げ、全てのアンテナを包括的かつ継続的に監視するシステムを導入すること。 8.4.4. GSMアンテナ、UMTSアンテナ、Wi-Fiアンテナ、WIMAXアンテナの設置場所を決める際に、経営者の利益ばかりに従うのではなく、地方公務員や地域住民、関連する市民団体との協議も行うこと。 8.5.リスク評価と予防措置について 8.5.1. リスク評価をもっと予防指向にすること。 8.5.2. 指標となるリスク評価尺度を作成することによりリスク評価の基準及び質を改善し、リスクレベルの表示を義務づけ、複数のリスク仮説を使用しつつ実際の状況との整合性を考慮すること。 8.5.3. 「早期警告する」科学者の声に耳を傾け、彼らを守ること。 8.5.4. 予防原則とALARA原則について人権優位の定義を打ち立てること。 8.5.5. とりわけ産業界から助成金を受けることや、健康リスクを評価する公的調査研究の対象製品を増税することによって、独立した研究への公的資金を増加させること。 8.5.6. 公的資金を配分するための独立委員会を創設すること。 8.5.7. ロビー団体に透明性の義務を課すこと。 8.5.8. 市民社会を含む全ての利害関係者間において多元的かつ相反する議論を促進すること(オーフス条約)。 B.ジーン・フス氏による説明メモ (訳省略) B. Explanatory memorandum by Mr Huss, rapporteur 訳注:関連情報 Telegraph 2011年5月14日 欧州評議会 銀会議 学校での携帯電話と無線ネットワークの禁止を提案 訳注1 欧州評議会(Council of Europe)の概要/外務省 (上記ウェブサイトより) (1)設立経緯・加盟国・活動分野 1949年、人権、民主主義、法の支配という共通の価値の実現に向けた加盟国間の協調の拡大を目的としてフランスのストラスブールに設立。加盟国は47か国(EU全加盟国、南東欧諸国、ロシア、トルコ、NIS諸国の一部(注1))、オブザーバー国は5か国(日本、米、加、メキシコ、バチカン)。 (2)主要組織 (イ)意思決定機関。加盟国外相で構成され、年1回会合(閣僚級、非公開)を開催。条約や協定、勧告の採択、予算承認等を行い、下部機関として各種運営委員会・専門家会合を設置。議長国は6ヶ月毎に加盟国が持ち回り。 (ロ)議員会議 (Parliamentary Assembly) 加盟各国の国会議員で構成される。議員は318名(予備議員318名)で、人口、GNP比で各国2〜18議席配分。年4回の本会議、10の一般委員会その他委員会を通じて活動。 立法権を有さない諮問・モニタリング機関。活動内容としては、閣僚委員会への勧告、新規加盟国の加盟時の誓約の遵守状況の監視。議長はメヴリュット・チャヴシュオール氏(Mr. Mevlut CAVU?O?LU、トルコ、2010年1月〜、任期1年で通常3期で交代)。 (ハ)欧州地方自治体会議(Congress of Local and Regional Authorities of Europe: CLRAE) 地方レベルにおける民主化強化を目的とする、閣僚委員会及び議員会議の諮問機関。各国地方代表議員で構成され、各国地方代表議員で構成され、議員318名(予備議員318名)。 (ニ)欧州人権裁判所 (European Court of Human Rights) 欧州人権条約(1953年発効)及び同第11議定書(1998年発効)により創設された人権救済機関。長官はジャン=ポール・コスタ氏(Mr.Jean-Paul Costa、仏、2007年〜(任期3年))。 (ホ)事務局 (Secretariat) |