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個展報告:03年5月

■ご挨拶と告知 2003-5-6(火)

本日よりこのサイトを始めるayaと申します。絵描きです。
ここでは、普段の制作の前のメモ的スケッチを「本日のカキトメ」としてアップしていく予定です。その時々にひっかかる何かを「描き留め」ておくという意味で、このタイトルにしました。

この場所でそれらをストックしていくことで、新しい作品に繋がるヒントになるかなあと思っています。本制作のほうは作品が仕上がり次第(または発表後)、画帖のほうに入れていくつもりです。

さて、その作品発表の場である個展のお知らせです。
詳細はコチラ(別ウィンドウが開きます)
銀座のガレリア・グラフィカ bis というギャラリーで、5月26日(月)から31日(土)まで開催しております。出品するのは絵画作品で、画帖に載せている作品に近い作風のものも何点かあります。興味のある方や、この時期銀座にいらっしゃる方等々、お気軽にお立ち寄りいただければ嬉しいです。会期中は私もずっと会場におりますので、いろんな方とお会いできるのを楽しみにしております。

ひとつのサイトから多くのコミュニケーションが生み出されるように、一枚の絵と直接向かい合うことからも同じことが出来ると思っています。眼で見え、手に触れられる「モノ」から感じる強さを、少しでも伝えられればいいなあと思いながら、これからも制作していくつもりです。

■言葉のない会話 2003-5-9(金)

絵を描くという作業は、自分のなかのイメージと画面とを見比べることの繰り返しです。視覚での確認作業と言ってしまえばその通りかもしれませんが、わたしにとってそれは「会話」と呼ぶのが一番しっくりきます。

画面から発する何かを受けとめ、自分のなかを通し、次の作業を決めてまた画面に描くというやり取りは、自分ひとりで行っていることとはいえ、双方向の作業という気がするのです。

ある程度描き進め、ちょっと離れて画面を見る。この時、画面から発せられているものは様々です。思った通りの表現になっているところ、予期せぬ効果を生んだところ、なにかちがうと思うところ・・・様々な要素を受けとめる作業と同時に、自分のなかでさらにイメージが活性化したり、全くちがうものが浮かんできたりします。それはもちろん言葉を介するものではないので、会話と呼ぶには非常に混沌としていて曖昧なものではありますが、絵と自分とが対峙するこの行為は、言葉での会話と同じように、互いに刺激し合い、その積み重ねで作品の完成度をあげていくことが出来るものなのです。

展覧会前はこういう時間を過ごしていることがほとんどなので、そんななか、電話やメッセで他の人と「言葉だけ」の会話をすると、なんだか驚くほど新鮮に感じるときがあるのでした。

■特殊機能 2003-5-12(月)

徹夜をして絵を描き続けていると、段々と普段とはちがった頭の使い方をしていることに気付きます。非常に効率的な頭の使い方というか、描くことに必要な能力だけが特化してくる感じがするのです。

その一つとして、「色」に対しての反応がとても敏感になるというのがあります。 絵から離れて、何気なくまわりの見慣れた風景に眼をやった時、例えば普段は「壁」と認識していた所が「グレー」という色として、もっと詳しく言うなら、それに近い具体的な絵の具名を、頭が瞬時にはじき出します。「素鼠13番」(※注1)というように。特に敏感に反応するようになるのは普段は気にも留めない、モノの影の色。感覚が鋭敏になっているせいか、その暗い部分から様々な色を拾い上げることが出来るようになります。

でもそんな特殊機能も、徹夜をしたことにより生まれてくるものですから、例え沢山の色を見つけ出したところで、「あぁ、なんかキレイだな・・・」と思いながらボーッと見ているだけなので、新たな作品を生み出す程のパワーは自分には残っていないのが何とも非効率的なところです。

※注1:わたしの使っている岩絵の具という画材は絵の具名が和名で、番号は粒子の大きさを表します。(粉末状のものなのです)ひとつの色に対して大体10段階前後に分かれており、番号が大きいほうが細かく、色も淡くなります。

◆日記 2003-5-14(水)

サイトを開設してから一週間が過ぎていたことに、今、気が付きました。個展前の慌ただしさで、一日一日があっと言う間に過ぎていく感じがします・・・。

作品搬入日まであと10日。

このサイトを見たことがきっかけとなって会場に足を運んで下さる方がいたとしたら、本当に嬉しいことだなあと思います。いくつかのサイトでも個展のことや「カキトメ帖」のことをご紹介いただいて、少しずつですがサイトを運営している実感がわいてきました。

制作の合間を縫って、個展前にもう何回か更新できるようにしたいと思っています。次回の更新は少しちがったものになりそうです。お楽しみに。

■感謝の言葉 2003-5-15(木)

