2002年2月27日 WHOプレスリリース
「命を守るためには、タバコ税は安すぎる」とWHOが声明
情報源:WHO Tobacco Free Initiative Homepage
Press Release WHO/11 27 February 2002
http://www.who.int/inf/en/pr-2002-11.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年3月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tobacco/kaigai/02/press_tobacco_tax.html


 発展途上国でのタバコの値段は、10年前に比べて安くなっている。パンや米よりも安いこともある−と世界保健機構(WHO)は本日、声明を出した。WHOによれば、タバコの値段が安い国々では、タバコが原因の病気や死亡の数が非常に多いという恐るべき結果となっている。

 1990年から2000年の間に80カ国を超える国々のタバコの値段の推移を調査したWHOの新しい研究によれば、ほとんどの先進国ではタバコの値段は高くなっているが、多くの発展途上国では以前より安くなり入手しやすくなっている。2020年には840万人の人々がタバコが原因で死亡しているが、その70%以上は発展途上国の人々の死亡であると予想される。
 タバコの値段が安ければタバコ伝染病が広がるだけであり、それによりタバコの消費、タバコによる病気、そしてタバコによる死亡が増えるとWHOは警告している。

 タバコ抑制計画がいまだ行き渡っておらず過去10年間にタバコの値段が下がった国々はベトナム、コスタリカ、コートジボアール等、世界各地に見られる。タバコの値段は人々の健康状態が良い国々、またノルウェー、オーストラリア、香港などタバコ規制が強い国で高い傾向がある。
 しかし、所得水準は高いがタバコ規制が行われていない日本やスイスではタバコの値段は安いままである。

 WHO、世界銀行、国際通貨基金及び経済学者達によって実施された過去の調査によれば、タバコの増税をはかるための大きな努力が今までになされてきたにもかかわらず、今回の調査ではタバコの値段がインフレのペースに追いついていないということがわかった。タバコは以前よりも安く手に入りやすくなっている。

 「タバコの値段を上げることはタバコの消費を抑え、タバコによる死亡を減らす上で最も効果的な方法の一つである」とWHO非伝染性疾病及び精神的健康担当専務理事デレック・ヤー博士は述べ、さらに「値段が高ければ、非喫煙者がそのまま喫煙しないでいることの助けになり、その結果、喫煙常習者となることも防げるであろう。さらに現在の喫煙者が喫煙本数を減らし、あるいは禁煙することの動機付けともなるであろうし、また禁煙した人が再び喫煙することを防ぐこともできる。さらに政府は増税により歳入を増やすことができる」と近々、『タバコ規制(Tobacco Control)』誌に発表されるこの新たな研究の共同著者の1人でもあるレック・ヤー博士は付け加えた。

 この研究は、発展途上国ではタバコを増税する余地が十分にあり、それは政府がタバコの害悪から国の保健行政と経済および国民を守るための最も有効な手段の一つであるということを示している。
 世界銀行によれば、タバコの値段を10%上げるとタバコの需要は、高所得の国々では約4%、中低所得の国々では約8%減少する。
 さらに同銀行は、タバコの実質的値段を10%上げるような増税が世界中で行われれば、4200万人の喫煙者がタバコを止め、少なくとも1000万人の人々がタバコによる死亡から免れることができると推定している。

 タバコ産業界は、増税がタバコの売り上げに密接に関連していることをよく分かっている。アメリカの訴訟で明らかにされたフィリップ・モリス社とブリティッシュ・アメリカ・タバコ社の秘密資料では、このことに対する彼らの懸念をよく示している。

 ”懸念すべきことの最たるものは増税である。過去の経験によれば増税によって市場とターゲットとする人々の範囲が狭められ、喫煙者の数が著しく減少する。従って、増税に関する我々の懸念は、喫煙と健康についての我々の見解に関わってくる”とフィリップ・モリス・インターナショナル社の秘密資料は述べている。

 ”タバコ消費を減少させる増税は、タバコ産業界の崩壊を意味する”とブリティッシュ・アメリカ・タバコ社の内部文書は述べている。

 従って、タバコ産業界がタバコの増税に猛反対し、政府による増税を防ぐことができることならタバコ産業界は何でもする−ということは驚くに当たらない。WHOは各国政府に対し国民の健康を守るという基本的な使命からはずれることがないよう、また増税や国民の命を守るためのその他の措置に対するタバコ産業側の圧力に屈することがないよう要請する。

 WHOはまた、タバコ税から得られる政府の歳入の一部を禁煙プログラムや反タバコ広告などのタバコ規制活動、あるいはがん研究のための基金に振り向けるよう勧告する。オーストラリア、タイ、エジプト、イランなど多くの諸国、さらにはカリフォルニアなどアメリカのいくつかの州ではすでにそのようなことを行っている。イギリスやサウジアラビア、カタールなどの国々もタバコ税の一部をタバコ規制活動に振り向ける意図があるということを表明している。

 さらにWHOは、タバコの値段に関し地域の政府間が協調し合うことを勧告する。密輸をしようとする動機の抑制、インフレになっても消費物価指数に合わせて値段を調整する様な政府の施策、そして、現在行われている、”たばこ規制枠組条約(Framework Convention on Tobacco Control - FCTC) ”のための政府間交渉において、タバコの値段及び税の措置の強化について強力に後押しをするよう要請する。

 この新しい研究は『Tobacco Control 2002 Volume 11 Number 1』誌に掲載されており、下記ウェブで入手することができる。
http://www.tobaccocontrol.com

(訳:安間 武)


化学物質問題市民研究会
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