米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2008年10月号 フォーラム
がん
携帯電話の影響に強い警告


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 116, Number 10, October 2008
Forum
Cancer / Strong Signal for Cell Phone Effects
http://www.ehponline.org/docs/2008/116-6/ss.html#brai

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年10月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/08_10_ehp_Cell_Phone.html


  2008年9月10日発表されたニールセン・モバイルの数字によれば、世界中で携帯電話の使用者は30億人、アメリカだけでも2億6,000万人おり、その中には8〜12歳の子どもの46%が含まれ、800〜2,000メガヘルツの範囲の低エネルギー放射へのヒト暴露は空前の高さである。携帯電話の使用に関連する脳腫瘍のリスク増大についての疫学的証拠を体系的にレビューした最近の試みは、この地球規模の実験の影響が明らかになってきたことを示している。International Journal of Oncology(国際腫瘍学紀要)2008年5月号に発表されたメタアナリシス(訳注:同じ問題を扱う二つ以上の試験から得られる定量的な証拠について形式に則って行う評価)で、スウェーデンの科学者らが長期的な携帯電話の使用と脳腫瘍リスクとの間に有意な関係を見出した。

image: Creative Commons
2008年2月に市場調査会社マルチメディア・インテリジェンスは、アメリカでは1,600万人以上の10代の若者が携帯電話を使用していると報告した。
 ”我々は、携帯電話の使用が神経膠腫(gliomas)〔悪性脳腫瘍〕及び聴覚神経腫瘍(acoustic neuromas)〔良性脳聴覚神経腫瘍〕と関連があり、10年後に症状が出るということを発見した”と、スウェーデンのオレブロ大学病院の腫瘍学者でがん疫学者である主著者のレナ-ト・ハ-デルは述べている。特に、少なくとも10年間の暴露を含む研究では、携帯電話を保持するために典型的に使われる手を反映した頭の同じ側への暴露による神経膠腫のリスクは2倍になる。2.4倍のリスク増大が同側暴露のために聴覚神経腫瘍に見られたが、髄膜腫(meningioma/脳と脊髄を覆う細胞膜中に生ずる腫瘍) のリスクは増大しなかった。

 ”明らかに、我々はがんリスクをより良く評価するために長期的な携帯電話の使用についてもっと調査する必要がある”と共著者のミカエル・カールバーグは述べている。携帯電話の使用はわずか10年位で主流となったが、米がん学会によれば、電磁波が誘引する脳腫瘍は発症するのに通常10〜15年かかる。

 ハーデルの研究チームはそれ自身がメタアナリシスの対象となるいくつかの研究の出所であった。『外科腫瘍学ワールド・ジャーナル』2006年10月号で、研究者らはアナログ携帯電話(訳注:日本では2000年までに終了し、現在はディジタル)使用者に星細胞系腫瘍(高い進行性脳腫瘍)のグレードIII-IV のリスクが70%増加したことを報告した。この同じ研究は、アナログ携帯電話への15年の暴露の後、聴覚神経腫瘍のリスクが4倍近く増大したことも発見した。精巣がん、B細胞リンパ腫、唾液腺腫瘍については特に目立った増加はなく、この発見は、全ての腫瘍のタイプに存在したかもしれないような観察的又は回想的バイアス(先入観)によるものではないことを示唆している。

 彼らのもっと早い時期の研究が彼らの2008年メタアナリシスの結論を歪めたかどうかを調べるために、同チームはそれらをメタアナリシスの対象からはずしてみたが、同側暴露の場合、やはり神経膠腫は顕著に、聴覚神経腫瘍は顕著ではないが増加(210%及び50%)していることを見出した。

 ”我々は今、神経膠腫(悪性脳腫瘍)と聴覚神経腫瘍の一貫したリスク増加のパターンを見ている”だけでなく、潜在期間として少なくとも10年を考慮している他の全ての研究もこのことを示している。

 新たに出てきている証拠は、子どもたちは携帯電話やその他の極超短波−放射テクノロジーの潜在的な発がん性影響にもっと無防備かもしれないということを示唆している。”子どもたちの発達中の神経系は感受性が特に高いので、子どもたちの電磁波に対する潜在的な脆弱性が問題になってきている”とカリフォルニア大学ロサンジェルス校の疫学教授であり、電力研究所EMF研究プログラムの元ディレクターであるリーカ・ケイフェツは述べている。”さらに、子どもたちの脳組織は伝導性が高いので電磁波の浸透性は頭のサイズに比して相対的に高く、また子どもたちは生涯の暴露期間が長い。しかし、どのような発がん性のリスクの程度も、暴露の正確なタイミングと強度によって主に決定される”。

 より薄い頭蓋骨と非伝導特性の違いの重要性は、『医療物理学と生物学』2008年6月7日号に発表された研究により確認されており、そこでは子どもの脳は成人の脳に比べて電磁波を2倍吸収するということが示されている。ハーデルによれば、子どもたちは携帯電話を早い年齢から使用し始めるので、今日の子どもたちはより長い暴露を経験することになる。このことは、累積暴露量は脳腫瘍のリスク増加に強い影響を与えるように見えるので、重要なことである。しかしケイフェツは、”暴露が子どもたちの脳腫瘍に与える影響に関するデータは欠如している。・・・そして他の健康影響も同様によく調べる必要がある”。

 無線産業界はこの研究に対して用心深い見解を取っている。”多くの専門家による科学的レビューを経た科学的証拠と結論は、無線電話は健康リスクを及ぼさないということを示している”と無線通信事業者の大手業界団CTIAの公衆担当副代表ジョセフ・ファーレンは述べている。”産業界は技術発展の継続のために研究を支援するが、主導的な健康機関の間では、発表された科学的研究は懸念する理由はないことを示しているということについて、合意があるという事実を強調したい”。

 ハーデルは携帯電話使用のための安全基準を定めることは時期尚早であることを認めている。”我々は1回の10分間通話が10回の1分間通話と同等であると言うことができるであろうか?”と彼は問う。”我々はそのような問いに答えるまで、我々は新たな基準、又はそのような基準を定義するのにどのようなパラメーターや単位が役に立つのかということすら確立することができない。それにもかかわらず、我々は脳腫瘍のリスクが増大することをすでに見ているのだから、この状況において、特に長期的暴露が子どもたちに影響を与えるように見えるので予防原則を適用する必要がある”。現実的には、子どもたちの携帯電話の使用を制限し、頭への直接暴露を最小にするためにスピーカを使用する必要があるかもしれない。

M.ナサニール・ミード(M. Nathaniel Mead)


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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