サイト開設に寄せて、お祝いの文章をいただきました。ネットの世界がリアルな世界の入り口であることを教えて下さった方からです。

家元どうもありがとう。お祝い文はコチラ。


(※文中リンクはすべて別ウィンドウが開きます)

■最終兵器 2003-5-18(日)

小さな絵画教室に通っていた幼稚園の頃、その時に持っていくクレヨンをとても気に入っていました。普通よりも少し色数が多くて、24色ぐらいあったでしょうか。一つ一つ色名がひらがなで書いてあり、その中でも一際長い名前が付いていた「はいあかむらさき」という色は、今まで見たこともないよう色をしていました。淡いグレーのなかにピンクを溶かしこんだようなとても不思議な色で
、その長い名前と相まって、すぐにわたしの一番のお気に入りとなりました。

お気に入りだからと言ってむやみに使うことはせず、大好きなものを描く時や、ここぞという時に「はいあかむらさき」は登場しました。この絵画教室で描いた絵で思い浮かぶのが、いろんな果物が、大きな大きな「はいあかむらさき」色のお皿に乗っている絵しかないことからも、その色への思い入れが深かったことが窺えます。

その時から数えるともう二十年以上が経っていますが、自分は子どもの時からたいして変わっていないなあと思うのが、ちょっと絵に行き詰まった時。そういう時に頼ってしまう色というのが今でもあるのです。最初にその色の効果を知ったのは偶然でしたが、それからは思った通りに進んでいない時や、絵の雰囲気を整えたいときにその色は登場します。

でもその色はなにかということは言えません。だって絵を観たときに、「あ、苦労したんだな」って分かってしまいますからね。

■魅力 2003-5-23(金)

その店は新宿のどこか、古い雑居ビルの三階ぐらいにあったと思います。大学の卒業式後、謝恩会が終わり、一人の教授の「付いてきたい奴だけ来い」という言葉に十人くらいが続き、その中にわたしもいました。

それまでにみんなアルコールも程々に入っており、もうそろそろ終電の時間になる頃で、雨も降っていたように思います。そんな記憶も視界もあやふやな中、教授の姿を見失わないようにただ後をついていっただけなので、新宿だったという以外はその店の場所はどこだったのか全く分かりません。

店の名前もドアにうっすらと残っているぐらいの、営業しているのかどうかも怪しい雰囲気で、でも教授は随分通っているらしく、慣れたようにその中に入って行きました。恐る恐るそれに続くわたしたち。

薄暗い店内で見えてくる色は、少しブルーを混ぜたようなグレーと、黒、明かりの周辺はセピア、それしかないように感じられました。奥の小さなカウンターの中には女性と男性が一人ずつ、二人ほどの客と話をしています。手前に少し大きめのテーブル。入り口の右手にはピンク電話。店の中はこれだけでした。

ぞろぞろとテーブルに付き一通り注文が済むと、カウンターから女性が出てきました。

「元気だった?彼らあなたの学生さん?」

そう教授に話しかけると、教授は卒業式だったことを告げ、学生に向ける顔とは明らかに違う表情でその女性と話を始めました。およそ五十前とは思えないその生き生きとした教授の顔は、二十代の若者が恋をしているような、彼女と話をするのが楽しくて仕方がないというような顔でした。

アルコールや非現実的な場所の効果もあってか、耳に入ってくる会話も嘘みたいなものばかりだったけど、特に気にもなりません。はしゃぐ教授を見ながら、でもその気持ちもわかるような気がしました。

彼女の表情には、人を惹きつける何かがありました。目立つような美人という訳ではなく、どちらかというと親しみやすい顔で、でもその笑顔や目や口元の表情、ちょっとした仕草は、思わず見とれてしまうものがありました。彼女は映画に出てたことがあるんだ、と教授が自慢げに話していたのも素直に納得できる話でした。


その夜は何もかもが非現実的で、その不思議な魅力を持つ女性の存在が、さらにその感覚を加速させていました。おぼろげな記憶の中、ひとり、ふたりと帰っていったらしく、最後まで残っていたのはわたしと友人の三人、そしてあの女性だけ。教授もいつの間にかいなくなっていました。

始発にはまだもう少し時間があります。女性がコートを着ながらこちらへやって来ました。

「わたし先に帰るけど、始発までいていいからね。そのかわり、コレお願い」

そう言って、テーブルの上に鍵を載せました。

「閉めたら新聞受けに入れといてね。それじゃ」

え?と思っているうちに女性の姿はもうなく、ぼんやりしたまま友人と始発まで時間を潰し、初めて来た店の戸締まりをして、朝の新宿を歩きました。

人を惹きつける魅力を持った女性を見ると、今もあの店を思い出します。彼女を映画に撮った監督がいたように、魅力ある人の存在は創作者の心を刺激します。教授があの店に連れていってくれたのも、卒業祝いとしてそんな想いが少しだけあったのかもしれません。

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