世界保健機関(WHO)ワークショップ 2004年11月
電気過敏症(Electrical Hypersensitivity)
ワークショップ概要

情報源:WHO workshop on Electrical Hypersensitivity Prague, Czech Republic October 25-27, 2004
WORKSHOP SUMMARY
http://www.who.int/peh-emf/meetings/hypersens_summary_oct04.pdf

WHO International Seminar and Working Group meeting on EMF Hypersensitivity
http://www.who.int/peh-emf/meetings/hypersensitivity_prague2004/en/index.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年3月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ehs/WHO_workshop_ehs_2004.html

1. WHO の電磁過敏症に関する国際会議が2004年10月25日〜27日、チェコ共和国のプラハで開催された。この会議の WORKSHOP SUMMARY を翻訳して紹介します。
2. このワークショップの結果に基づきWHOが2005年12月に発表したファクトシートNo.296については当研究解訳 「電磁界と公衆の健康:電磁過敏症」 をご覧ください。



背景
 社会が産業化され技術革命が続く中で、電磁界(電磁界)の発生源の数と多様性が空前の増加を示している。これらの発生源には、高圧送電線、レーダー、コンピュータ画面表示装置(VDUs)、テレビ、ラジオ及びテレビ放送送信基地、携帯電話及び携帯電話基地、オーブン、さらには保安装置、防犯装置、高速道路料金自動装置、蛍光灯などがある。それらの機器は我々の生活を豊かにし、安全にし、便利にする一方で、それらはまた電磁界による健康リスクを引き起こす可能性の懸念をもたらす。

 今までに、多くの人々が電磁界への曝露に関連があるとする様々な健康問題を報告している。一般的にこれらの人々が曝露する電磁界のレベルは、勧告されている曝露限界より十分に低くく、また、 有害影響を引き起こすことが知られているレベルよりもはるかに低いことは確実である。

 報告されている過敏反応は広範な非特定症状を含み、それらは電磁界に曝露した人々を苦しめる。最もよく経験される症状には、神経衰弱症及び自立神経症(疲労感、倦怠感、集中力欠如、めまい、吐き気、心臓の動悸、消化器系障害)とともに、皮膚症状(発赤、ヒリヒリする痛み、焼けるような感じ)などがある。ある人々は影響が激しいので仕事をやめたり生活全体を変えることを余儀なくされているが、一方、他の人々はで軽い症状なので可能な限り電磁界を避けることによって対応している。

 ここに収集した症状は認定された症状というわけではなく、一般的に、”電気過敏症(electrical hypersensitivity)”、又は”電磁過敏症(electromagnetic hypersensitivity (EHS))”と呼ばれている。しかし、電磁過敏症(EHS)という言葉は十分に定義されておらず、しばしば2つの異なった意味で使われる。
  • 健康不調の原因に関し被害を受けた人々の解釈に基づいた医学的症状。しかし既に確立した因果関係とは無関係。
  • 他のほとんどの人々に比べて著しく低いレベルで電磁界を知覚する、又は、反応する、ある人々の能力
ワークショップの目的と範囲

 潜在的な電磁過敏症の問題に対応するために、世界保健機関(WHO)は、”電気過敏症(Electrical hypersensitivity)”に関するワークショップを2004年10月にプラハで開催した。この会議は、欧州委員会調整行動 電磁界-NET、科学技術研究分野における欧州共同(COST 281)、及び、チェコ共和国保健省の共催で行われた。会議は2日間の国際会議であったが、貢献したい及び/または参加したいと望む全ての人々に開かれた(詳細は Rapporteur report を参照)。その後、ワーキング・グループ会議が1日行われ、それには、講演者、WHO事務局、及びその他の関心を持つ団体が参加した(詳細は Working Group report を参照)。ワーキング・グループ会議は、次のトピックスについて議論した。(@)特性化、診断、治療 (A)研究の必要性 (B)政策の選択肢

 ワークショップの目的は、電磁過敏症(EHS)の人々によって報告されている症状と電磁界曝露との間に関連があるかどうか、またその症状と管理についての知識のギャップを埋めるために今後どのような研究が必要かを決定するために、科学的証拠の徹底的な検証を実施することであった。またワークショップは、電磁過敏症(EHS)の人々を支援するために、何をしてきたか、何ができるかを検証した。

ワークショップの結論

 電磁過敏症(EHS)は個人によって異なる様々な非特定の症状によって特徴付けられる。その症状は確かに真実であり、その症状の深刻さの程度は幅が広い。ある人々にとって、その症状は彼らのライフスタイルの変更を余儀なくさせる。電磁過敏症(EHS)という言葉に替えて”電磁界に帰する本態性環境不耐症(Idiopathic Environmental Intolerance (IEI))”という言葉がワーキンググループによって提案されたが、それは前者が、報告された症状と電磁界との間の因果関係が確立されているような印象を与えるからである。

