The Atlantic 2011年7月28日
携帯電話は子どものがんリスクに関係ない?
報道が間違っているに違いない


情報源:The Atlantic, Jul 28, 2011
No Cell Phone-Children's Cancer Risk? The Media Might Be Wrong
By Daniel Fromson
http://www.theatlantic.com/life/archive/2011/07/
no-cell-phone-childrens-cancer-risk-the-media-might-be-wrong/242723/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2011年7月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/emf/110728_Media_might_be_wrong.html


 ある研究が、電磁波は子どもにがんを引き起こさないと言うが、監視団体であるNGOsは報道が研究結果を誤解していると言う。

 国際がん研究所(The National Cancer Institut)ジャーナル(JNCI)に昨日(7月27日)、発表された前代未聞の研究結果がインターネット上を駆け巡った。”研究は携帯電話とがんの関係はないとしている”、”携帯電話は子どものがんリスクを増大させないと研究が言う”、”携帯電話、子どもとがん:心配せずに幸せになれ?” しかし、少なくとも二つの有力な環境健康NGOが、この研究には基本的な欠陥があると信じている事実に注意を払っていない。エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)の言葉によれば、”両親は、携帯電話を使用する子どもの脳腫瘍のリスクに関するスイスの新たな研究についての最初の見出しを見て、安堵を感じるかもしれないが、この研究結果は実際には問題が大いにある”。

 主著者であるスイス熱帯公衆衛生研究所(Swiss Tropical and Public Health Institute)のマーティン・ルースリに率いられたこの新たな報告は、2004年から2008年の間に脳腫瘍と診断された352人の患者と646人のコントロール、全て7歳から19歳のデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スイス在住、からなるケース・コントロール研究の結果を示している。両親立会いの個人インタビューが個人の携帯電話使用を推定するために用いられ、利用可能な場合には電話会社の記録がデータ確認のために使用された。国際疫学研究所(International Epidemiology Institute)のジョン D. ボイスとロバート E. タロンが(国際がん研究所のジャーナルに)署名入り記事で書いたように、”無線周波に曝露した成人についての全ての研究と事実上矛盾せず、携帯電話を使用する子どもたちは、定期的に使用しない子どもたちより脳腫瘍に罹るリスクが高いという説得力のある証拠は見つからなかった”。

 ボイスとタロンは、”最初に携帯電話を使用した時期、通話時間の累積、通話回数の累積、通話中に最も使用する耳の位置に対する脳腫瘍の場所(頭側)による評価のどれをとっても、曝露−反応関係に一貫性はなかった”と付け加えた。

 一件落着か? 多分、そうではない。エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)とエンバイロンメンタル・ヘルス・トラスト(EHT)の両方は、不十分なデータと手法の欠陥が結果を問題あるものにしたと主張して、この研究結果に真っ向から反対した。これらの組織の主張には次のようなものがある。

  • 長期的な使用の影響を検証していない。EWGは、この研究の参加者の中に5年以上携帯電話を使用した人はわずか5%しかいない。EHTの代表デブラ・デービスの言葉によれば、”国際がん研究所ジャーナル(JNCI)の本研究は時間枠が制限されているのだから、子どもや青年に携帯電話による脳腫瘍のリスクがないという結果はまさに予期されたとおりのことである”。彼女は次のように付け加えた。”もし、あなたが4年間だけ喫煙した人々の肺がんリスクが増大したかどうか尋ねれば、結果はノーであろう”。EWGによれば、携帯電話を10年以上使用している人々についての成人の調査では、統計的に有意ながんリスクが見出されている。

  • ”定期的な”電話の使用の定義が弱い。研究者等は、”定期的な”電話の使用者の定義を、”少なくとも6ヶ月間、平均として少なくとも週1回は通話する全ての対象者”としている。EWGは、”ほとんど全ての携帯電話使用者が断言しているように、週1回の通話は極端に少なすぎ、とても典型的な使用頻度ということはできず、恐らく携帯電話をもっとしばしば使用しているであろう現実世界の人々にこの研究結果を当てはめることはできない”と主張している。

  • メディアの報道は小さいけれど重要な赤信号を無視している。EWGは、研究報告書のある文に注目している。そこでは、研究者らが電話会社の記録が利用可能な比較的少数の患者を見たときに、”最初の申し込み以来通話時間が増大するとリスクも増大するという統計的に有意な傾向”を見つけたということが示されている。言い換えれば、子どもたちや青年たちの通話時間が長くなれば、彼等のリスクも高くなる−ということである。

 だれの言うことが正しいか知ることは難しいが、ひとつのことは確かである。この携帯電話研究のほとんどの記述はばら色に描かれおり、ほとんど批判をしていない−というEWG と EHT の指摘は正しい。しかし、ボイスとタロンでさえ、議論は終っていないと暗示しているように見える。”非電離放射に関連する健康影響の評価に対し、追加研究資金が費やされるべきかどうか、あるいはどの程度かについては、議論がなされるであろう”と、彼等は書いている。そして、彼等は、”影響がないということを証明することは不可能である”と付け加えている。



化学物質問題市民研究会
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