 本態性環境不耐症(IEI)という言葉は、WHO の”化学物質の安全性に関する国際プログラム(IPCS)”によって1996年にベルリンで開催されたワークショップに由来する。本態性環境不耐症(IEI)は、化学的原因論、免疫学的感受性、又は電磁界感受性との関連を意味しない記述である。むしろそれは下記のように記述されてきた。
  • 多種の再発性症状を持つ後天的障害である
  • 多くの人々には許容できる多様な環境的要因に関連する
  • 既知の医学的、精神医学的、又は心理学的障害では説明できない
 本態性環境不耐症(IEI)は、職場、社会、及び個人の環境において人々に有害な影響をもたらし障害を引き起こす不特定の医学的に説明できない症状を共有する多くの障害を包含する。ほとんどの研究調査で、本態性環境不耐症(IEI)の人々は、そうではない人々よりも、もっと正確に電磁界曝露を認識するということはない−ことを示した。よく管理され実施された二重盲検試験(double-blind studies)では症状は電磁界曝露と関連していないことを示した。

 また、これらの症状は、電磁界曝露そのものよりも、電磁界の健康影響であると信じて心配する結果としてのストレス反応と同様に、以前から存在する精神的な症状(pre-existing psychiatric conditions)が原因かもしれないという指摘もある。

 本態性環境不耐症(IEI)を電磁界曝露に関連付ける科学的根拠は現在存在しないのだから、本態性環境不耐症(IEI)を医学的診断として使用すべきではないということが加えられた。

医学的評価のための勧告

何がそれを引きこそうと、本態性環境不耐症(IEI)は影響を受けた個人にとっては深刻な問題となり得る。治療は、下記を実施することによって健康症状と臨床的病像に焦点を当てるべきである。
  • その症状を起こすかも知れないどのような条件をも特定し治療するための医学的評価
  • 表われた症状に寄与しているかもしれない要因のための職場及び家庭の評価。それらには屋内空気汚染、過度な騒音、照明の不具合(チラチラ)、又は人間工学的要素を含む。ストレスの低減と職場環境の改善が適切かもしれない。曝露レベルが既存の基準と勧告に適合することを確実にするために電磁界は評価されてもよいかもしれない。
  • その症状を起こすかも知れない精神医学的/心理学的条件を特定するための心理学的評価
 いくつかの研究は、本態性環境不耐症(IEI)の人々のある生理学的反応は正常の範囲から外れる傾向があることを示唆している。特に、中枢神経系の過剰反応性、及び自律神経系の不均衡性に関しては、個人に対する可能性ある治療のためのインプットとするために臨床調査及びその結果を追求する必要がある。

 WHO の 電磁界プロジェクトの傘の下で、本態性環境不耐症(IEI)の人々に対処するために国際的に評価された医師らが”最良の実施”プロトコールを開発し、この情報は地方レベルでの実施のために国の保健当局に提供すべきである。

研究勧告

 電磁界は本態性環境不耐症(IEI)の人々の症状を引き起こす要因として確立されておらず、研究の焦点は彼らの生理学的反応を特性化することに絞られるべきである。通常、要因の毒性を決定するためのヒトを対象とした研究には2種類ある。第一に、疫学的調査は疾病の発生に関する報告のために使用することができる。しかし、本態性環境不耐症(IEI)に対しては、IEIの人の定義がまだ十分でなく、したがって有用な調査を設計することができないので、疫学的調査は役に立つとは考えられない。第二に、ボランティアを使ってのヒト刺激調査(provocation studies)は通常、因果関係と症状のその他の側面のような問題の報告することができる。今日まで、二重盲検曝露を伴う刺激調査は、電気的、磁気的、又は電磁界と、症状との間の因果関係を確認することはできなかった。もし、刺激調査が考慮されるなら、それらは適切に設計されるべきであるとともに、倫理委員会の承認を得るべきである。

各国当局への勧告

 各国当局は、多くの国で人口の2〜3%に影響を与えているので、本態性環境不耐症(IEI)の人々の窮状を無視すべきではない。政府は、資格のある専門家によって提供される情報に基づいた適切な勧告を一般の医師に供給する必要がある。そのために、WHOは本態性環境不耐症(IEI)の人々の症状に関する情報を含む勧告ファクトシートを発行した。それは、現在はこれらの症状は電磁界が原因であるとすることはできないことを示し、商業製品に対し電磁界を遮蔽するよう警告し、本態性環境不耐症(IEI)に対しいかに最良に対処するかの勧告を提供するよう勧告した。

 政府はまた、 本態性環境不耐症(IEI)の患者は実際に症状を持っているが、電磁界曝露との因果関係を示す科学的証拠がなく、したがって診断分類として本態性環境不耐症(IEI)を使用する根拠がないことを留意すべきである。さらに、国際的に受け入れられたより低い限度が電磁界に起因する症状の発生を減少するとする兆候はない。もっと一般的に、政府は新規技術に伴う問題に手を打ち、適切な一般リスクコミュニケーション戦略を開発し、バランスのとれた情報を提供し、関連する問題についての会話を推進すべきである。



化学物質問題市民研究会
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